スリランカ駐箚日本国特命全権大使の水越英明氏にインタビュー
スリランカ駐箚日本国特命全権大使の水越英明氏にインタビューを行いました。
大使・大使館の役割から、現在日本が中心的な役割を担っている債務問題、スリランカと日本の今後の関係などについてお話を伺いました。
大使・大使館の役割
大使の仕事について教えてください。
日本とスリランカの友好関係を深めることが最も重要な仕事です。国と国との関係には意見が一致しない問題が生じることもあり、何か問題があれば抗議することもありますが、基本はその国との友好関係を深めることです。その結果、国連等国際機関の選挙や、国連決議で賛成票を集める際に協力してもらえる国、友好国が増えることは大事なことです。
米・韓・仏とスリランカの日本国大使館で違いはありますか?
スリランカと過去に勤務した米国、韓国、フランスとの大きな違いは、発展途上国であるスリランカでは政府開発援助(ODA)関連業務が大きなウェイトを占めることです。ODAプロジェクトを実行して、それを広報し、日・スリランカ関係を深めることが仕事において重要になってきます。
スリランカとカンボジアはともに日本のODAが紙幣になっていますが、カンボジアの方が知られているように感じます。
カンボジアにおける日本の貢献は大きく、特に国連カンボジア暫定機構が自衛隊にとって初めてのPKOとなったことが印象深いのではないでしょうか。その後の復興に際して行ったODAがカンボジアの紙幣に描かれています。
カンボジア和平に取り組まれた明石康さんはスリランカでも和平のための日本政府代表に選ばれて活躍されました。残念ながら、スリランカ内戦は明石さんが目指した和平ではなく、スリランカ政府軍がタミルの過激派テロ組織を壊滅することで終戦となったこともあり、日本では明石さんのスリランカでの和平の取り組みはそれほど知られていないかもしれません。
一方で、明石さんの和平に向けた取り組みは大統領を含むスリランカの要人の中では、公平で真摯なものであったと認識されています。スリランカ政府側だけでなく、タミル人からも公平で誠実なものであったとの高い評価を得ています。明石さんは、スリランカ政府から外国人に授与される最高位の勲章であるスリランカ・ラトナ勲章を受賞されています。
スリランカにおいても、終戦後の復興に役立っている日本のODAは高く評価されており、スリランカの紙幣(20ルピー、50ルピー、1000ルピー)にも描かれていることは、多くの人に知っていただきたいです。
外務本省ではなく、在スリランカ日本国大使館だからこその動きとは?
本省は予算や大きな外交方針を決めますが、その過程で、在スリランカ日本国大使館から様々な意見や提案を本省に伝えます。
現地の実情に対する知見や現場での人脈を有する大使館があることで、本省の政策立案や予算策定が現実に即したものになるように働きかけることができます。
また、緊急支援が行われる際などには補正予算を使いますが、現地の政府や国際機関との連携が不可欠ですので、スリランカ政府や国際機関の人たちとも相談して本省に提案してい
水越大使は大変活動的であると評判です。
日本とスリランカの役に立つと思うことは、ためらわずに積極的に取り組むようにしています。色んな人と会う中でアイディアが醸成されますが、それを形にしていきたいと思っています。実行することで起きるかもしれない失敗を心配するよりも、実行することで得られる可能性を重視しています。
また、具体的なことで結果を出したいとも思っています。昨年合意した温暖化ガスに関する二国間クレジット制度の協定交渉は、私がスリランカに赴任するまでしばらく止まっていました。スリランカに限らず、各国にはそれぞれの国内事情があり、物事が思うように進まないこともあります。そのような時に、誰に対してどのようにアプローチすれば事態を打開できるかと、日本大使として果たせる役割を考え、具体的な成果につなげていくことを心がけています。
他国の在スリランカ大使館とも交流をされますか?
