連続爆破テロから2年〜マルコムランジス大司教の発言〜
明日で2019年のスリランカ連続爆破テロから2年となります。
標的となった教会のうち、
ニゴンボのカトゥワピティヤにある聖セバスチャンズ教会
コロンボのコッチカデにある聖アンソニーズ教会
を管轄するコロンボ大司教のマルコム・ランジスの発言が4月18日、19日と連日ニュースに取り上げられています。
テロ事件の真相は未だ分かりませんが、大司教の発言とその後の訂正は何かを物語っているように思います。
「政治権力」に関連しそうな情報をピックアップしながら、事件を振り返ります。
政治権力の陰
2021年4月18日にeconomynextにマルコム・ランジス大司教が「自爆実行犯は、政治権力を強化しようとした勢力に操られた駒に過ぎない。宗教ではなく、特定勢力が自分たちの立場を強固にしようとして事件を起こした」と述べたと掲載されいています。(参照:シバタランカ・木田泰光のスリランカ経済ニュース〜2021年4月19日)
翌日、4月19日にNewswireには、「国内政治グループを意味したものではなく他国でワッハーブ主義を支持するグループを念頭に置いた発言だ」と述べたと掲載されています。(参照:シバタランカ・木田泰光のスリランカ経済ニュース〜2021年4月19日)
ワッハーブ派といえば親米国サウジアラビアを連想させます。
テロ前後の政治の動き
テロが起きた2019年のスリランカの出来事については、
アジア経済研究所の『アジア動向年報』の「2019年のスリランカ 同時多発テロ後の大統領選挙でゴタバヤが当選」を読むことで、流れを理解できるかと思います。
テロについて、「4月4日,11日,事件の48時間前および数十分前にも,インドからスリランカ当局に情報がもたらされた。」ことや、スリランカの憲法では二重国籍では大統領に就任できないことが説明されています。
そして、最後に日付ベースで1年間の流れがまとめられた「重要日誌」も大変興味深いです。
ゴタバヤ・ラージャパクサはテロの4日前にアメリカ国籍の離脱にサインしています。
2019年4月7日
ゴタバヤ・ラージャパクサ,『サンデーリーダー』の編集者ラサンタ・ウィクレマトゥンガ殺害の件でアメリカで提訴される。
4月17日
ゴタバヤ,アメリカ大使館で国籍離脱の誓約書に署名。
7月24日
警察,イースター・テロと IS との 直接的な関連性は見つけられず。
10月9日
ゴタバヤ,刑務所にいる元軍人に恩赦を与えると発言。
12月27日
ラージタ・セナナヤケ前保健大臣, 「白いバン」に関する記者会見の件で逮捕
事件の不可解さ
アジア動向年報と同じ執筆者である、アジア経済研究所の荒井悦代さんの2019年4月の記事も大変参考になります。
テロ事件を「スリランカの社会構造や近年の宗教組織の動きと全く相いれない」と記述しています。
これまでの対立構造は、内戦ではタミル系過激組織のLTTEとスリランカ政府との対立。
それ以後は多数派の仏教の過激集団によるイスラム教徒への襲撃、あるいは新興のキリスト教会への襲撃。
それに対して、テロ事件は伝統的なカトリック教会とムスリムという構造であることを指摘しています。
また、実行主体のNTJが、2018年12月の事件での顛末を引用して「犯人が住民に取り押さえられ木に縛り付けられて、警察に引き渡されている。そんなグループがこれほど大規模なテロを引き起こすとは、にわかに信じがたい。」と記述しています。
ウィキペディアの「スリランカ連続爆破テロ事件」のページでは、ロイター通信、スリランカのADA deranaなどのニュースを引用して、以下のような点を列挙しています。
・ISILが4月23日になって声明を発表しているが、スリランカの犯罪捜査部(Criminal Investigation Department )は、直接的な関係は見つけられていないと発表している。
・スリランカの国防副大臣のルワン・ウィジェワルデネ(Ruwan Wijewardene)が、2019年3月15日のクライストチャーチモスク銃乱射事件の報復であるという見解を述べたことに対して、ニュージーランド首相のジャシンダ・アーダーンは疑問を呈している。
まとめ
動画を検索すると、マルコム・ランジス大司教の英語、イタリア語、シンハラ語でのインタビュー、記者会見の発言が見られます。
動画を見て「スリランカは多宗教が共存している」という発言がやはり大切な部分だと感じました。
明日の朝、黙祷が行われるようですので、私も行いたいと思います。
テロで被害に遭われた方々とそのご家族やご友人に哀悼の意を表します。
参照)
シバタランカ・木田泰光のスリランカ経済ニュース〜2021年4月20日
シバタランカ・木田泰光のスリランカ経済ニュース〜2021年4月19日
アジア動向年報:2019年のスリランカ 同時多発テロ後の大統領選挙でゴタバヤが当選
IDE-JETRO:スリランカ連続爆破テロの背景
Human Rights Watch:スリランカ:脅迫や暴力にさらされるジャーナリストたち
アムネスティインターナショナル:スリランカ:新聞編集者、銃弾に倒れる
economynext:Sri Lanka Cardinal drops a bombshell on eve of blast anniversary
Ada Derana:Special statement from Archbishop Cardinal Malcolm Ranjith
Ada Derana:Easter Day attacks are a plan of powerful nations – Cardinal Malcolm Ranjith (English)
Cardinal Ranjith on the aftermath of Easter bombings – ENN – 2019-06-20
ROM REPORTS in English: Card. Ranjith cries in front of journalists, remembering victims of Sri Lanka attacks
Wikipedia:Malcolm Ranjith
Wikipedia:Rajitha Senaratne
ウィキペディア:スリランカ連続爆破テロ事件
REUTERS:New Zealand PM says no intelligence linking Sri Lanka attacks to Christchurch
ADA derana:No evidence that IS was behind Easter attacks – Senior DIG Ravi Seneviratne
>関連記事
https://spiceup.lk/srilankaeaster/
「旅と町歩き」を仕事にするためスリランカへ。
地図・語源・歴史・建築・旅が好き。
1982年7月、東京都世田谷区生まれ。
2005年3月、法政大学社会学部社会学科を卒業。
2005年4月、就活支援会社に入社。
2015年6月、新卒採用支援事業部長、国際事業開発部長などを経験して就職支援会社を退社。
2015年7月、公益財団法人にて東南アジア研修を担当。
2016年7月、初めてスリランカに渡航し、会社の登記を開始。
2016年12月、スリランカでの研修受け入れを開始。
2017年2月、スリランカ情報誌「スパイスアップ・スリランカ」創刊。
2018年1月、スリランカ情報サイト「スパイスアップ」開設。
2019年11月、日本人宿「スパイスアップ・ゲストハウス」開始。
2020年8月、不定期配信の「スパイスアップ・ニュースレター」創刊。
2023年11月、サービスアパートメント「スパイスアップ・レジデンス」開始。
2024年7月、スリランカ商品のネットショップ「スパイスアップ・ランカ」開設。
渡航国:台湾、韓国、中国、ベトナム、フィリピン、ブルネイ、インドネシア、シンガポール、マレーシア、カンボジア、タイ、ミャンマー、インド、スリランカ、モルディブ、アラブ首長国連邦、エジプト、ケニア、タンザニア、ウガンダ、フランス、イギリス、アメリカ
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