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「探究」する学びをつくる:社会とつながるプロジェクト型学習

探求学習に取り組むサンディエゴのチャータースクール「ハイ・テック・ハイ」について紹介した書籍『「探究」する学びをつくる:社会とつながるプロジェクト型学習 』の読書メモです。

本書の概要

自主映画を対象としたアメリカの「サンダンス映画祭」で公開されて大きな反響を呼んだ教育ドキュメンタリー映画「Most Likely to Succeed(これからの学校の役割)」。

この映画は、貧富の差が絶望的なまでに広がり、かつ公教育が崩壊していると言われているアメリカにおいて奮闘し続ける学校を題材にしている。

この映画のエグゼクティブ・ディレクターであるテッド・ディンタースミスは、まず、以下のような有識者へのインタビューを実施。

・テッドトーク「学校は創造性を殺しているのか」で知られる教育思想家のケン・ロビンソン氏

・全世界で教育のコンテンツを配信する「カーン・アカデミー」を創設したサルマン・カーン氏

・著書『未来のイノベーターはどう育つのか」で知られるハーバード・イノベーション・ラボのトニー・ワグナー氏

インタビューの中から浮かび上がってきた考え方を土台として、先端的な学びを実現している全米各地の学校を2年間かけて取材し、最終的に映画のモデル校として選ばれたのがサンディエゴのチャータースクール「ハイ・テック・ハイ」。

参考)
FutureEdu Tokyo:Most Likely to Succeed の作品紹介と自主上映会の様子
ウィキペディア:サンダンス映画祭
ウィキペディア:チャーター・スクール

著者・藤原さとさんのプロフィール

一般社団法人こたえのない学校代表理事。

慶應義塾大学法学部政治学科卒業。コーネル大学大学院修士(公共政策学)。日本政策金融金庫、ソニーなどで海外アライアンス、新規事業立ち上げなどを経験。仕事をしながら子育てをするなかで「探究する学び」に出会い、2014年、一般社団法人こたえのない学校を設立。小学生向けの探究型キャリアプログラムを実施するほか、学校教育に携わる教師と学校外で教育に携わる多様な大人が出会い、チームで探究プロジェクトを実施する「Learning Creator’s Lab」を主宰。2018年、経済産業省「未来の教室」事業の採択を受け、世界屈指のプロジェクト型学習を行う「High Tech High」の教員研修プログラムの日本導入に携わる。

参考)
一般社団法人こたえのない学校
Learning Creator’s Lab

本書の執筆背景

あとがきに以下のようになります。

「ハイ・テック・ハイ」について書いてみませんか」というお話をいただいたとき、ありがたい話だと思いつつも少しとまどった。私が代表を務める「こたえのない学校」では、国際バカロレア、イエナプラン、子ども哲学、そして国内の実践を含め、様々なかたちの「探求する学び」を扱っている。そのため、立場的にハイ・テック・ハイだけを特別もちあげるのは、バランスが悪いかもしれないと感じた。(中略)ふと、「ハイ・テック・ハイのことをきちんと振り返ってみよう」と思い直し、のろのろと経済産業省のプロジェクトの時の研修資料や、映像撮影のためのインタビュー・シート、自分で書きためていたメモ、ハイ・テック・ハイが教育者用にまとめたほんや引用文献などを読み始めた。やがて学校を訪れたときの雰囲気や、生き生きと楽しそうに話す子どもたちや先生たちの顔を思い出してきた。次第に、自分が見落としていたもののあまりの多さに愕然とした。

軽井沢風越学園の岩瀬直樹さん、FutureEduの竹村詠美さんなどのお名前も出てきます。

ハイ・テック・ハイの4つのデザイン指針

デザイン指針その1:公正であること

平等(Equlity)というのはどんな人であっても、「同じ」ものを与える、ということ。それに対して、公正(Equity)というのは、人はそれぞれ違うのだから、その違いに応じて、「同じ結果」となるように導く、ということである。

デザイン指針その2:プロジェクトによる学びと人間的成長

「学び手中心」、つまり生徒が自発的な学びに向かうことを援助し、推進するよう設計されている。

生徒たちは「自分とは何か」という問いに向き合い、コミュニティのなかで人間としての成長を遂げるように促される。

プロジェクトでの協働作業や、毎週定期的に集うホームルームのような会を、学年を超えた異年齢のチームで取り組み、生徒は、人を信じる気持ち、思いやる気持ち、相互理解など、非認知といわれている力をつけていく。

デザイン指針その3:実社会とつながる美しく真正な学びをする

今の学校は、量をこなすことが求められるドリル問題、大量の暗記が求められるテスト、プレゼン発表と同時にゴミ箱行きになる成果物などで溢れているのが実情である。しかし、一度社会に出ると、当然のことながら、ゴミ箱行きと分かっていて真剣にプロジェクトに取り組む大人はまずいない。

