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悪いのは人ではなく「仕組み」~ナチュラルコーヒー吉盛真一郎さんの挑戦~

2025年10月04日

スリランカ観光で多くの人が訪れる世界遺産都市キャンディ。その中心地には吉盛真一郎さんが経営している、カフェ「ナチュラルコーヒー(Natural Coffee)」があります。
今回は、吉盛さんにコロナを乗り越えた秘訣、スリランカでの雇用の難しさ、そして日本とスリランカを繋ぐ取り組みについて伺いました!

プロフィール・前回記事の紹介

吉盛真一郎(よしもり・しんいちろう)さん

慶応義塾大学卒業後、大手建設会社に勤務。スリランカ赴任を機に、幻のセイロンコーヒー復興に挑戦し、2013年にキャンディで「ナチュラルコーヒー」を開業。現在は株式会社「環のもり」などの代表としても活躍し、コーヒー農家支援や女性雇用創出、現地文化と日本をつなぐ活動を展開している。

前回の記事では、ナチュラルコーヒーを始めた経緯や女性雇用の創出について語っていただきました。

セイロンコーヒーで女性の雇用を!カフェ「ナチュラルコーヒー(Natural Coffee)」代表、吉盛真一郎さんインタビュー | スリランカ観光情報サイト Spice Up(スパイスアップ)

コロナ禍を乗り越えた秘訣

世界的に大きな影響を与えたコロナ禍。スリランカでも厳しいロックダウンが続きましたが、吉盛さんは従業員の生活を守るため、店を再開。従業員の給料は2万5千ルピー~8万ルピー。たとえお客が来なくてもスタッフの給与は発生します。そのため、まずは宣伝活動に力を入れ、InstagramやYouTube、Facebookを活用し広報を行いました。

このような苦境の中でも諦めなかったのは、今までの苦労の経験があったからでした。

かつてはコーヒーショップが珍しかったキャンディ。しかし、その後周りでブームが発生し、次々とライバル店が登場。店の隣や前にまで同業者が出現したことも。しかし、規模が小さいながらもスタッフの質と忍耐力には自信があったナチュラルコーヒー。他の店が少しずつ潰れていき、ほとんどのコーヒーショップが退去した中、根気強く残りました。

さらには、2018年の宗教間抗争、2019年には同時多発テロの発生。その後に起こったコロナの流行。度重なる混乱に吉盛さんは言います。「正直“またか”と思いました。ただ、困難が続く中で打たれ強くなっていた自分がいました。なので、コロナで何かを諦めようとは思いませんでした。」

このコーヒーショップのブームは今も再び発生しているようです。しかし、直接生産組合から豆を仕入れ、店内で焙煎するなど、品質にも徹底的にこだわっているお店はここしかありません。現在は、自分たちの強みで他と差別化し、その発信に力を入れています。

スリランカ人雇用の難しさ

大事なのは「仕組み」

ナチュラルコーヒーでは従業員が全て女性。スリランカでは外で働いている人はほとんど男性で「女性が接客業を行う」ことは一般的ではありません。また、ここは日本ではなく、スリランカ。やはり文化の差の問題が生じます。
まず、従業員が定着せず、2日で辞める人もいました。また、他店の人がスパイ要員として送り込まれていたことや、コーヒー豆を盗む人もいました。 その度に吉盛さんは「人が悪いというより、仕組みが悪い」と考えるようにしていました。そのため、何か問題が起こった際はその仕組みを変え、時間が経つとまた開拓、というのを諦めずに繰り返してきました。

事例を1つ挙げます。

夜中、店の水道工事を行っている際、コーヒー豆が盗まれる事件が発生しました。
セキュリティの人は配置していましたが、その人も結託して、結果盗みが行われました。

この時も、もちろん人が悪い部分もありますが、吉盛さんは仕組みの方に目を向けます。「誰を配置すれば良かったのか、コーヒーの豆の量も毎日厳密に管理していればすぐに盗みに気付けた」と話します。「結局は仕組みが甘いから、人が悪くなってしまう。だから、我々が悪いんだ、と自分への戒めとしている。」と話してくれました。

「細かいやつだと思われている」

より良い仕組み構築のため、従業員との議論は日常茶飯事。毎日けんかのように従業員と口論しています。

「焼きそばの人参のサイズが違う」「オーブンで温める秒数が違う」「コーヒーのグラムが違う」
この吉盛さんの主張にスリランカ人の女性たちは、
「レシピにはそんな細かく書いていない」と反論。確かにレシピには曖昧に書かれていました。そこで、レシピに「2cm」と付け足す。そんなことを繰り返しています。スリランカでは料理の仕上がりが日によって違うことが多くあります。しかし、お店をやる上でグラム単位での作業は非常に重要です。そのため、細かい議論が多くなり、「細かいやつだ、と思われていると思う。」と話していました。

スリランカの何でも屋

カフェ事業と同時に行っているのが「環のもり」と「環のじゅく」。

「環のじゅく」は、スリランカ人が日本で働くための支援を行っている日本語学校です。このカフェの2階とコロンボの2拠点あり、日本語の会話や面接練習を行っています。もともと女性雇用を行っている中、ここで身に付けた力は他でも活かせるのではないかと考えるようになり、始めました。来月には、2人のスリランカ人を日本の有田焼の工場に送る予定です。ようやく面接に受かり、有田焼の製造過程や日本での謝り方など実践的なことも教えています。

「環のもり」は日本にある会社で、もともと、スリランカ産コーヒーを日本に輸出するための会社として設立されました。今では「環のじゅく」で送られてくるスリランカ人の日本での仲介や、日本人がスリランカで巻き込まれたトラブルの対応を行うコンサルタントなど、スリランカの「何でも屋」のような業務を担っています。

今後の展望

最後に今後の展望を教えてもらいました!

『やっぱり、コーヒー屋なので、日本にスリランカのコーヒーを広めたいという思いがあります。そのため、日本の営業を増やしていきたいと思っています。今の形態とは逆で、日本でスリランカ人にコーヒーを売らせる、というものをやってみたいです。これは10月からもう始めようとしています。

そして、女性の力をもっと活用していきたいと思っています。スリランカ人の女性は「働く場」がないだけで、成長の見込みはあります。女性の社会進出なんてえらそうなこと言っていますが、まだまだです。そのため、人材サービスで訓練した女性たちを派遣できる事業形態をもっと広げていき、女性の活躍する場を広げていきたいと考えています。』

最後に

最後まで読んでいただき、ありがとうございました!

幾多の試練を経験し、その度に仕組みを改善しながら打たれ強さを身に付けてきた吉盛さん。困難を恐れず、一歩ずつ積み重ねてきた姿勢が今に繋がっているのだと感じました。

キャンディにある日本人が行っているカフェ。スリランカのコーヒーに加えて日本食も手ごろな価格で味わえます。みなさんもぜひ訪れてみてください!

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