「インフィニティープールの生みの親ジェフリーバワ」は本当か?
スリランカを代表する建築家ジェフリーバワについて、インフィニティープールの生みの親と紹介されることがあります。
ところが英語の媒体ではそのように紹介されることはなく、その記述は日本語の媒体で特徴的に見られます。
本記事では、インフィニティープールとジェフリーバワの関係について紹介します。
目次
インフィニティープールとは?
インフィニティープールとは、プールの縁が存在しないかのように見せかけたプールのことです。
ヴァニッシングエッジプールとも呼ばれます。
インフィニティー(infinity)とは「無限」を意味します。
ヴァニッシング(vanishing)とは「消える・見えなくなる」という意味があります。
プールの水面が海や空と重なり、境目が曖昧になり、無限に続くようなプールに見える、あるいは縁が見えないように設計されます。
高級リゾートをアジアを中心に展開してきたアマンリゾートや、シンガポールのマリーナベイサンズのインフィニティープールが代表的な存在として知られており、アジアリゾートの顔ともいえるものとなっています。
世界初はロサンゼルス郊外の邸宅のプール
英語のウィキペディアには、世界最初のインフィニティープールは、ベルサイユ宮殿の噴水と言われ、現代建築における最初のインフィニティープールは、アメリカ人建築家のジョン・ロートナーが設計したレイナー・バーチル邸と書かれています。
「シルバートップ」の愛称で知られるロサンゼルスに建てられたレイナー・バーチル邸に作られたインフィニティープールは、1971年に公開された映画『007ダイヤモンドは永遠に』でも撮影されたと記載されていたため、実際に映画を観てみました。
映画の後半30分頃に敵役ホワイトの別荘としてシルバートップが登場し、インフィニティープールでのバトルシーンもあり、プールを映画で観ることができます。
以下の参考に、シルバートップの写真が見られるサイトのリンクを貼っておきました。
シルバートップはロサンゼルスで知られた邸宅のようです。
参考)
Wikipedia:Infinity Pool
houzz:Silvertop
LUXATIC:Silvertop, One of L.A.’s Most Iconic Houses, On the Market for $7.5 Million
Wikipedia:John Lautner
ホテルにいち早く導入したジェフリーバワ
インフィニティープールが映し出された映画の公開から8年後、ジェフリーバワは設計を依頼されたホテルに、ジェフリーバワにとって初めてとなるインフィニティープールを設計します。
それが、1979〜1981年に建設されたトライトンホテル(現 ヘリタンスアフンガッラ)です。
デイヴィット・ロブソン著『ジェフリー・バワ全仕事』には、1985年にダッカで行われたバワの講演での発言が引用されています。
「すべてが同じ高さにある。もしも世界が平地だけだったら、地平線にアフリカが見える。」
ヘリタンスアフンガッラのプールの水面と砂浜はプールに入ると、同じ高さになり、海と空とつながるように設計されています。
現代建築初のインフィニティープールがあるレイナー・バーチル邸は、ハリウッドの東にあるシルバーレイクの西側の丘の上に建ち、海辺にはありません。
ジェフリーバワ初の、そしてスリランカ初のこのインフィニティープールは、個人の邸宅ではなくホテルに取り入れたことと、ビーチの高さに合わせたことで、海・水平線・空とプールの水面をつなげたことが画期的だったのではないかと思います。
世界に広めたアマンリゾート
インフィニティープールを世界に広めたのは、アマンリゾートだと思います。
ジェフリーバワがインフィニティープールを導入したトライトンホテルが開業した7年後(1988年)、アマンリゾートが最初のリゾート「アマンプリ」をプーケット島に開業します。
アマンプリのインフィニティープールはプールの底が黒いことから「ブラックプール」とも呼ばれます。
1989年、アマンリゾートはバリ島に「アマンダリ」を開業しますが、そのインフィニティープールも目をひく設計で話題となります。
参考)
アマンリゾート公式サイト:アマンプリ
アマンリゾート公式サイト:アマンダリ
アマンリゾートとジェフリーバワの関係
2001年、ジェフリーバワがアーガー・ハーン建築賞の審査委員長を受賞したことで、ジェフリーバワの建築が世界から再発見されます。
その再発見の過程で、アマンリゾートとジェフリーバワの関係が噂されるようになります。
エイドリアン・ゼッカとジェフリー・バワの間接的な繋がり
ジェフリーバワの兄ベイヴィス・バワの邸宅に長年暮らしたオーストラリアのアーティスト「ドナルド・フレンド」は、セイロン島の次に、バリ島に向かいます。
ドナルド・フレンドは、バリ島のサヌールに計画されていた「バトゥジンバール・パヴィリオンズ」の設計者の一人にジェフリー・バワを推します。
そうして、1972-1975年にバリ島に建設されたのがバトゥジンバール・パヴィリオンズです。
