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知られざるバワ建築 「ロックバンガロー」Polonthalawa Estate Bungalow

2025年8月11日

コロンボからチラウ郊外北東へ車で3時間半、それまで平坦だった風景に大きな岩が現れ始める頃、目指す建築へたどり着く―——

田んぼに突然現れる巨石

建設の背景

ロックバンガローとも呼ばれるポロンタラーワ・エステート・バンガローは、スリランカ北西部の乾燥地帯ニカウェラティヤにあった人里離れたココナッツ農園の管理人邸として建てられました。

環境保護の先駆者であった依頼主

このバンガローの依頼主は、スイス系スリランカ企業バウアーズ社(A. Baur & Co.)のティロ・ホフマン(Thilo Hoffmann)。1897年創業のバウアーズ社は、スリランカにおいて肥料・農薬・種子・動物用医薬品・医療・消費財・工業製品・教育・航空など多岐にわたる分野に事業を広げており、特にココナッツ栽培における科学的な肥料施用の草分け的存在として世界的に知られています。

ティロ・ホフマンは、シンハラージャ森林をはじめスリランカ国内の自然保護運動を牽引し、市民運動を通じて政府の方針を変えた環境保護の先駆者であり、外国人でありながらスリランカの自然を守り続けた人物です。

バワとの出会いと設計の着想

バワと親交のあったホフマンは、1959年にロンドンで開催された「理想の家」展示会に出展されていたプレハブ住宅に倣った家を希望していました。バワとバワの設計パートナーであったウルリク・プレスナーは当初、過去にアヌラーダプラで設計した住宅に似たプランを提示しましたが、現地視察を経て、巨石が点在する敷地の一角への建設を提案。家は複数のユニットに分けられ、それらが岩の間に配置され、岩そのものを構造要素に取り込むアイデアでした。

独創的な建築手法-図面なしで現地で生まれるデザイン

建物は設計図をもとに建てるという一般的な手順ではありませんでした。
バワとプレスナーは図面を描くかわりに、現地で巨石のスケールや安定性、光や風の流れを実感しながら、棒と紐を頼りに実寸で空間を探り、地元の労働者たちやクライアントと共に、設計しながら建てるという手法で建物を生み出していきました。
完成後の1967年になって初めて敷地図が作成されています。

建物の構成と素材

バンガローの周囲には広大なオープンスペースが広がり、粗石の塀が岩や大木のあいだを縫うように外周を囲みます。屋根付きの小さな門をくぐると、2つの巨石の間を抜けて東側から敷地に入り、3方が開けた長いリビング空間に至ります。

象徴的なリビング・分棟形式の配置

このリビングはベランダとしても機能し、両端の巨石にかかるコンクリートの大梁の上に切妻屋根が載せられており、リビング空間を中心に、寝室やキッチン、事務所などが分棟形式で配置されているのです。壁には現地の粗石、屋根にはテラコッタ瓦、屋根を支える構造には地元の木材が使われています。

高低差を活かした立面構成

ダイナミックなリビングが印象に残る一方で、実際に訪れてみると、寝室やキッチンのある棟が図面から想像する以上に豊かな空間であると感じました。
それは単なる平屋ではなく、巨石により高低差のある敷地をうまく活用しており、立面構成にも工夫が凝らされていることがわかります。

以前は宿泊もできたというかつての寝室は、枕元に大きな岩がせり出して宙に浮かんでいるかのよう。外側から見ても不思議な印象で、建築よりも岩が先にそこにあったことを思い出させてくれます。

自然と建築の一体化

トロピカル・モダニズムの特徴

このバンガローには、バワが提唱したトロピカル・モダニズムの特徴が随所に見られます。自然環境に極力手を加えず、敷地の岩をそのまま建築に取り込み、内外の空間が連続的につながる構成により、人工と自然のあいだに密接な関係を築いているのです。

古代スリランカの岩窟建築とのつながり

また、この構成はダンブッラの石窟寺院やシーギリヤ要塞などの古代スリランカの岩窟建築を想起させるもので、バワ自身も影響を受けていることが見て取れます。建物全体がまるで地面から「生えてきた」ような印象を与えます。

建設年とバワ初期作品としての位置づけ

バンガローの建設は1963-65年に行われました。バワが手がけたスリランカ初のリゾートホテル「ジェットウィングラグーン」の建設1965-66年よりも前のことです。
このバンガローはバワの初期の作品であり、その後の「ジェットウィングライトハウス」や「ヘリタンスカンダラマ」での岩をそのまま建築に取り込んだ空間をはじめとした、自然と建築が一体となるバワの建築思想を垣間見ることができます。

現在の保存状況と見学方法

1972年の土地改革法の後、ポロンタラワ・エステート・バンガローとその周辺は1974年にスリランカ畜産開発庁に引き継がれました。現在このエステートは農場およびオフィスとして使われていますが、バンガロー自体はほぼ当初の状態で保存されています。

階段を上るとオフィス

見学はメールによる事前予約制で、料金は一人6,052ルピー(HP載記金額よりも値上げされています。2025年5月現在)。他の観光地とは離れておりアクセスしにくい場所ですが、建築好きには魅力的な見どころがあるでしょう。

【住所】Polonthalawa Farm, Dambadeniya
【WEB】National Livestock Development Board – Polonthalawa Bawa Bungalow
【Mail】nldbcircuit@gmail.com
【TEL】+94 373 169 820 (バンガロー)
    +94 112 501 701 / 702 (ヘッドオフィス)

【営業時間】 平日 8:30-16:15
【見学について】メールによる事前予約制
【料金】一人Rs.6,052(現金のみ)
【アクセス】コロンボから車で3時間半
      観光地ではなく、近くまで行く鉄道等もないため、カーチャーターがおすすめです。