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日本の三大発明品の一つ「亀の子束子」の原料はスリランカ産

2022年7月01日

日本の三大発明品の一つとされる「亀の子束子」の主な材料はスリランカのココヤシから取れるココナッツファイバーです。

亀の子束子の特許を持つ亀の子束子西尾商店は、スリランカにも工場を持っていて、たわし作りは機械化はせずに、明治時代から続く職人の技によって、一つ一つ丁寧に作られています。

亀の子束子は2013年にグッドデザイン・ロングライフデザイン賞を受賞し、2014年までの累計販売個数は約5億個以上と、100年を超えるベストセラー商品です。

本記事では、そんな亀の子束子から、日本とスリランカの関係を見ていきます。

日本の三大発明

日本の三大発明品は以下の3つと言われています。

-パナソニック創業者の松下幸之助が発明した「二股ソケット」
-アサヒシューズ2代目社長の石橋徳次郎(ブリヂストン創業者の兄)が発明した「貼り付け式足袋(地下足袋)」
-亀の子束子西尾商店の創業者・西尾正左衛門が発明した「亀の子束子(たわし)」

二股ソケットは松下幸之助が発明したものではないそうですが、普及させたのは松下幸之助であるということで、三大発明に名を連ねています。

ゴムを足底に貼り付けた足袋(地下足袋)は、ブリヂストン創業者の石橋正二郎が発明と記載されている記事もありますが、発明したのは日本足袋(現・アサヒシューズ)の社長だった兄・徳次郎です。
弟の正二郎は日本足袋のタイヤ部門を分社化させて、ゴム製造の技術をタイヤに活かしてブリヂストン(石橋の名を英語にした社名)を創業しています。

そして、現在も会社の主力商品として亀の子束子を販売しているのが、亀の子束子西尾商店です。

本来、たわしは繊維を束ねた掃除道具の総称のことで、藁や縄を束ねた掃除道具だったそうです。
亀の子束子が普及したことで、たわしといえば亀の子束子と言われるまでになります。

この日本三大発明は、「大正期の三大ヒット商品」とも言われますが、亀の子束子が誕生したのは明治40年(1907年)です。
翌、1908年(明治41年)に実用新案を取得し、「亀の子束子」の名前と亀のマークを商標登録し、
1915年(大正4年)7月2日には「束子」で特許を取得しています。

これに因みに、7月2日は「たわしの日」に定められています。

棕櫚(シュロ)製の足拭きマットを発明

亀の子束子を発明した西尾正左衛門は、その前にも発明を行っています。
それがシュロを使った靴拭きマットです。

シュロは日本に広く分布しているヤシ類の一種です。

本郷区真砂町(現・文京区本郷)で育った西尾正左衛門は、母が編んでいたシュロを見て、針金で巻いた新型の靴拭きマットを思いつき、商品として開発します。

それまでの縄を編んだ靴拭きマットと違い、ブラシのように泥を削り取ってくれるという代物です。
当時は道路が舗装されていないため、靴についた泥を落とすことのニーズが今よりもありました。

ところが、シュロの繊維は柔らかいため、靴拭きマットは何回も使用したり、体重の重い人が乗ると毛先がつぶれて効果がなくなるという欠点があり、返品されることもあったそうです。

棕櫚製の「たわし」を発明

妻(西尾やす)が障子の桟を掃除するために、靴拭きマットの棒シュロを曲げて掃除をしているのを見て、正左衛門は洗浄用の道具を作ることを思いつきます。
そして、商品化されたのが亀の子束子です。

藁や縄を束ねた「たわし」は、洗う道具として使われていましたが、針金で巻いた棒状のシュロを洗浄用に使うのは初めてだったそうです。

手に持って洗い物に使う用途なら、靴拭きマットと違って毛先が簡単につぶれることもありません。

1907年(明治40年)、32歳の西尾正左衛門は、棕櫚製の亀の子束子を発明し、亀の子束子西尾商店を文京区本郷で創業します。

この明治後期は西洋料理が広まり、動物性の脂汚れを落とすには従来の藁を束ねた洗浄具では不十分でした。
脂を落とし、繊維を針金でひねっているので、ほどける心配もない亀の子束子はヒット商品となります。

