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スリランカ説話「羅刹女国」「僧伽羅国」掲載の『井上靖全集 第六巻』

2022年5月20日

井上靖が最も多産であった時期(1959年1月〜1964年4月)の短篇47篇を全集第六巻に、スリランカの説話「羅刹女国」と「僧伽羅国」が掲載されています。

本記事では、「羅刹女国」の設定とあらすじ、「僧伽羅国」のあらすじを紹介します。

羅刹女国

冒頭に以下のように書かれています。

昔宝州に属する小島に一大鉄城があり、そこに五百の羅刹女が棲んでいたという記述でこの説話は始まっている。宝州というのはどこかよく判らないが、まだ天竺と呼んでいた頃の古代印度の州県の名に宝州というのが見えており、それは現在の印度の逆三角形の最突端部、つまり最南端附近の一地域を指していたかに思われるので、この物語の舞台となっている羅刹島は当時の獅子国、現在のセイロン島附近に散財している小島の一つと考えていいであろう。

島の設定

・500人の羅刹女が住む島。
・島の北端に迫っている低い丘陵の背に鉄城が建っている。鉄城は鉄の城ではなく赤銹(さび)色をした硬質の石で造られた城。
・島の丘には強烈な芳香を放つ漿果(しょうか:肉が多く水分に富んだ果実)が取りきれない程沢山あった。
・海には魚類が豊富にある。
・島の南海岸にも都邑がある。
・島の南海岸に行くには、猛蛇が棲息する大沼地を越えなければいけない。

 

羅刹女の設定

・羅刹女は人間の女に変身することができ、千日続けると本当の人間の女になれる。
・千日もの長い間、人間の女の心を持ち人間の女の姿で居続けることは至難のこと。
・人間の女に変じていても、彼女等本来のものである羅刹の心が頭を擡げたが最後、忽ちにして、彼女等は本来の夜叉の姿に立ち戻り、男たちを鉄牢の中に繋ぎ、それを啖わずにはいられない。
・産む子供は100%羅刹女児で男の子や人間の子供は生まれない。
・千日人間の女でい続けると、本当の人間の女になり、羅刹女に戻ることはできない。
・人間の女になると、空が飛べなくなる。
・人間の女になると、男が浮気しても食い殺すことできず、じっと悲しさに耐え忍んで生きて行かないといけない。
・人間の女になると、産んだ羅刹の女児を島に置き去りにして島を去らないといけない。

あらすじ

・船長含む乗務員500人の船が難破して羅刹女島に漂着。
・船長は羅刹の女王と結婚。他の男たちも羅刹女と結婚。
・第一子が生まれたあたりから男たちが鉄牢に消え始める。
・2年経過時点で半数の250人の男が鉄牢に消える。
・2年半経過時点で2/3の男が鉄牢に消える。
・第二子妊娠中の2-3歳年下の妻を持つ最年少22歳の男が仲間の女に手を出して妻に食い殺されそうになるも逃亡。
・22歳の男は言葉を失い、気が狂い、船長を鉄牢に導こうとする
・船が完成し、祝宴を開いて歌い、踊り、男たちが女たちに手を出して、またしても数組が消える。
・残った羅刹女たちは集まり、羅刹の道を選ぶか人間の道を選ぶか話し合い、全員が男と別れたいと一致。
・出航の2-3日前に船長は鉄牢に囚われた男たちを発見。
・朝日に祈り、鉄牢が解かれて男たちが脱走。
・船出を迎えると、女たちが現れ、半数の男は女たちの元に戻っていった。

僧伽羅国(シンガラ)

