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音楽と笑顔で心をつなぐ。スリランカの特別支援学校で子どもと輝く、渡邊揚さん

2026年9月17日

南アジアに浮かぶ輝く島国、スリランカ。豊かな自然とあたたかな人々に囲まれたこの国で、持ち前の太陽のような笑顔とエネルギーで周囲を魅了し、地域に溶け込んでいる一人の日本人女性がいます。

JICA海外協力隊(障害児・者支援)としてハンバントタ県の特別支援学校で活動する渡邊 揚さんです。日本で中学の音楽教師として6年、特別支援学校で3年4ヶ月にわたり教育の現場を支えてきた渡邊さん。彼女がなぜスリランカを選び、現地の人々とどのように心を通わせているのか。文化の違いをポジティブに受け入れ、教員としての経験を活かしながら地域全体に素敵なエネルギーを届ける渡邊さんの、とある1日に密着しました。

小さなきっかけから、スリランカへ

JICA海外協力隊員・渡邊 揚さん

渡邊さんが国際協力の世界に足を踏み入れたきっかけは、ふとした瞬間でした。

「もともと両親が国際協力に関心を持っていて、JICAという存在自体は身近に感じていました。ある日、仕事帰りに説明会の案内が目に留まって。『ちょっと話を聞いてみようかな』と軽い気持ちで参加したんです」

説明会でお話を聞くうちに、胸の中にあった「いつか海外に出てみたい」という想いが呼び覚まされ、その場で応募を決意したといいます。

数ある国の中で、渡邊さんが希望を出したのは「スリランカ」ただ一つ。実は、そこにはいくつもの縁が重なっていました。以前から興味があった南アジア文化。当時、親友がスリランカに滞在していたこと。そして、日本で習っていたインドの伝統舞踊「カタックダンス」の先生がスリランカ人だったこと。「スリランカじゃなかったら隊員になっていなかったかもしれません」と語るほど、強い縁を感じていたそうです。

人生で一番勉強した。
妥協なき言語への向き合い方

派遣が決まってからは、猛烈な集中で語学力の習得に取り組んだといいます。現地で話されるシンハラ語を習得するため、派遣が決まってから週1回のオンラインレッスンを受講。さらに駒ヶ根青年海外協力隊訓練所で過ごした2ヶ月間は、「人生で一番勉強した」と振り返るほどの日々だったそうです。

全国から集まった100名以上の訓練生がそれぞれの課題に向き合う中、渡邊さんは徹底的にシンハラ語の学習に朝から晩まで時間を費やしました。日々の出来事や感情をシンハラ語で綴る日記は、ページがびっしりシンハラ文字で埋まるほど。この地道な努力が、今の現地での豊かなコミュニケーションを支えています。同僚の先生方や子どもたちはもちろん、ご近所さんや街の人々とも流暢なシンハラ語で会話を楽しむ渡邊さん。相手のことを、相手の言葉からしっかり理解する。そんな姿勢が自然と伝わってきます。

文化の違いを超えて、「自分らしい幸せ」へ

日本とスリランカでは、社会構造や文化的な背景により、支援学校に求められる役割や目的にも異なるアプローチが存在します。

日本では、将来的に社会へ出て一人で身の回りのことができるようにする「自立」や「就労支援」が重視される傾向にあります。しかし、スリランカの支援学校に赴任した渡邊さんが感じたのは、日本とは異なる家族関係と、支援へのニーズでした。

スリランカでは家族の結びつきが非常に強く、子どものことを大切に思うあまり、大人が先回りして何でも手助けをしてあげることが多いとのこと。また、日本のように障害者雇用を行う企業や就労施設がまだ多くはないため、学校を卒業した後は家庭の中で家族とともに過ごすケースが少なくありません。
そのため、「自立して働くためのスキル」を一律に求めるのではなく、目の前の生活をいかに豊かに過ごすかが大切にされています。

「赴任した当初、生徒たちに『何が好き?何がしたい?』と聞いても、うまく答えられない場面によく出会いました。これまでは周りの大人たちが優しさで子どもの意見よりも先に決めてくれていたからこそ、『自分の好き嫌い』を意識する機会が少なかったのかもしれません。例えば授業中も、前の友達が選んだものをそのまま選んだり、トイレに行きたい気持ちでさえ、うまく伝えられなかったりすることもありました」

そこで渡邊さんが辿り着いた活動のテーマが、「どうすれば、子どもたちが日々の暮らしの中で幸せを感じて過ごしていけるのか」という問いでした。

「日本の『自立』という枠組みを、そのまま当てはめる必要はないと思います。でも、自分の『好き』や『やりたい』という気持ちに気づき、それを表現できるようになれば、毎日は少し楽しくなるはず。『あれをしたい』『これが好き』と言えるようになること。自分らしさを表現し、笑顔になれるアプローチを意識して、授業をつくっています」

「海の青はみんなそれぞれでいいんだよ」
渡邊さんの言葉を受けて、生徒たちが思い思いの青で塗った海。

音楽の力、笑顔があふれる授業風景

渡邊さんが配属された学校では、6歳から27歳までの幅広い年齢層の生徒約28名が通っています。そして、曜日に応じて低学年・高学年の分散通学を行い、全員が集まる金曜日には全員参加の授業が開かれます。今回の派遣は、もともと音楽専門の募集ではありませんでしたが、日本で音楽教師や特別支援教育に長年携わってきた渡邊さんのキャリアと、現場の「音楽を取り入れたい」というニーズがうまく重なりました。

