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JICA環境教育海外協力隊員が挑むリサイクルと、子どもたちの未来を育てる環境教育の現場

2026年6月28日

美しき光の島の裏側にある課題

豊かな緑、息をのむような美しいビーチ、そして温かい人々。
「インド洋の真珠」とも呼ばれるスリランカは、近年めざましい経済発展を遂げています。しかし、急速な近代化と都市化の影で、国内のあらゆる地域が「ごみ問題」という深刻な歪みに直面していることをご存じでしょうか。

国の発展に伴い、人々の消費生活は豊かになり、排出されるごみの量は右肩上がりに増え続けています。しかし増えるごみのスピードに対して、インフラとしての処理スピードが追いついていません。さらに、住民の間で「分別の習慣」や「ポイ捨てをしない意識」が十分に定着していないことが、問題をより複雑にしています。

この課題に対し、現地の人々と共に汗を流しながら、正面から向き合っている日本人がいます。独立行政法人国際協力機構(JICA)から派遣された、2人の青年海外協力隊です。今回は、それぞれの任地で異なるアプローチを続けながらも、その先にある共通の課題へ挑む2人の活動をレポートします。

クリヤピティヤの地域から

山下隊員が向き合う「現在のインフラと人々の壁」

コロンボから北東へ約80km、北西部州クルネーガラ県に位置する都市「クリヤピティヤ(Kuliyapitiya)」。ここは商業と農業が調和した、活気ある地方都市です。この街の行政機関に配属され、日々活動しているのが環境教育隊員の山下颯太さん。地域の幼稚園やオフィス、そして街のごみ処理場という3つのフィールドを舞台に活躍しています。

クリヤピティヤにて活躍されるJICA海外協力隊・山下颯太さん

山下さんに案内され、クリヤピティヤのごみ処理場を訪れました。まず驚いたのは、その佇まい。「ごみ処理場=暗い場所」というイメージを覆すように、敷地内には沢山の植物が植えられ、壁には明るいイラストが描かれていました。実はこの施設は、過去に日本の政府開発援助(ODA)の枠組みでJICAの支援によって建設されたもので、山下さんは歴代の隊員から引き継がれてきたこの地の「6代目」にあたります。

ごみ処理場へと続く緑溢れる道
壁にはポップなイラストが描かれている

スリランカ独自のごみ収集システム

「スリランカでは基本的に、街単位でごみ処理場が整備されています。大きな都市になると市内に複数の処理場を持つこともあります。」

スリランカのごみ収集システムは、日本のように決まった「ごみステーション(集積所)」がありません。各家庭やレストランが、建物の前に直接ごみを出しておき、それを軽トラック(収集車)が巡回して回収していきます。山下さん自身も、現地の収集員と一緒にこのトラックに乗り込み、街を回ることもあります。

このように地域一帯をくまなく巡回するため、どうしても回収の効率面での負担が大きく、収集の作業には多くの手間と時間がかかっています。しかしその一方で、住民と収集員がダイレクトに顔を合わせ、言葉を交わすコミュニケーションが自然と生まれるという、この国ならではの良さもそこにはあります。山下さんは、ただ作業を見るだけでなく、その輪のなかに身を置きながら、現地の暮らしを肌で感じ取り続けています。

ごみ処理場に戻ってきた収集車

こうして回収されたごみは、処理場で人の手によって「コンポスト(堆肥)にするもの」「専門業者が買い取るリサイクル資源」「どうしても処理できない埋め立てごみ」へと細かく分別されます。しかし、ここに大きな壁が立ちはだかっています。市民の間で分別意識が低いため、搬入されるごみの中に多くの不純物(プラスチックなど)が混ざり込んでしまうのです。

