コロンボ日本人学校のiPadを活用した表現力育成の取り組み
コロンボ日本人学校は2021年度にパナソニック教育財団の実践研究助成を受け、「1人1台のipadを活用した表現力の育成」に取り組まれています。
12月11日に開催されたパナソニック教育財団のプレゼンテーションコンクール最終選考会に選ばれた小学生の部5名のうちの1名はコロンボ日本人学校の児童で、海外の学校からの選抜者は今回が始まって以来のことだったそうです。
コロンボ日本人学校の取り組みは、ICTを活用した教育の専門家が担当につく実践研究にも選ばれ、2022年1月には金城学院大学の長谷川元洋教授の講評を含む研修報告会が開催されます。
本記事では、本実践研究の担当教諭である芳賀 弘善氏に伺ったお話を元に、その取り組み内容について紹介します。
パナソニック教育財団とは?
まず、パナソニック教育財団について、見ていきましょう。
財団の概要
公益財団法人パナソニック教育財団は、学校教育・社会教育関係者に対する教育研究の助成並びに顕彰事業を行うことにより、次世代を担う子どもたちの「未来を創る想像力と豊かな人間性」を育むことを目的としています。
1973年に松下視聴覚教育研究財団として設立され、2008年にパナソニック教育財団に名称変更、2011年に内閣府より公益認定を受けました。
現在の理事長は小野元之氏。
小野元之氏は、初代文部科学省事務次官、独立行政法人日本学術振興会理事長を歴任し、現在は城西大学理事、特定非営利活動法人 学校経理研究会理事長も務められています。
研究・助成事業
財団の研究・助成事業は以下の2つです。
(1)実践研究助成
ICTを効果的に活用して、教育内容及び教育方法の改善等に取り組む実践的研究に助成する事業。
1年間で50万円を助成する「一般」と、2年間で200万円の助成をする「特別研究指定校」があります。
2021年度は75件中で在外教育施設はコロンボ日本人学校、学校法人立教学院立教英国学院の2校。
2020年度はプーケット日本人補習授業校の1校。
2019年度はゼロ。
2018年度は杭州日本人学校、在マレーシア日本国大使館附属クアラルンプール日本人会日本人学校。
2017年度はゼロ。
2016年度はルクセンブルグ補習授業校、パナマ日本人学校。
となっています。
(2)共同研究
学校現場において、ICTの活用が普及促進していくために、自治体、関係団体等との共同研究を行い、ICT活用効果を実証及び普及のための研修モデル等を検討しています。
参照)
公益財団法人パナソニック教育財団公式サイト
ウィキペディア:パナソニック教育財団
学校法人城西大学公式サイト
NPO法人学校経理研究会公式サイト
ウィキペディア:小野元之
コロンボ日本人学校とは?
続いて、コロンボ日本人学校の概要を見ていきます。
学校の概要
コロンボ日本人学校は、1966年9月2日にコロンボに開校した日本人学校です。
2002年4月に自前の校舎が完成し、現在に移転しています。
かつては児童生徒数は50人を超えていた時期もあったそうですが、今年度当初は2人で始まり、現在の生徒数は10人。(2022年1月4日現在)
在外日本人学校のため、年度途中での入学や転校が多いとのこと。
職員は日本からの派遣が5名で、現地採用職員が3名です。
派遣職員は以下の通りです。
・校長1名(2019年派遣)
・教諭4名(2019年派遣2名、2020年派遣が2名)
今回、お話を伺ったのは、2019年に山形県から派遣された芳賀弘善教諭です。
現在の現地採用職員は以下の5名です。
・事務
・ドライバー
・用務員
その他、英会話教師とダンス講師(総合的な学習でのキャンディアンダンス)も現地採用時間講師として勤務しています。
教育の内容の特徴
5つの重点項目がウェブサイトに挙げられています。
今年度に助成を受けているのは、5つ目の「ICT教育の推進」に当たる部分です。
(1)英語教育の充実
・週3回(3つのコース別)の現地のネイティブ英語教師による英語活動
・実用英語検定資格取得を目ざした授業
・イマージョン教育(水泳授業、キャンディアンダンス)をとり入れた授業)
(2)国際理解教育・現地理解教育の充実
・週1回現地講師によるキャンディアンダンスの授業
・現地の学校との交流会(現在アショカカレッジ校と交流)
・他の在外教育施設及び日本国内の学校との交流
