外出禁止令下のコロンボ在住日本人の食を支えるラーメンまこと屋の畑江さんにインタビュー
外出禁止令下のコロンボで、今、一番動き回っている日本人といえば、ラーメンまこと屋の畑江さんではないでしょうか?
畑江さんは外出禁止令が出される2日前の3月18日から食材確保に動き出しました。
スパイスアップで始めた「スリランカ観光・飲食・サービス業の応援プロジェクト」も、実は畑江さんからの提案・相談があり、始まったプロジェクトです。
刻一刻と変わる状況に合わせて、周りの協力を得ながら日本人在住コミュニティーの食を支えるべく奔走する畑江さんにお話を聞きました。
目次
お米の発注と即売会の開始
臨時休日が延長された3月17日(外出禁止令が出る3日前)に知人から「日本食材店のJALANKAさんに行ったらもうお米がなくて、最後の一つがギリギリ買えた」という話を聞きました。
日本のお米がなくて、日本人の皆さんは困っているのかもしれないと思い、その日に仕入れ先の米屋に電話をし、ベトナム産のコシヒカリを300キロ注文しました。
お米は必需品ですので、ほぼ原価でお客様にお渡しすることにしました。
そして、この状況で外食するのは難しいのではないかと判断し、お店でお米、麺、スープ、チャーシューの即売会を行いました。
外出禁止になる前の3月18日~20日の3日間でお米が280キロ、麺が401玉、チャーシューが5キロ、ラーメンスープは1400杯分が売れました。
外出許可を取得
3月20日の夕方に外出禁止令が出されて、外に出られなくなり、お店が入っているショッピングモールも閉鎖されてしまい、何ができるか調べていました。
窓の外を見ると、動いているトラックがあり、警察の許可が得られれば外に出られることが分かりました。
外出禁止令が発出された直後は、外出許可は政府が認定しているお店があるため、外国人経営の僕たちのお店には許可が得られず難航しました。
飲食をやっている人間として、食材がなくて困っている人たちがいる状況で、持っている食材を腐らせてしまうことは絶対したくありませんでした。
そこで、周囲の方の協力を得て、警察にはなぜ、いま、僕たちが動く必要があるのかを力説して、なんとか許可をもらい、23日にお店に置いてある食材を社宅に運びました。
それで、24日の外出禁止の一時解除の時に社宅で即売会を行うことができ、米が110キロ、スープ160人分、麺が195玉売れました。
お米は今後も必要になりそうでしたので、これまで通り、ほぼ原価でお米をすぐにお届けできるように、業者が持っている在庫の1200キロをこの時に追加で発注しました。
24日はスーパーで長蛇の列に3~4時間も並ばないといけない状況でしたが、家にお米があるという状況で、幾分、気持ちが楽になった方がいたのではないかと思っています。
野菜の仕入れに成功!
一時解除の翌日の25日にお客様から野菜が欲しいと要望があり、購入できないか調べ始めました。
どうやらペターで朝市が開かれ、野菜が販売されるという情報を掴みました。
しかし、まだ明日の外出許可が出るかわからない状態で、しかも野菜の価格も分かりません。
朝市には政府筋が先にスーパーなどにデリバリーさせるために、まとめて買い叩いて、残りはめちゃくちゃ価格が上がるかもしれない、買い占められて在庫がなくなるかもしれないという噂もありました。
つまり
・明日皆さんに届けられるかわからない。
・どんな野菜が買えるかわからない。
・いくらで買えるかわからない。
・許可がでるかわからない。
・運ぶ途中で捕まるかもしれない。
という状態だったんです。
野菜を切望している皆様にアナウンスして、ガッカリさせるのは嫌だったので、結局その通りに皆様に伝えました。
「明日、野菜が買えるかもしれないとしたら、欲しい人はどれくらいいますか?」
「市場が開くらしいという話があり、動いてみますが、仕入れられるかどうかは今の段階ではわかりません。」
「現物を見るまで値段もわかりませんが、まこと屋がこのような状況下で、利益を追求する会社ではないことを信じてご連絡ください。」
すると、数時間で40件の希望者からのメッセージが届きました。
絶対野菜をつかんでやる!
と気合満点で市場に行ったのが朝の4時です。
そして、なんと、大量仕入れに成功!
その瞬間が、このキャベツを50キロを抱えた写真です!