「本来、住民の皆さんが100%分別してくれたら、生ごみはすべて質の良いオーガニックなコンポストに生まれ変わり、プラスチックや金属は資源として完全に循環します。しかし現実には分別されず、コンポストを作る過程での手作業による不純物除去が追いつきません。結果として、分解できないごみをそのまま地中に埋め立てるしかなく、埋め立て地は容量の限界に向かって日々埋まり続けています」

では、分別されたゴミは、その後どのように処理されているのでしょうか。日本とは異なるリサイクルの仕組みについて、山下さんが説明してくれました。ペットボトルや瓶、缶、プラスチックといった資源ごみはパッキングし、業者に売却しています。日本では無色透明なボトルが主流ですが、スリランカのペットボトルは茶色や緑など「色付き」のものも多く流通しているため、売却前に色ごとへ仕分け直す作業が必要になり、これが分別の手間をさらに増やしています。

住民が家庭でほんの少しでもごみを分別してくれるだけで、埋め立てごみは劇的に減り、処理場で働く人たちの負担も軽くなります。さらにリサイクル率が上がれば彼らの収入(インセンティブ)も増え、関わる人全員にとってより良い環境をつくることができる。しかし、その「分別の意識」を住民の間に根付かせることこそが、極めて難しい長期戦なのだといいます。

専門業者が買い取るリサイクル資源
回収されたペットボトルの山
コンポスト製造エリア
クリヤピティヤの埋め立て地にて

キャンディの地域から

江原隊員が目撃した「都市の悲鳴と仕組みの限界」

山下さんが地方都市で直面しているこの課題は、規模の大きい大都市になると、より巨大な歪みとなって現れます。スリランカ第2の都市であり、世界遺産「仏歯寺」を擁する古都「キャンディ(Kandy)」。この大都市の市役所に配属され、活動しているのが同じく環境教育隊員の江原崇裕さん。

キャンディにて活躍されるJICA海外協力隊・江原崇裕さん

キャンディ市役所は非常に大きな組織。市内は5つの支所、さらに45の区(行政区画)に細分化されており、それぞれのエリアを統括する「スーパーバイザー」が配置されています。スーパーバイザーはいわば、街の環境美化や公衆衛生を支える「現場監督」です。とある地域では、約380世帯もの住民が暮らすエリアを対象に、日々の道路清掃やごみ回収、地域の衛生維持に努める作業員(現場清掃員)たちをまとめ、その指揮や管理を一手に担っています。

この巨大な行政組織のスーパーバイザーやスタッフたちとひたむきに信頼関係を築きながら、環境教育とごみ処理の仕組みづくりの双方に取り組む江原さんに案内してもらい、キャンディ市内にある2015年に新設されたごみ処理場を訪れました。ここは比較的新しい施設ではあるものの、日々運び込まれる大量のごみを限られた環境で処理しているため、風向きによって周辺の住宅街に生ごみ特有のにおいが漂ってしまうこともあります。

「この処理場ができてから、周辺住民の方々からは『臭いが気になる』『ゴキブリや害虫が増えた』『道端でごみを見かける回数が増えた』といった苦情や反対運動が発生しているのが現状です。それでも住み慣れた土地だからと、住民の方々は簡単には離れられず、ごみ処理場と隣り合わせで暮らし続けています」。そこには、一筋縄では解決できない厳しい現実があります。

キャンディ市内にあるごみ処理場

江原さんの着任当時、キャンディ市が1日に排出するごみの量は約65トンでした。人口規模からすれば、一人当たりの排出量はさほど多くないように思えますが、急激な経済発展と都市への人口流入に伴い、現在では毎日81トンものごみが処理場に運び込まれています。また、その81トンのうち、実に50トンを生ごみが占めているという状況です。

スリランカには、訪れた人をいつでも温かくもてなせるよう、食事をたっぷりと用意する文化があります。娯楽が限られている分、日々の食卓を豊かにすることへのプライオリティが高い家庭も多いです。日本のような先進国でも深刻なフードロスが叫ばれていますが、ここスリランカで生ごみの比率が高い理由を紐解くと、現地の温かいおもてなしの習慣や、新鮮な食材をその都度調理する食文化といった、この国ならではの背景も一つの要因として見えてきそうです。

