インドで13年間、スリランカで4年間、 事業を展開する本多康二郎さんにインタビュー
スリランカで事業を展開する日本人起業家、経営者へのインタビュー第10弾。
今回はコロンボで日本食レストラン「くふ楽」を経営する本多康二郎さんにお話をお伺いしました。
※インタビュー日は2020年5月13日です。
目次
本多 康二郎さんプロフィール
Hirohama India Pvt. Ltd. Founder & Managing Director
Kuuraku India Pvt. Ltd. Founder & Director
Japanaese Standard Processing Pvt. Ltd. Founder & Managing Director
Hirohama Ceylon Pvt. LTd. Founder & Managing Director
中央大学法学部在学中より海外に興味を持ち、イギリス、アメリカなどへ留学。
帰国後はアジア生産性機構、母方祖父の広浜重治が創業したヒロハマで経験を積み、父が創業したサブヒロハマコーポレーションを継承。
インドでレンタルオフィス・ホテル・サービスアパートメント・ビジネスコンサルティング・レンタカーなどを行うHirohama India Pvt. Ltd、くふ楽グルガオン店・麺屋くふ楽グルガオン店・東京テーブル デリー店・東京テーブル グルガオン店・タージマハルベーカリー・くふ楽ニムラナ店・東京テーブル ニムラナ店・くふ楽チェンナイ店・ピッカンテ チェンナイ店、バーブルーラベル(チェンナイ )を展開するKuuraku India Pvt. Ltd、食品加工販売・活性次亜水(殺菌水)の製造販売を行うJapanaese Standard Processing Pvt. Ltd、くふ楽コロンボ店を経営するHirohama Ceylon Pvt. LTd.の4社を創業。
インドでのビジネスは13年間に及び、4社の従業員数は200名を超える。
インドでの事業展開
Q.インドでの事業内容について教えてください。
インドでは3社を経営しています。
1社目のヒロハマ・インディアはレンタルオフィスやホテルを経営し、日本企業のインド進出支援、日本とインド間の輸出入、販売促進などを行っています。
2社目のくふ楽インディアではインドで日本食を広める事業を行っています。
日本食レストラン・居酒屋の「くふ楽」、ラーメン店の「麺屋 くふ楽」と「Tokyo Table」、ピザ・イタリアンレストランの「Piccante」、バーの「Bar Blue Label」も展開しています。
3社目のジャパニーズ・スタンダード・プロセッシングでは、食の衛生管理でインドに寄与するべく事業を展開しています。
インド初のクリーンルームを有する食品加工工場
Q.食の衛生管理について具体的に教えてください。
スリランカの食肉工場はしっかりしていましたが、インドの食肉工場の状況は劣悪でした。
弊社が経営するくふ楽は焼き鳥がメインで内臓も使いますので、衛生管理がしっかりした環境で食肉を加工したいと思ったのです。
日本人の間では、インドに行くとお腹を壊すとよく言われますが、実はインド人も食あたりになっている人が結構います。
マーケットでの衛生管理の問題もありますし、レストランのバックヤードにも問題があります。
インドだからお腹を壊すのではなく、インドの食品加工の衛生管理に原因があると思うのです。
インドの平均寿命は短いですが、私は食の衛生管理の問題がその一要因ではないかと思っているぐらいです。
日本ではクリーンルームは食品加工工場にも導入されていますが、インドでは半導体工場で導入されているだけでした。
そこで、インド初のクリーンルームを導入した食品加工工場を作ったのです。
日本基準のモデルケースを作ることで、自社のお店で提供する食品の品質を向上させるとともに、食の衛生管理における啓蒙活動をしていきたいと考えています。
また、食品加工工場は弊社の8店舗の飲食店のセントラルキッチンの役割も担っています。
飲食店は店舗数が増えると、味のコントロールが難しくなってきます。
セントラルキッチンを持つことで、安定したクオリティーで料理を提供できるようになるのです。
加えて、食品加工工場は日本の衛生管理に関する消耗品や機械などをインドに紹介する機会にもなります。
クリーンルームで使うために開発した殺菌水も製造販売をしています。
Q.なるほど。食品加工工場は、日本とインドの架け橋として事業を行うヒロハマ・インディアとも、飲食店を展開するくふ楽インディアともシナジーのある事業なのですね。複数の事業を行っていますが、それぞれの事業に共通する点はあるのでしょうか?
