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料理・言語・文化を探求する丹野さんの『南の島のカレーライス スリランカ民族文化論』

2022年3月18日

東京の四ツ谷でスリランカ料理店「トモカ」を1995年まで経営し、その後は山形の山里に移り住み、著作活動をされている丹野冨雄さんの『南の島のカレーライス スリランカ民族文化論』について紹介します。

丹野さんは、「料理」「シンハラ語を始め各国の言語」「歴史」「文化」にお詳しく、独自の研究や仮説が記述されています。
言葉の由来や文化・歴史に興味がある私にはとても興味深い内容でした。

古典的な書籍(『東方見聞録』など明治時代以前の本)から引用した記述は他の方の本でも見られますが、古書店で見つけた古い本からの引用や、シンハラ語の映画・ドラマ・絵本、料理に関する書籍から引用された記述は、丹野さんだからこその文章です。

それでは、まず、著者の丹野さんがどんな方なのか見ていきましょう。

著者・丹野冨雄さんとは?

1951年生まれで、役所に7年間勤められた後に、料理人に転身。
スリランカ料理がうまいと友人から聞いたことから、スリランカに渡航して料理修行。
帰国後に東京の四谷にスリランカ料理店「トモカ」を開業(1995年閉店)。

1995年に、出版社・南船北馬舎から『南の島のカレーライス スリランカ民族文化論』を発行し、山形で著作活動をされています。
丹野さんは「かしゃぐら通信」を運営されていますが、お住まいの場所は1956年に山形市に編入された柏倉門伝村(かしわくらもんでんむら)の辺りなのかもしれません。

南船北馬舎から4つの本を出され、その後は、丹野さんが運営されている「かしゃぐら通信」から本を発行し、2013年11月以降は紙からKindle版に移行されています。

南船北馬舎から発行した4冊の書籍のうち、スリランカについて書かれた3冊は、南船北馬舎から発行されたものと、オリジナル版がKindleになっています。

南船北馬舎から発行されたものは発行に当たって編集されたもののようです。
オリジナル版には編集で未掲載となった写真やエピソードなども掲載されたロングヴァージョンです。

私は最初、アマゾンで丹野さんの書籍を見つけた時に、同じタイトルのものが複数あって混乱してしまいましたので、以下に発行年月と、発行内容で分類しました。

発行物一覧

〜1995年:東京・四ツ谷のスリランカ料理店「トモカ」を閉店
1995年:南船北馬舎から『南の島のカレーライス スリランカ民族文化論』を発行
1997年11月:南船北馬舎から『あじまさの島見ゆ―縄文幻視』
2000年9月:南船北馬舎から『熱帯後の記憶、スリランカ』
2005年6月:南船北馬舎から『シンハラ語の話し方』
2009年4月:『日本語=シンハラ語小辞典』
2011年11月:『てらやま まんだら』
2011年12月:『シンハラの話し方 増補改訂』
2012年7月:『南の島のカレーライス オリジナル版』
2013年6月:Kindle版
Sinhala and Japanese part1 -colloquial syntax- (English Edition)』
2013年11月:Kindle版『Sinhala and Japanese part2 parts of speech (English Edition)』
2013年11月:Kindle版『てらやま まんだら』
2013年11月:Kindle版『南の島のカレーライス スリランカ民族文化論』
2014年1月:Kindle版『シンハラ語の話し方』
2014年1月:Kindle版『南の島のカレーライス オリジナル版: スリランカ民族文化論』
2015年7月:Kindle版『熱帯語の記憶1 エピソード編』
2015年8月:Kindle版『熱帯語の記憶2 日本語とシンハラ語』
2015年12月:Kindle版『
熱帯語の記憶3 記憶をたどりゆく』
2016年12月:音声audio版『シンハラ語の話し方』
2022年3月:ペーパーバック『増補改訂 シンハラの話し方』