亀の子束子と命名

実用新案に提出する際の名前を考えていた正左衛門は、

「お父さん、見て見て!亀が水のなかを泳いでいるよ!」という息子の声を聞いて、亀を見ます。

たわしが水の中で浮いていた様子が、亀の甲羅に見えたそうです。

亀は長寿で縁起がよく、形も似ていて、水に縁があるということで、亀の子束子と命名します。
「子」は親しみやさすを込めてたmので、
「たわし」の漢字は当時の漢学者に相談して「束子」とあてはめてもらったものだそうです。

スリランカ産のヤシ繊維に着目

1894〜1895年(明治27〜28年)の日清戦争、1904〜1905年(明治37〜38年)の日露戦争を経て、シュロ製品の需要は、軍の弾薬箱の手縄として大量に利用され、軍需増大によって原料が不足するようになります。

原料不足になったのは明治40年頃と言われていますので、まさに亀の子束子が誕生した頃です。

最初に中国産シュロが輸入されるようになり、その後、より安価なスリランカや東南アジアからココヤシの繊維(ココナッツファイバー)が輸入されるようになります。

亀の子束子西尾商店の沿革にも、創業の年に「南方繊維のパームに着眼し原材料として採用」と記載されているため、発明の段階ではシュロを使っていたようですが、創業して本格的な創業をした際には、スリランカ産のココヤシの繊維を使っていたようです。

亀の子束子西尾商店の生産拠点は現在、スリランカ工場・和歌山工場・新潟工場の3拠点です。

スリランカは安定的にココヤシ繊維が手に入るそうです。

亀の子束子西尾商店の束子の原料は、厳選された繊維を使っており、ココナッツ一つから束子1個分の材料がとれるかとれないか位だそうです。

1940年には太平洋戦争によってココヤシ繊維の輸入ができなくなり、一時的にシュロによる製作に戻っている時期があります。

関東大震災で現在地へ本社移転

1923年(大正12年)、関東大震災で店舗が倒壊したため、倒壊を免れた滝野川工場に本社を移転します。

現在の本社はつまり、関東大震災前に建てられた歴史的な建物なのです。
旧中山道沿いに建っているのも歴史を感じさせます。

最寄り駅は西巣鴨駅ですが、本社から旧中山道の北側に行くと、滝野川銀座(江戸時代には種子屋街道と呼ばれた)があります。

本社の一階は店舗になっていて、商品を購入することができます。
本社の建物の横に建っているのは、たわしの原料になるシュロです。

店舗の奥は事務所・検品工場となっていて、製品の検品が職人さんたちの手によって行われています。

シュロの一大産地「和歌山」に工場を新設

2011年、東日本大震災を受けて、スリランカ工場・新潟工場という生産体制を見直し、シュロの生産が昔から盛んであった和歌山に工場を新設しています。

2004年にはスリランカの沿岸部が大きな被害を受けたスマトラ沖地震も発生していたことから、国内での材料調達及び生産の強化の意味があったようです。

ちなみに、スリランカにはココヤシ、パルミラヤシ、キトゥルヤシの3つが主なヤシ類ですが、束子の原料に使われているココヤシが自生しているのは地震による津波被害が大きかった南西〜南部の海岸地帯です。

和歌山の野上谷(現・海南市、紀美野町)は、良質のシュロが採れたことからシュロから作るたわし、ほうき、縄の製造が盛んでした。
現在でも、スポンジやハンガー、炊事・洗濯・トイレ・風呂などに使う水回り品・家庭日用品において全国シェア8割を占めると言われ、100社ほどの中小企業があり、職人による伝統が生き続いています。

1885年(明治18年)には、和歌山県棕梠東京積同業組合(現・海南特産家庭用品協同組合)が設立されていて、昔ながらの棕櫚束子、棕櫚の座敷帚などは伝統工芸品にもなっています。

