スリランカを舞台にした小説『泥河の果てまで』
2023年8月に予定されているスリランカ政府考古局とNPO法人南アジア遺跡探検調査会による、スリランカ密林遺跡探査隊2023(マハウェリ川下流域ティリコナマドゥ自然保護区の遺跡探査)。
NPO法人南アジア遺跡探検調査会の理事長であり、50年間に渡ってスリランカでの遺跡調査に関わってきた探検家・作家・編集者の岡村隆さんは、2019年に第23回植村直己冒険賞を受賞されています。
岡村さんは月刊誌『望星』編集長を務め、ノンフィクションを1冊、小説を2冊上梓されていますが、本記事ではスリランカを舞台にした小説『泥河の果てまで』を紹介します。
泥河の果てまでとは?
『泥河の果てまで』は、モルディブで発見された遺跡が仏教遺跡であることを突き止めた経緯をまとめた1986年発表のノンフィクション『モルディブ漂流』に続く、岡村さんの2作品目の単著。
1989年12月に講談社より単行本として出版され、1996年4月に早川書房より文庫本が発行されています。
小説の舞台は1986年から1987年頃のスリランカ。
主人公の”おれ”は1年の半分をスリランカで観光ガイドなどの仕事でお金を稼ぎ、残りの半分をスリランカのジャングルで遺跡調査を行う日本人青年。
“おれ”は気乗りしないながらも、高額な報酬と引き換えに、野生のゾウやヒョウ、毒蛇などがいる危険なジャングルを抜け、反政府組織の拠点まで依頼人を案内する仕事を引き受ける。
“泥河”とは、スリランカ最長の大河「マハウェリ・ガンガー(偉大な砂の大河)」のこと。
銃撃されたり、野生のゾウに襲われたり、反政府組織の衝突に遭遇したり、激流に飲まれたり、命の危険に何度もあいながら、マハウェリガンガーのジャングルを超えるべく、コロンボ、キャンディ、ナーヌオヤ、ヌワラエリヤ、バドゥッラ、モナラーガラ、コティヤガラ、マヒヤンガナ、ヘンベラワ、ヤックレ、ポロンナルワ、コンパナッチ、キニヤイ、トリンコマリー、ガルオヤ、コロンボと移動。
シンハラ人系反政府組織「人民解放戦線(JVP)」、タミル系テロ組織「タミルイーラム解放の虎(LTTE)」、タミル系過激派組織「タミルイーラム解放機構(TELO)」、イスラエル諜報特務庁「モサド」、レバノン内戦、シンハラ人、タミル人、ムスリム、バーガー人、ヴェッダ人、僧侶などが登場し、スリランカの歴史や文化についても記述されています。
コロンボでは、ゴールフェイスグリーン、インターコンチネンタルホテル(現在のキングスバリー)、スィリンコ・ホテル(現在のセリンコ・ハウス)、ジャナディパティ大通り、チャタムストリート、ヨークストリート、デュークストリート、スリランカ退役軍人会館(Sri Lanka Ex-Servicemen’s Institute)、YMCAなどが出てきます。
岡村さんは第三著となるモルディブを舞台にした小説『狩人たちの海』を1992年に上梓されています。
著者の岡村隆さんとは?
岡村 隆(おかむら たかし)さんは、1948年に宮崎県小林市生まれの探検家、作家、編集者。
NPO法人南アジア遺跡探検調査会理事長であり、第23回植村直己冒険賞を受賞されています。
法政大学文学部日本文学科在籍時に法政大学探検部で活動し、1969年に独立直後で鎖国状態のモルディブへ特例で「法政大学インド洋・モルディブ諸島調査隊」の隊長として入国。
1969年4月~6月、モルディブ入国交渉のために長期滞在したスリランカで、密林地帯のマハウェリ川をゴムボートで下る計画を実行。
1972年に大学を卒業し、東海教育研究所の月刊誌『望星』編集長などをしながら探検を継続。
1973年7月〜12月に「セイロン島密林仏跡探査隊」の隊長としてマハウェリ川右岸で30の遺跡を探査。
1975年7月~10月、フリーライターとなっていた岡村さんは「第2次セイロン島密林仏跡探査隊」に顧問として同行し、マハウェリ川右岸とマドゥル川で37の遺跡を探査。
その後、探査隊の活動は引き継がられ、第3次探査隊が1976年8月~11月にマハウェリ川左岸で38の遺跡を探査。
1979年12月〜1980年3月に第4次探査隊がマハウェリ川右岸で、24の遺跡を探査。
以降は探査地をマハウェラ川流域からスリランカ南東部に移す。
1982年のコンチキ号漂流記の著者であるトール・ハイエルダールによるモルディブのガン島での太陽神殿の遺跡発見のニュースを受けて、1983年に岡村さんはモルディブを探査し、それが太陽神殿ではなく仏教遺跡であることを突き止めます。岡村さんは1985年と1994年にもモルディブの遺跡を調査し、現在までに12島の17遺跡を確認されています。