・教師による国際理解教育IA((International Activity)の授業)
(3)日本の伝統的文化の継承
・和太鼓の授業
・餅つき大会
・書初め大会
・百人一首等の日本古来の遊び体験
(4)体力の向上
・隔週2時間現地コーチ陣による水泳授業の実施
・隔週1時間の現地講師によるキャンディアンダンスの授業の実施
・週1時間スポーツクラブの実施
・週1回朝マラソンの実施
・縄跳び週間、縄跳び検定の実施
(5)ICT教育の推進
全児童生徒にiPadを貸与し、オンライン授業、プレゼンテーション、プログラミング教育等を実施
参照)
芳賀先生へのインタビュー
まず、お話を伺った芳賀先生のプロフィールを紹介します。
芳賀先生のプロフィール
福島出身。
東日本大震災の影響で福島県での募集がなかったことから隣の山形県の教員に。
高畠町で7年間教員を務め、海外赴任の試験を受けて、2019年4月からコロンボ日本人学校に赴任。
海外赴任を決めたのは、小さい頃にお世話になっていた先生が海外赴任をしていたことと、大学の先輩が赴任していたヤンゴン日本人学校を見学したことから。
2020年度から教務主任、校内研修を担当。
今年度は教務主任、研修担当の他、小学部5年生を担任。
全校の音楽、中学部の国語も指導する。
研究助成を受けて研究に取り組むことになった背景を教えてください。
以前勤めていた山形の小学校で、パナソニック教育財団の助成を受けて研究が行われていたので、コロンボ日本人学校でもやってみようと応募しました。
実は2020年度にも応募したのですが、その時は残念ながら採択されませんでした。
2020年度は採択はされませんでしたが、今年度取り組んでいる表現力を高める活動を行った上で、再度応募したところ2021年度で採択されました。
なぜ、表現力に着目されたのでしょうか?
私が赴任する1年前からコロンボ日本人学校では、表現力を高める取り組みを行っていました。
子供たちは朝7:30までに学校に登校します。
7:45〜8:00の15分間で歌の練習をしたり、群読を行ったりしていました。
この活動をさらに発展させて、毎週水曜日の朝の15分間で、子供たちがiPadを使ってプレゼンテーションを行う「Grow Up Time」を始めました。
世界との比較で日本の児童生徒は学業成績はかなり上位にありますが、自尊感情が低いという調査結果が出ています。
そこで、自分の好きなことや関心のあることについて発表する経験を積むことで、表現力を高めるとともに、自尊感情を高められないかと思い、この取り組みを始めました。
パナソニック教育財団の助成金で、一人一台をiPad購入されたのですか?
iPadは文部科学省のICT機器助成事業を利用し半額の補助を受け、残りの半額を学校で負担して購入しました。
パナソニック教育財団の助成金は、タブレットのタッチペン、アップルTV、ビデオカメラなど、iPadを活用したプレゼンテーションや授業を行うための機材購入に充てました。
機材が揃ったことでオンライン授業を行う環境整備もでき、今年度は山形県や神奈川県の小学校、岐阜県の中学校、サンパウロやイスラマバードの日本人学校と交流ができました。
コロンボ日本人学校の子供たちは、スリランカやコロンボ日本人学校についてのスライド資料を作り、プレゼンテーションを行いました。
研究の成果について教えてください。
子供たちの表現力は高まったと感じています。
研究ですので、必ず成果が出ないといけないというものではありません。
成果が出なかった場合には、なぜ成果が出なかったのかを分析・考察することになりますが、学年始めの4月、1学期末の7月、2学期末の12月と発表に関するアンケートを子供たちに行い、良い変化が見られました。
「発表は好きですか?「自信はありますか?」「なぜ発表が好きですか?」「発表のどんなところが苦手ですか?」など発表に関するアンケートを行ったところ、4月時点では苦手だと答えていた子供たちが、12月には「緊張しなくなった」「大きな声で発表できるようになった」と答えています。
また、同時に教員に対しても、表現力やICTツールを活用した授業についてのアンケート調査を4月・7月・12月と実施しました。
iPadを初めて使った教員もいましたが、現在ではiPadを使った授業を効果的に行えるようになっています。
プレゼンテーションコンクールの最終選考会に選ばれた生徒さんがいますよね?