1916年に開業して、1994年に廃線となった野上電気鉄道は、たわしやロープを港のある日方町(現・海南市)へ運搬する目的で設立されています。

和歌山産のシュロで高級たわしを作る1948年創業のコーゾーがあるのも海南市です。

原材料のシュロと、シュロを扱う職人がいることから、和歌山を工場の新設の場所に選んだようです。

シュロだけではなく、紀州漆器、和傘の伝統もあり、古くから工芸の町だったようです。

因みに、亀の子束子西尾商店のように、ロングセラー商品である蚊取り線香「金鳥」を製造する大日本除虫菊の創業者・上山英一郎の出身地で、蚊取り線香を発明した有田市(当時は有田郡)は、南に隣接しています。

棕櫚たわし極〆

N4207

和歌山工場ができたことで、商品ラインナップに加わったのが、シュロから作る国産品である「棕櫚たわし極〆」のようです。

たわし専門店をオープン

2014年11月29日には世界初の「たわし専門店」を台東区・谷中にオープン。

2020年に銭湯をリノベーションしたSENTOビルへ移転し、カフェスペースを併設。

SENTOビルは、2008年に老朽化によって廃業した銭湯「宮の湯」をアートスペースやカフェの複合施設としてサイサイした複合施設です。

カフェスペースでは、近くのお店とのコラボレーションでオリジナルメニューが用意されています。

・やなか珈琲(亀の子ブレンドコーヒー)
・ボンジュールモジョモジョ(動物パン)
・サクセション(焼き菓子)

白いたわし

2015年、コラムニストの石黒智子さんとの共同開発で、モダンなキッチンに溶け込む「白いたわし」を発売しています。

白いたわしは従来の主力材料であるスリランカのココヤシ(パーム)を脱色したホワイトパームを使った「白いたわし ホワイトパーム」と、 サイザル麻を使った「白いたわし サイザル麻」があります。

ホワイトパームの白いたわし

過酸化水素水でヤシ繊維を脱色しているそうです。

過酸化水素水は漂白剤、殺菌剤として利用される化合物です。
過酸化水素水の発見者は顔料のコバルトブルーの発明、ホウ素の単離・発見でも知られる、フランスの化学者「ルイ・テナール」。

通常のヤシ繊維から作る束子よりも固く、亀の子束子西尾商店のラインナップの中でも、最も硬いものになるようです。

サイザル麻の白いたわし

サイザルアサの葉から採取した繊維で作ったのが「白いたわし サイザル麻」。

サイザルアサは竜舌蘭(リュウゼツラン)属の植物で繊維がロープなどによく使われます。
リュウゼツランはテキーラの材料になることで知られています。

アサの仲間ではないですが、歴史的に最も使われてきた繊維である麻に因んだ命名だそうです。
サイザルは、積み出しに使われていたユカタン半島のサイザル港に因みます。
サイザルとはマヤ語でZizal kin(涼しい場所)と呼ばれていたそうです。

この繊維は柔らかいのが特徴で、体を洗うのに使う健康たわしにも使われています。

健康たわし

入浴前に、そして体を洗うときに健康たわしを使って、体をマッサージする方法がウェブサイトに紹介されています。

健康たわしは硬さで4段階、ボディたわし・ひも付たわし・棒形たわしの3つの形状があり、合計12パターンの商品があります。

硬さは以下の通りです。

とてもやわらかい:麻
やわらかい:麻&シュロ
すこしかため:シュロ
しっかりかため:ホワイトパーム

つまり、これは和歌山工場でシュロ製束子を作り始め、白い束子を作り始めたことによってできたラインナップと分かります。

亀の子スポンジ

日本の棕櫚産業は、高度成長期に加工しやすい新しい原材料として、ナイロン、ビニール、テトロンが順に化学繊維が登場することで、台所用品の主役であった「棕櫚束子」が「スポンジたわし」へ、家庭電化製品の普及で掃除用具の主役であった「棕櫚の座敷帚」が「電気掃除機」へと、その座を受け渡す、時代の流れの影響を受けています。

