『アマンリゾーツとバンヤンツリーのホスピタリティイノベーション』
ジェフリーバワはアジアンリゾートの生みの親とも言われることがありますが、それはアマンリゾートやバイヤンツリーも早くインフィニティープールを設置し、その土地の文化を尊重した自然環境に配慮したホテルを設計したからでしょう。
そんなアマンリゾートとバイヤンツリーの共通点と相違点、リゾートの歴史における両社の特徴が解説されている『アマンリゾーツとバンヤンツリーのホスピタリティイノベーション』を紹介します。
アマンリゾートはゴールにアマンガッラ、タンガッラ郊外にアマンウェッラを経営していますが、それぞれ本書にも登場します。
また、バンヤンツリーのスパ「アングサナ」はコロンボに2つ(シナモングランに隣接したクレスキャットシティー、マリナビーチホテル)ありますが、バンヤンツリーがスパに注力していることが、本書を読むと分かります。
目次
著者の徳江 順一郎さんとは?
以下、本書に掲載されている著者紹介と編著書です。
東洋大学国際観光学部准教授。
上智大学経済学部経営学科卒業、早稲田大学大学院商学研究科修了。
大学院在学中に起業し、飲食店の経営やブランディングのコンサルテーションを手掛けつつ、長野経済短期大学、高崎経済大学、産業能率大学、桜美林大学などの非常勤講師を経て、2011年に東洋大学に着任。
専門はホスピタリティ・マネジメント論、サービス・マーケティング論。
2022年3月30日:ホスピタリティ・マネジメント(第3版)
2021年10月1日:ホスピタリティ産業論
2021年7月27日:アマンリゾーツとバンヤンツリーのホスピタリティイノベーション
2020年10月9日:宿泊産業論―ホテルと旅館の事業展開―
2019年4月11日:ホテル経営概論(第2版)
2019年1月30日:セレモニー・イベント学へのご招待―儀礼・儀式とまつり・イベントなど
2018年4月4日:ホスピタリティ・マネジメント(第2版)
2016年12月10日:ホテルと旅館の事業展開 [改訂版]
2016年7月1日:ホスピタリティ・デザイン論
2016年5月11日:新版 観光マーケティング入門
2014年11月20日:ブライダル・ホスピタリティ・マネジメント
2014年4月18日:数字でとらえるホスピタリティ 会計&ファイナンス
2013年11月10日:ホテルと旅館の事業展開
2013年5月17日:ホテル経営概論
2013年4月1日:ソーシャル・ホスピタリティ
2012年9月13日:ホスピタリティ・マネジメント
2011年3月30日:サービス&ホスピタリティ・マネジメント
本書の構成と目次
アマンリゾートとバイヤンツリーはそれぞれプーケットで事業を開始していますが、まずはプーケット島の紹介から両リゾートについて紹介されているのが第1章です。
第2章はアマンリゾートの沿革
第 3 章 「バンヤンツリー」の発展
それを踏まえた両社の比較をおこなっているのが第4章。
最後にリゾートの歴史に触れて、日本の事例として、鹿児島の「天空の森」が紹介されているのが第5章です。
セックスセンシズは文化と自然を尊重するラグジュアリーリゾートを世界展開していますが、いずれもアジアからその事業をスタートさせていてます。
■目次
第 1 章 「バンヤンツリー・プーケット」と「アマンプリ」
第 2 章 「アマン・リゾーツ」の足跡
第 3 章 「バンヤンツリー」の発展
第 4 章 それぞれの比較
第 5 章 リゾート発の宿泊産業におけるイノベーション
アマンリゾートとバンヤンツリーの共通点
本書では以下のような点を共通点として挙げています。
- 巨大なメインプールがある
- 各棟独立型のヴィラ形式が基本
- プライベートプールを付帯(バンヤンツリーはほとんど、アマンは一部)
- マス媒体は基本的に使用しない
- 広報による雑誌のパブリシティは多い
- その立地を活かした特別ディナー(バンヤンツリーのデスティネーション・ダイニング、アマンは敷地内はどこでも食事可能)
- 1990年前後にプーケット島で誕生
- 世界的なチェーン展開を行なっている
- 創業者が国際的な家庭に育ち、ジャーナリスト出身(国外追放あるいは拘束されている)
- 本拠地がシンガポールにあるも、シンガポールには宿泊施設がない。
- オセアニアに展開していない。
- 昨今のラグジュアリー施設においては、ダブル・シンク(ツイン・シンク)と呼ばれる、洗面台が2台用意されているケースが圧倒的であり、アマンもバンヤンツリーもその例に漏れない。
シックスセンシズも似た会社として挙げられています。
アマンリゾートの最初のリゾート「アマンプリ」の開業が1988年
