スリランカの政治の仕組み〜大統領・首相・主要政党・政党連合〜
スリランカには大統領と首相がいますが、大統領に大きな権限がある執行大統領制をとっています。
一方、隣のインドでは大統領は象徴的な存在で、政治的実権は首相が握っています。
スリランカも「スリランカ共和国」時代は大統領は象徴的な存在で首相が政治的実験を握っていました。
「スリランカ民主社会主義共和国」になった際に、執行大統領制に移行し、大統領が大きな権限を握るようになりました。
本記事では、スリランカの政治の概要について紹介します。
目次
- 1 政治体制は共和制
- 2 大統領と首相の役割
- 3 歴代の首相・大統領
- 4 国会
- 5 二大政党と民主制
- 6 主要政党・主要政党連合
- 6.1 SLPP(Sri Laṃka Podujana Peramuna:スリランカ人民戦線)
- 6.2 SJB(Samagi Jana Balawegaya:統一人民戦線)
- 6.3 TNA(Tamil National Alliance:タミル国民連合)
- 6.4 NPP(National People’s Power:国民・人民の力)
- 6.5 EPDP(Eelam People’s Democratic Party:イーラム人民民主党)
- 6.6 TNPF(Tamil National People’s Front :タミル国民人民前線)
- 6.7 UNP(United National Party:統一国民党)
- 6.8 SLFP(Sri Lanka Freedom Party:スリランカ自由党)
- 6.9 TMVP(Tamil Makkal Viduthalai Pulikal:旧カルナ派)
- 6.10 TPNA(Tamil People’s National Alliance:タミル人民国民連合)
- 6.11 SLMC(Sri Lanka Muslim Congress:スリランカ・ムスリム会議)
- 6.12 National Congress(国民会議)
- 6.13 All Ceylon Makkal Congress(全セイロン人民会議)
- 6.14 LSSP(Lanka Sama Samaja Party:スリランカ社会主義平等党)
政治体制は共和制
スリランカ民主社会主義共和国の政治体制は、その名の通り「共和制」です。
つまり、君主(国王や天皇など)はいません。
1948年の独立時は立憲君主制の「英連邦王国自治領セイロン」であり、君主はイギリス君主(王室)でした。
1972年に共和制に移行して、「スリランカ共和国」となります。
独立した1948年から約30年間は議院内閣制で、国家元首は首相でした。
1978年の憲法改正で、大統領権限の強い執行大統領制に移行し、「スリランカ民主社会主義共和国」となります。
これを機に国家元首は大統領となります。
大統領と首相の役割
大統領
大統領は「国家元首」でもあり、「行政機関の長(政府首長)」であり、「軍の最高司令官」でもあります。
大統領は、首相の任命を行います。
現在の大統領(第8代)はゴーターバヤ・ラージャパクシャです。
首相
スリランカの首相は、国会の中で最も上級の官僚として、議会に対する政策と行動について総体的に説明責任を負います。
また、大統領の補佐的な役割を担い、1978年以来、ほとんどの首相は大統領の代議員を務めます。
大統領の席が空いた場合、議会が後継者の選出を招集するまで、首相が代理大統領に就任します。
現在の首相(第25代)はマヒンダ・ラージャパクシャです。
歴代の首相・大統領
2020年の国政選挙まではUNPとSLFPの二大政党から大統領・首相が輩出されていました。
以下、政党のカラーはUNPが緑、SLFPが青、現与党のSLPPは赤のため、3色で記載します。
イギリス連邦王国自治領セイロン時代
■連邦元首
ジョージ6世 1949年4月28日〜1952年2月6日
エリザベス2世 1952年2月6日〜1972年5月22日
■セイロン自治領総督
第1代総督ヘンリー・モンク=メイソン・ムーア(第29代イギリス領セイロン総督も務めた)1948年2月4日〜1949年7月6日
第2・5代総督ハーウォルド・ラムズボサム 1949年7月6日〜1954年7月17日
代理アーサー・ウィジェウォードディナ 1953年
第4代総督C・ネイガリンラム 1954年
第6代総督オリヴァー・アーネスト・グーネティレック 1954年7月17日〜1962年3月2日
第7代総督ウィルアム・ゴパッラワ 1962年3月2日〜1972年5月22日
■首相
第1代首相ドン・スティーブン・ セーナーナーヤカ(UNP)1947年10月14日〜1952年3月22日