複数のパヴィリオンで構成されたバトゥジンバール・パヴィリオンズのうち、ジェフリーバワが設計したパヴィリオンを後に、アマンリゾートを創業するエイドリアン・ゼッカが購入します。
エイドリアン・ゼッカとジェフリーバワは直接あっていないそうですが、これがジェフリーバワがアマンリゾートの原点、あるいはアジアンリゾートの源流などと言われる元になっているようです。
バトゥジンバールにはついては、『アマン伝説 創業者エイドリアン・ゼッカとリゾート革命 』に詳しく書かれています。
アマン伝説の最初の章は、ジェフリーバワとベヴィスバワについて書かれていますので、ジェフリーバワ好きな方にもオススメの本です。
また、『Geoffery Bawa The Compelte Works』にもバトゥジンバールについて掲載されています。
参考)
ピーター・ミュラーとジェフリー・バワの間接的な繋がり
バリ島でセレブレティーが集まったリゾート「タンジュンサリ」のオーナー「ウィヤ・ワォルントゥ」とドナルド・フレンドは、サヌールに新たなリゾート「マタハリ」を計画します。
ドナルド・フレンドが設計者として声をかけたのが、後にアマンリゾートの設計を手掛けるピーター・ミュラーでした。
ピーター・ミュラーはドナルド・フレンドの誘いでバリ島入りしますが、新たなリゾート「マタハリ」は実現しませんでした。
『Geoffery Bawa The Compelte Works』には、アマンダリについても書かれています。
また、『アマン伝説 創業者エイドリアン・ゼッカとリゾート革命 』には、ウィヤ・ワォルントゥのことも詳しく書かれています。
サヌールにある「Villa Batujimbar」、「タンジュン・サリ・ホテル」、「ハイアット リージェンシー バリ」をマイマップにまとめました。
参考)
FAUST Adventures Guide:バリの神秘を体現するリゾートと熱帯に恋した建築家アマンダリ/ウブド・バリ島 Amandari Ubdo, Bali
ケリー・ヒルとジェフリー・バワの間接的な関係
ウィヤ・ワォルントゥとドナルド・フレンドがバリ島のサヌールで計画していたマハタリは実現しませんでしたが、その計画地とコンセプトは「バリ・ハイアット」として形になります。
このバリ・ハイアットの現場建築家として活躍したのが、同じく後にアマンリゾートの設計を手掛けるケリー・ヒルです。
アマンリゾートは、2005年にゴールフォート内にアマンガッラを、タンガッラ郊外にアマンウェッラを開業していますが、アマンガッラの改装をしたのと、アマンウェッラを設計したのはケリー・ヒルです。
2019年にアマンウェッラを訪問した際に、ジェネラル・マネージャーから聞いた話では、「ロッジアはジェフリーバワの建築を取り入れてケリー・ヒルが設計した」とのことでした。
まとめ
インフィニティープールの生みの親はアメリカ人建築家のジョン・ロートナーのようですが、ホテルのメインプールに導入したジェフリー・バワの存在は大きかったでしょう。
また、インフィニティープールの知名度を上げたアマンリゾートの関係者(創業者エイドリアン・ゼッカ、建築家ピーター・ミュラー、建築家ケリー・ヒル)ともジェフリー・バワは間接的につながり、影響を与えたと噂されています。
アマンリゾートの宿泊費は高額ですが、ジェフリー・バワが設計したスリランカのホテルはリーズナブルに泊まることができます。
インフィニティープールの元祖でないとしても、プールをはじめ、周囲の自然に溶け込むバワ建築の魅力は変わりません。
スリランカにお越しの際は、是非、ジェフリー・バワ建築を堪能していただけたらと思います。
「旅と町歩き」を仕事にするためスリランカへ。
地図・語源・歴史・建築・旅が好き。
1982年7月、東京都世田谷区生まれ。
2005年3月、法政大学社会学部社会学科を卒業。
2005年4月、就活支援会社に入社。
2015年6月、新卒採用支援事業部長、国際事業開発部長などを経験して就職支援会社を退社。
2015年7月、公益財団法人にて東南アジア研修を担当。
2016年7月、初めてスリランカに渡航し、会社の登記を開始。
2016年12月、スリランカでの研修受け入れを開始。
2017年2月、スリランカ情報誌「スパイスアップ・スリランカ」創刊。
2018年1月、スリランカ情報サイト「スパイスアップ」開設。
2019年11月、日本人宿「スパイスアップ・ゲストハウス」開始。
2020年8月、不定期配信の「スパイスアップ・ニュースレター」創刊。
2023年11月、サービスアパートメント「スパイスアップ・レジデンス」開始。
2024年7月、スリランカ商品のネットショップ「スパイスアップ・ランカ」開設。
渡航国:台湾、韓国、中国、ベトナム、フィリピン、ブルネイ、インドネシア、シンガポール、マレーシア、カンボジア、タイ、ミャンマー、インド、スリランカ、モルディブ、アラブ首長国連邦、エジプト、ケニア、タンザニア、ウガンダ、フランス、イギリス、アメリカ
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