Spice Up 観光情報サイト スリランカ観光・情報サイト

日本の知識×現地の伝統。坂本新さんがスリランカの若者と二つの知恵をつないで進める『新しい農業』

2026年9月14日

インド洋に浮かぶ豊かな自然と温かな人々に恵まれた島国、スリランカ。その南部・ハンバントタ県エラミニヤヤ(Eraminiyaya)には、未来の技術や芸術を学ぶ若い世代が集い、活気にあふれる農業訓練施設があります。

独立行政法人国際協力機構(JICA)の海外協力隊として派遣された坂本新さんは、「食用作物・稲作栽培」の職種で活動しています。日本の大学院で培った知識と、スリランカに古くから伝わる伝統の知恵。異なる二つの知恵を丁寧につなぎ合わせながら、生徒たちと目線を合わせて歩む日々を送っています。

「こんにちは!」

坂本さんの姿を見つけた生徒たちから、爽やかな日本語の挨拶が飛び交います。異国の地で新しい農業のかたちを探る坂本さんの挑戦は、まだ始まったばかり。とある日、そんな坂本さんの日常を取材させていただきました。

NYSCとは?

坂本さんが配属されているNational Youth Services Council(NYSC:全国青年活動評議会)は、一体どのような場所なのでしょうか。

若者の夢や技術を育む「NYSC」の役割

NYSCは、スリランカの青少年の育成と職能開発を目的に設置された政府機関です。日本で例えるなら、「全国的な国立の職業訓練学校 兼 青年センター」のような役割を果たしています。主に15歳から29歳までの若者を対象に、将来の就職や起業で役立つ実践的なスキル、言語、芸術などの幅広い教育プログラムを提供しています。

坂本さんが活動する「エラミニヤヤ校(Aesthetic Academy)」

ハンバントタのエラミニヤヤにある訓練校は、約80エーカー(東京ドーム約7個分)という非常に広大な敷地を誇る施設です。敷地内には緑豊かな田んぼやさまざまな野菜を育てる農地が広がっています。

ここには主に以下の4つの専門コースが開設されています。

  • 農業コース
  • 農業機械コース
  • キャンディアンダンスコース(スリランカの伝統的な踊り)
  • 音楽コース

施設全体では約50名の生徒が在籍し、1年半という期間をかけてじっくりと専門技能を磨いています。坂本さんが担当する「農業」および「農業機械」コースには、4〜5名の先生と多くの学生が所属しています。

4つのコースのうち、音楽コースはスリランカ全国でも本部のマハラガマ校とこの施設の2箇所にしか設置されていない貴重な学科です。スリランカで著名な盲目の先生の指導のもと、生徒たちはシンハラ文化やタミル文化に伝わる伝統舞踊・音楽を学んでいます。

生徒も先生も全員が敷地内の寮で生活を共にしており、まさにひとつの大きな家族のような雰囲気の中で日々を過ごしています。

農業コースの教室。ここで坂本さんも授業を行っています。

大学院での学びを胸に、世界へ飛び出す

JICA海外協力隊員・坂本 新さん

東京農業大学 大学院で農業について専門的に学んでいた坂本さん。以前から「学びを通じて世界の人々の役に立ちたい」と、国際協力やJICAの活動に関心を持っていました。

大学院での研究を進めるなかでJICA海外協力隊の募集要項を目にし、自分の修めてきた農業の知識や情熱をそのままダイレクトに現場で活かせる要請があることを知ります。

「自分が大学院で育んできた知識や技術で、世界の課題解決に貢献できるかもしれない」その思いが大きな原動力となり、大学院を休学し24歳という若さでスリランカへ飛び込む決意を固めました。配属先となったハンバントタは、農業が盛んなことで知られる地域であり、スリランカの農業を支える大切な拠点のひとつです。

ふたつの知恵をつなぐ農業の工夫

実際にハンバントタの畑に立ってみると、そこには、日本の知識とスリランカの伝統的なやり方との間に、興味深い違いがありました。

この道の先に、生徒たちが実習を行う広大な畑があります。

助け合いの文化に、新しい技術を

日本の農業では大型機械を活用した効率化が進んでいますが、スリランカでは硬く締まった土を、人々が手作業で丁寧に耕していくスタイルが根強く残っています。作業のときには近所の人々や仲間同士で声を掛け合い、大勢で助け合いながらひとつの畑を作り上げていきます。

「機械化も少しずつ始まっていますが、スリランカには地域のみんなで集まって協力し合う温かい助け合いの文化があります。一方で、学校では、作業の負担を軽減してより快適に作業できるよう、日本製のトラクターのエンジンの仕組みを伝えるなど、機械についての基礎的な学びも取り入れています」

