愛する人々と、生きる。LAILAH ~服づくりから見えたもの~
スリランカの自然と人をこよなく愛する日本人女性、藤原響子さん。
藤原さんは、縁あって好きになったスリランカで女性たちと誇りある仕事をしたいという思いから、内戦が終結した2009年、プンチラマイというプロジェクトを始めます。
「シンハラ語で “Punchi Lamai (プンチラマイ) ” という言葉は、小さな子どもたちという意味なんです。」
ミシンを使った小物づくりから始まった取り組みはやがて服づくりへ。そして植物染めの技法を教え、プロジェクト開始から10年という時を経た2019年、満を持してLAILAH (ライラ) というアパレルブランドを立ち上げました。
伝統医学アーユルヴェーダで使われるメディカルハーブを生かした染色、裁縫士が一人で一着を仕上げる丁寧な服作り、そして何よりそれをスリランカの女性たちと作り上げる、魅力的なLAILAH。
それらは自然と女性の暮らしに寄り添い、そして服をまとう人に寄り添い、じっくりと選ばれ長く愛されています。
今回私は、そのLAILAHを製作するアトリエであり、藤原さんの住まいでもあるお宅を訪ねました。
スリランカ北西部州に位置するポルガハウェラにあるアトリエ、そしてクルネーガラの豊かな自然に囲まれた染色工房。そこで行われている丁寧なものづくりは服への考え方だけでなく自然への考え方、また、仕事、もっと言えば生き方について強く惹かれるものがありました。
絶えない笑顔、やりがいを感じて
女性たちが職人として集うプンチラマイは、現在裁縫5人、染色3人の合計8人のチームです。
藤原さん:「女性にとって出産というのは人生の転機。フルタイムで働けない環境で子育て中の女性が得られる職は少ない。だから村の中に、歩いて通えて子育てのリズムに寄り添い喜んで働ける場所をつくりたかった。」
人生のステージがたびたび変化する女性に、やりがいや楽しさを感じられる居場所を作った藤原さん。工房ではたらく彼女たちは仕事や家族に対してどのようなことを感じているのでしょうか。
ー 私「責任ある仕事と家事の両立は、大変ではありませんか?」 ー
それを聞くと、目を輝かせて彼女たちは言いました。
「家事より仕事が好き。」
「この仕事が本当に楽しい。」
「最高の職場なんです。」
スクールバスがアトリエ前にとまり、子どもたちが帰ってくる。子どもたちが側にいれば母たちは安心して仕事ができ、子どもたちも親の働く姿を見て育っていきました。
藤原さん:「今は子どもたちも成長しましたが、中には次世代を担えそうなスタッフの娘さんもいます。専門学生として学びつつ、縫製と染色をトレーニングしている最中です。それは心から嬉しいことです。」
プンチラマイが始まって15年の歳月、途中メンバーは新陳代謝をくりかえした。そして、今のメンバーが最高のチームだと語る藤原さん。
今、お母さんたちは子どもたちの将来をどのように考えているのでしょうか。
ー 私「子どもたちにどんな大人になってほしいですか?」 ー
「愛をもった、優しい人になって欲しいです。」
「たくさんの知識を蓄えて欲しい。」
「やりたい事をやれる人生であってほしいです。」
敬虔な仏教徒として、仕事と家庭で忙しく生き、愛情と喜び、熱意と知性、そういった豊かな感情を携えた女性たち。彼女たちが作っているものは、“単なる一枚の服ではない”と強く感じました。
一枚の服に対して、どのような思いを込めているのでしょうか。服がうまれる背景をのぞいてみましょう。
“一日一着” ~染色にかかる時間の深み~
“美しい色合いを生み出すために”
▶︎人の手でできるだけのことをする。
まずは布を煮沸し、汚れを取り除きます。発色をより美しく長持ちさせるために鉱物を使い媒染をします。色によっては下染めの色を重ねるものも。服としての品質を高めるために火にかけている間はずっと布を動かし、少しでもムラがないよう手を動かします。
▶︎自然の力を借りる。
服づくりはそもそも環境に負担がかかるものです。ですからできるだけ一枚の服に対して想いを込めて丁寧につくれば長く愛されるものとなるのではないかと。
主に伝統医学アーユルヴェーダで使用される植物、木の実や根、皮を煮出して色作りをします。それはスリランカでしか生まれない色となり、大地のエネルギーや人々を癒す植物のエッセンスを洋服に込め届けることができる。
▶︎一枚の大きな布を大胆に染める。
私たちは製品染めはせず、布から染め、それを縫って一枚の服を完成させます。そのほうが美しい仕上がりに近づきます。
「ただし、一日に染められる布の枚数には限りがあります。美しい色を生み出すためには多くの工程、染め重ねに時間が必要で、一日に一枚、多い時で二枚です。」
ー 私「染色で一番難しいと感じることは何でしょうか?」 ー
Renukaさん:「どんなにきちんとしてもシミや色ムラができることがあります。」
藤原さん:「自然の植物をつかって長い布を手染めしているのですから、色ムラは出てしまって当たり前なのです。それをできるだけ少なくするための努力をしつつも、手仕事ならではの揺らぎは味わいでもあり自然染めの証でもあります。一点づつの個性という魅力を喜んでもらえています。中には商品としてはさすがに許されないシミが出てしまうこともあり、リスクが大きいのは確かです。」
