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『ぼくは6歳、紅茶プランテーションで生まれて。: スリランカ・農園労働者の現実から見えてくる不平等』

2022年4月11日

スリランカの紅茶プランテーションの問題と、支援プロジェクトについて紹介された『ぼくは6歳、紅茶プランテーションで生まれて。: スリランカ・農園労働者の現実から見えてくる不平等』について紹介します。

本記事では、冒頭で本書の概要を紹介した後に、本書で気になった内容を箇条書きで引用し、紹介しています。

本書の概要

ページ数が少なく、行間も広く、写真やイラストも多く、とても読みやすい本です。

スリランカの紅茶プランテーションの問題や課題をざっと知りたい人にはオススメできる本です。

著者の栗原産は、国際NGO「CARE」のスタッフ、JICA専門家としてスリランカの紅茶プランテーションに関わり、現在は、宇都宮大学国際学部准教授を務めながら、スリランカの紅茶プランテーションの支援プロジェクトに取り組まれています。

以下、本書に記載されている栗原さんのプロフィールです。

著書・栗原 俊介さん

宇都宮大学国際学部准教授
1967 年生まれ。
1990 年、専修大学経済学部経済学科を卒業。その後渡米し、2000 年、米国School for International Training を修了(Master’s Program in International and Intercultural Management)。2013年横浜国立大学国際社会科学研究科にて博士号(学術)取得。
国際NGO「CARE USA」のスタッフとして、長年スリランカの紅茶プランテーションの労働者を支援するプロジェクトに携わり、その後JICA の専門家としても、スリランカで勤務。労働者コミュニティを中心に、途上国での構造的貧困への有効な支援方法、および国際社会や先進国消費者側コミュニティの効果的なかかわり方を研究し、2014 年より現職。
共著に『スリランカを知るための58 章』(2013 年、明石書店)がある

日本における紅茶の消費量と輸入量

本書には、日本におけるコーヒー、紅茶、緑茶の消費量が書かれていましたので、以下に農林水産省のページに記載されている数字と、本書が引用元として記載している茶ガイドというウェブサイトを参考に最新のデータを記載します。

珈琲:453,000トン(2019年)
緑茶: 68,442トン(2020年)
紅茶: 14,958トン(2020年)

参考)
農林水産省:コーヒーの消費量をおしえてください。
茶ガイド:茶の需給

コーヒーがかなり多いことが分かります。

スリランカが輸入紅茶に占める割合

本書には、「紅茶は、ほぼすべてを輸入に頼っています。そして、輸入される紅茶の75%がスリランカ産のセイロンティーです。」とありました。

日本紅茶協会のウェブサイトに掲載されているデータは、バルク・3kg以下直接包装・インスタントティーの3つに分けてデータが掲載されていますが、全ての輸入量を合計すると、上記に記載した紅茶の消費量を超えています。

消費と輸入にはタイムラグがありますが、輸入量が消費量を超えているとなると、ほとんどが輸入のようです。

日本紅茶協会のウェブサイトのデータで計算すると、スリランカが占める割合は以下の通りです。

3kg以下直接包装:49%
バルク:37%
インスタントティー:0.9%

3カテゴリー合計した場合はスリランカは全体の36%を占めます。
スリランカの比率が低いインスタントティーを抜いた2カテゴリー合計ではスリランカは全体の38%を占めています。

参考)
日本紅茶協会:紅茶(3kg 以下直接包装したもの)輸入先国別輸入数量・金額 確定値
日本紅茶協会:紅茶(バルク)輸入先国別輸入数量・金額 確定値 2020年1-12月累計

農民ではなく、農園労働者である

本書で指摘している点で重要なのは、スリランカの高地の農園で働いているのは、自分の土地で作物を育てている農民ではなく、プランテーション会社の農場ではたらている農園労働者ということです。