ちょっと泣きべそかきそうになりました。
当日仕入れ、当日配送
大量仕入れの次の難題は配送です。
ショッピングモールが閉鎖されていたため、お店に食材を保存することができませんでした。
そのため、社宅に運ばないといけませんが、社宅には大きな冷蔵庫はありません。
その日に仕入れて、その日にお届けしないと食材が傷んでしまいます。
そこで、野菜のセット内容を決め、値段も統一して、販売することにしました。
1日で20数家族に配送した日も何日かあります。
野菜を120キロほどを運んでいましたね。
スーパーのデリバリーや移動販売の野菜は当然スリランカ人向けなので、半分以上がカレーの材料みたいなこともあるので、日本人の方が料理しやすい野菜を選び、野菜セットを作りました。
4月1日からお店が使えるようになりました。
4月2日から果物のセットも作り、販売を開始しました。
肉類の販売を開始
段々とスリランカのスーパーや八百屋が動き出したことと、必要最低限のお米と野菜が揃ったら、そろそろお肉など食卓を豊かにするものにもニーズが出てくるのではないかと、肉屋にずっと当たっていたんです。
4月2日にようやく、とんかつロースが入荷でき、翌日4月3日から販売を開始しました。
4月6日にはモモ肉が、4月7日は豚ばら肉が入荷できました。
同時にスーパーでの買い物代行も受付を開始しました。
それ以降はメニューを随時増やしていきました。
4月8日に自宅で楽しめるちゃんこ鍋とラーメンのセットを販売開始。
4月9日に巨大モダン焼き販売開始。
4月10日に肉じゃが販売開始。
4月11日にビーフシチュー販売開始。
4月12日には外出禁止令発令後最初のラーメンスープの仕込み、製麺をし、
4月13日から牛骨ラーメンの販売と、バイク便デリバリーも開始しました。
大きな現場の裁量権
まこと屋はまだまだ決して大きな会社ではありませんが、その分トップと私の距離も近いため、思い立ったら即実行に移せる環境は、特に今回のような緊急時、私達の一番の強みとなります。
弊社の社長、笠井は言います。
「現場の正しい判断は今現場にいるお前にしかできない。畑江が正しいと思う判断を信じます。」
毎度かなり責任重大ですが、この一言が私の行動とスピードを倍増してくれます。
今回の私の動きも、正直なところ見切り発車、社長には事後報告でした。
こんな事をやろうと思いますが、どうでしょう?っていう時間もない、
こうしますので!いってきます!
という感じでした
こういう時、私の判断基準はいつも、お客様が喜ぶことを正しくやれば、社長も喜んでくれる!だけです。
周囲の方々のご協力
とはいえ、現場ではなかなか予定通りに進まないんです。
仕入れ業者から「今から届ける!」と連絡があったものの、実際に届くのは数日後ということがあります。
これはスリランカでは元々ある事ですが、外出禁止を言い訳に、いつも以上にひどいように思います。
先日は鶏肉の仕入れ業者が途中で、警察に鶏肉を没収されてしまったこともありました。
外出許可書は日にち、行う内容、行動エリアなどが決められています。
許可書にないことをしてしまうと、没収などの目に合います。
許可書はその日、もしくは翌日までしか有効ではなく、時間も決められているため、毎朝、警察署に行って1~2時間並んで許可書をもらわないといけません。
周囲の方々のご協力や、警察の人たちとも顔見知りになり、今はスムーズに許可書を発行してもらえるようになりましたが、それでも制限は多いです。
ただ、動き出して感じていることは、周囲の皆さんのご支援がものすごい大きいということです。
・外出許可をとれるという情報を教えていただいた同じ日系飲食業界。
・警察まで許可を取りに付き合ってくださった、同じマンションのお客様。
・各業者にこの外出禁止期間に配送を交渉、また一緒に配送をお手伝いいただいた、某日本食レストランの料理人。
・私達が許可が取れず、配送できなくて困っていたある日、進んで社用車を出して配送を半分ずつ代行してくださった、日系建設会社の皆様と、地元の日系の八百屋さん。
そして何よりも自分を信じてかなりの無理難題をこなしてくれた、マネージャーのDineshとファイサル、店長の南薗。
このプロジェクトを無償で支えてくれたのはこんなに頼もしいメンバーです。
自分たちだけでは何もできませんでしたが、どんどんと助けてくださる方々が出てきて、そのおかげで、今のように動けています。
コロンボの町の様子
社宅があるコッルピテイヤからOne Galle Face Mallまでは検問所が3ヶ所あります。
大きな道やコロンボとラージャギリヤなどの市境などにも検問所があり、1日で30ヶ所ほどの検問所を通ります。
バリケードで銃を持った兵士が待機していますので、緊張感はありますね。
許可書を車にも掲示していますが、外国人だからか、呼び止められることが多いです。
それと、ペターの朝市では毎日「コロナ!」「コロナ!」と言われます。
さすがにそれは腹たちますね。
今後の予定
引き続き、困っている方々に食を提供していきたいと思っています。