はい、コンクールのテーマと同じ内容で、毎週水曜日のGrow Up Timeでプレゼンテーションを行い、応募する児童生徒を2名選出して、1名が最終選考会に残りました。
これも山形の小学校で関わった児童が最終選考会まで残り、とても良い機会でしたので、コロンボ日本人学校でも応募しました。
研究において気をつけた点、苦労された点はありますか?
話し方、スライド資料の使い方などももちろん大事なのですが、最も大切なことは”何を伝えるか?”ということです。
綺麗なスライドを作ることや、カッコいいプレゼンテーションは手段であって、もっと大切なのは、何を伝えたいのかという発表の目的・ゴールです。
また、コロンボ日本人学校の場合は、学期途中で学校に編入する子供も多いため、その子たちがすでにiPadによる発表に慣れている子供たちに遅れないようにフォローアップすることも気を付けていた点です。
子供たちのデジタルデバイスの取り扱う際について注意されていることはありますか?
学校から貸し出すiPadは遊ぶためのものではなく、筆箱や教科書、ノートと同じように学ぶための道具であることを伝えています。
一人一人子供を校長室に呼んで、校長先生からの貸与式を行って、学習のために大切に扱うように伝えています。
報告会の開催背景と内容について教えてください。
3月にパナソニック教育財団に報告書を提出しますが、ただ研究するだけではなく、外部への発信も大切です。
本校は、助成校の中でもさらに「実践研究オンラインサポート校」に選ばれたため、大学の専門の先生を交えて2カ月に1度オンラインミーティングを行い、アドバイスもいただきながら研究を進めています。
3月に提出する報告書の中から優秀な研究が選出されますが、せっかくやるのであれば選ばれるような研究をしようと取り組んでいます。
報告会は、校長の大森から挨拶、私から研究発表、そして、パネルディスカッションを行います。
パネルディスカッションは今のところ、学校から1名、保護者から1名、今回交流を行った岐阜の中学の先生から1名の3名で行う予定です。
一般参加の方からの質問や感想の時間も設ける予定です。
最後に、実践研究オンラインサポートで定期的にアドバイスをいただいている金城学院大学教授の長谷川元洋先生からご講評いただきます。
まとめ
最近の小学校の動向から、海外にある少人数のコロンボ日本人学校ならではの取り組みをお伺いして、とても勉強になりました。
報告会は最終報告書にも記載されるようですので、優秀な研究に選出されるよう応援の気持ちでご参加いただく、あるいは教育やICTの活用に関心のある方はご参加ください。
「旅と町歩き」を仕事にするためスリランカへ。
地図・語源・歴史・建築・旅が好き。
1982年7月、東京都世田谷区生まれ。
2005年3月、法政大学社会学部社会学科を卒業。
2005年4月、就活支援会社に入社。
2015年6月、新卒採用支援事業部長、国際事業開発部長などを経験して就職支援会社を退社。
2015年7月、公益財団法人にて東南アジア研修を担当。
2016年7月、初めてスリランカに渡航し、会社の登記を開始。
2016年12月、スリランカでの研修受け入れを開始。
2017年2月、スリランカ情報誌「スパイスアップ・スリランカ」創刊。
2018年1月、スリランカ情報サイト「スパイスアップ」開設。
2019年11月、日本人宿「スパイスアップ・ゲストハウス」開始。
2020年8月、不定期配信の「スパイスアップ・ニュースレター」創刊。
2023年11月、サービスアパートメント「スパイスアップ・レジデンス」開始。
2024年7月、スリランカ商品のネットショップ「スパイスアップ・ランカ」開設。
渡航国:台湾、韓国、中国、ベトナム、フィリピン、ブルネイ、インドネシア、シンガポール、マレーシア、カンボジア、タイ、ミャンマー、インド、スリランカ、モルディブ、アラブ首長国連邦、エジプト、ケニア、タンザニア、ウガンダ、フランス、イギリス、アメリカ
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