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ビール博物学を樹立したマイケルジャクソンのミリオンセラーの名著『世界のビール案内』

2021年12月04日

1982年に発行され、日本語版が発行された1998年時点で100万部のベストセラーに達した『世界のビール案内(原題:The New World Gudie to Beer)』。

この本には、ビール伝統国のヨーロッパ諸国から始まり、北米、中米、カリブ海、オーストラリア、ニュージーランド、アジア、アフリカのビールが紹介されていますが、アジアのページの冒頭には、ヤシ酒のトディ屋の写真3点が掲載され、4ページ目にはヌワラエリヤとキャンディの写真が4点掲載されています。

アジア諸国のビールの中で、スリランカのビールが代表的なビールとして紹介されていると言えることと、ビール以外のお酒について取り上げられているのはスリランカだけです。

それだけ特徴的、あるいは印象的だったのでしょう。

そこで、本記事では『世界のビール案内』の概要と、本書で記載されているスリランカのビールについて紹介します。

ビール作家のマイケルジャクソンとは?

世界中を回って各地のビールを研究し、「ビール博物学」を樹立した著者のマイケルジャクソン氏。

分類学の父と称される博物学者・生物学者・植物学者の「カール・フォン・リンネ」さながらに、ビールの製造方法や味・色彩・アルコール度数などを記録し、各国におけるビールの歴史やその時代背景、各国の文化を踏まえて、世界中のビールを紹介してきたビール作家、ウィスキー作家、旅行作家です。

マイケルジャクソン氏は17世紀〜20世紀中期にヨーロッパから世界にスパイス・ハーブ・茶・コーヒー・カカオ・薬・繊維などを探し求めて世界を旅した「プラントハンター」に準えた「ビールハンター」のテレビシリーズでも知られたそうです。

ウィスキーにも詳しく、「ウィスキーチェイサー」の異名もあったそうです。

作家としてのキャリアのスタートは、イギリス北部の新聞記者。

その後、イギリス・アメリカ・ドイツ・フランスなどの新聞や、ビール雑誌・ウイスキー雑誌でコラムニストとして活躍し、ビールやウイスキーに関する著作を多数残しています。

イギリスの「真のエールを守る会」に貢献し、アメリカン・ホームブルワーズ協会の顧問を務めました。

1999年のグレンフィディッチ賞では、ドリンクス・ジャーナリスト・オブ・ザ・イヤーを獲得。
2000年にブドワイゼ・ブドワーより英国ビールライター協会のトラベル賞を受賞。

『世界のビール案内』には、スリランカでのエピソードを含め、マイケルジャクソン氏について、以下のように紹介されています。

ニューヨークでは六つ星レストランのシェフ達とブルー・パブを経営したり、ベルギーでは修道院ビールを勉強するためにトラピスト修道会で寄宿生活を送ったり、聖地カンディの樽づめスタウトを飲むために戦地のスリランカに行き、険しいマウンテンロードの旅もした。

マイケルジャクソン氏については、別の書籍であるマイケル・ジャクソン著『世界の一流ビール500』の渡辺純氏の「寄稿に寄せて」の内容と、『世界のビール案内』の「著者紹介」を参考にしました。

ミリオンセラー『世界のビール案内』

原書(英語版)のペーパーバックの発行は1982年5月、その後、1988年6月、1991年8月とハードカバーの改訂版が発行されているようです。

日本語版は1998年4月に発行されています。

日本語版の説明には、「12カ国で翻訳され、100万部のベストセラー」とあります。

マイケルジャクソン氏の著作の中でも代表作と言えるのが本書でしょう。

ページ数は280にも及びますが、原書の半分の文章量にまとめた抄訳とのことなので、意欲的な作品であることが分かります。

本書はビールの基礎知識についてまとめている序章と、世界各国のビールを紹介している本編に大きく分かれています。

序章:ビールのトレンド、製造工程、材料、味わい方、専門用語

序章のページを構成と、その中から一部ピックアップしました。

本編の世界のビールの説明で醸造方法や原料、エキス濃度などについて記載がありますので、一読しておくことで各国のビールの特徴がより理解できるようになりますので、一読するのをお勧めします。

