スリランカ唯一の日系会計事務所を経営する田中啓介さんにインタビュー!
スリランカで事業を展開する日本人起業家、経営者へのインタビュー第11弾。
今回はチェンナイを本拠地に、バンガロール、ハイデラバードと南インドの三都市で事業を展開し、スリランカにも進出した日系会計事務所でもあるGlobal Japan Lankaを経営する田中啓介さんにお話をお伺いしました。
※インタビュー日は2020年5月16日です。
目次
田中啓介さんのプロフィール
・Global Japan AAP Consulting Private Limited(インド法人)Founder & Managing Director
・Global Japan Lanka Consulting (Pvt) Ltd(スリランカ法人)Founder & Managing Director
・インド在住8年
京都工芸繊維大学工芸学部造形工学科に在学中に合計2年間休学し、オーストラリアへ1年間語学留学。その後、英語を活かした資格を取るべく1年間米国公認会計士の勉強を開始する。新卒で大阪の税理士事務所へ就職した後、米国系企業の経理部門へ転職。同僚はインド人、中国人、台湾人、マレーシア 人と多国籍な環境の中、インドの人たちは癖のある発音と文法的にも間違っている英語でも堂々と話しているのを見てインドに興味を持つ。退職して、HIDA(現AOTS:一般財団法人海外産業人材育成協会)のインターンシッププログラムに参加し、チェンナイの会計事務所で働く。インターン先の会社で現地採用として働いた後、チェンナイで独立、会計事務所を設立して現在に至る。
チェンナイでのロックダウン
Q「現在のチェンナイの状況を教えてください。」
3月25日からインドで初めてのロックダウンが3週間はじまりました。
ロックダウン1.0は食料品など最低限の買い物のみが許される厳しいロックダウンでした。
その後、2週間ごとにロックダウンは延長され、ロックダウン2.0、ロックダウン3.0とその時の状況に応じてロックダウンの内容が変わってきています。
ロックダウン1.0に入る前に、モディ 首相からみんなで医療関係者に感謝を込めて拍手や鈴を鳴らしましょう!という呼び掛けがあり、1日だけ外に出ないロックダウンをやってみましょう!という動きがありました。
本格的にロックダウンを始める前にその準備を意図的に政府がやったのかは分かりませんが、あれはうまいやり方だなと思いました。
インドは広大な国土で多宗教多人種、所得層も様々な人たちが住んでいますので、まとめるのはとても大変なはずです。
インドは州ごとに感染者の数に大きな違いがあり、レッドゾーン、オレンジゾーン、グリーンゾーンなど区分けをして対応しています。
チェンナイは感染者数がどんどんと増えているのでまだ緩和は難しそうです。
1,000人ほどいたチェンナイ在住の日本人の多くが帰国し、現在は200人もいない状態です。
ロックダウンの事業への影響
Q.ロックダウンが始まり、事業上の対応はどのようにされたのですか?
ロックダウンが始まったのが、3月末で年度末の決算が始まる直前でした。
ロックダウンが延長されることが予想されましたので、実地棚卸なども含めて、お客様には決算の処理が遅れることが予想される旨を連絡しました。
従業員については、全員がラップトップを持っていて、データはクラウドで共有しており、メールやSlack、Zoomなどでコミュニケーションができる環境にはなっていましたので、そこまで大きな支障はありませんでした。
一方で、お客様との対応は企業様ごとに状況が異なりますので、個別に対応しています。
電子上でサインできるようにしていただいたり、原本で請求書をお送りいただいていたものをスキャンデータにしていただいたり、状況に応じてどうやって決算を締めようかと取り組んでいるところです。
駐在員が日本に帰国してしまい、インド人従業員も出社できず、経理作業が一切できないお客様もいらっしゃいます。
情報が入手できないものは仕方ないので、可能な限り精度の高い見込み数字で処理しないと決算が締められない状況もあります。
どこまで概算で対応するかなどを個別にご相談しているところです。
コロナの影響で始めた新たな試み
Q「今、新たに取り組まれていることはありますか?」
オンライン化の強化に取り組んでいます。
これまでは、現地に出張で視察に来た方が金融機関や共通の知り合いを通じて弊社のことを知り、事務所までお越しくださることがほとんどでした。
ただ、現在は簡単に現地には来れません。
オンラインで情報を発信して、弊社を知っていただくための工夫をしていかなければいけないと思っています。
「週刊インドトピックス」と名付けて、インドのビジネス情報の発信を始めました。
また、「スタートアップのインド戦略を学ぶ」という月刊コラムや「最新のインド税務アップデート」、「インドの“今”を知る Indian Market Insight」などの定期配信コラムも7月からスタートします。
Q.週刊インドトピックスはとても勉強になるので読んでいます。田中さんの個人ブログはもう更新していないのですか?インド人は足し算は得意だが引き算が苦手という記事がとても面白かったんですが。
「INDIA GO!」ですね。インドに来たばかりの頃は、「インド面白すぎる!」「インドはネタの宝庫!!」だと思い、毎日のように発信していました。
ところが1年ほどすると、インドに慣れてしまい、あれだけ刺激的だったことが当たり前になってしまったんです(笑)。
そのうち更新頻度が下がり、今は年に数回更新する程度です。また頑張って更新しないといけないですね。
Q.田中さんはプログラミングも学ばれていましたよね?