外交団の一員として、各国の大使館とも日々交流しています。
国祭日レセプションのような社交の場だけでなく、問題意識を共有する友好国との間で特定の課題について話し合うこともあります。
債務問題とスリランカの将来
債務問題で日本が中心的な役割を担うことになり、スリランカ政府との関係に変化はありましたか?
スリランカが日本をとても頼りにしていることを感じています。スリランカが日本を重視しているのは、日本が危機に及んで手を差し伸べているからでしょう。
スリランカと日本の関係はどうなっていくのが理想的でしょうか?
スリランカの国民感情は日本に対して良好であり、課題はビジネス関係でしょう。経済的な結びつきがあると、両国の関係に厚みが出てきます。一度決まったプロジェクトがキャンセルされたり、許認可が複雑であったり、透明性に欠けるなど、日本企業がビジネスに二の足を踏んでしまう状況があります。
現在スリランカはIMFの支援を受けていますが、IMFの合意に基づいて解決しないといけないことが多くあります。端的に言えば、それはガバナンスの強化、汚職の問題です。
それらを解決しなければ、IMFから資金が得られないということもありますが、スリランカの将来にとっても重要な課題です。日本としては、スリランカに対して支援をしながら必要な注文もつけていくというスタンスです。
スリランカの魅力は何でしょうか?
自然・文化と観光資源が豊富なことが魅力だと思います。観光の観点からいうと、ジェフリー・バワの影響もあり、画一的でないクリエイティブなホテルがたくさんあります。海辺のリゾートは世界どこに行っても同じようなものが多いと感じますが、スリランカのリゾートホテルは個性豊かで魅力的です。
任期中に実現したいことはありますか?
債務問題の解決に目処をつけてもらいたいと思っています。債務問題が解決することで再開する活動が色々とあります。円借款のプロジェクトはスリランカからの返済がないため、止まってしまっています。
スリランカはこれまでもIMFの支援を何度も受けていますが、一旦山を越えると途中でやめてしまうことを繰り返してきました。IMFとの合意には財政の引き締めがあり、それは国民への負担増にもつながります。「外国から押し付けられた合意で、なぜ苦しまないといけないのだ!」と考えてしまうこともあります。ただ、またしても途中でやめてしまうと、結果的に外国投資が入ってこず、長期的には得になりません。
スリランカの中には様々な立場の方々がいらっしゃいますが、国の将来について党派的な議論ではなく、専門家や現場の声を大事にしながら、客観的な議論がなされることが大切だと感じます。
インタビュー日:2023年10月20日(金)
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「旅と町歩き」を仕事にするためスリランカへ。
地図・語源・歴史・建築・旅が好き。
1982年7月、東京都世田谷区生まれ。
2005年3月、法政大学社会学部社会学科を卒業。
2005年4月、就活支援会社に入社。
2015年6月、新卒採用支援事業部長、国際事業開発部長などを経験して就職支援会社を退社。
2015年7月、公益財団法人にて東南アジア研修を担当。
2016年7月、初めてスリランカに渡航し、会社の登記を開始。
2016年12月、スリランカでの研修受け入れを開始。
2017年2月、スリランカ情報誌「スパイスアップ・スリランカ」創刊。
2018年1月、スリランカ情報サイト「スパイスアップ」開設。
2019年11月、日本人宿「スパイスアップ・ゲストハウス」開始。
2020年8月、不定期配信の「スパイスアップ・ニュースレター」創刊。
2023年11月、サービスアパートメント「スパイスアップ・レジデンス」開始。
2024年7月、スリランカ商品のネットショップ「スパイスアップ・ランカ」開設。
渡航国:台湾、韓国、中国、ベトナム、フィリピン、ブルネイ、インドネシア、シンガポール、マレーシア、カンボジア、タイ、ミャンマー、インド、スリランカ、モルディブ、アラブ首長国連邦、エジプト、ケニア、タンザニア、ウガンダ、フランス、イギリス、アメリカ
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