私が序章を読んだ意外だったことは、ビールの保存方法や飲み方です。

序章の構成

ビール・ルネッサンス:3ページ
ビールによってなぜ味が違うのか:7ページ
ビール、その特色と選び方:4ページ
ビールの味わい方と飲み分け方:11ページ

クラフトビールムーブメント

本書は「ビール・ルネサンス」と題して、ブルーパブやマイクロブルワリーについて紹介から始まっています。

ブティックビールとも呼ばれていたと記載されています。

英語のウィキペディアには、クラフトブルワリー、マイクロブルワリーとあり、その他、ナノブルワリー、ファームブルワリー、ブルーパブを掲げるお店もあるようです。

日本では1994年の酒税法改正で地ビールブームが起き、2010年以降はクラフトビールが拡大していますが、クラフトビールのムーブメントは1970年代にイギリスで始まり、その後アメリカで広まっていったようです。

本書は1982年に発行されていますので、世界のビールの最新トレンドを伝えたのでしょう。

製造工程

本書ではビール醸造所の絵とともに、12の工程が示されていますが、本文で解説されている主な6つの工程を以下に記します。

1.大麦を水に浸し発芽させる(グリーンモルト、緑麦芽)
2.熱風で焙燥する(緑麦芽は水分を吸収して発芽し続けるので)
3.根を取り除き貯蔵する
4.ホップを加えて煮沸する(1〜3回に分けてホップを添加)
5.発酵させる(野生酵母に自然発酵、常温で行う上面発酵、低温で行う下面発酵)
6.熟成させる

焙燥の過程でビール特有の香ばしい風味や色が生まれます。

焙燥度合いでビールの呼び名があり、以下のように呼ばれます。

最も軽く焙燥(70℃前後)した淡色麦芽:ピルスナー
より長く焙燥(120℃前後)した濃色麦芽:ペールエール(英国)、ウィーンスタイル(欧州大陸)
煮込み状態で作る加湿焙燥した麦芽:カラメル麦芽(米国)、クリスタル麦芽(英国)、ミュンヘンスタイル(欧州大陸)
焙燥さらに高くして作る麦芽:チョコレートモルト
ほとんど焦げるまで焼いた麦芽:黒麦芽

大麦の種類

二条大麦:主な産地は中央・西部ヨーロッパ。
四条大麦:主な産地は北部寒冷地方。ビール醸造には不向き。
六条大麦:主な産地はアメリカ西部、チリ、オーストラリア、地中海地方。

最良の大麦だけがビール醸造に使われ、残りの9割近くは主に飼料用となります。

エキス度とアルコール度数

エキス度とは、発酵前の麦汁に含まれる糖分の糖度を比重で表した数字です。

醸造人は樽内でビールを発酵している間、エキス濃度を測定し続け、アルコール度数に換算します。

ビールの貯蔵、飲み方

日本では冷たいビールと喉越しを謳われることが多いですが、興味深いことが書いてありました。

瓶ビールは瓶上の王冠がビールに直接ふれないように直立される。ワインボトルに入れたビールはコルクが乾かないように横にして貯蔵する。

沈殿物(酵母)のあるビールは、酵母が活力を失い、ビールが「死んでしまう」から冷蔵室に決して入れないこと。涼しい地下室などの一定温度の場所に貯蔵する。エールビールは店から家に持ち帰ったらすぐに飲んだりしないで数時間、できれば丸一日安置しておく必要がある。ラガービールは、普通冷蔵庫で保存するのが理想的だが、あまり低温に長く置かない方がよい。冷やしすぎると「混濁(モヤ)」ができるからである。

また、上面発酵ビールは、常温で飲むと芳香を非常に強く感じるそうです。

ドイツ人はビールの泡を「ビューティフルフラワー」と呼び、泡の跡を「ブリュッセルのレース」と呼ぶそうですが、名前があることを知ると、ビールを目でより楽しめていいですね。

ヨーロッパ醸造協議会(EBC:European Brewery Convention)、アメリカ醸造化学会(ASBC:American Society of Brewing Chemists)は120以上のビールの香りを表す用語を制定し、フレーバースペシャリストは数百を見分けるそうです。

修道院とビール醸造

ヨーロッパの歴史あるビール醸造所やワイン醸造所は修道院が元になっているところが多くありますが、それを説明した以下の文章は非常に分かりやすいです。

最初にイタリアからバイエルンに渡ってきた修道士はワイン用のブドウを育てていた。しかしやがてビールをつくり始めた。もしワインという飲料が温暖な南部の伝統飲料であり、ビールが寒冷な北部の伝統飲料であるとするならば、自然の境界線というのはアルプスの山々、あるいはドナウ川のどちらかだといえる。