『南の島のカレーライス スリランカ民族文化論』

『熱帯語の記憶、スリランカ』

『シンハラ語の話し方』

英語版『シンハラ語の話し方』

日本に関する著書

あじまさの島見ゆ―縄文幻視』は、日本語のルーツ、原日本語・原日本人について、南アジアから日本にかけて見ることで考察した書籍のようです。

『てらやま まんだら』は、平安時代末期〜鎌倉時代初期の源頼朝、文覚、西行、金売吉次、藤九郎盛長(安達盛長)について書かれた本のようです。

参考)
南船北馬舎
南船北馬舎
ウィキペディア:柏倉門伝村
ウィキペディア:文覚
ウィキペディア:西行
ウィキペディア:金売吉次

セイロンティーの父より早い茶栽培のお話

これ以降は、本の内容から気になった部分を一部、引用して紹介します。

セイロンティーの父は、1867年にルーラコンデラで茶栽培を始めたスコットランド人のジェームス・テイラーとされています。
2017年にはセイロンティー生誕150年の催し物が行われていました。

ところが、丹野さんはジェームス・テイラーよりも早く行われたスリランカでの茶栽培について記述されています。

1888年にコロンボのキリスト教現地教育教会が発行した『セイロン史』によると、スリランカでの茶園経営は1841年に始まったという。英国人モーリス・ウォームズが清国から中国人の植木職人とともに茶の苗木を持ち込み、プッセルラーワにあるロスチャイルド家のコーヒー園にそれを植えた。また、J・ファーグソンの『セイロン』によれば、ウォームズが中国種の茶木を持ち帰ったのは1842年に初めで、その苗木はプッセルラーワより少々奥まった地ランボダに植えられとしている。

プッセルラーワはガンポラとヌワラエリヤの中間にある「Pussellawa」のことだと思います。

私は、茶栽培に携わるインド・タミルの人たちは奴隷のような人たちなのかと思っていましたが、エッラ郊外にある高級茶園のAMBA(アンバ)の元々のオーナーは、インド・タミル人であったということが、いまいち理解できていませんでした。

ところが、以下の丹野さんの記述を見て、ブラジルでのコーヒー栽培のために移民した日本人に近いのかもしれません。(時代が違いますが)

英人起業家たちはシンハラ人が労働者としては適さぬ怠け者だと断じていたので、勤勉で労苦を厭わぬタミル人をエステートの賃金労働者として採用した。(中略)インドのタミル人にしてみれば、スリランカは現金収入が得られる新天地だった。

丹野さんは、神保町の古書店で、1945年発行の加藤博 著『茶の科学』を見つけて、以下の通りに引用されています。

ペコとは白毫(パイゴウ)の音訳であり茶の一芯二葉のことであると記されていた。

古書店まで行かれているのは、さすがだと思いました。

参考)
Wikipedia:James Taylor (tea planter)

シーギリヤに残されたフェニキア文字

古代フェニキアの商人はすでにこの島の真珠と宝石を求めて貿易船を寄港させていたし、その証となる彼らセム語族独特の子音を重ねる文字が古代聖地の岩に刻まれている。

と書かれ、オリジナル版には、フェニキア文字の落書きの写真も掲載されています。

私はこの情報は知りませんでしたので、今度シーギリヤに行った際は探さないと!と思いました。

南船北馬舎のページにも丹野さんは寄稿されています。

参考)
南船北馬舎:シーギリヤ・グラフィティ

ポルトガル領錫狼(せいらお)・オランダ領錫蘭(せいらん)

ポルトガルは「セイラオ」
オランダは「ゼイラン」
イギリスは「セイロン」
とスリランカを読んだとされていますが、日本での音訳で当てられている漢字について、以下のように書かれています。

邦語に錫蘭や錫狼の音訳があるのは、ポルトガル、オランダと交易を重ねた我が国江戸幕府の外交の結果だ。

私は錫蘭の記載しか知りませんでしたが、ネットで調べてみると、錫蘭・錫欄・錫倫・西論・細蘭・獅子国・僧迦剌・則意蘭・齊狼・青錫・錫狼といくつも書き方があるようです。