バンヤンツリーの最初のリゾート「バンヤンツリープーケット」の開業が1994年
シックスセンシズの最初のリゾート「ソネヴァ・フシ」の開業1995年
シックスセンシズはモルディブでスタートし、その後にタイにオープン。現在は世界に展開していますが、地域別ではアジアに多くリゾートを経営しているという点や文化と自然を尊重するしていることはアマンリゾートとバンヤンツリーと共通しています。
ちなみに、ジェフリーバワ設計のスリランカ初のインフィニティープールと言われるヘリタンス・アフンガッラの開業は1981年です。
参考)
アマンリゾート公式ページ
バンヤンツリー公式ページ
アングサナ・スパ公式ページ
ウィキペディア:アマンリゾーツ
ウィキペディア:バンヤンツリー・ホールディングス
Wikipedia:Sonu Shivdasani
アマンリゾートとバンヤンツリーの違い
本書はいくつか違いが述べられていますが、以下の点が分かりやすく違うように思います。
- アマンはリゾートごとに異なる建築・内装
- バンヤンツリーはモダンチャイニーズで統一され、物件数も中国に多い
また、本書には利用者にヒアリングした際のコメントも掲載されていますが、以下のコメントも両リゾートの特徴を物語っていると思います。
- アマンリゾート:ラグジュアリーとローカリティのバランスが完璧
- バンヤンツリー:とにかくスパが素晴らしく、セラピストに外れない
- バンヤンツリー:タイ及びアジアのスパ文化を索引した存在
アマンリゾートとは?
両社の共通点と違いは、創業の背景と発展の歴史から垣間見えます。
以下、本書から運営するリゾートの特徴に関わる部分をピックアップしました。
- 1984年頃、ゼッカ氏はプーケット島で別荘地を探していた。パンシー・ビーチに近い場所に絶好の土地を見つけたが、水道が通っていないことが大きな問題であった。だが、もしここに友人たちの別荘も建てることができれば、水道を引く費用もカバーできそうであった。そして、友人たちは一年中そこに住んでいる訳ではないことから、使っていない時には旅行者に貸すことも可能と考えた。
- 特筆すべきは、アマンプリの建設に際して、椰子の木1本さえ伐採することがなかったという点である。
- 地元の空気感を重視し、それをアレンジしてサービス提供プロセスを構築する。そのために、地元のスタッフや生活文化を大いに活用する。プールを雰囲気の醸成に活かし、食事をどこでも摂れることに象徴されるような、ありとあらゆるサービスを実現する。SOP(Standard Operation Procedures:標準作業手順書)は存在せず、標準化された客室もデザインも存在しない。
また、第一号リゾートであるアマンプリの計画について、以下のようにも書かれています。
500室規模のホテルを造るといった計画こそが現実的であり、40室ではとてもペイするとは思えなかったのである。
バンヤンツリーとは?
バンヤンツリーが主に展開しているブランドとして以下の4つが紹介されていました。
・アンサナ(Angsana)
・バンヤンツリー(Banyan Tree)
・カッシーア(Cassia)
・ダーワ(Dhawa)
バンヤンツリーの記述についても、運営するリゾートの特徴に関わる部分を本書からピックアップしました。
- 別荘地ビジネスを展開するためにプーケット島に土地を購入。スズ鉱山跡地だったことから土壌と水を入れ替え、周辺に7千本以上の樹木を植えて、土地を再生。海に面した土地でなかったことから、プライベート・プールを設置したプライベート・ガーデン付のヴィラを基本とし、かつ、アジアの様々なスパのエッセンスを取り入れたトロピカル・ガーデン・スパを実現した。
- スパのセラピストのスキル向上を目指し、「バンヤンツリー・スパ・アカデミー(Banyan Tree Spa Academy)」も発足させた。
- プーケットには毎日スパが受けられる権利を付帯させてヴィラまで存在する。
- モルディブの海洋研究所(同国初のリゾートに基盤を置く研究教育施設)、ビンタン環境保護研究所、ラグーナ・プーケット教育財団、ラグーナ・チャイルド・ケア・センター、プーケット津波復興基金などを設立。
- 2002年、初の都市型立地の超高層ホテルとして、「バンヤンツリー・バンコク」が開業した。(中略)最上階の屋上に、バンコク初のルーフトップ・レストランとバーを設置したことで、大変な話題となった。
- バンヤンツリーは、必ずしも「リゾートを開発する」ということが企業のミッションではなく、あくまで「不動産開発」が基本という前提がうかがえる。
そもそもリゾートとは?