Iroshaniさん:「それでも美しく染められた布を見ると、やはりやりがいを感じる。あぁ、綺麗だなと。」
藤原さん:「この植物染の技術をブランドを超えてスリランカで興味のある方がいるなら教え広げたいと最近思うようになりました。」
“一人一着” ~込められた思い~
もとは初心者だった彼女たちが付加価値の高い服を日本人に届けるまでの職人となった。そこにはどのような工夫があるのでしょうか。
▶︎一枚の服を最初から最後まで。
一枚の服を一人の裁縫士が最初から最後まで担当して服を仕上げる生産方式で、検品やアイロンまで全て一人で行います。全く効率的ではないけれど、心はこもる。パーツだけを一日中縫っているより、はるかに作り手にとっての喜びになります。既製服でありながら特別な一着を作っています。
▶︎服にはすべて名前を添える。
仕立てた服には必ず、担当した裁縫士の名前が添えられます。服を買った人がそれを見れば、誰がつくったかがわかりストーリーを想像しやすくなると共に、服を作る側の彼女たちが着る人のことを考えて丁寧に縫うことに繋がります。見えないコミュニケーションが服を通じて行われているように感じられます。
ー 私:「縫製で最も難しいと感じることは何ですか?」 ー
Somaさん:「生地の種類によってはかなり難しいものがあるのです。」
藤原さん:「デザインは素材できまります。そして生地そのものも長い時間と職人技術が結集したもの。日本での布探しもまた私の大切な仕事のひとつ。使っている生地の種類は40ほどあり、中には縫いにくく技術が必要なものもありますね。」
Shyamaliさん:「時にはすべて解き直して、もう一度縫い直すことも少なくありません。生地によってはそれができないものもあるので、慎重に縫っています。」
私:「何をやりがいに思いますか?」
Somaさん:「お客さんが喜んでくださるようにと、縫っているので、オーダーが入るととても嬉しいですね。」
藤原さん:「お客さまが服を選んでくださるからこそ作り続けることができます。LAILAHの服を気に入ってくださる方が少しづつ増え、本当にありがたいことですね。もっと知ってもらえるよう良いものを生み出したいです。」
Shyamaliさん:「服を着る方が健やかであるよう毎朝、仏陀へ祈り、丁寧につくっています。」
藤原さん:「わたしが企画しているスリランカツアーのハイライトとして、このアトリエに来てもらいスタッフたちと交流をする日を設けています。作り手の素顔笑顔に触れ、食卓を囲み、そして手がけた服を手にする。私自身が服づくりというツールを通して描くのは、つながりを生むこと。スタッフもその日をとても楽しんでくれています。」
彼女たちが作っているもの
藤原さん:「服作りはあとからついてきたひとつの形。私はこの祈りに満ちた島に根を下ろし、清らかな心の人たちと共に生きることを選びました。そして服を生み出すことでたくさんの喜びが波紋を起こし響き合うことを願っています。」
プンチラマイが発足して15年が経ち、LAILAHというブランドが歩み始めています。
藤原さん:「偶然なのですが、LAILAHはこの地上に命を送り込む”助産師の天使”につけられた名前だそうで。なにか繋がりのようなものを感じました。」
スリランカの女性たちに寄り添いゆっくりと一歩ずつ歩んできた濃密な10年間。それは何にも代え難い宝物のような時間だったのではないかと想像します。
Tea timeにスリーパーダの話で花を咲かせる彼女たち。いつもだったら休憩もそこそこにミシンへ戻るスタッフさんも、私と、同行していたカメラマンのために、スリランカで行くべきおすすめの場所として「スリーパーダに登るなら1月がベストよ。」と教えてくれました。そして「いろんなところに行ってスリランカの魅力を感じてね。」と。
最後に
『美しい心で愛を込めて作ったLAILAHの服は誰かのもとで大切に着られている。』
『生きがいを持ち輝く母をみながら育った子どもたちもまた、その深い愛情によって幸せな人生を歩む。』
なんだかどちらも同じように感じます。
二日間に渡って工房にお邪魔させていただいた中で印象に残っているのは、彼女たちの “あたたかさ” でした。
小さな子どもたちを愛するがゆえに始まった活動が、ブランドとなったとしても、その根底にある想いは変わらない。関わる皆が幸せであることを描き続けているのだなと。
笑顔、優しさ。またそれらを囲む静かで豊かな自然。そういうものたちにすっかり癒された自分がいました。「作る人が良ければ作品もいいものになる。」藤原さんをはじめ、プンチラマイの皆さんは、まさにそれを体現していました。
取材に協力し貴重なお話を聞かせていただいた藤原響子さん、そしてアトリエの皆さん、ありがとうございました。
参考)
Punchi Lamaiインスタグラムアカウント
LAILAHインスタグラムアカウント
LAILHA showroomインスタグラムアカウント
serendip tours (アーユルヴェーダ、世界遺産、バワ建築、そして衣と食。スリランカを巡る特別な旅をお届けする6泊7日のツアー。)インスタグラムアカウント
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