丹野さんは別のページで、以下のようにも書かれています。

錫蘭(せいらん)や錫狼(せいらお)と書けば、新井白石の『西洋紀聞』にも登場する。(中略)澁澤龍彦の小説『高丘親王航海記』には、仏法を求めて日本を発ち、天竺へと向かう親王が広東の海で獅子国の船を見つけるくだりがある。

参考)
みんなの知識 ちょっと便利帳:外国名・外国地名の漢字1文字略称
Wikipedia:Portuguese Ceylon
ウィキペディア:西洋紀聞
ウィキペディア:高岳親王
ウィキペディア:米欧回覧実記

大航海時代前からスリランカにあった唐辛子

一般に、唐辛子の原産地は中南米で、コロンブスが新大陸で知り、ヨーロッパに持ち帰って、世界に広まったと言われます。

それに対して、大航海時代の前からスリランカには唐辛子があったのではないかとシンハラ語から丹野さんは書かれています。

H・パーカーがまとめたシンハラ語=ウェッダ語=英語 対応表に唐菓子の項目がある。唐辛子の英語名がチリになっているでペパーのようにそれが唐辛子か胡椒か迷うことはない。パーカーはこのチリのシンハラ対応語をラタ・ミリスとしている。ラタとは「外国の」という意味だ。

一方で、「外国の」ではないミリス(唐辛子)について、ロバート・ノックスの『セイロン島史』から引用して、以下のように書かれています。

ノックスの記述に一か所、不思議な一文がある。それは「平らな石の上で人々は彼らのペパーやターメリックを引き碾いている」という下りである。「彼らのペパー」という言い回しはここで一度きり用いられ、他ではすべて「ペパー」と書いている。「彼らのペパー」とは何か。コロンブスが彼の航海誌で南米の唐辛子アヒーを指して「彼らのコショウ」と呼んでいたように、ノックスの書く「彼らのペパー」も唐辛子の一種ではなかったか。

また、アヌラーダプラに立つ仏塔「ミリサワティ・ダーガバ」についても指摘されています。

ミリサワティ・ダーガバとは「唐辛子で囲んだ仏塔」の意で、(中略)ここから食事にミリサ(唐辛子)が用いられていたことが分かる

この「ラタ」ではないミリスのことを

スリランカに自生するジャングルの唐辛子コッチ

と紹介されています。

コッチ・カデーとペターの由来

この「コッチ」とはインド・ケララ州のコーチンに由来すると言います。

コッチ・ミリスのように、コッチ・バタラ(芋)、コッチ・ゴラカなど一連のコッチという食材があるのだ。チャールズ・カーターの『シンハラ語=英語辞典』によれば、コッチは「コーチンの」という意味を持つ形容詞として揚げられている。(中略)コーチンの商人であれば、それはタミル人だ。そう考えると、コッチの名がつく地名がスリランカ西海岸に商業地にばかり残っていることに気づかされる。コロンボのペタ地区の一部にコッチ・カデーという地名があり、ネゴンボ市の北にもコッチ・カデーという同名の地がある。カデーとは店や市のことで、まさしく商人の集まるところ。かつては市場が開かれていたと推察されるが、現在、これらの地は農産物市場の役割を持っていない。

コッチ・カデーに関連して、コロンボのペターの由来についても書かれています。

この砦の周りにタミル商人が集まって、そうして生まれた商人の町がペタである。ペタはタミル語のペッタイ、あるいはシンハラ語のピタ・コトゥワのピタに由来するそうだ。ペッタイもピタも「外側」を意味し、シンハラ語のコトゥワは砦や囲いを示す。

スリランカのジャングルに自生するコッチ・ミリスと対比して、胡椒について説明されています。

シンハラ語では胡椒が唐辛子とは別の植物であるにもかかわらず、ガム・ミリスと呼んでミリスの中に含めている体。ガム・ミリスのガムはガマ、つまり「村」のことで、胡椒は「村の唐辛子」と呼ばれていることになる。

私はシンハラ語を学んでいて、唐辛子が「ミリス」、青唐辛子が「アム・ミリス」、胡椒が「ガム・ミリス」となっているのに腑に落ちていませんでした。
ところが、この丹野さんの記述から、唐辛子が「ラタ・ミリス」であると分かると、とても納得できます。

