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KOTRAコロンボ貿易館の前館長ソン・ジュホン氏インタビュー|韓国からみたスリランカの市場

2025年10月15日

今年3月、JETROコロンボ事務所所長の大井氏にも同席いただき、KOTRAコロンボ貿易館館長(取材当時)のソン・ジュホン氏にインタビューを行いました。

本記事では、その内容をもとに、スリランカ市場に進出する韓国企業の実態やKOTRAの支援の現場、さらに両国を行き交う人々の姿まで、幅広く迫ります。

成長を続けるスリランカ市場の可能性

――はじめに、スリランカ市場の全体像について伺いました。

KOTRAから見たスリランカ市場の可能性

頂いた資料を基に作成

Q. KOTRAから見たスリランカのマーケットはどのようなものですか?

まず、スリランカは「製造業の環境が良好」と言えます。ただし、これは必ずしもインフラが整備されているという意味ではありません。むしろ賃金が安いため、労働集約型の(機械よりも人の作業の割合が多い)産業を展開しやすいという点に特徴があります。主産業であるアパレル産業などはハイテク技術を必要とせず、多くの労働者を雇えば生産が可能です。そうした点で、スリランカは製造拠点として適した国だといえます。

Q. 「観光産業の復活」について具体的に教えてください。

スリランカは2019年にはテロ、2020年にはコロナによるロックダウンで観光客が激減し、2021年までは閑散期が続きました。しかしその後徐々に回復し、現在は観光業が非常に好調です。観光はスリランカのGDPの約15%を占め、第3位の主要産業です。スリランカ経済は「輸出」「海外労働者の送金」「観光」に大きく依存しており、特に観光の比率が高いため、この分野が伸びれば経済全体が大きく回るのです。今はまさに大きなチャンスの時期だといえます。ただし観光業は外的要因で急に落ち込むリスクもあり、危機管理も必要です。

 韓国人観光客の動向

――経済の柱のひとつである観光産業。その中で韓国人観光客の動向についても尋ねました。

Q. スリランカを訪れる韓国人観光客の現状を教えて下さい。

正確な数はわかりませんが、確実に増えてきています。

韓国の観光トレンドは日本の動きを後追いしていると考えるとわかりやすいです。日本人がまず欧米などの有名観光地に行き、その後東南アジアや新しい場所を探すようになったように、韓国人も徐々にスリランカのような国に関心を持ち始めています。

また、モルディブは新婚旅行の定番で、その際にスリランカに数日滞在するケースがよくあります。

さらに、スリランカは仏教国であり、キャンディの仏歯寺やアヌラーダプラなど巡礼の地としても魅力があるため、観光資源は非常に豊富です。

スリランカの輸出品

――続いて、スリランカがどのような輸出品を韓国に届けているのかについて話が及びました。

Q. スリランカから韓国に輸出されている主要な商品は何ですか?

先ほどもお話しした通り、最も大きな輸出品目は アパレルやガーメント(衣服加工品) です。スリランカはこれらの製品の最大輸出国の一つで、輸出総量の約40%を占めています。主な輸出先はアメリカやEUですが、その一部が韓国にも届きます。

Q. それ以外にはどのようなものが輸出されていますか?

その他には、スリランカの誇る天然資源やミネラルが挙げられます。例えばサファイアやエメラルド、黒鉛などです。また、農業資材として使われるココナッツの殻の繊維(ココピス)も輸出されており、オーガニック資材として韓国でも活用されています。

進出する韓国企業―製造業からサービス業まで

スリランカに進出している韓国企業の実態

――次に、スリランカに進出している韓国企業の姿を見ていきます。

Q. スリランカにはどのような韓国企業が進出していますか?

韓国企業は約50社ほど存在しており、主に製造業(Manufacturing) とサービス業(Service)に分かれます。数としては製造業がやや多いと考えられます。

製造業ではアパレルが中心です。スリランカはグローバルブランドのトミー・ヒルフィガーやポロ・ラルフローレンの生産拠点としても知られています。韓国企業も同様に、現地で衣服を製造し輸出しています。そのほか、工場で働く際の安全手袋、風船、野球ボール、帽子などの生産も行われています。

サービス業では、韓国レストランやホテル、カフェが目立ちます。例えばジュリアナホテルでは、経営者自身がカフェを運営し、さらにタイマッサージのサービスも提供しています。

Q. 規模の大きい企業はどこですか?

特に大きいのは、工業製品(手袋など)や風船を作る企業です。これらの企業はスリランカに本社を置き、韓国から工場ごと移転して運営しています。こうした企業は海外に住む韓国人が経営する企業であるため교민기업(在外同胞企業)と呼ばれます。

Q. 日本企業と比べて、韓国企業の進出形態には特徴がありますか

はい、日本企業は大企業が海外に支社や現地法人を設置するケースが多いですが、韓国企業は少し異なります。スリランカに進出している韓国企業の多くは、在外同胞企業です。つまり、海外に住む韓国人が現地で工場や事業を設立・運営しているケースが多いのが特徴です。