「スイス西部の国境近くには、ビールの歴史上に必ず登場するザンクト・ガレン修道院があり、ボヘミアの森を東へ行けばピルゼンの水やジョテツのホップに出合える」も説明されています。

国別ビール案内のページ構成

抄訳のため、原書とはページ数が異なるかもしれませんが、マイケルジャクソン氏が訪れた国を全て紹介し、掲載されていた写真のほとんどを掲載し、ビールのスタイルや品種に焦点を当ててまとめたそうです。

各国の詳しいビール事情については、本書をご覧いただくととして、内容本書のページ構成を見ると、ビール文化が豊かな国がどこかが掴めると思いますので、以下にまとめました。

ページ数が多いのは以下の6ヵ国です。
ドイツ:58ページ
イギリス:42ページ
ベルギー:34ページ
アメリカ:18ページ
スカンジナビア:18ページ
チェコ:12ページ
オーストラリア:10ページ
オランダ:9ページ

ドイツ、ドイツ東隣のチェコ、ドイツ西隣のベルギーと海を渡ったイギリスは町ごとに様々なビールや醸造所があることが紹介されています。

ドイツ北隣のデンマークにはカールスバーグがあり、ドイツ西隣のオランダにはハイネケンがあり、イギリスが植民したアメリカ、オーストラリアにも地域ごとにビール産業が充実しているようです。

本書は原書から抄訳されていますので、原書とはページ数の比率が異なるかもしれません。
紹介されている国の順番は以下の通りです。

チェコ:12ページ
ドイツ:58ページ
スカンジナビア:18ページ
ベルギー:34ページ
オランダ:9ページ
ルクセンブルク:1ページ
イギリス:42ページ
フランス:6ページ
スイス:4ページ
オーストリア:2ページ
東ヨーロッパ:2ページ
南ヨーロッパ:2ページ
カナダ:4ページ
アメリカ:18ページ
カリブ海諸国:2ページ
中央アメリカ:2ページ
オーストラリア:10ページ
ニュージーランド:2ページ
アジア(中国、日本):8ページ
アフリカ:4ページ

各国のビール

町ごとに醸造所が根付いているビールの伝統国であるチェコ、ドイツ、ベルギー、イギリス、そしてスリランカについて紹介します。

スリランカの主要なビールであるライオンラガーはチェコとドイツ、ライオンスタウトはエールとスタウトの国イギリスの影響が見られますので、それぞれを知っているとより楽しめるかと思います。

チェコのビール

現在の世界の標準的なビールであるピルスナーの発祥地である「プルゼニ」と、
アメリカのバドワイザーがブランド名に採用した「チェスケー・ブジェヨヴィツェ」がビール醸造の街として知られています。

◆ピルスナーの発祥地である「プルゼニ」

プルゼニのドイツ語呼称が「ピルゼン」で、
チェスケー・ブジェヨヴィツェのドイツ語呼称が「ベーミッシュ・ブトヴァイス」です。

プルゼニはプルゼニ州の州都で、オーストリア=ハンガリー帝国、チェコスロバキアの最大の財閥であったシュコダが本拠地としていた町です。
1842年にピルスナー・ウルケルがピルスナービールの製造をピルゼンで始めています。
ピルスナーの二大ブルワリーは「ピルスナー・ウルケル」と「ガンブリヌス醸造所」。

◆ブドヴァイゼルを醸造する「チェスケー・ブジェヨヴィツェ」

チェスケー・ブジェヨヴィツェは南ボヘミア州最大の街で、古くからビール醸造をしていることで知られ、ブランド「ブドヴァイゼル」を製造する国営の「ブジェヨヴィツェ・ブドヴァル国営会社」があります。

◆チェコの首都「プラハ」

チェコの首都プラハには、1499年に開業した500年以上の歴史があるウ・フレク、ウ・トーマシュ、ウ・スパ、ウ・ズラレーホ・ティグラ、ウ・コスオラなど、建築とビールが楽しめる老舗バーがあります。