  • 農園労働者は、農民(farmer)ではなく、あくまで農園労働者(Estate Labor)なのです。
  • 「インド・タミル人」は、紅茶農園で働くタミル人で現在では「エステート・タミル人(農園タミル人)」とも呼ばれています。イギリスがセイロン島を植民地にした時代に、インドからプランテーション労働のために連れてこられた人々です。イギリスの斡旋もあり、カースト制によって土地を持てない人々が、南インドのタミル・ナードゥ州から紅茶、天然ゴム、ココナッツなどのプランテーション農園へ労働者として移住してきたのです。

参考)
Wikipedia:Indian Tamils of Sri Lanka

カーストによる差別

  • エステート・タミル人の祖先は、南インドの小作農や土地を持てない農民などで、非常に貧しい暮らしをしていた下層のカーストでした。
  • タミル人社会の中でも、インドの低いカーストの末裔だということでエステート・タミル人は二重の差別を受けるのです。

スリランカとインドはエステートタミルの対応について協議して、インドに帰国を希望する人はインドに、スリランカに残ることを希望する人はスリランカでそれぞれ国籍を与えて受け入れていますが、厳しい南インド離れてやってきた人々には、インドに戻ることも、スリランカに留まることも厳しい環境であったことが想像できる記述です。

タミル人のカースト

タミル人のカーストについては、本書には説明はありませんが、他にどんなカーストがあるのか調べてみました。

スリランカ北部に多く住んでいる人たち(スリランカ・タミル)のカーストが高いようです。

シンハラ人のカーストは、農家であるゴイガマが半数を占めた上位カーストですが、
タミル人のカーストも、上位カーストの「ヴェッララー」が半数を占めるようです。

植民地政府の高官ムダリヤールは、ヴェッララーの人たちがなったようです。

ヴェッララーの次に位置するのが、漁業、海上貿易に従事する海洋民族「カライヤール」。
このカライヤールの裕福な層から過激派が生まれ、LTTEの指導層になったようです。

参考)
Wikipedia:Sri Lankan Vellalar
Wikipedia:Karaiyar

スリランカと、マレーシア・フィジーの違い

私が本書を読んで知ったことは、マレーシアとフィジーの農園のことです。
本書には以下のように書いてありました。

  • マレーシアやフィジーでも、イギリスが南いんどに住んでいたタミル人を移住させてプランテーションを開拓したことを紹介しましたが、その状況はスリランカの紅茶農園とは大きく異なります。最たる違いは、今やそのプランテーションで働くのが、タミル人の子孫ではないことです。
  • 労働者の多くは、バングラディシュやインドネシアから出稼ぎに来ている人々です。
  • マレーシアでは、経済発展とともに、農園内に労働者とその家族を代々住まわせることのコストが大きくなっていきました。そして結果的に、タミル系の人たちは徐々に農園の外で暮らすようになっていったのです。

ネットで検索して出てきたページを参照すると、やはりプランテーションの労働者は変わってきているようです。
一方で、スリランカは変わっていません。

余談ですが、マレーシアで長年首相を務められたマハティールさんのお父さんはケーララ州からマレーシアに渡った人だそうです。

参考)
農林水産省:第3章 マレーシアの農業・農業政策
マレーシアにおける天然ゴム産業
東南アジア・プランテーション産業の 脱植民地化と新展開
ウィキペディア:マハティール・ビン・モハマド

世界のインド人移民

こちらも本書に書かれていない内容ですが、マレーシアとフィジーに関連して、世界のインド人移民について調べました。

ウィキペディアの「インド系移民と在外インド人」のページには、インド人移民が多い国がまとめられています。

シリコンバレーがあるカリフォルニア州とインドはは12時間半の時差(サマータイム時)があり、英語話者も多いことからアメリカのIT会社がインドに拠点を作ったと言われますが、在外インド人が一番多いのは、アメリカのようです。