第2代首相ダッドリー・シェルトン・セーナーナヤカ(UNP)1952年3月26日〜1953年10月12日
第3代首相ジョン・コタラーワラ(UNP)1953年10月12日〜1956年4月12日
第4代首相ソロモン・ウェスト・リッジウェイ・ディアス・バンダーラナーヤカ(SLFP)1956年4月12日〜1959年9月26日 ※暗殺
第5代首相ウィジャヤナンダ・ダハナーヤカ(SLFP)1959年9月26日〜1960年3月21日
第6代首相ダッドリー・シェルトン・セーナーナヤカ(UNP)1960年3月21日〜1960年7月21日
第7代首相シリマヴォ・ラトワッテ・ディアス・バンダーラナーヤカ(SLFP)1960年7月21日〜1965年3月27日
第8代首相ダッドリー・シェルトン・セーナーナヤカ(UNP)1965年3月27日〜1970年3月29日
第9代首相シリマヴォ・ラトワッテ・ディアス・バンダーラナーヤカ(SLFP)1970年3月29日〜1972年3月22日
スリランカ共和国時代
大統領は象徴的な存在で、政治的実権は首相が握っていました。
首相のシリマヴォ・バンダーラナーヤカがウィリアム・ゴパッラワを大統領に指名しています。
■大統領
初代大統領ウィリアム・ゴパッラワ(無所属)1972年5月22日〜1978年2月4日
■首相
第10代首相シリマヴォ・ラトワッテ・ディアス・バンダーラナーヤカ(SLFP)1972年3月22日〜1977年7月23日
第11代首相シリマヴォ・ラトワッテ・ディアス・バンダーラナーヤカ(SLFP)1977年7月23日〜1978年2月6日
スリランカ民主社会主義共和国時代
■大統領
第2代大統領ジュニウス・リチャード・ジャヤワルダナ(UNP)1978年2月4日〜1989年1月2日
第3代大統領ラナシンハ・プレマダーザ(UNP)1989年1月2日〜1993年5月1日 ※暗殺
第4代大統領(暫定大統領)ディンギリ・バンダー・ウィジェートゥンガ(UNP)1993年5月1日〜1994年11月12日
第5代大統領チャンドリカ・バンダーラナーヤカ・クマーラトゥンガ(SLFP)1994年11月12日〜2005年11月19日
第6代大統領マヒンダ・ラージャパクシャ(SLFP)2005年11月19日〜2015年1月9日
第7代大統領マイトリーパーラ・シリセーナ(NDF→SLFP)2015年1月9日〜2019年11月18日
第8代大統領ゴーターバヤ・ラージャパクシャ(SLPP)2019年11月18日〜
■首相
第12代首相ラナシンハ・プレマダーザ(UNP)1978年2月6日〜1989年3月3日
第13代首相ディンギリ・バンダー・ウィジェートゥンガ(UNP)1989年3月3日〜1993年3月7日
第14代首相ラニル・ウィクラマシンハ(UNP)1993年3月7日〜1994年8月19日
第15代首相チャンドリカ・バンダーラナーヤカ・クマーラトゥンガ(SLFP)1994年8月19日〜1994年11月14日
第16代首相シリマヴォ・ラトワッテ・ディアス・バンダーラナーヤカ(SLFP)1994年11月14日〜2000年8月10日
第17代首相ラトナシリ・ウィクラマナカ(SLFP)2000年8月10日〜2001年12月9日
第18代首相ラニル・ウィクラマシンハ(UNP)2001年12月9日〜2004年4月6日
第19代首相マヒンダ・ラージャパクシャ(SLFP)2004年4月6日〜2005年11月21日
第20代首相ラトナシリ・ウィクラマナカ(SLFP)2005年11月21日〜2010年4月21日
第21代首相ディッサナーヤカ・ムディヤサラジ・ジャヤラトナ(SLFP)2010年4月21日〜2015年1月9日
第22代首相ラニル・ウィクラマシンハ(UNP)2015年1月9日〜2018年10月26日
第23代首相マヒンダ・ラージャパクシャ(SLPP)2018年10月26日 – 2018年12月15日 ※最高裁が大統領による任命を違憲判決
第24代首相ラニル・ウィクラマシンハ(UNP)2018年12月16日〜2019年11月21日
第25代首相マヒンダ・ラージャパクシャ(SLPP)2019年11月21日〜
国会
任期:6年(解散あり)
定数:225
二大政党と民主制
スリランカは独立後、総選挙によって二大政党による政権交代が行われていた民主制の優等生とも言われてきました。
民主政治は、教育と医療などの福祉の充実に寄与したとも言われ、1970年代における南アジアの識字率でスリランカが高い数字の実現はその現れても言われました。
■1970年代の南アジアの識字率
スリランカ約80%
インド約33%
バングラディシュ22%
ネパール約16%
2020年8月の国政選挙で、二大政党は小政党となり、状況が変わりつつあります。
主要政党・主要政党連合