Q. サムスンなどの大企業はどうですか?
大企業として現地に拠点を持つ数少ないケースのひとつです。サムスンはスリランカではリエゾンオフィスとして活動しています。リエゾンオフィスとは、本社と現地グループの連携を図る窓口のような組織です。そのため、サムスンの商品自体は現地の販売会社、たとえばSoftlogicやKeellsなどを通じて提供されています。直接営業するわけではなく、現地企業を介して商品が流通しているのが特徴です。

KOTRAが担う役割とは:企業進出を支えるサポート

――企業が進出する際に欠かせないのが情報や支援の仕組みです。ここでKOTRAの役割を伺いました。

Q. KOTRAはスリランカにおいてどんな役割を果たしていますか?

KOTRAの主な役割は、韓国企業の輸出や投資活動を支援することです。日本のJETROのように、現地の市場調査を行い、その情報を韓国企業に提供することで、進出や事業展開の判断を助けています。

KOTRAが提供する市場情報は、スリランカでのビジネス環境を理解するうえで重要な指針となり、企業が安全かつ効率的に投資や輸出活動を行うためのサポートの中心となっています。

スリランカに暮らす韓国人 -移住の背景と変遷

――スリランカ経済を語る上で、現地に暮らす韓国人の姿を外すことはできません。韓国人居住者の変遷について聞きました。

スリランカに住む韓国人は減少傾向にある

Q. スリランカに住んでいる韓国人は増えていますか?

実は、だいぶ減っています。現在は家族も含めて600~700人ほどです。※1

Q. 以前はもっと多かったのですか?

はい。韓国人はかつて約3,000人ほど※2在住していました。当時は韓国企業の進出も今より多かったのですが、現在はかなり減少しています。

Q. 減少した理由は何ですか?

代替市場が生まれたことが大きな要因です。中国やベトナムなど、韓国に近く、より多くの労働力を雇える国に企業が移っていきました。インドに近く、「オーシャンシルクロード」に通じる拠点であるというスリランカの立地の良さは、代替市場の出現により相対的に薄れてしまったのです。今後、再び魅力を高めるには、スリランカ政府の努力が必要だと感じています。

韓国で働くスリランカ人―広がる人的交流

――最後に、スリランカから韓国に渡る人々の動きについても注目しました。

韓国で働きたいスリランカ人が増えている理由とは

Q. 韓国で働きたいというスリランカ人は本当に多いのですか?

はい、年々増えています。韓国で働くにはビザが必要で、ワーキングビザを取得するためにはスリランカ人は様々な審査を受けなければなりません。分野ごとにスキルテストがあり、韓国語能力や専門技能を確認した上で、初めてビザが発給されます。

Q. どのような分野で働くのですか?

主に製造業や漁業、最近では造船や建設などの需要もあります。サービス業も一部あり、物流やホテル業などに就くケースがあります。また、短期農業の仕事を希望する人もいますが、管理が難しいためあまり多くはありません。

Q. これに伴い韓国語学校は増えていますか?

韓国政府が直接支援する学校はありませんが、プライベートのアカデミーや塾があります。必要な試験をすべてパスすれば、韓国での仕事に必要な教育を受け、渡航することができます。

Q. なぜスリランカ人は韓国で働きたがるのでしょうか?

理由の一つは、韓国の生活環境や福祉が整っていることです。以前は中東諸国が人気でしたが、賃金や待遇の面で不安がある場合もあります。韓国は他の国よりも高い待遇や給与が得られるため、「韓国に行けば安心して働ける」と評判があるようです。実際、韓国に働きにくるスリランカ人は覚悟や誠実さを持った人が多く、雇用者からの評価も高いといいます。

Q. 日本では外国人労働者のイメージが必ずしも良くない場合がありますが、韓国ではどうでしょうか?

韓国では、スリランカ人は真面目で信頼できるという良いイメージを持たれています。もちろん外国人であること自体の印象は前提としてありますが、他国出身者の中でも特に好意的に見られています。

Q. スリランカ人の増加に対する国民や政府の反応は?

どの国でも移民者が増えることに対して歓迎一色というわけではありません。合法的に来る人々は問題ありませんが、違法で来る人も同時に増える可能性があるため、注意が必要です。

インタビューを終えて

KOTRAコロンボ貿易館のソン・ジュホン館長にスリランカの市場についてインタビューする機会をいただき、韓国から見た経済という新たな視点でスリランカを理解することができました。多くの可能性を秘めながらもリスクを抱えるスリランカ市場が、韓国をはじめとする諸国との連携を通じて、さらに発展していくことを期待しています。

また、スリランカという地で、日本人である私がソン・ジュホン館長から直接お話を伺うことができたのは、大変貴重な経験となりました。さらに、当日ご同席くださったJETROの大井所長にも心より感謝申し上げます。この度は本当にありがとうございました。

取材日:2025年3月21日、KOTRAスリランカオフィスにて

撮影:亜美

※1 日本人もかつて1000人から2000人ほどいたという話も聞きました。在留届を出している人数で調べると、現在のスリランカにおける在留邦人数は600人ほど。調べられた過去のデータで日本人の最多は1997年の855人。
   引用: 外務省(1997)「国(地域)別在留邦人の概要.アジア」『海外在留邦人数統計』(オンライン)2025年10月8日アクセス

※2 調べられた韓国人の在留人数は、2011年の948人が最大。
   引用: KOREAN NET. (2012). 재외동포현황(2011). 재외동포 통계자료.

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