これに関連して、日本語のピーマンの語源についても触れられています。

ポルトガル語では唐辛子をピメンティオ、胡椒をピメンタと呼ぶ。(中略)ピメンティオの仏語読みのピメンが日本でピーマンになった

ポリネシア起源のスリランカの言葉

丹野さんはココナッツ、アウトリガー、唐辛子がポリネシアからきたのではないかと書かれています。

コロンブスの唐辛子はアメリカ発欧州経由でアジア着の東回りルートを選んだ。しかし、それ以外にも多様な唐辛子の道があって、南米発ポリネシア経由のアジア着や、西アフリカ発イタリア経由欧州着のルートも存在していたのである。スリランカにはポリネシア起源の言葉が残っている、とナンダデーワ・ウィジェセーケラが『ウェッダの変遷』という書の中で指摘している。

やし・唐辛子・かつお節

本書の原題は「やし・唐辛子・かつお節」だったそうですが、丹野さんはスリランカ料理を特徴づけているのがこの3つだと書かれています。

かつお節はモルディブフィッシュのことですが、本書では丹野さんがモルディブに行かれた際のことも書かれています。

レモングラス・カレーリーフ・パンダンリーフ

スリランカ料理をスリランカらしくハーブの三要素

として、以下の3つを紹介しています。

レモングラス(シンハラ語名:セーラ)
カレーリーフ(シンハラ語名:カラピンチャ、タミル語名:カーリウェッビライ)
パンダンリーフ(シンハラ語名:ランペ)

スパイスや唐辛子ばかりがスリランカ料理の大切な食材と思われがちなのだけれど、本当に欠かせないのはハーブだ。

とも書かれています。

詳しくは本書をご覧ください。

夏目漱石が食べたカレー

丹野さんは夏目漱石がイギリスに向かう途上のコロンボで初めて食べたカレーを、コロンボのムダリージ通りのブリティッシュ・インディア・ホテルで、漱石が「ライス」カレと書き残しのは、「マリガトーニィ」ではないかと書かれています。

詳しい内容は本書をご覧いただくとして、ムダリージもマリガトーニィもタミル語由来のようです。

ムダリージはタミル語で資本家のこと。英国植民地時代、コロンボの中心地に集まったのはタミル人の資本家たちだった。

マリガトーニィは、タミル語のムリグ・タンニからきているそうです。

お米の調理法

お米の調理法がスリランカと日本では異なると紹介している本は多くありますが、本書では米の調理法を広く紹介して、スリランカの調理法が日本にもかつて存在していたことを紹介しているのが、とても参考なりました。

米の食べ方は粒食と粉食に分かれる。(中略)粒食はさらに、炊くか、蒸すか、に分かれる。乾飯(ホシイイ)と焼飯(パーチド・ライス)はその加工の目的に保存の意味合いが強い(中略)炊く調理には、湯取り・湯立て・炊干し・二度飯・三度飯というさまざまな炊飯法がある。

米作り名人・高橋剛と仲間たちのお米:お米の炊き方いろいろ(炊飯法と特徴)には、以下のように記載されていました。

江戸時代までは炊き干し法と湯取り法の2つの炊飯方法でしたが、現代の炊飯器の普及とともに湯取り法は廃れていきました。

丹野さんは、「強飯」と「姫飯」、「ゆで米」と「生米」についても紹介されています。

ゆで米はパーボイルドですが、辞書をひくと、以下のような意味でした。

「parboil」は、(下ごしらえに)〜を半ゆでにする

また、以下の2点についても指摘されています。

中尾佐助が『料理の起源』でピットゥを日本のしとぎと同じだと指摘している。
徳島に残るそば米はスリランカのゆで米と同じ方法でつくられる。

この他に、本書では醤油のルーツ「ジャーディ」を探す旅、日本のカレーの起源の考察なども書かれていますので、日本の食文化を考える良いヒントになります。

参考)
米作り名人・高橋剛と仲間たちのお米:お米の炊き方いろいろ(炊飯法と特徴)
おこめやノート:究極の保存食!?干し飯を備えれば災害時も安心!
JICA:パーボイルドライス
Lifestyling Log:低GIで高栄養価?パーボイルドライス(Parboiled Rice)の炊き方&美味しい食べ方
ウィキペディア:アルファ化米
コトバンク:強飯(こわめし)
ウィキペディア:おこわ
コトバンク:二度飯
農林水産省:そば米雑炊
青森のうまいものたち:しとぎもち
ウィキペディア:イネ
ウィキペディア:餅