そんな中、亀の子束子西尾商店は
2014年に亀の子スポンジを発売し、
2015年に亀の子スポンジDoを発売し、
2016年には亀の子スポンジが日本パッケージデザイン大賞2017で大賞を受賞し、マイナーチェンジも行っています。

銀イオン系抗菌剤に加えて、有機系防カビ剤をスポンジに練り込むことで「菌」だけでなく、「カビ(真菌など)」にも高い抑制・防止効果が生まれました。 

と会社のホームページには記載されています。

たわしの利用方法

・野菜についた土を洗い落としたり、薄皮を剥くとき
・スキレットなどの鉄鍋は、洗剤を使わずにお湯とたわしで汚れを落とすのが正しい洗い方
・ザルの目に入り込んでしまった汚れをしっかり落とすには硬いヤシのたわしが良い。
・木のまな板の汚れを落とすには、棕櫚たわしが良い。
・棕櫚たわしは、棕櫚が油分を含んでいるため、ワックス効果がある。
・テフロン加工のフライパンには、柔らかいサイザル麻の白いたわしが良い。

洗剤

洗剤も作っているようです。

環境にもやさしく安心と洗浄機能のバランスを考えて作られた台所用合成洗剤です。
「アルコール」「パラベン」「サルフェート系界面活性剤」は使用していません。

社長は5代目

現在の社長は5代目だそうです。

初代:西尾正左衛門さん
2代目:西尾慶太郎さん
3代目:西尾康太郎
4代目:西尾松二郎さん
5代目:西尾 智浩さん

まとめ

スリランカ産のココナッツファイバーが使われていると知り、気になって調べた亀の子束子。
商品ラインナップが増えていくようを調べているうちに、日本の棕櫚産業や、和歌山県の産業などにも触れることができました。

100年を超える企業の社史からは、日本の歴史が垣間見られるなと思いました。

原料であるヤシについては、以下の本を参照ください。

ココヤシ・キトゥルヤシ・アラックについて理解が深まる『ヤシ酒の科学』濱屋悦次 著

参照)

亀の子束子西尾商店「亀の子束子誕生秘話」
ニッポン・ロングセラー考Vol.001 亀の子束子
亀の子束子西尾商店「たわしの主な素材はパームやし」
亀の子束子西尾商店「たわしの種類」
亀の子束子西尾商店「たわしの作り方」
デイリー「たわしより先にたわしマットがあった?亀の子束子西尾商店にたわしの歴史についてうかがってみた」
GoodsPress [道具の定番]亀の子束子西尾商店の「亀の子束子」はたわしの元祖!スポンジもあります!
プレジデントオンライン「初めから決め過ぎなかったのが100年続いた理由です -亀の子束子西尾商店 亀の子束子」
労政時報の人事ポータルJiin-Jour 100年続く、本家本元のタワシ。課題は「長所の啓発活動」――株式会社亀の子束子西尾商店 代表取締役社長 西尾松二郎さん(上)
労政時報の人事ポータルJiin-Jour 安さだけで判断されたくない。「3倍長持ち」に込めた誇り――株式会社亀の子束子西尾商店 代表取締役社長 西尾松二郎さん(下)
ダイヤモンドオンライン 日本3大発明の1つ「亀の子たわし」が100年間も愛され続ける理由
ウィキペディア「亀の子束子西尾商店」
ウィキペディア「たわし」
日本文化研究ブログ「日本の三大発明とは?あまり知られていない日本の三大発明品の歴史」
亀の子束子西尾商店「白いたわし」
Favorite Style 楽天市場店「亀の子束子 白いたわし」
ウィキペディア「サイザルアサ」
ウィキペディア「シサル」
ウィキペディア「過酸化水素」
ウィキペディア「ルイ・テナール」
亀の子束子西尾商店「棕櫚たわし極〆」
海南の家庭用品「棕櫚について」
和歌山社会経済研究所「棕櫚(しゅろ)」を知っていますか? ~野上谷の棕櫚を訪ねて~
ウィキペディア「野上電気鉄道」
ウィキペディア「コーゾー」
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亀の子束子西尾商店「直営店(本店・谷中店)情報」
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