プラハの二大ブルワリーは「スタロブラメン醸造所」と「ホレソビス醸造所」。

チェコのポップは良質とされ、代表的な生産地はジョテツやロウヴィなどのボヘミア西部。

ドイツのビール

◆ラガーの発祥地「バイエルン」

ビール消費量が世界一位で、世界の醸造所の約40%がドイツにあります。
ラガーの発祥地であるバイエルン地方は特にビール消費が多く、その中心地がミュンヘン。

ミュンヘンの西には、1913〜1918年に在位したバイエルン王国最後の王のひ孫であるルイトポルト・プリンツ・フォン・バイエルン王子が所有するカルテンベルク城と、ルイトポルト王子によって1988年に設立されたケーニッヒ・ルードヴィッヒ王室ビール醸造所があります。
カルテンベルク城は700年以上前に建てられた城で、「騎士祭り」でも知られています。

ミュンヘンにはビール醸造の近代化を進めた貢献したガブリエル・ゼートルマイル2世が設立したシュパーテン醸造所があります。
オクトーバーフェストの際に、ミュンヘン市長はこのシュパーテン醸造所の樽に飲み口を打ち込み開会宣言をします。
オクトーバーフェストはバイエルン王国の皇太子と王女の結婚式を祝う祭典として始まったものです。

オクトーバーフェストで飲まれるビールは、メルツェンビール(3月のビールという意味)と呼ばれます。
低温で醸造するラガーの醸造期間は元々は冬季の10月から3月まで。
9月中旬から10月の最初の日曜日の晩夏の祭りであるオクトーバーフェストでは、醸造期間の最後である3月に醸造したビールを飲むため、3月のビール(メルツェンビール)と呼びます。

◆ボックビール発祥の町「アインベック」

ドイツで最も強いビールで、体を温めてくれる「ボックビール」の発祥地がアインベック。

アインベックの領主グルーベンハーゲン公が、それまで修道院や宮廷内で行われていたビール醸造を市民に許可したことで、アインベックは世界初の商業的醸造都市となり、1351年に初めてビールの輸出を開始し、1368年にハンザ同盟に加盟し、ビールの販売地域を拡大していきます。

アインベックで醸造されたビールがベックビールと呼ばれ、それがバイエルン訛りでボックビールと呼ばれるになったと言われています。

アインベックに残る醸造所が「アインベッカーブラウハウス」。

ミュンヘンのパウラナー・サルバトール醸造所もボックビールで有名。
パウラナー修道院の修道士が、四旬節の期間を耐え抜くために救世主(サルバトール)という名のビールを1634年に始め、1780年に商業的なビール販売を始めています。

◆ビールと粗挽きソーセージの町「クルムバッハ」

アルコールが凍らないことから、ビールを凍らせて氷を取り除いてアルコール濃度が高いビール「アイスボック」を作っているのがクルムバッハ。

クルムバッハは、粗挽きソーセージのブラートヴルスト、プラッセンブルク城、錫人形博物館などで知られる町です。

◆マイクロブルワリーが多い「フランケン地方」

旧市街が世界遺産に登録されているレーゲンスブルク
バイエルン州第二の都市ニュルンベルク
市街地が世界遺産に登録されているバンベルク
アイスボックを醸造するクルムバッハ
音楽祭で知られるバイロイト
ドイツで2番目に大きいコーブルク城があるコーブルク

などそれぞれの町に地ビールがあります。

フランケン地方には、販売直前位クロイゼン(麦汁添加)されたクロイゼンビールが多くあります。

世界遺産都市バンベルクは、フランコニアビール博物館があることが分かるようにビールの町です。
燻製の「ラオホビール」が有名。

ドイツビールは南北2つの地域に分かれます。
北:ブレーメン、ハンブルク、デュッセルドルフ、ドルトムント、ケルン
南:バイエルン地方

◆ケルシュを作るケルン

ケルシュはケルンのみで作られている、上面発酵酵母で低温熟成させたビール。

◆アルトビールの特産地デュッセルドルフ

アルトとは古いという意味で、ドイツ南部のヘレス(下面発酵)ではなく、上面発酵であることを意味しています。
アルトビールの元祖は1838年創業のシューマッハ。
1862年創業のツム・ユーリゲなどいくつかの醸造所が旧市街にあります。

◆ヴァイツェンビール(小麦ビール)

バーデン・ヴュルテンブルク州、バイエルン州などドイツ南部では作られています。
バイエルン州のヴァイエンステファン醸造所は、現存するブルワリーの中では1040年の創業と世界最古とされています。

ベルリンには、ベルリンの白ビールという意味を持つ白ビール「ベルリーナヴァイセ」があります。
ベルリーナヴァイセは、シロップを混ぜてカラフルな色で提供され、ストローで飲む独特のスタイルのあるビールです。

