【Global Japanコラム9】伝説の舞台とクロスボーダー
国際橋
中国遼寧省の瀋陽市からバスに揺られ、丹東市を流れる鴨緑江にたどり着くと、そのすぐ対岸は北朝鮮でした。人々や鉄道が行き交う国際鉄橋の右隣には、1950年に米国(連合軍)の爆撃によって中央部から北朝鮮側までが破壊された旧鉄橋の残骸がまだありました。その対比が逆説的に、国際橋というものは友好のシンボルかつ物流の動脈なのだということを、最果ての喧騒の中に教えてくれたことを覚えています。
海峡鉄道
スリランカとインドを有機的に結ぶ事業を考えていきたい、というお話です。1964年まで、いにしえの叙事詩ラーマ―ヤナの伝説の舞台である“アダムスブリッジ”には、スリランカとインド間の海峡鉄道(正確には蒸気船による連結)が存在しました。これは、挿絵にあるようなインド側の半島の海上鉄路(Pamban Bridge: 一部現存)と、スリランカ側の半島鉄路の間の約24kmの海峡間を、蒸気船の運行によってつなげ、両国先端にあるそれぞれの桟橋にて、列車を横付けにさせたまま入出国審査と乗り換えを行った後、それぞれの目的地に鉄道を走らせる仕組みでした。
マドラス(現在のチェンナイ)からコロンボまでの実質的な「直通乗車」としての、いわゆる”Boat Mail(直訳すれば船付きの郵便列車)”は、両国が英国の植民地時代であった1915年に実現し、船輸送よりも大幅に移動時間が短縮され、双方の交易と人的移動が盛んになりましたが、この海峡鉄道は1964年に廃線となります。サイクロン(ベンガル湾付近の強力な熱帯低気圧)の猛威によって、インド側半島の最果ての村ダヌシュコディ(Dhanushkodi)が、鉄道客100名の犠牲とととに壊滅し廃墟となってしまったのです。ただ、前述したインド側の海上鉄路は今も使われており 、スリランカ側も内戦時代に破壊されたマンナール島への鉄道橋が2010年、日本のODAによって車道橋のマンナール大橋として生まれ変わりましたが、肝心な両間国の交通は現在も分断されたままです。
歴史的なクロスボーダーへ
別ルートではありますが、2023年10月、スリランカ北部ジャフナとインド南部のナガパッティナム (Nagapattinam)の間に、実に約60年ぶりとなる国際フェリーが就航しました。さらには、両国合意後に頓挫した過去の経緯があるものの、現在、歴史上初となる真の海峡大橋(車道と鉄道)を、冒頭で述べた伝説のアダムスブリッジ部分に掛ける総工費約50億ドル(約7,500億円)のプロジェクト案が両国間で具体的になりつつあります。
スリランカ・インド間には自由貿易協定(2000年発効)が存在し、関税の自由化措置がとられています。弊社Global Japanは両国に現地法人をもつコンサルティング会社として、二国間を有機的に結ぶ事業支援体制を整えているものの、関心を示す日系企業の例はまだまだ少ないのが現状です。歴史的な国際橋開通が実現すれば、それは間違いなく物流の大動脈となり、人的移動はサービスの輸出入をも促すでしょう。いざ、伝説の舞台でのクロスボーダー進出を!
執筆者:吉盛 真一郎
慶応義塾大学経済学部卒。日本・香港・スリランカ・インドにて、日系企業の経理・財務・総務業務に約14年従事。スリランカでは、ODAプロジェクトにおける山奥での現場経験や、当時のCSR業務から派生したソーシャルビジネスの起業実績もあり、経営者としてスリランカ法人の管理業務の実績を数多く積んでいる。
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