本書のタイトルには「イノベーション」という言葉が入っています。
何がイノベーティブだったのかは、それまでのリゾートがどんなものだったかを知ると分かりやすいです。
第5章にはリゾートの歴史について解説されています。
リゾートの原点とは?
本書では、resortの意味をジーニアス英和辞典から引用し、語源となるフランス語も紹介しています。
ウィズダム英和辞典によれば、「resort」は名詞では保養地・行楽地、行きつけの場所、多くの人の集まり、などの意味があり、動詞として使うと「〜へよく行く」という意味のようです。
また、本書には以下のように書かれています。
- 前田編(1978)では、「観光を『周遊型』と『滞在型』に分けた場合、後者の滞在型観光に対応する目的のこと」とされている。
- 重松(1966)によれば、当初のリゾートは、観光が大衆化する以前の、所得に恵まれたごく一部の階層のみが実行可能であった。彼らは最初、温泉地や自然の中での静養や社交を目的としていたという。代表例が、ドイツのバーデン・バーデンである。(中略)これが19世紀末になると、海辺の滞在型が、同じく上流社会にもてはやされるようになる。こちらの代表例は、ニースやモンテカルロである。その背景には、バーデン・バーデンなどが次第にポピュラーとなったため、既存の利用層が敬遠したこともあるようだ。
これを読むと、スリランカに多くある「アーユルヴェーダリゾート」は、まさに「滞在型」の観光であり、リピーターも多いことから、「よく行く」場所でもあります。
参考)
ウィキペディア:バーデン=バーデン
ウィキペディア:モンテカルロ
ウィキペディア:ニース
グランドホテルとは?
ヌワラエリヤに「グランドホテル」
コロンボに「グランドオリエンタルホテル」と歴史の長いホテルがありますが、本書にはグランドホテルについても記述がありました。
上記の重松(1966)の文章に続いていたのが以下の文章です。
海辺のリゾートはいずれも、広い客室とメイン・ダイニング、サブ・ダイニングをはじめとする供食設備を備えた豪華な建物で、アミューズメントあるいは社交場としてのカジノを持つものもあった。(中略)この時代は、都市部のホテルでも同様の設備とサービスを提供しており、これらを総称して「グランドホテル」と呼ぶこともある。
オールインクルーシブとは?
本書では、リゾートの歴史の中で、登場した地中海クラブについて以下のように記載されています。
滞在期間を長めに設定するため料金は相対的に低価格とした。
インターネットで”地中海クラブ”と検索すると、ウィキペディア「クラブメッド」のページが出てきます。その中に、日本語では”地中海クラブ”と言われるとあります。
スリランカで当てはめると、中国人観光客が好んでいく、オールインクルーシブのホテルが該当するでしょう。
参考)
ウィキペディア:クラブメッド
コンベンション・ホテル、プラザホテルとは?
コロンボにある5つホテルの多くが該当するのがこのカテゴリーでしょう。
1960年代の米国では、コンベンション需要が増大しはじめた。これを背景として、大規模な展示会や商談会など、いわゆる現代でいうところのMICEに応える「コンベンション・ホテル」が出現するようになった。(中略)これが「ヒルトン」、「ハイアット」、「マリオット」などの大手チェーンによって都市部に開発され、「プラザホテル」とも呼ばれるようになった。
メガ・リゾートとは?
上記の文章に続いているのが、以下の文章です。
この行き着く先に、「メガ・リゾート」と呼ばれる超大規模な施設が出現した。その牽引役となったのは、フロリダ、ハワイ、そしてラスベガスなどである。
スリランカで該当するのは、
・ゴルフリゾートも併設したハンバントータのシャングリホテル
・最新モールとオフィス・レジデンスと連結したシャングリラコロンボ
・ショッピングモールの上階にあるマリーナビーチホテル
あたりかもしれません。
アングサナ・スパが入っているのが、マリーナビーチホテルです。
https://spiceup.lk/marinobeachcolombo/
もう一つのアングサナ・スパが入っているクレスキャット・シティは、ショッピングモール「クレスキャット・ブルバード」、5つ星ホテル「シナモン・グランド」、レジデンスが同敷地内にあります。
ホテル単体ではその名の通りグランドホテル(あるいはコンベンションホテル)で、ショッピングモール、レジデンスなどを建設したことで、メガ・リゾートと共通した要素を持っていると言えるかもしれません。
本書のテーマであるアマンリゾートやバンヤンツリーは、以下のメガ・リゾートの特徴とは確かに違います。
メガ・リゾートには、「なんでも揃って」おり、「高級な客室」も用意されている。ただ、その背後にあるのは「観光の大衆化」に伴う、サービスの大量生産システムである。そして、ここで注目すべきはその立地であり、ハワイが圧倒的に多いその理由である。ワイキキのあるオアフ島とは異なり、他の島、特に火山活動が活発である、あるいは近い過去にそうだった島は土地も安いため、広大なリゾートの開発が可能である。しかし、そこには地元の文化や料理は存在しない。だからこそ、様々なアミューズメントやレクリエーション施設・設備を導入したということになるのだ。
ブティックホテルとは?
