ダンバデニア王国時代の伝承をまとめた絵本『王への道 エレファントロックの伝説』
ダンバデニア王国時代に都が置かれたダンバデニア、ヤーパフワ、クルネーガラに関する伝説をまとめた絵本『王への道 エレファントロックの伝説』を紹介します。
以下の3つの旧王都に関連する伝承をまとめた絵本です。
・シーギリヤのように、宮殿が岩山に築かれたものの一代しか王都でなかったヤーパフワ
・宮殿が岩山に築かれたかどうか定かでありませんが、4人の王が都とした巨大なエレファントロックがあるクルネーガラ
・3人の王が都としたダンバデニア
世界遺産に登録された旧王都に比べて、あまり知られていない旧王都を知るきっかけにもなればと思います。
目次
映画にもなった伝承
この絵本が発行されたのは、2010年5月です。
著者は沖縄大学名誉教授のディリープ・チャンドララール氏。
同じ題材で、2013年に映画「Siri Parakum」が公開されています。
監督は映画賞を多数受賞しているソマラトネ・ディッサナヤ氏です。
スリランカの観光地を紹介しているウェブサイト「Amazing Lanka」にも、物語の舞台となっているカルンダワの村にある寺院と、伝承について紹介されています。
Amazing Lankaは基本は映画に沿った内容で伝承を記載しています。
主な登場人物
伝承にはいくつかのパターンがあるのか、絵本と映画(ウィキペディアの解説)で内容が少し異なります。
物語の内容は絵本をご覧いただければと思いますが、以下に主な登場人物について記載します。
ダンバデニア国王とアップワ王子
主人公はアップワ王子です。
絵本では、アップワ王子の父親はヤーパフワに王宮を築いたブワネカバーフ1世となっています。
その場合、アップワ王子はパラークラマバーフ3世となります。
映画では、アップワ王子の父親はダンバデニア建国の王ヴィヤバーフ1世となっています。
その場合、アップワ王子はパラークラマバーフ2世となります。
非仏教徒の王妃とワッツヒミ王
王は仏教徒ではない女性を王妃に迎え、その子がワッツヒミ王です。
絵本では、ムスリム系の女性となっています。
映画では、非仏教徒の女性となっています。
Amazing Lankaでは、ムスリムの女性となっています。
戦争と暗い旗
絵本で父王が戦うのは、他の国の王子アグボとなっています。
映画では父王が戦うのは、ジャフナ王国を建国したカリンガマガーとなっています。
父王は戦争で勝利した際には白旗を、負けた際には黒旗を掲げると言っていることは絵本も映画も共通しています。
ただ、黒い旗を持ってきた人物が絵本と映画で異なります。
絵本では、使いの者が勝利の嬉しさにトディを飲み、ふざけて黒旗を掲げたとなっています。
映画では、ムスリムの王妃が自分の息子に王位を継承させようと、王妃が黒旗を掲げています。
岩山からの投身自殺
絵本でも映画でも岩山から父王の人々が飛び降り自殺したとなっています。
絵本では、その岩山はヤーパフワロックになっています。
映画では、その岩山はエレファントロックになっています。
洗濯カーストの女性
絵本でも映画でも、幼いアップワ王子を守って逃走するのは洗濯カースト「ドビ」の女性です。
絵本では、ハディパンナラ村の村長に預けられ、続いてカルンダワ村の村長にアップワ王子は預けられます。
映画では、仏教僧が洗濯カーストの女性に逃亡するように指示し、女性はカルンダワ村に到着します。
姉カルエタナと妹シリマルエタナ
絵本でも映画でも、アップワ王子は預けられた家の娘二人と共に育てられます。
絵本とAmazing Lankaで共通していますが、最初に姉カルエタナと結婚の話になりますが、姉は洗濯カーストの息子とは結婚しないと断り、妹シリマルエタナは承諾します。
鍛冶屋
シリマルエタナと結婚したアップワ王子は、農業のために鍬が必要となり、鍛冶屋を訪れます。
鍛冶屋は注文を受けてくれませんでしたが、アップワ王子は自ら素晴らしい鍬を完成させます。
この部分は絵本と映画で共通しています。
ワッツヒミ王の殺害
絵本では、国民に人気があったワッツヒミ王を、ムスリム女性の子であることから大臣たちが嫌い、ピリットの儀式を行い、ワッツヒミ王はエレファントロックから転落死します。
映画では、仏教僧がプージャを行い、ワッツヒミ王は崖から転落死します。
ゾウ
次の王を誰にするのかは王家の象に託され、ゾウによってアップワ王子が王に選ばれ、シリマルエタナは王妃になります。
この部分は絵本も映画も共通です。
時代背景と伝承の内容
シンハラ王朝は、カリンガ・マガーによってポロンナルワを追われた後、ダンバデニア、ヤーパフワ、クルネーガラと短期間で遷都を繰り返しています。
ダンバデニア王国の2代目王のパラークラマバーフ2世の治世に、スリランカの北部はマレー半島のタンブラリンガ国の支配を受けています。
これが王がムスリム女性と結婚した逸話となっているのかもしれません。