あらすじ

・昔の南インドの小さい王国の姫が隣国へ嫁ぐことに。
・隣国へは盗賊や妖怪が出る山を越えないといけない。
・姫は虎に拐われた。
・10数年経過して一男一女(兄と妹)を儲けていた。
・姫は逃亡することを考えたが、自分を救うことにならないと思い、畜生の妻として一生を送ることを決める。
・兄と妹は姿形は人間で心は畜生であったが、ある日に人智を発して、人語を発するようになる。
・兄と妹は人間の村へ行くことを希望し、反対する母を担いで虎(父)の元から抜け出す。
・母の国はすでに滅びていて、町の人に町はずれに小屋建ててもらって住む。
・1ヶ月経った頃から虎災が頻繁に起こる。
・王は虎退治に躍起になるも退治できず。
・虎を退治したものに重賞を与えると布令するも誰も応募せず。
・冬を前にして食べ物も着る物もないことから兄は虎退治に応募し、母は悲しむ。
・兄は懐かしさと優しさしか感じない虎(父)と再会するも、虎を殺害。
・王は兄に出自と退治方法を尋ねるも兄は隠す。
・恩賞とは別に、秘密を明かせば更に重く用いるといい王は毎日毎日兄を問う。
・兄が真実を伝えると、父を殺したことを咎め、兄と妹の追放を決定。
・兄と妹それぞれに虎退治の重賞として、大船に大量の食糧と衣類を与えて追放。
・王は母については妻としての道をはずさなかったことを賞して、家を与えて、生涯の食事提供を約束。
・追放された兄が辿り着いた島には果物が豊かに実っていた。
・その島に漂流した商人一家の主人を殺し、一緒にいた子女たちとの間に大勢の子供を作る。
・長い年月の間に虎が獅子に変わり、祖先が獅子を屠ったことから獅子国を国号として、その後に、僧伽羅国、そして錫蘭島となる。
・妹の船はペルシアの西に流れ着き、神鬼に魅せられて群女を産育し、西大女国の祖となった。
・西大女国が現在のどの島に当たるのかは不明。

僧伽羅と羅刹女国について

僧伽羅

僧伽(サンガ)とは、仏教僧あるいは仏教僧の集団のことを意味します。
この僧伽に、羅刹の「羅」が加わり、「僧伽羅国」となっているのは、興味深いです。

古代スリランカは、羅刹と羅刹女、薬叉と薬叉女が住む国とされ、薬叉はシンハラ語でヤカーと言い、先住民のウェッダ人を指すとも言われています。

クベーラ(毘沙門天)はランカー島に住んでいた薬叉王。
クベーラの部下の妻で500人を産んだと言われているのが鬼子母神です。
クベーラを追い出したのが、羅刹(ラークシャ)族の王ラヴァナだと言われています。

羅刹女国

羅刹国の城「鉄城」は、以下のように書かれています。

島の北端に迫っている低い丘陵の背に鉄城が建っている。鉄城は鉄の城ではなく赤銹(さび)色をした硬質の石で造られた城。

スリランカ建国の王ウィジャヤは到着時に手をつくと、手のひらが赤茶色になったと伝えられていますが、その色に近い石で造られた城であったようです。

島の丘には強烈な芳香を放つ漿果(しょうか:肉が多く水分に富んだ果実)が取りきれない程沢山あった

とありますが、これはシナモンなどのスパイス類を想像させます。

島の南海岸にも都邑がある。

これはルフナ国でしょうか。

島の南海岸に行くには、猛蛇が棲息する大沼地を越えなければいけない。

スリランカのウェットゾーンのことを指しているのかもしれません。

参考)
ウィキペディア:羅刹国
ウィキペディア:大唐西域記
ウィキペディア:羅刹天
ウィキペディア:十羅刹女
ウィキペディア:ヤクシニー (夜叉)
ウィキペディア:ヤカ
ウィキペディア:鬼子母神
ウィキペディア:井上靖

まとめ

ウェブ上にも断片的にスリランカ建国神話や羅刹女の話は見つけられますが、作品として初めから最後まで読むと、その内容がよく理解できます。

短編ですので、すぐに読むことができますので、是非読んでみてください。

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