【Global Japanコラム6】熱帯の島の「分割統制」について考えてみた

あとのまつり
ラウンジのコーヒーが美味しいシナモン・レイクサイドホテルの目と鼻の先にある内国歳入庁(IRD)のそばを通ると、ほろ苦い記憶がよみがえります。数年前、同庁よりある日系の会社に対して発行された「過年度の法人税計算における損金算入却下」の通知書にかかる尋問のために、会社の代理人として大手監査法人の会計士1名が赴きました。この会計士、同庁担当官との過去資料の突合せ等を一切行うことなく、通知額の70%分をバッサリと損金不算入にしてかまわないとする合意書に、会社へのことわりなしですんなり代理署名をしてしまいました。それが後日同庁から来た通知により判明したものだからもう大変、急遽、我々が同庁に赴くも、あとのまつり、裁定は覆りませんでした。
この時は、内輪で(監査人は内輪じゃないのに。。)勝手に話を決められたとの不信感を大いに募らせ、当然この会社は、同大手監査法人との監査契約を解消しました。こちらは外国人ですから、目の届かないところで、仲間内で(注:繰り返すが仲間であってはならない)処理されてしまっては、非常に困るのです。
海峡を越えて
時の宗主国 大英帝国は、セイロン(現スリランカ)の植民地支配時代に、少数民族であるタミル人を行政府の官吏に重用し、その結果、民間においてもそのセイロン国内の卸売業の約90%、小売業の約40%が、国内およびインド国籍のタミル人によって牛耳られていました。これは、大英帝国が植民地支配時にあらゆる国で行った分割統治というやり方で、不満の矛先が為政者へ向けられないように、民族同士(多数派シンハラ人とその他の少数派)の敵愾心、敵対関係をあえて維持させていたのです。
2023年7月の両国首脳の声明を受け、実に約40年ぶりとなるスリランカ・インド間の旅客航海の再開を目的として開かれた二国合同推進委員会では、今年中の航行開始をその共通認識としました。19世紀後半はコロンボ港とタミルナドゥ州(南インド)のトゥティコリン港との間のポーク海峡の荒れ狂う波の中を約22時間費やしての旅客輸送、1915年からはいわゆる海峡鉄道、正確にの二国間の約24kmの海峡間を蒸気船が連絡し、両国側の桟橋で待機する列車がそれぞれコロンボおよおびマドラス(現在のチェンナイ)へ向けて走行する実質的な直通列車が存在していました。前述した、タミル人による官民における勢力拡大も、二国間の旅客輸送がその大きな役割を担っていました。今年中にも、スリランカ北部地域で国をまたいだ人の往来、交易が再開すれば、現在の民族間の国内力学にも影響していくかもしれません。
リーダーシップは不可欠
会社組織において、あるいは専門家を雇う場合においても、徒党を組んで会社に不利益な行為を働くような事態を避けるために、適材適所、様々な民族を配置することで、内部統制を図る手段があります。
例えば、南アジアに複数拠点を置く、あるいは拠点拡大を考えている企業にとっては、シンハラ人系の現地監査法人よりも、タミル人系の国際監査法人を使った方が、そのネットワークを利用しやすいでしょうし、国内では少数派なので、良くも悪くも国内省庁と蜜月関係になる可能性は低いと思われます。また、通関業務の専門職を組織内に置く場合、筆者の経験上、輸出入事業に長けているとされるイスラム系の人材であれば、そのコミュニティー内の知見を活用でき、さらに往々にして、他民族の同僚に監視される傾向にあるため、役人との癒着などを防ぐことができます。
ただ、勢力のバランスには常に気を配っておく必要があり、以前筆者が紅茶プランテーションのど真ん中で水力発電プロジェクトに従事していた時は、その地域がタミル人有力政治家によって治められていたこともあり、人事部長にタミル人を据え、高給取りのシンハラ人エンジニアから現場作業員にいたるまで、その採用と解雇についての大きな権限を与えていました。しかし結局、社内多数派の力学に押しつぶされるかたちで、彼が行ったとされる背反行為について糾弾され、その真偽は不明瞭なまま解雇同然でプロジェクトを去っていきました。
外国人かつ経営する立場である日本人が力学的均衡を真剣に考え、リーダーシップを発揮することができれば、民族の多様性をうまく利用した「分割型」の内部統制が実現すると考えています。
(つづく)

執筆者:吉盛 真一郎
慶応義塾大学経済学部卒。日本・香港・スリランカ・インドにて、日系企業の経理・財務・総務業務に約14年従事。スリランカでは、ODAプロジェクトにおける山奥での現場経験や、当時のCSR業務から派生したソーシャルビジネスの起業実績もあり、経営者としてスリランカ法人の管理業務の実績を数多く積んでいる。
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