生徒たちは「自分にとって意味があり」「友達や先生、学校にとって意味があり」「学校の外の世界にとって意味のある」学びをする。

ロン・バーガーは、まず教室は「自分のすることを誇りに思い、自身や他人を尊重し、力強く正確で美しい学習活動をする生徒たち」で一杯になってほしいという。そしてそういう子どもたちを「職人=クラフトマン」で呼んだ。

デザイン指針その4:教師も協働し、学習する組織を実現する

ハイ・テック・ハイの教師は、カリキュラムやプロジェクトを設計するにあたって、決して一人で進めない。

「ハイ・テック・ハイの先生たちは、自身の専門ではないスキルやツールを使ったプロジェクトをデザインすることが多々あり、自分も知らないことを扱うため、生徒と学びながら実践している場合が多くあります。自分も知らないことを扱うため、生徒と学びながら実践している場合が多くあります。リスクを恐れず新しいことに挑戦する姿勢が求められます。よって、学校のリーダーたちの重要な役割は、先生たちがリスクをとれるような支援体制を整えることです。

学校は子どもたちの才能と情熱が出会う場所

彼は人生において、自分の「エレメント」を見つけることが何より重要だという。「エレメント」とは、「自分の才能と情熱が出会う場所」を意味し、それは、「自分にとって、それをするのが自然に感じられること」である。

エレメント探しは個人的な「探求の旅」であるが、探求には冒険や危険がつきもので、結果も不確実である。また、エレメント探しは、2方向への旅である。「あなたの中にあるものを探る内なる旅」と「外の世界での機会を探す外界での旅」。誰もが2つの世界に住んでいる。人は内なる世界を通してしか、外の世界を知ることはできない。

「探求」学習の歴史

学びの歴史

フランスのジャン=ジャック・ルソー
ドイツのイマヌエル・カント
スイスのヨハン・ハインリヒ・ペスタロッチ
ドイツのフリードリヒ・フレーベル(幼児教育の祖)
ドイツのペーター・ペーターゼン(イエナプラン教育提唱者)
イタリアのマリア・モンテッソーリ(モンテッソーリ教育提唱者)

「探求」の歴史

1900年から30年までの世界的に新教育運動というムーブメントがあり、シュタイナー教育、モンテッソーリ教育もこの期間に生まれ、世界中の彼方こちらで同時多発的に「新しい学びのかたち」が試行された。特に1921年に発足した新教育連盟(NEF:New Education Fellowship)は強い組織力をもち、マリア・モンテッソーリやペーター・ペーターゼン、ヘレン・パーカスト(ドルトンプラン提唱者)、セレスタン・フレネ(フレネ教育創始者)など著名な教育者、心理学者のジャン・ピアジュ、詩人のタゴールのような錚々たる顔ぶれが同連盟の開催する国際会議に集まった。ジョン・デューイ(進歩主義教育協会の創設者)もこの会議に講演者として参加している。

プロジェクト型学習

教育学のおける20世紀最大の思想家ともいわれるアメリカのジョン・デューイは「子どもの教育は、過去の価値の伝達にはなく、未来の新しい価値の創造にある」と考え、さらに学校の現場こそが、民主主義的改革の思想の成果が一番具体的に得られる場であると考えていた。

ハイテックハイのプロジェクト型学習の定義

「生徒たちが発表成果物・制作物・出版物を作って一般公開するまでの一連のプロジェクトを、デザイン・計画・実行することで得る学び」

批評(Critique)

プロフェッショナルの世界では、「批評」や「度重なる修正・見直し」は成功への必須の条件だる。ソフトウェアの開発では、完成の前にユーザーに見てもらって改良を重ねる。建築家は何度も設計図を描き直す。「批評」や「度重なる修正・見直し」は、スポーツやコンピュータサイエンス、建築、医療、エンジニアリング、防災、シアター、配管工事、管理業務に至るまで、ありとあらゆる分野で最良のアウトプットをもたらすために行われる。

ハイ・テック・ハイの批判の3つの考え方

1)優しく、具体的で、助けになる批評を行う
2)コンテンツに対しては厳しく、人には優しく
3)自分も話し、人も話せるようにし、全ての人の「声」が受け取られるようにする。

学習する組織

3:チーム学習
・普段関わりの少ない人と、どううまくコミュニケーションをとるか。
・意見が対立したときに、どうすり合わせをしていくか。
・グループ内の関係が悪くなった時に、どうやって円滑にまとめるか。

「(中略)決定的に違うのは、彼らが学校の外に出た時に大人とコミュニケーションをとる力や自分の考えを実現する力です。彼らは他者に対してより共感的です。PBLはコンテンツを教えるだけではなく、全人的な教育をしていると思います。」