1986年6月~10月に第5次探査隊に途中参加し、ルフナ地方で51の遺跡を探査。ウィラ川の左岸ジャングルに大乗仏教の釈迦三尊像の磨崖仏遺跡を発見。
1993年8月~9月に第6次探査隊がルフナ地方で15の遺跡を探査。
2003年7月~9月に第7次探査隊がヤーラ国立公園で17の遺跡を探査。
2008年にNPO法人南アジア遺跡探検調査会を立ち上げ、岡村さんは理事長に就任。
2018年にヤーラ国立公園内のジャングルにある「タラグルヘラ山遺跡(Thalaguruhela Ancient Temple)」にて、紀元前3世紀~紀元1世紀ごろまでに建てられた仏塔や建物のほか、先住民が残した岩絵などを発見。
2019年に第23回植村直己冒険賞を受賞。
著書一覧
『セイロン島の密林遺跡』(日本観光文化研究所、1975)
『チャレンジ! 最新アドベンチャー百科』(鄭仁和、伊藤幸司、大竹憲一、市吉三郎、保呂田恒行) 共著 朝日イブニングニュース社 1977年
『セイロン島の密林遺跡Ⅱ』(日本観光文化研究所、1978)
『モルディブ漂流』(筑摩書房、1986)
『泥河の果てまで』(講談社、1989)
『狩人たちの海』(早川書房、1992)
『孤愁』(稲見一良、小川竜生、風間一輝、黒川博行、斎藤純、真保裕一、多島斗志之、高村薫、貫井徳郎、花村萬月、樋口修吉) 共著 角川書店 1994
『スリランカ・ルフナ地方の密林遺跡』(法政大学探検部、1999)
「飯炊きムーサの航海 モルディブ諸島交易船の船上食」『旅と食』(食の文化フォーラム20)所収 神埼宣武編 ドメス出版 2002
「モルディブのカツオブシ」『アジアの食文化』所収 秋野晃司、渋谷利雄編 建帛社 2000
「変貌するジャングルの村の三十年 現代スリランカを歩く」『季刊東北学』(第八号)所収 東北芸術工科大学東北文化研究センター編 柏書房 2006
『スリランカ・ワスゴムワ国立公園周辺の密林遺跡』(NPO南アジア遺跡探検調査会、2012)
『スリランカ・アンバン川流域と周辺の密林遺跡』(NPO南アジア遺跡探検調査会、2015)
「モルディブ――壊された仏教遺物」『イスラームと文化財』所収 野口淳、安倍雅史編 新泉社 2015
「大学探検部60年の軌跡」『山岳』(第百十一号)所収 日本山岳会 2016
「探検と冒険」『旅の民俗シリーズ』(第三巻)所収 旅の文化研究所編 現代書館 2017
「仏教遺跡――未知のまま消えゆくイスラーム以前の歴史遺産」『モルディブを知るための35章』所収 荒井悦代、今泉慎也編 明石書店 2021年
『スリランカ・ヤラ国立公園と周辺の密林遺跡』(NPO南アジア遺跡探検調査会、2021)
参考)
NPO法人南アジア遺跡探検調査会公式サイト
ウィキペディア:岡村隆
NHK:「スリランカの密林に未知の遺跡を探る」(視点・論点)
考える人の実感マガジン「望星」公式サイト
ウィキペディア:望星
ウィキペディア:タミル・イーラム解放機構
ウィキペディア:イスラエル諜報特務庁
ウィキペディア:レバノン内戦
「旅と町歩き」を仕事にするためスリランカへ。
地図・語源・歴史・建築・旅が好き。
1982年7月、東京都世田谷区生まれ。
2005年3月、法政大学社会学部社会学科を卒業。
2005年4月、就活支援会社に入社。
2015年6月、新卒採用支援事業部長、国際事業開発部長などを経験して就職支援会社を退社。
2015年7月、公益財団法人にて東南アジア研修を担当。
2016年7月、初めてスリランカに渡航し、会社の登記を開始。
2016年12月、スリランカでの研修受け入れを開始。
2017年2月、スリランカ情報誌「スパイスアップ・スリランカ」創刊。
2018年1月、スリランカ情報サイト「スパイスアップ」開設。
2019年11月、日本人宿「スパイスアップ・ゲストハウス」開始。
2020年8月、不定期配信の「スパイスアップ・ニュースレター」創刊。
2023年11月、サービスアパートメント「スパイスアップ・レジデンス」開始。
2024年7月、スリランカ商品のネットショップ「スパイスアップ・ランカ」開設。
渡航国:台湾、韓国、中国、ベトナム、フィリピン、ブルネイ、インドネシア、シンガポール、マレーシア、カンボジア、タイ、ミャンマー、インド、スリランカ、モルディブ、アラブ首長国連邦、エジプト、ケニア、タンザニア、ウガンダ、フランス、イギリス、アメリカ
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