イスラム商人が資金提供したバワ設計の仏教寺院「シーマーマーラカヤ」
コロンボのベイラ湖に浮かぶシーマー・マーラカヤ寺院は、依頼者・資金提供者・設計者がそれぞれの分野のレジェンドです。
本記事ではシーマー・マーラカヤ寺院のついて紹介します。
目次
シーマー・マーラカヤ寺院とは?
シーマー・マーラカヤ寺の英語名はSeema Malakaですが、シンハラ文字をカタカナ表記にすると、シーマー・マーラカヤですので、本記事ではシンハラ文字に基づいてシーマー・マーラカヤ寺院と記載します。
シーマー(සීමා)とは、シンハラ語・日本語辞典 野口忠司 編著によれば、「境界(線)、界:限界、限度、結界(僧が修行のために衣食住を制限すること)」という意味です。
マーラカヤ(මාලකය)とは、シンハラ語・日本語辞典 野口忠司 編著によれば、「二階、上の階、庭、散歩道、円形舞台、八角堂」という意味とあります。
シーマー・マーラカヤ寺院は、ガンガーラーマ寺院近くのベイラ湖に浮かぶ仏教寺院です。
スリランカ仏教の得度式は、伝統的に水上で行われてきたと言われていますが、ガンガーラーマ寺院の得度式を行う場所として19世紀後半に建設されたのがシーマー・マーラカヤ寺院です。
1970年代になると、シーマー・マーラカヤ寺院は老朽化によって湖に段々と沈み、ガンガーラーマ寺院のガルボダ・グーナニッサラ僧侶が寺院を再建することを考えます。
資金を提供したのはダウディボーラ
寺院再建の資金を提供したのが、ダウディボーラのS.H.ムーサジェー(Salehbhai Husseinbhai Moosajee)です。
S.H.ムーサジェーは、息子のアスカー・S・ムーサジェー(Asker S. Moosajee)を記念して、シーマー・マーラカヤ寺院の再建に資金を提供します。
ムーサジェー親子は、ジェフリーバワが設計を担当したベントタのホテルセレンディブを開業しています。
その後に、ホテルシーギリヤ、ワイッカルのホテルドルフィンクラブクラブ、ヒッカドゥワのホテルリーフコマー(現在はCitrus Hikkaduwaが建っている)、改装をジェフリーバワに依頼したシンドバッド・ガーデン・ホテル(現在のアヴァニ・カルタラ)などを開業し、旅行会社セレンディブ・ツアーリング(現:セレンディブ・レジャー・マネジメント)を創業しています。
ボーラとは、インドのグジャラート州をはじめ、パキスタン、スリランカなどのインド洋の島国、イエメン、東アフリカ諸国などに多くいるシーア派の人たちです。
「ボーラ」は、グジャラート語のvohrvuまたはvyavaharに由来し、「取引する」という意味であり、イスラム商人として財を成している人たちがいます。
グジャラートからモーリシャスに移民したCurrimejee家のBashir Currimejeeはジェフリーバワに自宅(Currimjee House)の設計を依頼しています。
スリランカでもボーラ人の経済活動は存在感があり、歯磨き粉「Clogard」やドラッグストアのHemasなどで知られるコングロマリットのHEMAS Group、紅茶ブランド「JAF TEA」で知られるコングロマリットの Jafferjee Brothers、紅茶ブランド「AKBAR TEA」で知られる Akbar Brothers、ココナッツ製品で知られるAdamjee Lukmanjeeなどもボーラ人が創業した企業です。
バンバラピティヤ駅近くのマリンドライブ沿いにある大きなモスク「Husainy Masjid」はボーラ人のモスクです。
寺院を構成する3つの壇
シーマー・マーラカヤ寺院は、湖上に建てられた3つの基壇を橋でつなげた構造をしています。
シーマー・マーラカヤ寺院の建設期間は1976年~1978年ですが、1979年~1982年に建設されたバワ設計の国会議事堂のアイディアの元になったとも言われています。
主壇

中央の主壇は主に瞑想をする場所として使われています。
主壇はアンバラマ(スリランカにおける巡礼者の休憩所)を参考にしたとも言われ、ルヌガンガにある鶏小屋が元のアイディアだと言われています。

主壇の側面は通気性を考えた設計になっているのが特徴です。

主壇の周囲には、タイから寄贈された仏像が並べられています。
得度式のお堂が建つ北側壇

北側にあるお堂は、得度式を行う場所です。

菩提樹と4神が祀られた南側壇

南側の側壇には、中央に菩提樹があり、四隅にヒンドゥーの神々が祀られています。

この菩提樹はアヌラーダプラの菩提樹の分け木とも言われています。

北東端に祀られているのはヴィシュヌです。

北西端に祀られているのは、ムルガンやスカンダと同一視されるカタラガマです。

南西端に祀られているのはガネーシャです。

南東端にはシヴァが祀られています。
仏塔
南側壇は増築されていて、階段を登っていくと仏塔があります。

ホール
南側壇の横にはホールが増築されていて、2023年のウェサックではインド大使館によるアジャンターの展示されていました。

参考)
Sunday Times:Entrepreneur extraordinary Asker S. Moosajee
Sunday Times:Serendib Leisure has solid base of hotels
Daily News:Tourism accepted as Export industry – PM
Dawoodi Bohra Community In Sri Lanka
Wikipedia:Seema Malaka
Wikipedia:Dawoodi Bohras
Wikipedia:Galboda Gnanissara Thera
SPICE UP LANKA CORPORATION (PVT) LTD Managing Director
SPICE UP TRAVELS (PVT) LTD Managing Director
「旅と町歩き」を仕事にしようとスリランカに移住。
地図・語源・歴史・建築・旅が好き。
1982年7月、東京都世田谷区生まれ。
2005年4月、法政大学社会学部社会学科を卒業後、六本木の人材系ネットベンチャーに新卒入社。
2015年6月、新卒採用支援事業部長、国際事業開発部長を経てネットベンチャーを退社。
2015年7月、公益財団法人にて東南アジア研修を担当しながら、新宿ゴールデン街で訪日外国人向けバーテンダー。
2016年7月、スリランカに初めて渡航し、法人設立の準備を開始。
2017年1月、SPICE UP LANKA CORPORATION (PVT) LTDを登記。
2017年2月、スリランカ情報誌「スパイスアップ・スリランカ」創刊。
2018年2月、スリランカ観光情報サイト「スパイスアップ」開設。
2019年11月、日本人宿「スパイスアップ・ゲストハウス」オープン。
2020年8月、ニュースレターの配信を開始。
2020年10月、WAOJEコロンボ支部立ち上げ初代支部長に就任。
2023年2月、スリランカ日本人会理事・広報部長に就任。
2025年6月、SPICE UP TRAVELS (PVT) LTDを登記。
渡航国:台湾、韓国、中国、ベトナム、フィリピン、ブルネイ、インドネシア、シンガポール、マレーシア、カンボジア、タイ、ミャンマー、インド、スリランカ、モルディブ、アラブ首長国連邦、サウジアラビア、エジプト、ケニア、タンザニア、ウガンダ、フランス、イギリス、アメリカ
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