ドイツで初めて醸造業者のギルドが作られたブレーメンもヴァイツェンビールが美味しい。

◆ドルトムント

ルール工業地帯の代表的な都市で、多くの醸造所があります。

◆ドイツの有名なビールまとめ

代表的な下面発酵ビールは
ドルトムントの「ドルトムンダー」
バイエルンの「メルツェンビール」
ミュンヘンの「ミュンヘナー」
アイベックの「ボック」、より濃い「ドッペル」
燻製ビール「ラオホビール」

代表的な上面発酵ビールは
デュッセルドルフのアルトビール
ケルンのケルシュ
南部バイエルンのヴァイツェンビール
北部ベルリンのベルリナー・ヴァイセ

ベルギーのビール

個人主義の熟練醸造人が多く、多数のマイクロブルワリーがあるのがベルギー。

古典的ビールの宝庫であるベルギーでは、多くの場合「メトード・シャンプノワーズ」と呼ばれる瓶内熟成ビールをつくっている。そのため、ビアカフェや一般家庭の夕食時には、地下の酒蔵から年代物の珍しいビールのボトルが酵母の目を覚させないようにゆっくりと運ばれ、テーブルの上に静かに置かれる、という光景がしばしばみられる。

とも紹介されています。

ビールグラスはビールの種類と銘柄に応じて色々な形ものがあります。

ほとんどのカフェであまり食事は出さない一方で、料理一皿ごとにビールを出すレストランがあります。
『ビールを使った料理300選』という本もあります。

フラームス=ブラバント州の州都ルーヴェンにあるステラ・アルトワ醸造所では約20の製品を作っています。

◆ランビックビール

培養した酵母を使用せず、空気中に浮遊している野生酵母や微生物を利用して自然発酵させ、1〜2年熟成させたビール。
ブリュッセルの西側の一部分だけで醸造されています。

ストレートランビック以外に、以下のようなランビックがあります。
グーズランビック:まだ糖が残っている若いランビックと発酵の終わった古いランビックをブレンドしたもの
クリークランビック:ランビックの熟成中にチェリーを加えたもの
フランボーゼン:チェリーではなくラズベリーを加えたもの
ファロランビック:仕込みの時に砂糖やカラメルなどを添加したもの

◆ホワイトビール

ブラバント州東部のヒューガルデンで作られているヒューガルデンホワイトが有名。
フランス語圏ではビエール・ブランシュ、フランダース語ではアウト・ヒューガルト。

◆レッドビール

西フランダース地方のロッセレールで作られているローデンバッハが有名。

◆ブラウンビール

東フランダースのオウデナールデにあるリーフマンス醸造所が有名。

◆セゾンビール

ワロン人が住むベルギー東南部のワロン地方で夏だけに作られるビール。
デュ・ボック醸造所が有名。

◆エールビール

デュベル醸造所のストロングゴールデンエール
ヘット・アンケル醸造所のストロングダークエール
などベルギーには様々なエールビールがあります。

◆修道院ビール

私は修道院がビールを作っていることが想像しづらかったのですが、本書にはヨーロッパの修道院のことがよく分かる説明がありましたので、修道院ビールの冒頭文章を以下に引用します。

フランスの修道院では、修道士たちは日々の糧を得るために甘いヌガーやシャトルーズ酒をつくっているが、ベルギーやオランダ、ドイツ、オーストリアのようなビール国では当然のことだがビールをつくっている。ベルギーではビールだけでなくチーズやパンをつくっている修道院もある。そして、ドイツではいささか寛大すぎるように思われるが、フルーツブランデーをつくっているところさえある。

ビールの世界で「アビィ・ビール」といえばベルギーの「修道院ビール」のことをいう。そして「トラピストビール」というのも、ビールをつくっているベルギーの五つの修道院(オランダに一か所)のビールをいう。

(中略)水が飲用に適さなかった時代には、修道士たちは必要に応じてビールを醸造していた。この伝統は、旅人といえば巡礼者であり、また宿屋といえば修道士が経営していたものしかなかった時代ならではのものである。修道士たちは、巡礼者の食事のためにビールをつくった。