「スリランカの人たちは、歌ったり踊ったりすることが本当に好きなんです。数字や日常のあいさつも、メロディに乗せて歌にすると、みんな楽しそうに覚えてくれます。音楽を通して生徒たちと気持ちが通じ合う瞬間は、私にとっても大切な時間です」

毎週金曜日の全体授業で行われる歌やダンスの表現活動の時間は、生徒たちにとって特に楽しみな時間だといいます。学生時代にミュージカルの経験があり、現在もカタックダンスを愛好する渡邊さんのリズム感あふれるリードに引き込まれ、教室全体が一体感に包まれます。

限られた環境だからこそ、チームワークを大切に

現地の教育現場では、日本のように教材や機器が豊富に揃っているわけではありません。教室にテレビはあるものの故障していたり、印刷機がないため、プリントを用意するにも一工夫が必要だったりします。コピー機を自由に使えない環境では、先生たちが手書きで魚の塗り絵の枠線を一枚ずつ描いて準備することも。時には、教材づくりに多くの時間を費やさなければならないそうです。

「学校の先生はパソコンを持たないことが多いので、私が音源をUSBに入れて共有するなど、今ある設備やアイデアを活かして何ができるかを考えています。日本とスリランカでは、考え方や文化が違う部分もあります。だからこそ、こちらのやり方を押しつけるのではなく、先生方の考え方や文化を理解しながら、一緒にできることを考えていきたいと思っています。先生方はJICA海外協力隊を受け入れるのが3代目ということもあってとても温かく、チームワークもいいんです」

教材や設備が十分ではないからこそ、先生たちと相談し、協力しながら授業をつくることが大切になります。日本で「チームで協力すること」を大切にしてきた渡邊さんにとっても、先生方とのチームワークは、この学校で活動する上で大きな支えになっています。

スリランカならではの家庭訪問

取材に訪れたこの日、学校が急遽工事のため休校になるという、現地ならではの予定変更がありました。そこで渡邊さんは同僚の先生とともに、生徒たちの家庭訪問を行うことになり、同行させてもらいました。

訪問先の生徒さんのお宅には、近所に住む3つの生徒さんのご家庭が集まっていました。一般的な「家庭訪問」といえば、先生と保護者が机を囲んで少し緊張感を持って話し合うイメージを持つかもしれません。しかし、スリランカの家庭訪問は、驚きと優しさに満ちたひとときでした。

まずはリビングでお茶とお菓子をいただきながら、日頃の成長や家庭での学習について和やかに歓談。生徒のこと、家族のこと、近況などをお話しました。

生徒のデスク周りを、先生と保護者の方とで確認

そして、ここからがスリランカならではの時間の始まりでした。

6歳の男の子が、学校で金曜日に習っている「ボディパーカッション(手拍子や足踏みで身体全体を使ってリズムを鳴らす活動)」が好きで、家でもよくしているとのこと。「じゃあ、みんなで一緒にやってみましょう」と声が上がりました。

すると、あるご家庭のお父さんが車から大きなスピーカーを用意し、音楽をセッティング。音楽が流れ出すと、子どもたちが元気に踊り始め、ご家族も一緒になって盛り上がります。お母さんやお父さんも体を揺らしながら、子どもたちの嬉しそうな姿をスマートフォンで撮影していました。

ダンスの熱気は高まり、いつしか先生も保護者も一体となったカラオケ大会へ。

全身全霊で歌う渡邊さんの姿に、
生徒たちも、見ている保護者の方も自然と引き込まれていきます。

そして「ぜひ一緒にご飯を食べて」と、手作りのライス&カリーをふるまってくれました。

形式にとらわれず、人との触れ合いや食事の時間を心から分かち合う。スリランカの素敵なもてなしの心と、人々の優しさに包まれたひとときとなりました。

街の誰もが「家族」。
地域の一員として過ごす日常

渡邊さんが暮らす街は、外国人観光客がほぼ来ないエリアですが、地域の人々は渡邊さんを特別な存在として身構えることなく、街の大切な一員として自然に迎え入れてくれています。

一緒に街を歩くと、すれ違う人々が次々と渡邊さんに笑顔で声をかけてきます。自宅のベランダから近所の人へ挨拶を交わすことも。街の人々も、渡邊さんと話す時間を心から楽しみにしている様子が伝わってきました。以前、とあるお店の前でうっかり財布を落としてしまった際も、親切な地域の方が拾って大切に保管してくれていたという街の人々の誠実さと、優しさがうかがえるエピソードもありました。JICA海外協力隊としての活動は学校や市役所の福祉課が中心ですが、渡邊さんの魅力は活動内だけにとどまりません。一人の住民として街に根を張り、地域の人々と心を通わせながら日常を楽しむ姿そのものが、周囲の人々に日本人に対するポジティブなイメージを広げています。

これからの展望と、等身大の発信

渡邊さんは現在、自身のInstagram(@yochai_13)を通じて、スリランカでの日々の気づきや活動の様子を等身大の言葉で発信しています。たくさんの写真や動画とともに綴られる飾らない言葉と親しみやすい世界観は、多くのファンの心を掴んでいます。

今後は、学校に来られない日や休校期間でも子どもたちが家で楽しく学べるようなコンテンツの制作や新たなことに積極的に挑戦したいと語る渡邊さん。

「ひとりひとりの可能性や素敵なところをたくさん見つけて、出会った方々と幸せを共有したい」

日本の教育現場で培った確かな経験と、スリランカの文化や人々への深い尊敬。そして周りを明るくするエネルギーで、渡邊さんは今日も、スリランカの街と生徒たちの心に明るい笑顔を届け続けています。

2026.07 ハンバントタにて

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