インドと日本、双方にとって良いことに取り組んでいます。
インドで事業をしていますので、インドに貢献したいという気持ちも強いですね。
日本のサブヒロハマコーポレーションでは、インドのマンゴーを日本に輸入しています。
これまではレンタルオフィスなどの場所を作ってインドと日本をつなぐことをしていましたが、段々と、事業と事業、人と人をつなぐような形になってきました。
今回のコロナ騒動で、その側面が強くなっていくように思います。
ロックダウン中のインドの状況
Q.インドでのロックダウンの経緯を教えてください。
3月19日にモディ首相による1度目の演説で、自発的に外出禁止を促す「Janta Curfew」を22日に実施するという発表がありました。
その後、24日の午後8時からモディ首相による2度目の演説があると聞いて、「ロックダウンになるのではないか?」「スタッフたちを地元に帰した方がいいかもしれない」とインド人ビジネスパートナーと話していました。
そして、24日の午後8時に、4時間後の25日午前0時から外出禁止になることが発表されました。
4時間後とは急ではありますが、2016年11月8日に発表された高額紙幣(500ルピー札と1,000ルピー札)の無効化の際も、午後8時に発表され、無効になったのは4時間後の9日午前0時からでしたので、ある程度は想定はしていました。
そして、翌日からホテル、レンタルオフィス、レンタカー、レストランなどを止めざるを得ない状況になりました。
Q.想定していたとは言え、大変な状況ですね。ロックダウン中に取り組んでいることを教えてください。
デリー首都圏には1,500人ほどの日本人が残っています。
厳しいロックダウンの中、インド食材やインド料理ばかりでは大変です。
日本人の方々が安心して食事ができるよう、ジャパニーズ・スタンダード・プロセッシングでは食材のデリバリーを行っています。
煮込みハンバーグや筑前煮など、電子レンジか湯煎すればすぐに食べられるものが売れています。
日本人だけではなく、インド人からの注文も増えてきました。
インドの方の中にも、コロナウイルスの影響から、今まで以上に食品の衛生面を気にする方々がいて、ソーセージなどをご注文いただいています。
感染が増え続け、酷暑の北インドではデリバリーが難しい
チェンナイではくふ楽とピッカンテでそれぞれデリバリーを行っていますが、デリー、グルガオン、ニムラナではデリバリーを行っていません。
フードデリバリーを行っているZomatoやSwiggyのドライバーが足りていないことや、感染が増えているホットスポットが多いこと、またデリー首都圏は現在40度を超える気温になっており、お弁当が痛みやすいためデリバリーは控えています。
その代わり、冷凍食品をお届けするようにしています。
現在はマーケットの状況が劇的に変わっています。
これまでデリー首都圏には日本人が約5,000人いましたが、コロナの影響で帰国した人も多く、現在は1,500人弱で1/3未満になっています。
お客様の求めていることと、インド政府の通達(何をやってはいけないのか)を確認しながら、迅速に対応しています。
くふ楽コロンボでもデリバリーを行っています。
現地の日本人スタッフからの発案で、お客様からオーダーを直接受けるページを日本語、中国語それぞれで用意しています。
現地のフードデリバリーサービスのUber Eatsも活用しています。
また、これも現地の日本人スタッフからの発案ですが、ご注文いただいたお客様にお手紙を添えて料理をお届けしています。
こういう大変な状況だからこそ、お客様とのコミュニケーションを大切にしていけたらと思っています。
ネパール人、北インド人、南インド人、スリランカ人の違い
Q.ネパールでも活動されていますよね?