元々このまま会計の仕事だけをしていてはいけないという危機感がありました。
まだ数年は事業を拡大できると思っていましたが、将来的にAIなどに置き換わっていく部分もあると考えています。
会社を経営しながらですが、思い切ってスクールに通い、プログラミングを学んでいます。
まだシステムエンジニアの見習いみたいなものなのですが、今まさに社内の業務システムを自社開発しているところで、今後はRPA(ロボティック・プロセス・オートメーション)の導入にも取り組んでいきます。
インドでビジネスをする大変さ
Q.インドで仕事する上で大変なことはありますか?
期日や約束が守られないことが多いですね。
例えば、家の配線や水道管の修理の依頼をすると、「今日行く」というもの実際にくるのは2週間後ということがあり、ようやく来たものの、別のところをいじくっていて、一向に直らないことがよくあります。
Q.それはスリランカも全く同じですね。インドならでは言うと衛生面の問題でしょうか?
そうですね。インドと比べると、スリランカは綺麗ですよね。
それと、チェンナイでは洪水が年一回あるのが大変です。
そして、よく停電もします。ただ、停電は改善されてきていて、以前は冷蔵庫の中身がダメになってしまうことがありましたが、今の停電は時間が短いですので、冷蔵庫の中身が腐ってしまう心配は減りました。
あと、コロンボと違って、息抜きができる場所があまりありません。
コロンボは海沿いにおしゃれなバーやレストランがありますが、チェンナイの海は綺麗ではなくゆっくりできる場所があまりありません。
Q.北インドでは空気が汚いという話をよく聞きますが、チェンナイはどうですか?
チェンナイの空気は比較的きれいだと思います。
北インドから来た人はみんな空が青いと感動されるようです。
スリランカに進出した理由
Q.スリランカに進出した理由を教えてください。
スリランカはインドと比べて生活がしやすく、日本人にとってギャップやハードルの高さがないと思います。
スリランカは国としての市場は大きくはありませんが、その分、中小企業の経営者にとってはマーケットがそれなりにあり、リゾート感もあって、進出しやすい場所なのではないかと思います。
インドには20〜30の日系会計事務所があり、チェンナイだけでも5〜6社ありますが、スリランカにはまだ1社もありませんでした。将来性が見込めるスリランカという市場に早く進出しておこうと思ったのです。
不真面目な理由もありまして、スリランカの蟹は絶品です。
そして、インドにはない、美味しい中華料理屋さんがあります。
今度の週末にスリランカに行けないかな〜と考えてしまうオアシスみたい場所がスリランカです。
ベントタのビーチリゾートや海沿いの列車はインドではなかなかできない体験です。
インドは刺激的なんですが、疲れますね 笑。
会社を作れば仕事を理由にスリランカに行くきっかけができるなとも思いました。
スリランカとインドの違い
Q. 仕事面ではインドとスリランカの違いはありますか?
日本から進出してくる企業の規模が違いますね。
インドに進出する日系企業は大きなところが多いです。
そのため、進出する前にお金をかけて市場調査をして、時間をかけて色んな人に話を聞いて、丁寧に進出準備をしていることが多いです。
他の国で経験を積んだタフな環境でやっていける方、英語が堪能な方をインドの担当者として送り出している会社が多いように思います。
一方で、スリランカに進出している企業の規模は小さめで、個人レベルの方も多いように思います。
自分で意思決定ができるため、出会ったスリランカ人に任せて、その人が良い人だったらうまくいっていますが、そうでなかった場合に問題になっているケースが多いように感じています。
この違いから、インドの日系企業が日系会計事務所に求められていることと、スリランカの日系企業が日系会計事務所に求めていることは異なってくると思っています。
Q.インド人とスリランカ人の違いは何か感じますか?