2020年8月の国政選挙で、二大政党と言われていたUNPとSLFPはそれぞれ1議席しか持たない小政党になりました。
SLFPから多くの議員が離党して加わったSLPPが与党になりました。
UNPから多くの議員が離党して結成されたSJBが野党第一党になりました。
以下、2020年の選挙で獲得した議席数が多い順に代表的な政党を紹介します。
SLPP(Sri Laṃka Podujana Peramuna:スリランカ人民戦線)
2020年国政選挙議席数:145(政党連合として)
リーダー:マヒンダ・ラージャパクシャ
2001年に結成したSLNF(スリランカ国民戦線)が前身。
SLNFは議席を獲得できず、党首のウィマル・ジーガナガは2015年の大統領選挙では19名中最下位という結果でした。
2015年、OSLFF(我々のスリランカ自由戦線)に党名を変更します。
2016年11月、OSLFFはSLPP(スリランカ人民戦線)に党名を変更します。
マヒンダ・ラージャパクシャ政権で外務大臣を務めたG. L. ピーリスを会長に指名します。
SLFP党員だったアルバート・カリヤワッサムの息子で国家議員のサガラ・カリヤワッサムが事務局長に指名します。
2018年10月、マヒンダ・ラージャパクシャを党首にすることを発表します。
2020年8月、国政選挙で145議席を獲得して与党となりました。
SJB(Samagi Jana Balawegaya:統一人民戦線)
2020年国政選挙議席数:54(政党連合として)
リーダー:サジット・プレマダーサ
2020年1月、UNPの作業チームによって、サジット・プレマダーサを党首にして結成することを決定して発足。
2020年8月の選挙で野党第一党になりました。
TNA(Tamil National Alliance:タミル国民連合)
2020年国政選挙議席数:10(政党連合として)
会長:R. サンパンタン
2001年にタミル民族主義政党と元武装組織が合流して結成。
以下、4つのタミル系政党の連合です。
PLOTE(People’s Liberation Organisation of Tamil Eelam:タミル・イーラム人民解放機構)
EPRLF(Eelam People’s Revolutionary Liberation Front:イーラム人民革命解放戦線)
TELO(Tamil Eelam Liberation Organization:タミル・イーラム解放機構)
ITAK(Illankai Tamil Arasu Kachchi:スリランカ・タミル党)
PLOTEは1980年、LTTEの議長を務めたウマ・マヘスワラによって結成された武装組織。
EPRLFは1980年、イーラム革命学生機構からK・パトゥナマバ、ダグラス・デバナンダ、スレッシュ・プレマチャンドラン、ヴァラタラジャ・プルマルらが脱退して結成。
TELOは1979年に設立された過激派組織でLTTEと抗争、1987年に政党として再結成されています。
ITAKは1948年、ACTC(All Ceylon Tamil Congress:全セイロン・タミル会議)から独立して結成。
NPP(National People’s Power:国民・人民の力)
2020年国政選挙議席数:3
リーダー:コムラデ・アヌラ・ディッサナヤケ
2015年にJVP(Janatha Vimukthi Peramuna:人民解放戦線)の党首コムラデ・アヌラ・ディッサナヤケが結成。
JVPは1965年5月にスリランカ共産党より分離して結成。
1971年に武装蜂起、シンハラ民族主義を押し出すようになります。
1987〜1989年に南部のジャングルを拠点として武装蜂起。
2004年、政党連合「統一人民自由同盟」に参加し、SLFPに次いで第二党となっています。
EPDP(Eelam People’s Democratic Party:イーラム人民民主党)
2020年国政選挙議席数:2
リーダー:ダグラス・デバナンダ
1987年に結成。
党首のダグラス・デバナンダは初期のスリランカ・タミル軍事組織イーラム革命学生機構(EROS)の創設メンバーで、インド政府から指名手配されています。
TNPF(Tamil National People’s Front :タミル国民人民前線)
2020年国政選挙議席数:2
リーダー:ガジェンドラクマール・ポンナバラム
2010年にTNAから分離して結成。
UNP(United National Party:統一国民党)
2020年国政選挙議席数:1
リーダー:ラニル・ウィクラマシンハ
1946年にドン・スティーブン・ セーナーナーヤカらによって結成。
知識人や上流階級を基盤としていると言われます。