はい、ネパールでは人材開発センターや食材輸出ができないかと思っています。
インドとネパールは兄弟のような関係で、ネパール人はインドで働く際にビザが必要ありません。
ネパール人は言語能力が高く、英語が堪能な人が多く、日本語を覚えるのも早いですよ。
親日の人が多く、日本語学校もたくさんあります。
真面目な人が多いのも魅力的ですね。
スリランカの店舗でもネパール人を採用したいと思っています。
また、インド人はベジタリアンでない人でも曜日によって肉が食べれない日があるため、テイスティングを任せるのが難しいのですが、ネパール人の場合は食事の制限が少なく、テイスティングを任せることができます。
同じく食事の制限が少ない、マニプル州の人もテイスティングには適任です。
食材の輸出については、インドで栽培できないゴボウなどの野菜をネパールで作って、インドに輸出したいと思っています。
Q.ネパール人、インド人、スリランカ人に違いはありますか?
ネパール人は先ほどお話したように、真面目な方が多いです。
顔が日本人と似ていて、考え方も日本人に近いように思います。
それと、インド人と言っても、インドはとても広い国なので、北インドの人と南インドの人ではだいぶ違いがあります。
北インドの人は自己アピールがかなり強いです。
ドライバーでさえ、私に給料の交渉を直談判しにくることもあります。
そして、トップダウンの文化が強いです。
取引先に会う場合は、トップに会わないと始まりません。
担当者に会って話を上げてくれるということはほぼありません。
トップダウンのカーストヒエラルキーがあるため、スタッフたちはボスに威厳を持って指示してくれることを望んでいます。
一方で、日本人の場合は指示が不明確になりがちです。
私もインドに来たばかりの頃は失敗しましたが、「いつまでに」、「何を」、「誰が」やるのかを明確に指示を出し、その後も、進捗をしっかりと確認する必要があります。
スリランカ人はのんびりしている人が多いです。
実はスリランカだけ、週休二日にしています。
忙しいとスリランカの人はすぐ辞めてしまいます。
インド人やネパール人のように稼ぎたいという欲をあまり感じません。
頑張って働いて稼ぐことよりも、のんびりと働く方を望む人が多いように思います。
北インドはとても暑く、しっかりとした住環境を用意できなければ暑さで死んでしまいます。
熱帯夜で亡くなってしまう人もいるほどです。
過酷な北インドに比べて、スリランカは気候も温暖で過ごしやすく、食べ物が庭になっていたりします。
スリランカでは公立の学校や病院は無償です。
自分の将来や家族のためにも稼がないといけない北インド人と、温暖な気候で社会制度がしっかりしているスリランカ人では働くことに対する意識が違うのは当然だと思います。
スリランカ人は一見良い人に見えることが多いですが・・・、後々問題が起こることがありますね。
南インド人はスリランカ人に少し似ているところがあり、のんびりしているところがあります。
南インドも気候が温暖です。
海外でビジネスを展開するときのコツ
ネパール人、北インド人、南インド人、スリランカ人それぞれの違いは、気候や文化、宗教、経済状況などの要因が関係しています。
その地域の人に”ある傾向”があるとすれば、それには原因、ロジックがあります。
インドでは指示は明確に出す必要がありますが、日本ではそうではありません。
どちらが良い悪いではなく、そうなっている背景、原因があります。
それを理解し、チーム、組織をまとめていく必要があります。
取引先やパートナーとの関係も同様に、背景を理解することが大切です。
免疫力を高める日本食をインド、スリランカマーケットに
Q.今後の展開について教えてください。
今回のコロナウイルスによって、食や衛生について見直すきっかけが生まれたと思います。
日本は先進国の中でも比較的感染者が抑えられています。
様々な理由があると思いますが、日本食がその理由の一つにあるのではないかと思っています。
日本食は発酵食品が多いですが、発酵食品には免疫を高める効果があります。
醤油、味噌、納豆なども発酵食品です。
私たちがチェンナイで経営するピザレストランで使っているチーズも発酵食品です。
日本食の新しいマーケットをインドやスリランカで創出できるのではないかと思っています。
よく生魚を使った寿司を見て、食あたりしないのか?と心配するインド人、スリランカ人のお客様がいらっしゃいますが、そんな時は、ワサビの殺菌効果を説明しています。
その他、春菊、ゴボウ、人参にも殺菌効果があります。
科学的なデータを用いて、日本食が健康の秘訣であることを実証し、
「栄養があって、免疫力が上がる、美味しい日本食」
を提供していきたいと思います。
今後の事業展開としては、健康と食と医療にフォーカスしていきたいと考えています。
物流ハブ、金融ハブとしてのスリランカの可能性
Q.スリランカに対して感じる可能性はありますか?