フランスのビール

レストランよりも庶民的なビストロよりも手軽なお店でカフェよりも上と言われるブラッスリーはビアホールの意味で、ビール醸造所の意味もあります。

イギリスのビール

イギリスではエールが常にラガーの売り上げを上回り、イギリス伝統のエールを守りたいという消費者たちの自発的な運動がマイクロブルワリーを生み出しました。

ほとんどのイギリスのエールは、地下室の温度のまま(約13度が理想的)で飲まれる。温かい温度で発酵させたものを、最高の状態で味わうためには、ほんの少ししか冷やしてはいけない。イギリスの古典的エールの多くはそうであるが、常温や地下室で熟成させたエールはそのままの温度で飲むのがよいとされている。

イギリスの繁盛しているパブは、地下室を最適温度域に保つことで、エールをサービスしている。冬には地下室を暖房する必要があるが、逆に夏には、地下室の寒い棚で少しばかり冷えたエールを暑いバーで飲むことができる。

(中略)イギリス人がビールといえば、それはエールを意味し、アイルランド人であればスタウトを意味する。

◆樽内塾生の生ビール

イギリス伝統のエール製法は貯蔵室の樽内で行われ、それを生ビールとして飲むのが正しい飲み方とされています。

ビール消費の85%がパブ・クラブ・レストランで飲まれ、パブの多くが自分のところの樽内熟成させたエールを数種以上を揃えています。

◆オールドエール

オールドエールでは麦芽の酵素によってでんぷんを糖に変える「マッシング(糖化)」工程で、あえて高めの温度で処理をして作る、甘みやコクが強く残ったビール。

発酵期間が1年〜数年と長いのも特徴です。

◆ペールエール

バートンオントレントを発祥とするビール。

◆IPA(インディアンペールエール)

インドへ出荷されたペールエールは腐敗から守るためにホップが多く使われ、「インディアンペールエール」と呼ばれました。

◆ビターエール

ペールエールが人気となり、バートンオントレント以外でペールエールを生産しようとしてロンドンで生まれたビール。

バートンオントレントのトレント谷の水は石膏(硫酸石灰)濃度が高く、ペールエールのような淡い色の濃厚なビールを作るのに適していました。
そこで、他の場所でペールエールを作ろうと醸造人が水に石膏を添加する「バートニング」あるいは「バートンソルトを加える」という手法が生まれました。

こうして作られたのがビターエールです。

◆ブラウンエール

ペールエールに対抗して、1927年にニューキャッスルで誕生したビール。

◆マイルドエール

17〜18世紀にロンドンで誕生した、軽いアルコール度の低いエール。

◆ポーター

ロンドンの醸造家がペールエールと古いブラウンエールと新しいブラウンエールをブレンドしたものを客に提供したのが始まりだとされています

◆ドライスタウト

アイリッシュスタウトとも呼ばれます。
強くローストした麦芽のドライな苦味が後味に強く残るのが特徴。
アイルランドのギネスが代表的な銘柄。

◆イングリッシュスタウト

スイートスタウト、ミルクスタウト、クリームスタウトとも呼ばれます。
コーヒーやチョコレート、カラメルの風味が特徴

◆インベリアルスタウト

ロシア皇帝への献上品として作られたスタウトで、ロシアンスタウトとも呼びます。
アルコール度数が高い。

◆バーレーワイン(大麦ワイン)

ワインのようにアルコール度数の高いエール。

一般的にアルコール度数はビールが5%ほど、ワインは14%ほど。

スリランカのビール

本書のアジアの項は、アジア全体に書かれた4ページ、その後に中国について1ページ、日本について3ページという構成になっています。

アジアの項は、日本のキリン、シンガポールの虎、タイのライオン、マレーシアの犬、インドの犬鷲・カワセミ・フライングホースとそのブランド名から「神秘的な国々」と形容されています。

スリランカについては冒頭の文章には触れられていませんが、主要ブランドは「ライオン」で、確かに共通しているかもしれません。

各ブランドのラベルに触れた後に、以下のように書かれているのが興味深いです。

うわさに反し、アジアのビールに「ライス・ビール」はない。

アジアの項は、スリランカのトディ屋の写真が3点掲載され、

スリランカ人は「伝統的ビール、トディ」と言っている。

とキャプションが付けられています。

スリーコインズブルワリーのドライスタウトを出すキャンディのバーと、セイロンブルワリー(現:ライオンブルワリー)のライオンスタウトを出すヌワラエリヤのビールショップについて記載されています。

