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トヨタランカ会長・スリランカ日本商工会会頭の四倉佐知夫氏にインタビュー

2024年9月19日

スリランカ政府は2020年3月に外貨不足による自動車輸入制限をはじめ、一部緩和されたものの消費者向けの乗用車の輸入は停止された状況が4年以上も続いています。そのような状況下にありながらも、トヨタランカ(豊田通商スリランカ法人)は事業を拡大しています。

なぜ、経済危機下でありながらもトヨタランカは成長し続けることができているのでしょうか。その秘訣をトヨタランカ会長であり、スリランカ日本商工会会頭である四倉佐知夫氏にお話を伺いました。

四倉佐知夫氏プロフィール

1983年 大学卒業後、株式会社トーメン入社
1983~86年 サウジアラビア駐在
1995~98年 イラントーメン社 駐在
2004年 自動車第二部 部長
2006年 豊田通商株式会社と合併
2008~13年 アフリカ自動車部 部長
2013~17年 トヨタケニア社 社長、理事
2017年 日野自動車部 部長、理事
2018年 カスタマーサービス部 部長、理事
2020~現在 トヨタランカ社 会長、理事

経済危機下における力強い事業拡大

Q.なぜ、スリランカの経済危機下でもトヨタランカは事業拡大できているのでしょうか。

自動車の輸入販売事業(総代理店)は、3S を統括する本社(ディストリビューター)部門と、お客様に3Sを提供するリテール(ディーラー)部門があります。3Sとはセールス(車両販売)、スペアパーツ(部品供給)、サービス(メンテナンス・修理)という3つの機能を指します。

本社に加えて全国に18の支店を構えて事業を展開しています。トヨタランカ社は、トヨタグループの中でもアフターサービスの品質が高い優良代理店として、これまでゴールドアワードを8回受賞してきました。このアフターサービスの強固な基盤とネットワークが経済危機下でも成長の原動力になっています。

トヨタランカ社の強みは危機管理能力の高さにもあります。コロナ禍のロックダウンや経済危機による電力・ガソリン不足などの困難な状況に直面しても、各政府機関と連携し、救急車両や警察車両への継続的なメンテナンス・サービスを提供し続けました。また、ロックダウン中でも新聞社の配送トラックに部品を混載させてもらい、移動許可を利用して毎朝地方への部品供給を維持するなど、独自の工夫でサプライチェーンを確保しました。このような危機を逆にチャンスと捉え、サービス品質の向上や環境変化に対応したサービスメニューを提供することで、お客様からの信頼をさらに強化し、入庫台数や部品販売を伸ばすことができたものと思います。

経済危機の中、多くの企業が人員削減や事業縮小を行う中で、弊社は地方への拠点展開やトヨタ車以外にもアフターサービスを提供するマルチブランドサービスの子会社を設立し、ネットワークとバリューチェーン事業の拡大に取り組んできました。

スキルの高いスリランカ人技術者

Q.スリランカ人技術者はスキルが高いと伺いましたが、どんな点で優れているのでしょうか。

弊社には「トヨタ・ランカ・オート・アカデミー(TLAA)」という教育機関があり、トヨタの教育プログラムに沿った技術者および各部門の専門家の育成を行っています。トヨタ本社で教育を受けたテクニカルインストラクター3名が在籍し、スリランカ国内だけではなく、周辺アジア諸国の技術者に対しても教育を提供する、地域のトレーニングセンターとしての役割を果たしています。

トヨタのプログラムでは4等級の整備士資格があり、トヨタランカ社には1等級(日本の整備士1級レベル)保有者が20名以上います。以前駐在した他国代理店では数名でしたので、スリランカはスキルレベルが高いと言えます。スリランカ人整備士は英語のマニュアルをしっかり読みこなし、手先の器用さや、勤勉さ、誠実さ、学びに対する意欲が強いのが特徴です。

しかし、今回の経済危機では熟練技術者の国外流失(英国、豪州、北米、中東などへの流失)が大きな課題となりました。そこで、グループ内の海外代理店に一定期間派遣する制度を新設し、8月から3名の技術者をフィジーの代理店に派遣する予定です。

また、TLAAは職業訓練校や大学の生徒を年間150名ほど受け入れ、1~2年間のOJTを実施しています。これらの生徒さんたちを見ていると、教育水準の一定の高さと勤勉さを感じます。TLAA修了生5名が8月から日本の技能実習制度で日本に派遣される予定です。スリランカの海外送金収入への貢献や若者の就労支援、そして彼らの夢の実現をサポートできるよう、今後も支援を続けて行きたいと思います。

モビリティカンパニーへの変革と新規事業の立ち上げ

Q.新規事業を次々に立ち上げられていますが、事業立ち上げにおいて着目されていることは何でしょうか。

トヨタ自動車は、モビリティカンパニー(単なる自動車メーカーではなく、移動に関するあらゆるサービスを提供する会社)への変革を目指しています。その一環として、日本では東富士に建設中の実証都市「ウーブン・シティ」で、様々な企業と協働して人・モノ・情報を対象とした未来のモビリティサービスの仕組みを検証する試みを行おうとしています。