かつてはSLFPと二大政党を形成しました。
自由主義経済を推進し、タミル人の権利を容認したのも特徴とされます。
2020年の総選挙で、サジット・プレマダーサ派の議員たちが結成したSJB(Samagi Jana Balawegaya:統一人民戦線)へ離党し、1議席の小政党に転落しました。
SLFP(Sri Lanka Freedom Party:スリランカ自由党)
2020年国政選挙議席数:1
リーダー:マイトリパーラ・シリセーナ
1936年にソロモン・バンダーラナーヤカが結成し、1947年に最大議席を有したシンハ・マハ・サバ党が源流です。
1947年、UNP党首ドン・スティーブン・ セーナーナーヤカがソロモン・バンダーラナーヤカに合併を申し込み受諾。
1951年、ソロモン・バンダーラナーヤカは旧シンハ・マハ・サバ党のメンバーとともにUNPを離党して、SLFPを結成します。
農村部や労働者階級を基盤としていると言われます。
かつてはUNPと二大政党を形成しました。
シンハラオンリー政策を推し進めた過去もあります。
ソロモンの暗殺後、妻のシリマヴォ・バンダラナイケが世界初の女性首相となりました。
その後に娘のチャンドリカ・クマーラトゥンガも首相を経て大統領となるなど、スリランカ自由党は「バンダーラナーヤカ家の党」という性格が濃厚な時期もありました。
2020年の総選挙で、マヒンダ・ラージャパクシャ派の議員が、SLPP(スリランカ人民戦線)へ離党し、1議席の小政党に転落しました。
TMVP(Tamil Makkal Viduthalai Pulikal:旧カルナ派)
2020年選挙議席数:1
LTTEから分離したカルナ派を母体として、2004年に結成し、2007年に政党になっています。
TPNA(Tamil People’s National Alliance:タミル人民国民連合)
2020年選挙議席数:1
2000年にTNAから分離して結成。
SLMC(Sri Lanka Muslim Congress:スリランカ・ムスリム会議)
2020年国政選挙議席数:1
1981年、東部のムスリムたちによって結成。
西部のムスリムは、貿易・商業に従事し、比較的豊かである一方で、東部のムスリムは農業に従事し、比較的に貧しい傾向があります。
National Congress(国民会議)
2020年国政選挙議席数:1
リーダー:A. L. M. アタウラフ
2004年に、SLMCから離れたA. L. M. アタウラフによって結成。
All Ceylon Makkal Congress(全セイロン人民会議)
2020年国政選挙議席数:1
リーダー:リシャド・バティウデーン
2005年に、SLMCから離れたリシャド・バティウデーンによって結成。
LSSP(Lanka Sama Samaja Party:スリランカ社会主義平等党)
2020年国政選挙議席数:0
1935年に結成。
1940年代に第四インターナショナルに加盟し、その中でも突出して大きな政党に成長。
以下のふたりの首相はLSSPから立候補して、政界入りを果たしています。
第5代首相ウィジャヤナンダ・ダハナーヤカ(SLFP)1959年9月26日〜1960年3月21日
第17代首相ラトナシリ・ウィクラマナカ(SLFP)2000年8月10日〜2001年12月9日
第20代首相ラトナシリ・ウィクラマナカ(SLFP)2005年11月21日〜2010年4月21日
1964年にSLFPとの連立政権に参加し、第四インターナショナルの方針に合わなくなり脱退。
参照)
ウィキペディア:スリランカの大統領
ウィキペディア:スリランカの首相
ウィキペディア:スリランカ人民戦線
ウィキペディア:統一国民党 (スリランカ)
ウィキペディア:統一人民戦線
ウィキペディア:スリランカ自由党
ウィキペディア:ソロモン・バンダラナイケ
ウィキペディア:スリランカ社会主義平等党
ウィキペディア:第四インターナショナル
Wikipedia:2020 Sri Lankan parliamentary election
ウィキペディア:タミル国民連合
Wikipedia:Tamil National People’s Front
Wikipedia:Tamil Makkal Viduthalai Pulikal
ウィキペディア:スリランカ・ムスリム会議
Wikipedia:Tamil People’s National Alliance
Wikipedia:All Ceylon Makkal Congress
Wikipedia:National Congress(Sri Lanka)
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