ウィキペディアを参照すると、ヤーパフワに宮殿を築いたブワネカバーフ1世のあとは、19年間の空位になっています。
また、パラークラマバーフ2世の長男は大臣に殺害され、それを受けて王位を継承したブワネカバーフ1はヤーパフワに遷都しています。
ダンバデニア王国の何人かの王の話を合わせた話になっているのかもしれません。
映画の設定では、主人公の王子は、後のダンバデニア王国の最盛期のパラークラマバーフ2世で、父王は建国の王ヴィヤバーフ1世です。
映画は実績を残した王を主人公にしたのかもしれません。
著者は沖縄大学のチャンドララール教授
著者は1952年スリランカ生まれで、沖縄大学名誉教授のディリープ・チャンドララール氏。
チャンドララールさんは1983年に国費留学生として来日。
1992年、神戸大学大学院文化学研究科博士課程修了後、同大学院の研究科助手に。
1998年、沖縄大学に助教授として着任。
2002年、沖縄大学人文学部教授に。
2013年、沖縄大学副学長に就任。
2018年、沖縄大学名誉教授に就任。
専門は言語学。
2010年7月、沖縄スリランカ友好協会を立ち上げ会長に就任。
2020年1月、特定非営利活動法人日本スリランカ次世代育成サポートを設立し、理事長に就任。
2021年4月、ポルガハウェラにKibou International College & Vocational Training Instituteを設立。
チャンドララールさんにお会いした際に、「Kibou International College & Vocational Training Instituteは、詰め込み型・受験突破型ではなく生徒たちの学ぶ力を引き出す学校」とおっしゃっていました。
チャンドララールさんはその他、水道・井戸がない村に貯水タンクを作る「命の水プロジェクト」などにも取り組まれています。
参照)
沖縄スリランカ友好協会ブログ
NPO法人日本スリランカ次世代育成サポート公式サイト
内閣府:NPOホームページ 特定非営利活動法人日本スリランカ次世代育成サポート
琉球新報:スリランカに日本型教育 県内団体開校、共感力育む かりゆしウエアで授業も
Kibou International College & Vocational Training Institute
SDGs OKINAWA:特定非営利活動法人日本スリランカ次世代育成サポート
沖縄羅針盤:沖縄大学名誉教授 ディープ・チャンドララールさん
Amazing Lanka:Kalundawa Sri Sudharmarama Tampita Rajamaha Viharaya
Wikipedia:List of Sri Lankan monarchs
ウィキペディア:ダンバデニヤ
Wikipedia:Yapahuwa
Wikipedia:House of Siri Sanga Bo
Wikipedia:Vijayabahu III of Dambadeniya
Wikipedia:Parakramabahu II of Dambadeniya
Wikipedia:Siri Parakum
Wikipedia:Vijayabahu IV of Dambadeniya
Wikipedia:Bhuvanaikabahu I of Dambadeniya
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「旅と町歩き」を仕事にするためスリランカへ。
地図・語源・歴史・建築・旅が好き。
1982年7月、東京都世田谷区生まれ。
2005年3月、法政大学社会学部社会学科を卒業。
2005年4月、就活支援会社に入社。
2015年6月、新卒採用支援事業部長、国際事業開発部長などを経験して就職支援会社を退社。
2015年7月、公益財団法人にて東南アジア研修を担当。
2016年7月、初めてスリランカに渡航し、会社の登記を開始。
2016年12月、スリランカでの研修受け入れを開始。
2017年2月、スリランカ情報誌「スパイスアップ・スリランカ」創刊。
2018年1月、スリランカ情報サイト「スパイスアップ」開設。
2019年11月、日本人宿「スパイスアップ・ゲストハウス」開始。
2020年8月、不定期配信の「スパイスアップ・ニュースレター」創刊。
2023年11月、サービスアパートメント「スパイスアップ・レジデンス」開始。
2024年7月、スリランカ商品のネットショップ「スパイスアップ・ランカ」開設。
渡航国:台湾、韓国、中国、ベトナム、フィリピン、ブルネイ、インドネシア、シンガポール、マレーシア、カンボジア、タイ、ミャンマー、インド、スリランカ、モルディブ、アラブ首長国連邦、エジプト、ケニア、タンザニア、ウガンダ、フランス、イギリス、アメリカ
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