そうした様々な背景を内包しながら、日々集まる大量のごみを適切に処理し、価値あるコンポスト(堆肥)などへ生まれ変わらせるため、処理場では頼もしい作業員たちがチームを組んで稼働しています。男性が力仕事を担い、女性たちがベルトコンベアの前で、運び込まれたごみ全体からの分別を手作業で行っています。

作業は、ポーヤデー(仏教の満月の祝日)と月4回の日曜日を除く毎日、朝の8時から夕方17時まで続きます。蒸し暑いプラントの中での長時間の立ち仕事は、腰への負担も大きく、大変な肉体労働です。しかし、そんな厳しい環境にあっても職場のメンバーたちの仲はとても良く、お互いを笑顔で支え合いながら日々の業務に向き合っています。

天井まで積みあがるゴミ
手作業で分別される

もともとスリランカでは、各地でごみのコンポスト化が広く取り組まれていますが、江原さんが今、自身の課題として挑戦しているのが「より早く、効率よく良質なコンポストを作る方法」の研究です。毎日運び込まれる大量のごみをスムーズに循環させるためにも、製造期間の短縮と効率化は処理場にとって大きな意味を持ちます。

さらにここキャンディでは、クリヤピティヤとは異なり、コンポストの売上やリサイクルの成果が現場の作業員たちの給料に直接還元される仕組みにはなっていません。現場で積み重ねた工夫や努力が、目に見える成果として返ってくるとは限らない。そうした環境のなかで江原さんは、製造スピードを上げ、より効率的な仕組みを確立することで、作業員の負担を減らし、この巨大な行政組織の中でのごみ処理のあり方を一歩前へ進めようと奮闘しています。

「いくら頑張って分別し、良いコンポストを作っても、自分たちの収入は増えない。それでも、上長が『これは社会にとって良いことだ』と認め、指示を出せば、スタッフたちは一丸となって動く。それがスリランカの組織の特徴でもあります」

そんな現地の気質を肌で感じているからこそ、江原さんは単に作業をお願いするのではなく、現場で働く人たちが「自分たちは社会にとって意味のある仕事をしている」と実感できる関わり方を常に模索しています。

2つの街に共通する「本当の課題」と日本への問いかけ

地方都市クリヤピティヤの山下隊員、大都市キャンディの江原隊員。2人がそれぞれの地域で直面していたのは、規模や環境が異なるものの、まったく同じ本質的な問題でした。

国の発展によって、ごみは確実に増え続ける。しかし、それを処理する人々の労力やインフラには限界がある。何より、住民の「分別に対する意識」と「ポイ捨ての多さ」が、足元に過酷な負担を強いているという現実です。

過去には、国内の別の巨大な「ごみ山」が崩落して痛ましい犠牲者が出たり、自然発火によるボヤ騒ぎが起きたりしたこともありました。また、野生のゾウがプラスチックごみを誤飲して死亡したり、ポイ捨てされたごみが雨水管に詰まったことで、昨年末のサイクロン襲来時に都市の冠水を悪化させる要因の一つになったりと、ごみ問題は景観だけでなく、人々の暮らしや自然環境にも影響を及ぼしています。

しかし、山下さんも江原さんも、「スリランカの人々の意識が遅れている」と切り捨てるようなことは決してしません。2人がそれぞれの取材で口にしたのは、まったく同じ言葉でした。

「1人あたりのごみの排出総量を比べたら、日本の方が圧倒的に多いんです」

  • 1人1日あたりのごみ排出量比較

日本(全国平均):約 851 g
特徴・課題:
総排出量は減少傾向にあるが、世界トップクラスの排出量。高度な焼却インフラと、徹底した分別・リサイクルシステムで管理されている。