アーリア人、ドラヴィダ人、ムンダ人

シンハラ人がアーリア人で、タミル人はドラヴィダ人だとよく言われますが、ウェッダ人について私は知りませんでした。

こんなことが書かれていました。

高木和男の『食からみた日本史(上)』に面白い記述がある。インド亜大陸にはドラヴィダ人や後のアーリア人侵入以前に、ムンダ人が暮らしていた、というのだ。

そうだとすると、以下のようになります。

シンハラ人はアーリア人
タミル人はドラヴィダ人
ウェッダ人はムンダ人

ウィキペディアのページには語族の分布図が載っていますので、とても興味深いです。

参考)
ウィキペディア:ムンダ族
ウィキペディア:オーストロアジア語族
ウィキペディア:ドラヴィダ人
ウィキペディア:インド語群

人口は減っても増えても問題?

楠木建さんが、日経ビジネスで”そもそも日本は「人口増加が諸悪の根源」だった”と指摘していますが、それと重なる記述があります。

1991年4月、日本を訪れたラリス・アスラトムダーリは当時、スリランカ議会の人口問題委員長だった。(中略)「子供の数を減らしてください、と国民に呼びかけています。子供を持ったならばその子に将来を与えてください、とも呼びかけています。(中略)1981年に年間出生数42万人を数えたスリランカは、90年代その数を35万人に抑えてきた。しかし、この出生数も島の中で人々が満足に暮らしてゆくにはまだ10万人多いという。

JICAの前身組織である日本海外移住振興(1955年9月設立)や海外移住事業団(1963年設立)は、抑制できない増える日本の人口への対策として、海外移住に取り組んでいますが、その歴史を紹介するJICA横浜の海外移住資料館で見たこととも重なります。

参考)
日経ビジネス「なぜ、人口は増えても減っても「諸悪の根源」とされるのか」
JICA:海外移住資料館

ポルトガル語・オランダ語・中国・日本語・シンハラ語

丹野さんは言語に関する著作も多いことから、言葉に関しての記述も大変興味深いです。
マレー半島やインドネシア、インドとの比較も本書には出てきますが、ここではオランダ、ポルトガルが残したもの、日本や中国と共通する言葉の事例を一部紹介します。

本来、バーガーはオランダ語で「市民」を意味するが、シンハラ語で半分を意味するバーガヤに通じるせいか、スリランカでは混血の人々全般を指すようになった。当初はオランダ人とシンハラの間に誕生した人々を指していた。

大学書林の『ポルトガル小辞典』によると、テンペラードゥは「焼き入れの、味をつけた、調理した』などの意味を持っている。(中略)このうちポルトガル語説はテムプロという単語にそのルーツを求めている。テムプロとは「寺院」のことで、天麩羅料理が教会で行われていたからだという。

ポルトガル語をルーツとしてスリランカと日本に共通する料理用語にはアチャールもある。これは日本では「あちゃら漬け」となった。

シンハラ語で粥はカンダという。タミル語ではカンジ、ヒンディ語でもカンジだ。粥は中国南部の呉語でジュとなり、朝鮮半島ではクジュとなる。日本語ではもちろんカユだ。日本語のカユは日本列島各地で共通し方言のない珍しい単語である。