アジアの項の最後のページにもスリランカの写真が4点掲載されています。

写真のキャプションが興味深いですので、以下に引用します。

スリランカのヌワラ・エリヤやカンディの山の街にあるビール・ショップでは、ハンド・ポンプで樽内熟成エールをサーブしている。本場アイルランドでさえめずらしくなったこのスタイルが極東の僻地で生きているとは、「真のエールを愛する人々」にとってはなんともうれしいことである。これらの店ではスタウトはセイロン・ブルワリーから仕入れ、今でも木製の発酵樽を使っている。

また、本文にはライオンブルワリーについて以下のようにも書かれています。

現在の醸造所は1880年代から始まり、今なお1ダースある木製の容器で発酵の作業が行われている。とりわけ上面発行のスタウト用に用いられている。この醸造所のいくつかのラガーは米を副原料として用いているが、スタウトはエキス15度、麦芽100%である。

つまり、醸造所では昔ながらの製法で作られ、バーでは昔ながらの提供方法でスタウトが飲めることを評価したのでしょう。

この本が発行された当時のヌワラエリヤの醸造所はすでになく、コロンボ郊外のビヤガマにライオンビールの新工場はあります。

また、多くのバーで飲むことができるのは、ライオンスタウトではライオンラガーになっています。

マイケルジャクソン氏はすでに亡くなれていますので、現在のライオンスタウトへの評価はお聞きできませんが、どう評価されるか気になるところです。

ただ、ライオンスタウトは現在も製造されていますので、スリランカではライオンラガーとともにライオンスタウトも楽しんでいただけると、より楽しいスリランカ滞在になるのではないかと思います。

参考)

ウィキペディア:カール・フォン・リンネ
ウィキペディア:プラントハンター
ウィキペディア:日本のビール
ウィキペディア:クラフトビール
Wikipedia:Craft brewery and microbrewery
ビール酒造組合:国際技術委員会(BCOJ)
ウィキペディア:プルゼニ
ウィキペディア:シュコダ財閥
ウィキペディア:ピルスナー
ウィキペディア:チェスケー・ブジェヨヴィツェ
生ビールブログ:プラハの U Fleku(ウ フレクー)で美味しい黒ビールを飲みまくり
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プラハ小地区のビアホール
ウィキペディア:ザンクト・ガレン修道院
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ドイツニュースダイジェスト:旅ールのススメ「ビール醸造の近代化を索引した醸造所のお祭りビール」
バイエルン王家のビール
ウィキペディア:アインベック
ドイツニュースダイジェスト:市民醸造の町アインベック
DSKワイン:ボックビール本家の味わい
欧州麦酒屋:【ドイツビール】パウラーナー サルバトール
ウィキペディア:クルムバッハ
ウィキペディア:レーゲンスブルク
ウィキペディア:レーゲンスブルクの旧市街とシュタットアムホーフ
ウィキペディア:ニュルンベルク
ウィキペディア:バンベルク
ウィキペディア:バンベルク市街
ウィキペディア:バイロイト
ウィキペディア:コーブルク
ウィキペディア:白ビール
CRAFT BEER TIMES:ヴァイエンステファン「ヘフヴァイス」世界最古の醸造所の風格あるヘーフェヴァイツェン
ウィキペディア:ベルリーナー・ヴァイセ
ウィキペディア:ブレーメン
ビール女子:ケルシュ
ウィキペディア:ケルシュ
ウィキペディア:ドルトムント
ウィキペディア:アルトビール
ウィキペディア:ヘレス
ウィキペディア:デュッセルドルフ
GOTRIP!【世界の居酒屋】デュッセルドルフの「シューマッハ」で味わう本場の元祖アルトビール

地滑小心旅行ブログ:ドイツ食その65 Zum Schlüsselで肉の塊と格闘@デュッセルドルフ・ボルカー通り
記念日美味しいお酒:ツム・ユーリゲ アルト・クラシック
ウィキペディア:ルーヴェン
JTB:ステラ・アルトワ醸造所
ベルギービールウィークエンド
ベルギービールの専門店:ランビック・ビールとは?
ベルギービールの専門店:ローデンバッハ
ベルギービールの専門店:リーフマンス醸造所のある町
ベルギービールの専門店:ヘット・アンケル醸造所
ウィキペディア:デュベル・モルトガット
よなよなの里:セゾン(Saison)ってどんなビール?
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ウィキペディア:ルーセラーレ
ウィキペディア:ヌガー
ウィキペディア:シャルトリューズ
ウィキペディア:ブラッスリー
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ウィキペディア:スタウト
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