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世界からの注文、訪問者が絶えない小さな茶園「アンバ・エステート(AMBA Estate)」

2020年5月29日

「機械を排してハンドロールドでオーガニックティーを作っている、とてもユニークな茶園があります。」

セイロンティー生誕150周年の年であった2017年に、スリランカ紅茶局(Sri Lanka Tea Board)のチェアマンのロハン・ペティヤゴダ氏(2017年当時)を訪ね、この記念すべき年に適した取材先を紹介してほしいとお願いした際、教えていただいたのが、ここ「アンバ茶園(AMBA Estate)」でした。

なぜ、この茶園が注目に値するのか?を紹介していきます。

年間7000人が訪れる茶園

欧米人の旅行先として人気の町エッラ(Ella)から南へ40分ほど行った山の中にある小さな茶園が「AMBAE Estate」です。

バンダラウェラ(Bandarawela)から東に35分ほどの距離でもあります。

コロンボからは高速道路を利用しても、5時間以上とアクセスの悪い場所に年間約7,000人(2019年3月時点)の観光客が訪れているそうです。

2017年3月の取材当時は年間約2,000人と聞いていたので、2年で3.5倍に訪問者が増えているというのは驚異的です。

歴史ある建物をハイセンスなブティックホテルに改装し、主に欧米圏からの旅行者が多く訪れています。

客室棟の共有スペース

最初に農園を訪れた際、オーナーのサイモンさんはお客さんをエッラの町でピックアップして、観光スポットに立ち寄って案内しているところでした。しばらくすると、サイモンさんが帰ってきてお話をお伺いすることができました。

「私たちが始めたことはアグリーツーリズムなんです。観光は人を呼び込むのに最適な手段だと思っています。色んな国から訪問者が来てくれています。今日はあいにく満室ですので、よければ近くのホテルを紹介しますよ。」

と、サイモンに近くのホテルを紹介してもらいホテルに行ってみる、そこにもAMBA Estateを見に来た人たちが宿泊していました。

サイモンさんを待っている時に出してくれた紅茶とスイーツ

たしかに多くの人が訪れているんだなと思い、なぜ、こんなところまでやってきたのかを尋ねました。

すると、「自然を満喫しにきた」という答えばかりで、オススメされて取材で訪れた私からすると、長時間かけて来る理由にとしては漠然としているように思えました。

ところが、翌日にファームツアーに参加して、その答えがしっくりと理解できるようになりました。

山ごと無農薬にしたアグロフォレストリー農法


AMBA Estateでは、農園と工場の見学ツアーに参加することができます。
私は紅茶工場のツアーは10か所に訪れているが、最もユニークなツアーだったのが、このAMBA Estateです。

最初に茶園を歩きます。
そこで茶摘みをしている女性を何人か見かけましたが、他の茶園と様子が全く違います。
他の茶園では、茶樹が一面に並んだ絶景の中をたくさんの茶摘みをする人が働いている様子が見られました。

農園内の道

ところが、こちらはそのような絶景もなく、働いている人もまばらです。

ツアーガイドを務めるスタッフさんによれば、これは様々な木を共生させる森林農法(アグロフォレストリー)なのだそうです。

茶の木、コーヒーの木、レモングラスなどハーブやスパイスが多種多様に生えています。

かつて、インド人が経営して栄えたものの衰退した茶園を買い取り、茶園と周囲の土地も含めて無農薬に変えて、土づくりから新しい農園を始めたそうです。

農園からの見晴らしの良いところまで行くと、遠くの山が見渡せました。

手作りの最高級紅茶

工場に案内されると、さらにいつも違う光景を見にします。
通常、紅茶工場は巨大なマシーンが並び、大量の茶葉を見ることができます。

しかし、AMBA Estateの工場には巨大なマシーンはなく、スタッフさんたちが手で容器に入った茶葉をかき混ぜている姿がそこにあります。

そう、機械を使わずに手で一つ一つ作っているのです。
使われているのは、地元で作られた器具類です。
中国や台湾で見かける高級烏龍茶のように、茶葉は小さく丸くまとめらていきます。

無農薬・手作りのジャム、スパイス、ハーブ、コーヒー

隣の部屋ではスタッフさんたちがマンゴー、パパイヤを手でカットしていました。
農園になっている果物やスパイス、ハーブもハンドメイドで丁寧に製品にしているのです。

隣の建物に行くと、紅茶、コーヒー、スパイス、ハーブなどの製品が並べられているオフィス兼ショップがあります。

入荷半年待ちの紅茶

オーナーのサイモンさんが教えてくれました。

「ある時、バーニーズ・ニューヨークからオーガニックのハンドメイドティーを取り扱わせてほしいと連絡があったんですよ。その後、ロンドンのフォートナム&メイソンやクラリッジス、ニューヨークのハーニー&サンズ、その他、ベルリン、アムステルダムなどの高級デパートや高級ショップからの問い合わせが続き、今では韓国や香港にも取り扱っているところがあります。残念ながら日本では取り扱ってくれているところがありません(2020年現在は日本でも取り扱いがあります)。というのも君がAMBA Estateに来てくれた最初の日本人だからね。」

100gで6,000円以上の価格で取り扱ってくれていると2017年当時はお話をしてくれました。

多国籍な経営メンバーが目指すソーシャルビジネス

AMBA Estateは経営メンバーはイギリス、アメリカ、イタリア、ウズベキスタンと多国籍です。
代表者のサイモンさんはスリランカ生まれ、インド育ちのイギリス人。

戦略コンサルティングファームのA.T.カーニーのディレクターだったサイモンさんは、2001年にスリランカの紅茶産業の戦略を検討するプロジェクトを担当したそうです。

スリランカ政府に戦略を提案したチームメンバーの4人で、実際にその戦略を形にする場所をスリランカで探し回り、ようやく見つけたのが現在の場所だったそうです。

2006年にAMBA Estateを創業して土地を購入し、戦略コンサルタントから農園経営者へと転身したのです。

働きたい人が250人待ち

AMBA Estateでは農園労働者に収益の10%をボーナスとして支給しています(2017年当時)。

2020年のZOOMを使ったウェビナーでのサイモンさんのプレゼンテーションでは、一般的な紅茶産業では農家に入るお金は20%弱とされていますが、AMBA茶園では50%が農家さんの収入になるようにしているとのことでした。

サイモンさんは言います。

「僕らは大きな工場になろうとは思ってはいない。地元に根差し、長期雇用を実現するソーシャルビジネスを目指している。」

そんなサイモンさんの茶園で働くことを希望する人が250人もいるそうです。

スリランカの紅茶産業は、イギリス植民地時代に南インドから労働者を集めてプランテーション経営をしていたことに遡ります。大企業が経営する茶園の敷地内には、学校や病院まであり、敷地内で生活が完結しているとも言えますが、一生の間、茶園から外に出ないとも言えるような環境です。

自分の子どもには農園の外で暮らしてほしいと願う親たちが多く、茶園で働く担い手は減っていると言われています。

そんな中、働きたい人が集まるAMBA Estateはスリランカ紅茶産業の一筋の光なのかもしれません。

まとめ

この記事は2017年3月に取材を行った「スパイスアップ・スリランカ」の第2号「紅茶の国」の特集での記事を再編集したものです。
2019年の数字はMITSUTEAの中永さんが書いた『”紅茶の聖地を巡る旅” SRI LANKA TRAVEL BOOK スリランカトラベルブック』を参考にしています。

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