■スリランカ(全国平均):約 600 g 〜 640 g
特徴・課題:
国全体の総量は日本より少ない。しかし、都市部への人口集中により排出量が急増中。ごみのうち約6割以上(都市部では最大70%以上)が生ごみだが、分別や収集の仕組みが未成熟なことが課題。

日本は高度な焼却インフラや厳格な回収ルールがあるため、街中にごみが溢れにくく、問題が見えにくくなっているに過ぎません。しかしながらかつて日本も、高度経済成長期には激しい公害問題に苦しみ、ごみ処理施設の建設をめぐって地域間で激しい対立が起きる、いわゆる「ごみ戦争」と呼ばれる時代も経験しました。数々の失敗を重ねながら、現在のマネジメントの仕組みを築き上げてきています。

「日本が進んでいて、スリランカが遅れているわけではないです。日本だって、今でもすべての人が完璧に分別できているわけではないですよね。結局どちらの国も、課題はマネジメントをどう機能させ、一人ひとりの意識をどう変えていくかという同じ一点に行き着く。それに、人の習慣は短期的なアプローチで急に変わるものではありません。これは長期戦なんです」

現在のインフラの限界、習慣を変えることの難しさ。活動の壁に突き当たったJICA隊員たちは、しかし、そこで立ち止まりません。「人々の習慣を自然に、かつ確実に変えていくためには、どのようにアプローチすればいいのか?」

この問いと向き合いながら、2人が注力しているもう一つの取り組みが、子どもたちへの環境教育です。

子どもから広がる意識とコンポストの挑戦

課題の根底にある「意識」へのアプローチ

これまでは、スリランカの地方都市クリヤピティヤと大都市キャンディの双方で、急増するごみの量に対してインフラの処理能力が追いついていない現実をレポートしました。

長年培われたライフスタイルや習慣は、言葉だけで急に変えられるものではありません。ポイ捨てや分別の課題は、スリランカに限らずどの国も通ってきた道であり、大切なのは、そこに対してどうアプローチしていくかということでした。

JICA環境教育隊員の山下さんと江原さんが、処理場での活動と並行して力を入れているのが、「幼児へのアプローチ」です。幼い頃からごみ分別を当たり前の習慣を育てること。それは一見、遠回りのように見えて、社会の意識の根底を変える最も確実な道筋です。今回は、2人の環境教育隊員が未来の土台を築く環境教育の場と、作業員たちと共に汗を流しながら進めるコンポストづくりの挑戦に迫ります。

笑顔とダンスで心を掴む、幼稚園での環境教育

世界遺産の街・キャンディの活気あふれる街並みを抜け、江原さんととある地元の幼稚園を訪ねました。

「環境教育の授業で何より大切なのは、最初の第一印象なんです」と江原さんは微笑みます。幼稚園の門をくぐる瞬間、江原さんは全力の笑顔と弾けるような明るい声で子どもたちの前に現れます。子どもたちに「なんだか楽しそうな人がやってきた!」とワクワクしてもらい、これから始まる話に耳を傾ける心の土壌を作るためです。

授業のスタートは、明るく弾むよう音楽に合わせたアイスブレイクの歌とダンス。この曲は、スリランカで活動するJICA隊員たちが、子どもたちに環境問題を身近に感じてもらえるようにと、知恵を出し合って作詞・作曲・振り付けを完全オリジナルで制作したシンハラ語の「環境教育ソング」です。

その歌詞には、「ゴミはゴミ箱へ、なければ家に持ち帰ろう」という基本から、「ビスケットの袋やペットボトルは分解しないゴミ」「果物の皮や卵のカラは分解するゴミ」といった分別まで、子どもたちが日常で楽しく実践できる知恵がリズムよく詰め込まれています。道に落ちたゴミが引き起こす悪臭や、動物たちへの害にもやさしく触れており、歌いながら自然と環境への思いやりが育まれる内容です。