スリランカにはイギリス農園主のバンガローや、キャンディの高官・貴族の邸宅を改装したものなど、魅力的なブティックホテルが多くありますが、ブティックホテルについても少し記述がありました。
ライフスタイル・ホテルと呼ばれるホテルの起源となったとされる「ブティック・ホテル」のコンセプトを開発したイアン・シュレーガー(Ian Schrager)氏
イアン・シュレーガーさんが手掛けた「モーガンズ・ニューヨーク」の写真を見ると、白黒のチェッカーボードが印象的ですが、以下のものを思い出します。
・ジェフリーバワのルヌガンガの白黒のチェッカーボード柄の床
・草と石がチェッカーボード柄になっているルヌガンガの湖畔のウォーターゲート
・白黒のストライプ柄をシグネチャーとするパラダイスロード
・ゴールフェイスホテルの海が見渡せるチェッカーボード
また、イアン・シュレーガーさんが手掛けたロイヤルトン(ROYALTON)の写真を見ると、パラダイスロードが運営するブティックホテル「ティンタゲル」を思い出します。
参考)
Wikipedia:Ian Schrager
VOGUE:Studio54の創設者が手掛ける、東京エディション虎ノ門の全貌──イアン・シュレーガー氏インタビュー。
VOGUE:ロイヤルトン(ROYALTON)
OurLifeIsAJourney:デザインホテルの先駆けモーガンズニューヨーク(MORGANS NEW YORK)に宿泊した感想
BRUTUS CASA:イアン・シュレーガーのホテルが日本初上陸!
ウィキペディア:ブティックホテル
ウィキペディア:ライフスタイルホテル
一休コンシェルジュ:ホテルのトレンド「ライフスタイルホテル」をご存知ですか?
まとめ
スリランカにあるアマンガッラ、アマンウェッラは取材をして、弊誌(ペーパーマガジンのスパイスアップ)では紹介しましたが、アマンリゾートの原点と他のリゾート会社と比較した本書を読むと、よりその特徴が見えてきたように思います。
本書にも引用されていますが、アマンリゾートとジェフリーバワの関係を紐解いた『アマン伝説』も合わせて読まれると、理解が深まるかと思います。
『アマン伝説』について、追って記事として紹介したいと思います。
また、本記事で取り上げた各ホテルについても、弊誌(ペーパーマガジンのスパイスアップ)では紹介していますが、追って、本サイトにも記事を公開したいと思います。
「旅と町歩き」を仕事にするためスリランカへ。
地図・語源・歴史・建築・旅が好き。
1982年7月、東京都世田谷区生まれ。
2005年3月、法政大学社会学部社会学科を卒業。
2005年4月、就活支援会社に入社。
2015年6月、新卒採用支援事業部長、国際事業開発部長などを経験して就職支援会社を退社。
2015年7月、公益財団法人にて東南アジア研修を担当。
2016年7月、初めてスリランカに渡航し、会社の登記を開始。
2016年12月、スリランカでの研修受け入れを開始。
2017年2月、スリランカ情報誌「スパイスアップ・スリランカ」創刊。
2018年1月、スリランカ情報サイト「スパイスアップ」開設。
2019年11月、日本人宿「スパイスアップ・ゲストハウス」開始。
2020年8月、不定期配信の「スパイスアップ・ニュースレター」創刊。
2023年11月、サービスアパートメント「スパイスアップ・レジデンス」開始。
2024年7月、スリランカ商品のネットショップ「スパイスアップ・ランカ」開設。
渡航国:台湾、韓国、中国、ベトナム、フィリピン、ブルネイ、インドネシア、シンガポール、マレーシア、カンボジア、タイ、ミャンマー、インド、スリランカ、モルディブ、アラブ首長国連邦、エジプト、ケニア、タンザニア、ウガンダ、フランス、イギリス、アメリカ
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