移動販売やレストランのデリバリーも増えてきましたが、コンドミニアムやマンションには移動販売が高頻度で来ていますが、ラージャギリヤの戸建てなどには移動販売が訪問する頻度はそこまで高くないようです。
たしかに効率、売上を考えると、コンドミニアムに販売行くのがいいわけですが、今、僕たちがやりたいのは、困っている方々への支援です。
ある時、在住者のライングループに「どなたか日本円をルピーに両替していただけませんか。」という投稿を見つけました。
誰かいたところで交換するにも外出できないはずと思い、即返信してその両替を引き受け、配達の途中に寄りました。
また、ご注文いただいたお客様の中に、日本からスリランカに駐在に来て間もなく外出禁止令になり、現金が乏しいので今回は諦めるという方がいたので、カーフューが開けたら請求しますから心配しないで、と代金は後日請求にしました。
その方からは夜に「今日は野菜炒めとサラダをお腹いっぱい食べて一人泣きました。」とラインのメッセージが。
もう3週間、自宅に篭りきりで、食事はデリバリー頼みの毎日。
そろそろ現金が乏しくなっているのに銀行に行けない方や、まだ来たばかりで日本円しかない方など、カーフューの延長による二次的な問題も出始めているので、そういった部分のケアも、このカーフュー中、自由に動ける日本人として引き受けるつもりでいます。
お客様の喜びを、自らの喜びとする。
僕は今回の一連の動きは、当初は不自由している皆さんの役に立って、皆さんに喜んでもらいたい、と思い立って始めたのがきっかけでしたが、続けているうちに気付くのは、予想以上に皆さんが喜んでいる顔を見て、元気をもらっているのは逆に僕の方だったということ。
僕らの会社、マコトフードサービスには企業理念が3つあります。
その第一、「お客様の喜びを、自らの喜びとする。」
今回身をもって経験させていただきました。
お客様との写真のご紹介
今回、宅配にお伺いした皆様と一緒に何枚も写真をとらせていただきました。
それには二つの意味があります。
一つは「コロナも少しはいい思い出にしてやろう。」という記録として。
もう一つは「この時皆様がこんなに喜んでくれたことを、コロナが収束した後も忘れずにいよう。当たり前のことに感謝しよう。」というリマインダーとして。
私達飲食店は外出禁止令が出されたら、とたんに仕事を失います。
でも、僕は仕事場を失ったかわりに、こんなに沢山の方とお知り合いになることができました。
当初、値段、品質、種類も量もわからないのに、まこと屋を信用して野菜の買い付けを僕に任せてくださった皆様。
皆様の笑顔で今日も頑張れます。
本当にありがとうございます!
まとめ
「困っている方にお届けしたい」、「食品ロスを出したくない」という方針にとても共感しました。
そして、限られた時間、制約がある中で、同時多発的に手を打ち、動かれていることが分かりました。
「スリランカの観光・飲食・サービス業の応援プロジェクト」の相談も、3月24日とかなり早い段階で相談がありました。
今の段階は応援よりも食材確保が優先されるのではないか?と思い、私、スパイスアップの神谷はすぐには動きませんでした。
応援プロジェクトの決済、支払いの流れをどうするかについても、検討に時間を要してしまいました。
今回お話をお伺いして、実は複数の手を打っていたことが分かり、畑江さんの判断力、行動力、困難を突破する力に脱帽しました。
大変な忙しい状況にありながら、畑江さんの元気のある声を聞くと、こちらが元気になります。
まこと屋さんの最新情報はフェイスブックページで確認できますのでご覧下さい。
まこと屋さんを始め、スリランカの飲食・観光・サービス業の応援を受け付けています。
今だけ限定で、10%お得に購入できる商品券を販売中です。
応援いただけますと嬉しいです。
「旅と町歩き」を仕事にするためスリランカへ。
地図・語源・歴史・建築・旅が好き。
1982年7月、東京都世田谷区生まれ。
2005年3月、法政大学社会学部社会学科を卒業。
2005年4月、就活支援会社に入社。
2015年6月、新卒採用支援事業部長、国際事業開発部長などを経験して就職支援会社を退社。
2015年7月、公益財団法人にて東南アジア研修を担当。
2016年7月、初めてスリランカに渡航し、会社の登記を開始。
2016年12月、スリランカでの研修受け入れを開始。
2017年2月、スリランカ情報誌「スパイスアップ・スリランカ」創刊。
2018年1月、スリランカ情報サイト「スパイスアップ」開設。
2019年11月、日本人宿「スパイスアップ・ゲストハウス」開始。
2020年8月、不定期配信の「スパイスアップ・ニュースレター」創刊。
2023年11月、サービスアパートメント「スパイスアップ・レジデンス」開始。
2024年7月、スリランカ商品のネットショップ「スパイスアップ・ランカ」開設。
渡航国:台湾、韓国、中国、ベトナム、フィリピン、ブルネイ、インドネシア、シンガポール、マレーシア、カンボジア、タイ、ミャンマー、インド、スリランカ、モルディブ、アラブ首長国連邦、エジプト、ケニア、タンザニア、ウガンダ、フランス、イギリス、アメリカ
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