子どもたちが音楽に合わせて体を動かし、笑顔になったところで、本編の授業が始まります。キャンディの美しい街の写真をたくさん見せながら、子どもたちに問いかけます。

「みんな、自分たちが住んでいるこのキャンディの街が好き?」「好きー!」と元気な声が返ってきます。 「大好きな街がごみでいっぱいになって、汚れてしまったら悲しいよね?」
江原さんは日本での小学校教員の経験を活かし、日本の教育現場で行われる「街探検」のように、まずは自分たちが暮らす土地への愛着を育むことからアプローチしていきます。好きな場所だからこそ、守りたい、汚したくないという主体的な気持ちが芽生えるからです。

取材した幼稚園では、これまで明確なごみ箱での分別のルールがありませんでした。そこで江原さんは、教室に置かれた「茶色のごみ箱」と「緑のごみ箱」を示しながら、それぞれの箱に捨てるべきごみの違いを、丁寧に説明していきます。また、園の先生たちにも、明日からの分別への協力を仰ぎました。

子どもの集中力が持続する時間は限られているため、授業はぎゅっと凝縮した約30分間。授業の最後には、実践の時間が用意されていました。子どもたちに小さなチョコレートが1粒ずつ配られます。みんなで美味しく食べたあと、手元に残った小さな包装ごみを、今習ったばかりの正しい色のごみ箱へと捨てに行くゲームです。自分で考えて正しいごみ箱へチョコレートのくずをパッと捨てていく子どもたち。江原さんはその一人ひとりの目を見つめ、大きな声で「正解!素晴らしい!」と思いっきり褒めます。褒められた子どもたちの顔には、誇らしげな笑みが浮かんでいました。

2色のごみ箱
子ども達一人ひとりが袋を茶色のごみ箱へ

江原さんの環境教育プログラムは小学生向けになると、さらに一歩踏み込んだ「自分ごと」としての問いかけに進化します。私たちが毎日飲んでいる水は、川から汲み上げられ、綺麗に浄化されて届けられていること。その川がポイ捨てされたごみで汚れてしまったら何が起きるのか。細かくなったプラスチック、いわゆる「マイクロプラスチック」を魚が食べ、その魚を私たちが食べたとき、ごみは結局どこへ戻ってくるのか。江原さんは、こうした問いを子どもたちに投げかけながら、授業を進めていきます。 「自然を大切にしよう」という綺麗なスローガンを掲げるのではなく、ごみは巡り巡って自分自身に帰ってくるという「循環の真実」を伝えること。それが、江原さんの環境教育の根底にある考え方です。

試行錯誤の先に築いた信頼関係

今でこそ江原さんの環境教育プログラムは、約1ヶ月先まで予約が埋まるほどの大盛況となり、地域のあらゆる学校や自治体から引っ張りだこになっています。しかし、ここに至るまでの道のりは決して平坦ではありませんでした。

「赴任して最初の2ヶ月間は、現地の人々との関係性が全く作れず、とても苦戦しました」と、江原さんは当時を振り返ります。

配属先の役所の担当者に「環境教育のプログラムをやりたい」と提案しても、なんだかんだと理由をつけられ、話は先延ばしにされるばかり。日本でいくら準備や勉強をしてきても、赴任当初は現地の言葉(シンハラ語)を流暢に話すことができませんでした。現地のスタッフからは、「言葉も話せない外国人のあなたに、一体何ができるの?」とでも言いたげで、試すような視線を向けられることもあったといいます。

「上手く話が進められず、自分は一体何のためにスリランカに来たんだろうと考えることもありました」

しかし、江原さんは諦めませんでした。悔しさをバネに現地の言葉を猛勉強し、プレゼンテーション資料も作成。各地域を統括するスーパーバイザーのもとへ、自ら直接足を運び、地道に提案を重ねていきました。