日本の教師と生徒の環境

劣悪な教師の職場環境

文部科学省「我が国の教員の現状と課題 – TALIS 2018結果より 」では、教員の仕事時間は参加国中で最長。

海外活動の時間、事務業務、授業計画・準備でそれぞれ参加国中で最長。

2016年度の勤務実態調査では、公立小学校の約3割、公立中学校の約6割の教諭の1週間のあたりの勤務時間が、いわゆる「過労死レベル」に達していることが明らかになった。

参考)
文部科学省:我が国の教員の現状と課題 – TALIS 2018結果より –

肯定感の少ない教師と生徒

OECDのPISA調査による日本は数学的リテラシーで1位、科学的リテラシーで2位、読解力で11位。

2019年11月に発表された日本財団による18歳の意識調査の結果は日本が最下位。

平成26年度版『子ども・若者白書』で、自分自身に満足しているかなどの質問でダントツで最下位。

OECD国際教員指導環境調査(TALIS 2018)によると、「生徒に自信をもたせることができる」と回答した教師の割合は、参加国全体で86.3%であったにもかかわらず、日本の教師の割合は24.!%にとどまる。また、「生徒に学習の価値を見出すように手助けできる」とした教師の割合は参加国平均が82.8%であるのに対し、日本の教師は3.9%にとどまっている。

参考)
日本財団「18歳意識調査」第20回 テーマ:「国や社会に対する意識」(9カ国調査)

日本でのプロジェクト型学習の事例

小田原市の小学校5年生総合「コンビニから世界を考え、発信しよう」

最初にものづくりや空間デザイン、世界を知るワークショップを実施した後、班に分かれてイタリア、インド、ウガンダ、ペルー、ロシアの小学校の生活について調べ、その小学生の家族のニーズに合ったコンビニをそれぞれデザインしていった。

海老名市と三鷹市の教諭による「音をつかまえよう」

計画に2時間、探求活動に6時間、振り返りと知識の定着に4時間の合計12時間の授業。

生徒による振り返りでは、「問いを生み出す力」「ものごとを探求する力」「仲間と対話する力」が身についたと感じた生徒はいずれも85%以上となった。

チューニングが効力を発揮

かえつ有明中・高等学校の佐野和之副教頭は、「プロジェクト型学習では、自分の思いが強ければ強いほど、こだわりがオンリーワンのアイディアになることもある一方、独りよがりになってしまうこともある。自分のプロジェクト・アイディアを出す側も一緒にチューニングする側も、楽しみながら多様な視点を貰うことでで自身のアイディアをより広げることが可能になることを体感的に理解するようになっている。お互いにアイディアをチューニングすることで、自分たちの学びの場を自分たちで作り上げているという感覚が高まっていっていると感じる」と言及する。

60年以上「通知表」のない長野県伊那市伊那小学校

1956年に従来の通知表を廃止し、期末懇談会を設け、一人ひとりの子どもの学業・性格・行動・身体などについて、父母と直接話し合うようにした。

同行には固定的な時間割やチャイムもない。

1978年から子どもの意欲や発想に基盤を置く総合学習実践を行なっており、毎年教師と子どもたちが探求するテーマを決めている。

こうした実践のルーツは1918年(大正7年)に遡る。当時、大正デモクラシーの思想をもつ自由主義的な新教育運動(第一次)が全国各地に広がっており、研究を自由に行うことが許される各師範学校や、私立学校では成蹊小学校、成城小学校、自由学園、明星学園など東京の学校が運動の拠点となった。

1886年(明治19年)に創設された長野県内の教職員などで組織する自主的職能団体「信濃教育」は、探求する学びの文化を戦前から脈々と続け、伊那小学校だけではなく、諏訪市立高島小学校、岡谷市立神明小学校など数々の優れた実践校がある。

地方創生に取り組む島根県立隠岐島前高等学校

1年をかけて地域課題解決型のプロジェクト学習に取り組む。全校生徒160人のおよそ半数は「島留学生」として日本全国・世界各国から集う。多様な価値観の中で折り合いをつけながらチームごとに課題を設定、その解決策を考案し、実際に施行する取り組みを10年近く展開している。

隠岐島前地域は、人口減少や少子高齢化が進み、財政的にも厳しい状況が続いているが、見方を変えれば、大人が知恵を絞っても解決できない課題が身近にたくさんあるということである。同校の地域課題解決型のプロジェクト学習も、教室の外に出て、自分達で手足を動かすことを主眼にしている。

例えば、耕作放棄地に関心を寄せていたチームは、実際に使われていない畑の持ち主に交渉し、畑を借りて実際にあまり手をかけずに育てられる芋を育てることに取り組んだ。また、収穫時には芋掘りを地域の人たちや地元の中学生らと協働することで取り組みの認知を広げ、実際に収穫した芋を使って地域の産業祭で「芋煮汁」を売って収益を上げることに成功した。

教育と社会は両輪

色々な国に行って思うのは、教育だけが素晴らしく、社会が良くない、というのこを見たことがないし、教育がひどいのに、社会が素晴らしいという国もない、ということである。教育と社会は車の両輪みたいだ、といつも思う。