スリランカの人は色んなものを召し上がるので、インドと比べて商品開発がしやすいです。
そして、本格的なものにこだわる方が多いように思います。
弊社が出店しているレストランコンプレックスの「パーク・ストリート・ミューズ」はVIP、ハイエンドなお客様が多く来ます。
そのようなお客様に喜んでいただけるのは、スリランカにいながらにして、日本の味、日本の雰囲気を味わえることです。
日本に興味があるという方には、くふ楽は日本に22店舗あり、カナダ、インドネシア、インドにも進出していることをお伝えしています。
スリランカの国としての可能性としては、よく言われていることですが、貿易と金融の拠点になり得るということです。
インドと比べてモノによってはスリランカは関税が低いです。
一般的に地場産業があるものは保護のため関税が高くなりますが、インドに比べて地場産業が少ないスリランカでは関税が低い分野が多くあります。
そして、地理的な優位性の高さも魅力的です。
インドに比べて、お金の出し入れがしやすいのも良い点ですね。
まとめ
インドで13年のビジネス経験があり、ネパール、北インド、南インド、スリランカと4地域のことを知る本多さんのお話は、スリランカを客観的に理解するのに役立つお話でした。
くふ楽コロンボが提供している「くふ楽ラーメン」は町の居酒屋さんが出しているラーメンの域を超えています。
今回のインタビューを通じて、インドではラーメン店の「麺屋 くふ楽」と「Tokyo Table」を展開していることが知り、くふ楽ラーメンが試行錯誤の上にたどりついたラーメンであることが分かりました。
参照)
本多さんが経営する4社の詳細はそれぞれのホームページをご覧下さい。
Hirohama India Pvt. Ltd.
Kuuraku India Pvt. Ltd.
Japanaese Standard Processing Pvt. Ltd.
Hirohama Ceylon Pvt. LTd.
お知らせ
インドの日本人起業家によるビジネストーク
インドで活躍する日本人起業家によるオンラインセミナーが2020年6月8日〜6月29日にて開催されます。
セミナーの収益の一部はインドのコロナ対策に使われるとのことです。
登壇者の一人目は本多さん(6月8日に登壇)ですので、よろしければご参加ください。
くふ楽コロンボでのデリバリー、テイクアウト
現在、くふ楽コロンボ店ではデリバリー、テイクアウトを行っています。
コロンボのデリバリー、テイクアウトの情報はこちらをご覧下さい。
「旅と町歩き」を仕事にするためスリランカへ。
地図・語源・歴史・建築・旅が好き。
1982年7月、東京都世田谷区生まれ。
2005年3月、法政大学社会学部社会学科を卒業。
2005年4月、就活支援会社に入社。
2015年6月、新卒採用支援事業部長、国際事業開発部長などを経験して就職支援会社を退社。
2015年7月、公益財団法人にて東南アジア研修を担当。
2016年7月、初めてスリランカに渡航し、会社の登記を開始。
2016年12月、スリランカでの研修受け入れを開始。
2017年2月、スリランカ情報誌「スパイスアップ・スリランカ」創刊。
2018年1月、スリランカ情報サイト「スパイスアップ」開設。
2019年11月、日本人宿「スパイスアップ・ゲストハウス」開始。
2020年8月、不定期配信の「スパイスアップ・ニュースレター」創刊。
2023年11月、サービスアパートメント「スパイスアップ・レジデンス」開始。
2024年7月、スリランカ商品のネットショップ「スパイスアップ・ランカ」開設。
渡航国:台湾、韓国、中国、ベトナム、フィリピン、ブルネイ、インドネシア、シンガポール、マレーシア、カンボジア、タイ、ミャンマー、インド、スリランカ、モルディブ、アラブ首長国連邦、エジプト、ケニア、タンザニア、ウガンダ、フランス、イギリス、アメリカ
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