スリランカではこのような大きな取組みはできませんが、この国の環境や事情に合わせた将来のモビリティサービスの仕組み作りを進めるため、中古車流通の清流化やオンラインプラットフォームの開発によるエコシステム確立、ソーラーパネル設置やHEV・EV導入によるカーボンニュートラルへの取組み、配車サービスや物流ソリューション事業の検証などを行っています。トヨタランカ社は大型の物流・配送拠点であるフルフィルメントセンターを運営しており、この機能を更に進化させ、Eコマースやシームレスな物流事業の開拓も視野に入れています。

4月には「トヨタランカビジネスフォーラム」を開催し、当国の政府機関、金融機関、主要企業(同業者を含む)のトップ500名を集めて、弊社の目指す未来の方向性を共有し、モビリティコミュニティの実現に向けたビジョンを発信しました。その実現は1社単独ではできず、業界の枠を超えたパートナーシップが不可欠です。「皆さん、一緒に取り組みましょう!」というメッセージを発信したところ、フォーラム後にはいろいろなところから共鳴・賞賛の声をいただきました。

長期目標「Vision 2030」とTQMの導入

Q.これからの会社経営で重点をおいている点を教えてください。

「経営の現地化」と「経営品質の向上」に最も力を注いでいます。トヨタランカ社は、スリランカ人によるスリランカ国のための企業であると考えています。そのため「Vision 2030」という長期目標を掲げ、将来の成長とその達成に向けて、人財育成と持続可能な経営体制の構築を目指しています。その手段として、昨年から2年計画でTQM(Total Quality Management/総合的品質管理)を導入する取り組みを進めています。

TQMはトップダウンで行う方針管理と、ボトムアップで行う日常管理、QCC活動があります。トヨタランカ社では、ナショナルスタッフがこの両方のアプローチでPDCAサイクルを回しながら、自発的に業務を管理・改善していく組織風土を醸成しようとしています。このTQMが社内に定着することがVision 2030の達成に大きく寄与すると信じています。

またトヨタのDNAを次世代に継承していくために、昨年「トヨタランカ・ヘリテージ・センター」を開設しました。トヨタ自動車とトヨタランカ社の歴史、そして先輩達が苦難を乗り越えて築き上げてきた軌跡を展示しています。さらにVison 2030への成長軌道を描き、スタッフには「この先のチャプターを描くのは皆さんです」とメッセージを伝え、未来への意識を高めています。

日本からのインターン生の受入

Q.日本からインターン生を受け入れられていますが、インターン生にはどんなことを期待されていますか?

これまでに、スパイスアップさんの仲介で3名のインターン生を受け入れ、更に3名の受け入れを予定しています。インターン生は大学生や社会人経験者など多様なバックグラウンドを持ち、海外で新規事業やマーケティングの経験を積むことを目的に来ています。言葉や文化も異なる国に飛び込んで来て、情熱を持って業務に取り組む皆さんの意欲と志の高さには本当に驚いています。担当いただいている新規事業の立ち上げには、既存のビジネスモデルにとらわれない若者の自由な発想とアイデアが欠かせません。トヨタウェイを学びながら、是非次世代の事業構築に貢献していただければと期待しています。

参考)

トヨタランカ(豊田通商)の新規事業立ち上げインターン募集!

スリランカ商工会会頭としての役割

Q.スリランカ日本商工会会頭としての役割、活動内容について教えてください。

現在、日本商工会の会員企業数は81社です。商工会はスリランカに進出している日本法人の事業活動を円滑にして、両国間の経済関係の緊密化とスリランカの経済発展に寄与することを目的としています。

主な活動としては年間5回、定例会を開催し、スリランカの経済・政治・社会情勢や会員の皆さんが直面する課題について、セミナーや情報交換を行っています。また、大使館さんのご支援を得て賀詞交換会や、スリランカ商工会との交流、企業視察、最近は開催されていませんが官民合同フォーラムの企画等も含まれています。

会頭はこれらの活動を主導する役割を担っていますが、JETROさんが事務局を務めてくれており、大変助かっています。

しかし、経済危機によりODA案件が停止してしまい、2年ほど前から建設会社の方々の引き揚げが続き、建設部会は休眠状態となっています。早期のODA再開とプロジェクト関係者の皆さんの復帰を心から期待しています。

スリランカの魅力と可能性

Q.100ヶ国以上見てこられた四倉さんから見た、スリランカの魅力と可能性はどんなところにありますか。

スリランカは島国で仏教国なので、文化や国民性において日本に似た一面があります。例えば、自分の国が海外からどう見られているかを強く意識する点、家族を大切にし、年功序列で目上を敬う点などは日本と共通しています。皆さん穏やかでフレンドリーでおしゃべりも大好きですね。とても親日的で治安も良いので、日本人としては働きやすい場所だと思います。

「インド洋の真珠」と言われるスリランカは、環インド洋地域の地政学的・戦略的要衝に位置し、同域内の物流ハブとしての成長を目指しています。港湾を含め、この優位性を活かした企業誘致や産業育成政策が、将来の成長へのキーになると考えています。

また、スリランカというと紅茶、カレーのイメージを持たれることが多いですが、文化遺跡、豊かな自然、アーユルヴェーダなど、観光資源も豊富にあります。観光産業は重要な外貨収入源であり、インフラの整備を含めて開発と成長の余地はまだ大いにあります。米メディアCEOWORLD magazineが発表した「World’s Best Countries to Visit in Your Lifetime, 2024」ではスリランカは第5位にランキングされていますので、観光関連産業のポテンシャルは大きいのではないでしょうか。

取材日:2024年8月1日、トヨタランカ本社にて

 

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