スリランカの農園へ移住した時は、イギリスが世界で最も栄えていた国で、この時はインドの人たちはイギリスの植民地へ移住したようです。

まず最初に労働者階級の人たちが鉄道建設などのインフラ整備の労働のために移住し、そしてプランテーションでの労働のために移住。

労働者とは別に、グジャラートの商人が各地に移住もしているようです。

弁護士などの専門職の人々も移住していますので、社会階層によって置かれた環境は異なるでしょう。

モーリシャスでは先住の人たちもよりインド系の人たちの方が多くなっています。

労働者の人たちが多く移住した国々では民族間の衝突が見られます。
よく知られた例はミャンマーのロヒンギャ問題でしょう。

参考)
CNN:ケニアの鉄道支えたインド人移民たち
NATIONAL GEOGRAPHIC:ケニア襲撃事件の中のインド系住民
東アフリカにおける「インド人問題」-1920年代のケニアを中心に-
第二編 ケニア建国でのインド人の軌跡
ウィキペディア:インド系南アフリカ人
ウィキペディア:ロヒンギャ
Wikipedia:Arakan
外務省:モーリシャス共和国
ウィキペディア:モーリシャス
ウィキペディア:アープラヴァシ・ガート
アフリカの多民族国家 モーリシャスのカースト差別
モーリシャスにおける華人社会の変容と  ポートルイスのチャイナタウンの地域的特色
外務省:フィジー共和国
ウィキペディア:フィジー
ウィキペディア:インド系移民と在外インド人

赤字のプランテーション会社

劣悪なる労働の環境が紹介されていますが、一方で、経営サイドは赤字であることも書かれています。

  • 実は、スリランカのプランテーション会社の半分近くが、赤字経営と言われています。紅茶の価格はオークションで決まるので、世界の紅茶価格が低迷すると、会社は赤字になります。
  • 1975年、スリランカのプランテーション農園は国営化され、土地も国有地になりました。その後、1992年にプランテーションの分割民営化があり、現在、スリランカのプランテーション農園はほとんどが民営化されています。
  • しかし、民営化された後も、土地は国有地のままです。プランテーション会社は、国から土地を借りている形になっています。

一般的な農園のイメージ図

本書に掲載されている「一般的な農園のイメージ図」は非常に分かりやすいと思いました。

NHKのページに似たイメージがありました。

参考)
NHK for School:マレーシア 植民地と農業

エステート・タミル系政党のジレンマ

エステート・タミル系政党のジレンマに関する記述も参考になると思いました。

  • 労働組合以外に頼れる存在というと、政治家、政党ということになります。実際、エステート・タミルを中心に結成された政党がいくつか活動しています。ただし、エステート・タミル人の要求を実現することを目標に掲げる政党もジレンマを抱えています。もし、農園に住むエステート・タミルの人たちが普通の市民と同じように選択肢を持ち始めて、高等教育を受け、それに合った仕事を探して、農園の外に住む人が増えると、農園コミュニティを基盤とした政党の支持基盤をせい弱化してしまいます。
  • これがエステート・タミル系の政党が最も恐れていることで、エステート・タミルの人たちにはいつまでも農園に住んでいてほしいと願っており、農園の住民の願いも必ずしも一致していないのです。

青年指導員の取り組み

栗原さんが取り組む、「紅茶プランテーション農園における青年層を活用した学童補習活性化」について、本書の後半に紹介されています。

栗原さんが所属されている宇都宮大学国際学部が、JICA 草の根協力支援型として、現地のNGO「SEWA LANKA FOUNDATION」ともに、農園の青年たちが農園の子供たちにスクールを行うことを支援する取り組みです。

事業期間は、2018年2月~2022年1月(3年11ヵ月)と書かれていますので、今年の頭まで行われていたようです。

参考)
JICA:紅茶プランテーション農園における青年層を活用した学童補習活性化
SEVA LANKA FOUNDATION 公式サイト
宇都宮大学国際学部附属多文化公共圏センター:UU-TEAについて

まとめ

本記事で取り上げた以外には、農園の労働者のアルコール依存問題や、教育環境の問題、労働・生活環境の問題についても、紹介されています。

サスティナビリティーやフェアトレードに興味がある方、紅茶に興味がある方には参考になるかと思います。

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