そうした熱意ある働きかけを重ねるうちに、地元のスタッフたちの態度は少しずつ変わっていきました。活動を始めて半年が過ぎた頃には、今度は現地側から「うちの地域でもぜひ環境教育の授業をしてほしい」と声がかかるようになったのです。地元の言葉で対話し、職場の目線に立ち続けてきたことが、ようやく確かな「信頼関係」として実を結んだ瞬間でした。

より良い循環を目指すコンポスト研究

環境教育という未来へのアプローチと同時に、江原さんはキャンディのごみ処理場で、もう一つの挑戦を続けています。それが、生ごみを効率よく堆肥化する「コンポストの急速発酵研究」です。

現在、搬入された生ごみが分解されてコンポストとして使えるようになるまでには、約2〜3ヶ月を要します。江原さんは、日本の有機ごみ処理技術「高倉式コンポスト」の考え方も取り入れながら、この期間を短縮できないかと模索し、今年1月から実験を始めました。
堆肥の山に竹筒を差し込み空気の通り道をつくるなど、微生物の働きを活性化させる試みを続けています。こうした地道な作業を、江原さんは現地の作業員たちとともに汗を流しながら進めています。

研究中のコンポスト

一方でキャンディの現場では、いくら努力して良質なコンポストを作っても、それが直接作業員の給与に反映されるわけではありません。それでも、上長がその意義を認めれば、スタッフは一体となって動く。それがこの地域の組織の特徴でもあります。だからこそ江原さんは、単に作業を改善するだけでなく、「自分たちの仕事には意味がある」と現場の人々が実感できる関わり方を大切にしています。

そしてここで、「環境教育」と「ごみ処理」という2つの実践が結びつきます。
幼稚園の授業では、江原さんは子どもたちに、ごみ処理場で働く人々の仕事を紹介しています。子どもたちは街を支える現場に興味を持ち、分別の意味を少しずつ理解していきます。
同時に処理場では、子どもたちが一生懸命に分別を学んでいる様子が作業員たちに伝えられています。自分たちの仕事が次の世代の学びにつながっているという実感は、現場に新しい誇りを生み出しています。

子どもにとっては学びとなり、大人にとっては仕事の意味の再確認になる。その双方向の関係の中に、小さな循環が生まれ始めています。

子どもたちが幼少期に「ごみは分別するもの」「ポイ捨てはしない」という感覚を自然に身につければ、その意識は家庭へと広がっていきます。家に帰った子どもたちは、学んだことを日常の中で家族に伝えるようになるからです。

クリヤピティヤの山下さんも、キャンディの江原さんも、その先にある同じ未来を見据えています。習慣がまだ形になる前の幼少期から働きかけること。それは、時間はかかっても確実に社会を変えていくための、静かな実践なのです。

共に学び合い、未来へ繋ぐバトン

JICAのボランティアとしてスリランカへやってきた、山下さんと江原さん。2人の活動を見つめていると、それは技術を一方通行で伝えるのではなく、現地の人々と対等に寄り添い、共に歩む姿そのものであることに気づかされます。「教えること以上に、現地の人々から学ばせてもらうことの方が圧倒的に多い」と語る理由も、日々の真摯な向き合い方の中にありました。

日本にはこれまでに築き上げてきた高度なごみ処理システムという強みがあります。その一方で、スリランカには、適切なマネジメントの仕組み(分別の習慣やインフラ)さえ整えば、自然と人間が豊かに共生する美しい循環型社会を達成できる大きなポテンシャルが秘められています。

美しい観光地としての華やかなスリランカの裏側で、大量のごみと真摯に向き合い、現地の人々と共に歩み続ける2人の日本人。習慣が定着する前の幼少期から自然にアプローチを重ねていくその草の根の挑戦は、今、スリランカの大地に着実に根を張り、未来の種を撒き続けています。その取り組みは明日への希望のコンポストとなって、これからの街を支える豊かな芽を大切に育てています。

2026.05 クリヤピティヤとキャンディにて

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