まだ多くのスリランカ人と仕事をしたわけではありませんが、スリランカ人の男性はとても温厚で優しい印象ですが、インド人と比べると仕事へのコミットメントがあまり感じられないような印象を持っています。
私が仕事を一緒にしたい人はインド人もスリランカ人も同じタイプで、素直で謙虚で信頼できる人です。
そういう人は両国にいますが、本人が自分の人材価値に気付いていない、そして、それ相応の待遇を得ていないことが結構あります。
誠実に仕事をする人と会社を育てていきたいと思っています。
Global Japanの特徴
Q.Global Japanの特徴について教えてください。
お客様のニーズにひとつひとつ丁寧にお応えできることです。
先ほどお話したようにインドとスリランカでは求めらているものが違うように思います。
スリランカに住んで事業を展開する場合は必要ないかもしれませんが、出張ベースでスリランカと日本、あるいは他の国と行き来して仕事をする投資家、経営者の方にはサポートできることがあると思っています。
海外在住経験が長く英語ができる会計士としてコミュニケーションをサポートするということは必要とされているのではないかと思います。
それに加えて、コンプライアンスの順守、毎月の業績報告、税金対応など付加価値としてできることもありますが、インドに比べると、スリランカはそこまで厳しくありませんので、やはりコミュニケーションの部分にサポートに重きを置いていく方針です。
実際にご支援している案件では、受発注や状況確認、売上の回収がスムーズにいかないのでサポートしてほしいというものが多いです。
共通する部分もありますが、インドでは問題にならないことがスリランカでは問題になっていることもあるように感じます。
Q.日本では当たり前のことを当たり前に遂行することがインドでもスリランカでも難しいと思います。その価値はインドやスリランカに住んでいる身からするとものすごく感じますが、それを日本に住んでいる人に感じてもらうのは難しくありませんか?
そこは大切なポイントだと思っています。
ご相談にお越しになる方の中には海外での経験値がそこまでない方はいらっしゃいまして、期待値が高すぎたりすると、それは会話するだけでも分かります。
相見積もりと比較をされた上でもう少し値下げしてもらえないか?と交渉されることもありますが、リスクや問題は実際に経験してみないと分からないものです。
値下げに応じられない場合であっても、その後、改めてお問い合わせが来てご支援に至ることがあります。
安請け合いはしてはいけないとは思っていますが、お客様から勉強させていただくことも多々ありますので、そのバランスは難しいですね。
今後について
Q.今後のスリランカでの展開について教えてください。
スリランカにはまだ常駐のスタッフがいません。
一緒に働きたいと思えるスリランカ人をじっくりと探していくことが、まず必要です。
私は最初の5人が会社の文化を作ると思っています。チェンナイオフィスもバンガロールオフィスもそのように丁寧に作ってきました。
採用までのプロセスはかなり時間をかけています。
また、採用後も半年間は試用期間中しっかりレビューを行い、インド人のマネージャーからもフィードバックをしてもらっています。
半年間働いてもらったものの、辞めていただくこともあります。
インドでは自信家で「自分は何でもできる」という人が結構います。
弊社は日本企業様がお客様ですので、自信過剰で一方的に話し続ける人ではうまく仕事が回りません。
正直で謙虚で相手の話を聞ける人が必要です。
そういう人はインドにもスリランカにもたくさんいるわけではありませんが確実にいます。
弊社は急成長をしたいわけではなく、大きな企業を目指しているわけでもありませんので、価値観の合う人材をじっくりと時間をかけて見つけて、一緒に身の丈にあった会社を育てていくことを大切にしたいと思っています。
一緒に食事をしたり、社員旅行に行ったり、仕事以外でもコミュニケーションをする機会を作っています。
幸いにも会計は万国共通で、TallyというERP会計システムはインドでもスリランカでも使われています。
あとはそれぞれの特徴を活かしながら、お互いに交流・補完できる関係が作れたらいいなと思っています。
同じ南インドとはいえ、チェンナイとバンガロールでさえ文化が異なります。
それぞれが変に対立しないように、交流できるようにしています。
まだスリランカでの経験値はそこまでありませんし、変に背伸びはせずに、今、私たちができることを伝えて、お力になれることを増やしていければと思っています。
【お知らせ】インドの日本人起業家によるビジネストーク
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