「スマート農業」と「オーガニック」への挑戦

現在、世界的に「スマート農業(ドローンや自動給水システム、ICT技術などを活用して、環境に優しく効率的に作物を育てる次世代の農業スタイル)」や、農薬を抑えたオーガニック栽培への注目が高まっています。スリランカでも、働く人々の健康を守り、豊かな土地を未来へ残すための取り組みが少しずつ進められています。

坂本さんは、現地で長年受け継がれてきた伝統的な農法を尊重しながらも、より高品質で安全な野菜を育てるため、日本の知識が現地でどこまで活かせるかを一つひとつ試しています。

手探りのなかで育む「新しい農業」と「日本の知恵」

坂本さんが進めている取り組みは多岐にわたります。何もなかった土地を耕すところからスタートし、5月から少しずつ新しい畑づくりを進めてきました。

畝(うね)づくりとマルチシートで栽培を工夫

スリランカの伝統的な農法では、平らな土地をそのまま耕して種を植えるのが一般的です。そこに坂本さんは、日本でおなじみの「畝(うね:土を盛り上げて作る山のこと)」を使った作付けを試験的に取り入れています。高く畝を作ることで土の間に溝ができ、雨が降っても水はけが良くなるといいます。さらに黒いマルチシートで畝を覆うことで、土の温度が保たれて作物の成長が促されるほか、雑草や病害虫を抑える効果もあり、品質の安定にもつながります。加えて、定期的に水が行き届く自動給水システムも整えています。

「スリランカのそのまま耕す方法と、日本式の畝を作る方法。どちらが正解ということではなく、『どうすればもっと作物を作りやすくなるか』を生徒と一緒に比較しながら、二つの知恵を合わせて試行錯誤するのを楽しんでいます」

試行錯誤中の畑

環境に優しい「高倉式コンポスト」

スリランカにも、生ゴミや農業廃棄物を微生物の力で分解して作る伝統的なコンポストがあります。坂本さんは、日本発祥の「高倉式コンポスト」や「ぼかしコンポスト」を、この学校の農業の授業や畑での実践にも取り入れています。

「コンポスト作りで一番大事なのは温度管理なんです」と語る坂本さん。目安は25〜30度。年間を通して温暖なスリランカの気候は、実はこの微生物たちにとって好条件がそろっているといいます。温度と湿度のちょっとしたコツさえつかめば、身近にある材料から質の高い有機肥料を作れるのだと生徒たちに伝えています。

日本語と文化の授業

坂本さんが伝えているのは、農業の技術だけではありません。
生徒たちの将来の選択肢や視野を広げるきっかけになればと、日本語や日本文化を伝える時間も大切にしています。

「こんにちは!」といった挨拶から、ひなまつりや桜など四季折々の行事まで、写真を見せながら紹介しています。仏教文化に親しみのあるスリランカの人々は、もともと日本への関心が高く、生徒たちも「もっと知りたい」と意欲的に学んでいます。

生徒たちが見せてくれた、日本語の勉強ノート

同じ屋根の下で過ごす日々

朝9時から夕方18時までの密度の濃いスケジュールのなかで、坂本さんは生徒や先生たちとすっかり打ち解け合っています。

4月には、日本の正月にあたるスリランカの新年のお祝いがあり、坂本さんも生徒の家族に招かれ、お寺へ一緒に参拝したり、ご飯を囲んだりしたといいます。

「どうすれば自分の伝えたい思いや技術が伝わるのか、日々手探りの連続です。でもまずは、現地の文化やみんなの考え方を尊重し、同じ流れに乗ってみる。その姿勢を何より大切にしています」

坂本隊員の挑戦は始まったばかり

24歳の若きJICA海外協力隊、坂本新さんが描く未来への思い。それは、農業という枠組みを超えた広がりを持っています。

「生徒たちには、農業の技術を学ぶだけでなく、日本語や新しい文化に触れた経験を通じて、自分の将来の夢や可能性をどんどん広げていってほしいと思っています」

土を耕し、種をまき、時間をかけて育てていく農業と同じように、坂本さんとハンバントタの生徒たちが育んでいる絆もまた、少しずつ形になっていくのかもしれません。

日本の知識と現地の伝統をつなぐ坂本さんの挑戦は、まだ始まったばかりです。

トラクターに取り付けられた農業用トレーラー。
荷台は生徒たちが製作したものです。
キャンディアンダンスコースにて。
どのコースに行っても「先生!」と声をかけられる、人気者の坂本さん。
スリランカの農業を支える稲作。
温暖な気候のため、年に2回お米を収穫することができます。
2026.07 ハンバントタにて

あわせて読みたい

# 関連キーワード