洗った米はハッティと呼ぶ広口の土器に移す。ハッティ。どう聞いても日本語の鉢だ。

悪魔はシンハラ語でヤカー、あるいはヤクと言う。「悪魔祓い」とは、すなわち「厄祓い」そのものだ。

茶摘みのタミル娘を監督する男をカンガニーと呼んでいるが、これも「宦官」の英語訛りかもしれない。

ポルトガル小辞典に当たっているのが、さすがだと思いました。

バスで流れる音楽「バイラ」

ポルトガルが残したものとして、音楽Baila(バイラ)が紹介されています。

8分の6拍子の軽快なダンス音楽「バイラ」は、ポルトガル語・スペイン語で「踊る」を意味するのがバイラ(Baila)で、これがスリランカではダンス音楽を意味する言葉になったようです。

また、これはポルトガルの音楽というよりは、ポルトガルが植民したモザンビークの人たちを「Kaffir(キャーファー)」と呼び、ポルトガルがスリランカに連れてきたカフィアーを「Sri Lanka Kaffirs(スリランカ・キャーファーズ)」と言いますが、キャーファーの音楽に起源があるようです。

内藤俊雄 著『イスル・ソヤ―スリランカの海外出稼ぎ事情』には、キャンディに行った際のエピソードに「8分の6拍子の音楽」と書いてありますが、これはバイラのことだったのか!と気付きました。

バイラをYoutubeで聴くと、バスなどで流れている曲であることが分かります。

参考)
コトバンク:バイラ
おとたび/文字の旅:第84回 スリランカ バイラ
Wikipedia:Baila
Wikipedia:Sri Lanka Kaffirs
英辞郎:kaffir

アーユルヴェーダの食事

アーユルヴェーダにおける食事の考え方については、様々な本で取り上げられていますが、丹野さんの説明は非常に分かりやすいです。
特に、私はパイナップルがあまり良くないと聞くのはなぜなのか気になっていましたが、甲殻類と似て、炎症を行うものだからということなのかもしれません。

食して体温を下げるのが冷たい食べ物(シータラ・カェーマ)だ。反対に上げるのが熱い食べ物(ウシュナ・カェーマ)。ここでは体温が上がるということを摂取した食品に対して体が何らかのアレルギー反応を起こすからだと考えている。(中略)たんぱく質を含む肉類は「熱い」。獣肉ばかりではなく鮪や海老などは「熱い」食品である。(中略)パイナップルやトマトは「熱い」。(中略)スパイスは熱を分解する食品とされる。

なぜ、左手は不浄なのか?

よく、左手が不浄と説明されますが、丹野さんは理由も合わせて書いていますので、これは非常に分かりやすいと思いました。

左手指は排便に、右手指は食事に。回虫ならその卵は摂氏70度の湯に一秒間つければ死滅するから、野菜は必ず加熱処理をして口にする。

スリランカ料理の名前

丹野さんはスリランカで料理人修行をされて、四谷でスリランカ料理店を経営されていたので、料理に関する記述も豊富です。

オリジナル版には最初の方に写真付き・シンハラ語付きで各料理が紹介され、後半にはそれぞれの料理の特徴やレシピが紹介されています。

その中でも、私が面白いと思ったのはマッルンの説明です。

調理用語でマラナワー。本来の意味は「殺す」

シンハラ語を習った際に、殺す(マレナワー)は、あまり使わないだろうと、なかなか頭に入らなかったのですが、マッルンと関係があると知ると、スッと覚えられます。

民族解放戦線(JVP)

JVPが、世界で行った学生運動(スチューデントパワー)の一つであることに、こちらを読むまで気付いていませんでした。

1971年、スチューデント・パワーの嵐がスリランカでも吹き荒れる。ローハナ・ウィジェウィーラ率いる民族解放戦線(JVP)の下、1万を超える学生らが武装蜂起し島中の警察を襲った。

参考)
世界史の窓:学生運動/スチューデントパワー
ウィキペディア:安保闘争

絵本『かさどろぼう』

シンハラ語版、日本版、アメリカ版を読み比べて、スリランカの文化を考察されています。

スリランカ版では傘を盗んだのは老猿。
ところが、日本版では子猿に変更され、アメリカ版は赤ちゃん猿を描いています。

紙の書籍版ではカットされていた内容のようですが、これはスリランカの文化を知る上で、非常に面白い考察だと思いますので、是非、キンドル版で読んでみてください。

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