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スリランカのゾウと人 – 共存の道を探して

2025年8月27日

ゾウと共に生きる島「スリランカ」

スリランカには現在、約1,100頭のゾウが生息しており、アジアではインドに次いで二番目に多い国です。
小さな島国であるこの地で、人とゾウは何千年ものあいだ共生してきました。

  • スリランカのゾウは基本的に、乾燥した地域に生息しています。

ゾウが生息していない地域 🟥
ゾウと人がどちらも住んでいる地域 🟨
保護区
 🟩

しかし近年、スリランカの発展に伴って人が住む地域が拡大し、その一方でゾウの生息地は急速に減少しています。
その結果、ゾウが人里に現れる事件が多発し、「人とゾウの対立」は深刻な問題となっています。

今回私は、コロンボ大学 動物学・環境科学部の Devaka Weerakoon 教授 に貴重なお時間をいただき、スリランカにおける人とゾウの関係についてお話を伺うことができました。

実態

人とゾウの軋轢(Human-Elephant Conflict)による人とゾウの死亡件数の変化

Source: Gunawansa, T.D., Perera, K., Apan, A. et al. (2023)

スリランカでは1991年ごろから現在にかけて、人とゾウの対立による建物や人命への被害が急激に増加しています。

なぜ人はゾウの命を奪わざるを得ないのか。
そして、なぜゾウは危険を承知で人里へ降りてきてしまうのか。

その理由を具体的な例を挙げながら解説していきます。

人命被害の例

1. 道路での衝突事故

スリランカの夜道はとても危険。
ライトもミラーもない道がほとんどないので、飛び出してくるゾウに気がつかずそのまま衝突してしまう事故が多発しています。

2.ゾウによる建物破壊

ゾウが食べ物を求めて人里の穀物倉庫などをあさる際、建物を壊してしまうことは珍しくありません。
そして、その崩れた建物の近くに暮らしていた人々が瓦礫の下敷きになり、命を落としてしまうのです。

ゾウの死亡例

人間よりもはるかに大きく、丈夫に見えるゾウ。
しかし現実には、人間の約9〜10倍もの頭数が命を落としているのです。

1.人の仕掛ける罠

宗教的・文化的な理由からゾウの存在を重んじるスリランカ人。

ですが彼らの収入源である穀物を食べてしまうゾウに、罠を仕掛ける人は少なくありません。

・Hekka Patas – 顎爆弾

ヘッカ・パタスは、スリランカなどで使われる果物の中身をくり抜き、爆発物を入れた罠を指します。

間違えて爆発物入りの果物を食べてしまったゾウの口元で爆発物が起爆し、ゾウの顎は瞬時に吹き飛んでしまいます。

顎を失ったゾウは、食べることも水を飲むこともできず、長い間苦しんだ末にやがて餓死します。

・Nail Trap – 釘の罠

Nail Trapは、地面や板に釘をうち隠しておくことで、その釘を踏んだ象などの野生動物の足を傷つけることを目的とした罠です。

足を傷つけられたゾウは半永久的に歩くことができなくなります。
ゾウは常に動き続け広範囲に生える草を食べ続けなければいけない動物なので、歩けなくなったゾウは十分な食事を取れずにやがて餓死してしまいます。

2.不適切なゾウの移送&保護区の管理不足

人が住むエリアに出没するゾウへの処置としてDWC(スリランカ野生生物保護局)がとった方法の一つとして、保護区(国立公園)へのゾウの移送が挙げられます。

電気柵で囲まれている保護区にゾウを移送することでゾウと人の住むエリアを分断できると当初は考えられていました。

ですが、ゾウに人間が引いた境界線など理解できるはずもなく…

今まで移送され保護区に送られたゾウ17頭のうち、

15匹が人の住む地域に戻って来てしまったのです。

そのうち5匹は人間に害をなしたとされ撃ち殺されてしまいました

原因の一つは、保護区の電気柵の管理が行き届かず、多くが劣化していたこと。
ゾウは容易に柵を越えて村や畑へ入り込んでしまったのです。

このように、ただゾウを保護区に閉じ込めるだけでは意味がないのです。

なぜゾウは人里に降りて来てしまうのか?

この問題の根底には農家が行う、農業用土地開発の方法、「Chena(焼畑農業)」が深く関わっています。

Chena – 焼畑農業

焼畑農業とは、森を切り開き、木々を焼いてその灰を肥料にして耕作する農法です。
最初のうちは栄養を含む灰のおかげで作物が育ちますが、数年で土地が痩せてしまい、農家は新しい森を切り開かざるを得ません。

こうして繰り返されるうちに、背の高い木々は減り、代わりに草や茂みばかりが増えていくのです。

多くの高い木には、ゾウにとって有害な毒素が含まれているため、ゾウは通常草や茂みを好みます。

一方で、この焼畑農業のサイクルが行われていない保護区では、時間の経過とともにゾウの食料が減っていきます。
広大な土地を持っているにもかかわらず、保護区の中で生きていけるゾウの数はごく限られてしまうのです。

教授からの提案:人とゾウが共存できる土地利用

最後に、私が今回取材の機会をいただいたコロンボ大学のDevaka Weerakoon教授の提案するゾウにも人にもやさしい土地利用のステップをご紹介します。

ステップ1:土地の使い分け
シーズンごとに土地を「農業用」と「ゾウのため」に分けます。ゾウは毒性のある高い木の葉より、低い草や茂みを好むため、農業のために開発された土地はゾウにとって理想的な食事場所になります。

ステップ2:電気柵で作物を保護
農家は作物の栽培期間中、取り外し可能な電気柵を畑の周りに設置し、ゾウが作物を食べられないようにします。

ステップ3:ゾウに土地を解放
収穫が終わると電気柵を外し、ゾウが開発された土地の安全な植物を食べられるようにします。

ステップ4:年間サイクルの繰り返し
翌年の農業シーズンになったら再び柵を設置。このプロセスを毎年繰り返すことで、理論上、人とゾウの共存が可能になります。

ステップ5:政府機関の理解と支援
この方法を持続的に成功させるには、DWCなどの政府機関が、

  • 保護区がうまく機能していない理由
  • ゾウを単に移動させるだけでは意味がない理由
    を正しく理解し、真剣に取り組むことが必要です。

さいごに

ゾウは本来、温厚な性格を持つ動物であり、スリランカでは文化的にも非常に重要な存在です。

人とゾウの対立は、決して誰かが望んだものではありません。スリランカの発展や都市の拡大によって引き起こされた問題です。

この状況を改善するために最も大切なのは、スリランカの多くの人々が何が起こっているのか、何をすべきかを正しく理解し、行動に移すことです。

スリランカで人とゾウが平和に共存できる未来が、そう遠くないうちに実現することを願っています

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