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スベンドリニ・カクチ著『あなたにもできる災害ボランティア―津波被害の現場から』

2022年6月16日

スリランカ人女性ジャーナリストであるスベンドリニ・カクチさんの著書『あなたにもできる災害ボランティア―津波被害の現場から』を紹介します。

本書は、マトラ島沖地震の津波被害に対して、ボランティア活動に取り組む11の人や組織の活動が紹介されています。
本記事では、冒頭に本書の概要を紹介し、後半にスリランカに関連して気になった点をピックアップしました。

本書の概要

本書は、2004年12月26日に発生したスマトラ島沖地震の数日後にやってきた第二の津波(被災者への援助と思いやり)について、ボランティア活動にたずさわっている人々自身が語った言葉を、スベンドリニ・カクチさんがまとめたものです。

「はじめに」には以下のようにあります。

ボランティアたちの話をできるだけ忠実に再現するため、筆者の私はコメントを最小限に控え、運転手のような役割に徹しています。

また取材対象については、以下のように書かれています。

ボランティア精神というものにより深く親しんでもらうために、私は規模の大きなNGOや世界銀行のような権威のある国際機関、およびそうした機関の現地提携先で働くスタッフには取材しませんでした。有名な団体の活動は他で読むことができますし、学校で学ぶこともあるでしょう。しかし、ボランティアの仕事に必要なものは理論や技術だけではありません。ボランティアには潜在的に多くのことが求められており、これから海外に出ようとしている新米ボランティアは不安を覚えるはずです。そのあたりの複雑さを最もわかやすく教えてくれるのは、個人で活動するボランティアや草の根レベルのユニークで小さな団体で働く人たちの話だと思います。彼らは、災害現場で働くことがどういうことか、実際の姿を伝えてくれます。

本書で登場する人や組織

本書は以下、11の人や組織の活動が紹介されています。

-観光とボランティアを組み合わせたツアーを開催した岩瀬幸代さん
-コスゴダに救援物資を運び、サルボダヤ・シュラマダナ運動にも参加したデンマーク人のジャニックさん
-ゴールに「少年の家」設立のために奔走した中国系シンガポール人のリンダさん
-津波遺児の心の傷を癒す対話プログラムを行ったあしなが育英会
-津波遺児の心の傷を癒す演劇プログラムを行ったスリランカ人女優アノージャさん
-フランスにいる友人たちの支援を受けて幼稚園を設立したヤスミン・ラジャパクセさん
-ウミガメ保護プロジェクトに取り組むTCP(Turtle Conservation Project)
-夫を津波で亡くし、スリランカのNGOと連携して、保育所を設立した池橋みね子さん
-夫を失った女性たちの自立を支えるセイロンムーア女性組合(The Ceylon Moor LadiesUnion)
-タイのアクアパーで、タイで働く移住労働者を支援するタイのNGOの広報として働く風間絢日さん
-性産業で働く女性の権利を守るNGOエンパワーのプーケット支部の代表を務めるオーストラリア人のリズ・ヒルトンさん

アノージャさんが生み出したダンス療法

アノージャ山んは文化に根ざした療法を生み出したと紹介されています。以下、本書からの引用です。

アノージャさんが生み出したダンス療法は、スリランカの土着文化を土台にしているそうです。それは今も田舎で行われている「トヴィル」という伝統的なもので、踊りと太鼓のリズムを使って心に傷を負った人の「悪魔祓い」を行います。シャーマンたちが太鼓に合わせて踊り、悪魔を祓うことで病者が精神的な苦悩から解放されることになります。「激しい踊りと太鼓のリズムによって怒りや悲しみなどの感情を追い払うことは、田舎では伝統的な療法師によって長く行われていたことなのです。ダンスと音楽のリズムは踊り手をどんどん高揚させ、やがて心と体が最高潮に達すると悪いエネルギーが取り払われて、心に調和が生まれます。つまりカタルシス(浄化)が起きて心の傷が治るのです」

ウミガメの保護活動

スリランカでは、ウミガメの保護センターを多く見かけますが、TCPの活動について紹介した部分を以下に引用します。

コスゴダ海岸には、自然保護と称して観光客向けの「ウミガメ・ウォッチング」を商売にしているところもありますが、TCPはウミガメの繁殖地の保護というもっと地道で困難な方法にこだわって、自然保護に力を注いでいます。繁殖地を保護することによってスリランカへ産卵に来るウミガメを増やし、ひいてはウミガメ自体の総数を増加させようとTCPは考えているのです。

地元の人たちから卵を買い取るのも卵を守るひとつの方法ですが、TCPはそれがよい方法だとは考えていません。その代わり、TCPは漁師を雇い、ネスト・プロテクターとしてトレーニングします。ウミガメを守ることが地元の人たちの収入につながるようにすることで、彼らの卵を拾い集めて売る行為に歯止めをかけようとしているのです。卵の売買は南部海岸では食用や観光用としてごく普通に行われていたことで、それによって卵が割れたり、手当たり次第に産卵ポイントが掘り返されたりして、豊かなウミガメ繁殖地は荒らされていたのです。

卵の保護だけでなく、ウミガメを海に返すことも大切な取り組みのようです。

TCPのもう一つの重要な仕事は、海岸で殻を割って出てきた子ガメが、自力で海までたどり着けるようにすることです。「卵からかえった子ガメには、自分の力で這っていって海を見つける機会が与えられないとだめなのです。それは、広い海で生き抜く力を養わせるために、「母なる自然」が考えた重要な成長プロセスなのです」(中略)

残念なことに、コスゴダ海岸にはこのような自然保護の方法を無視したウミガメ孵化場がたくさんあり、立ち寄った観光客相手に小銭を稼ぐことを優先しています。彼らはウミガメの宣伝をしては道路沿いに孵化場を作り、高い入場料を取ってコンクリートの水槽に入れたウミガメを見せて儲けているのです。大きくなりすぎたカメは、バケツに入れられて海へ運ばれ、そこで放たれます。その後、ウミガメが自然の海で生き抜いていけるかどうかはわかりません。

ウミガメの産卵ポイントが減っていることも書かれていました。2005年12月に発行された本ですので、今はまた状況が変わっているかもしれません。

南部海岸では、産卵ポイントが数十年前には一ヶ月に140カ所作られていたと記録されていますが、現在では一ヶ月に10カ所にまで落ちています。

スリランカ南東部の被害、女性たちの置かれた状況、機織りの復興

最も津波の大きかったスリランカ南東部について書かれています。

ムスリムの人々が住むアンパラ県マルサムナイは、スリランカの中で最も大きな被害を受けた地域の一つです。政府の統計によると、スリランカ国内の津波による死者の総数3万余人のうちのおよそ4割は東部及び南東部の海岸地帯に住むムスリムの人々でした。アンパラ県内におけるムスリムの死者・行方不明者の数は八千数百人にものぼります。

長く続いた内戦で荒廃が進んでいたアンパラ県にとって、津波はダブルパンチとなりました。開発が遅れ、行政機関も整っていなかったために、政府や大きな組織による救援活動や復興資金は、この地域にわずかしか届かなかったのです。

スリランカ南東部の機織りの歴史について書かれています。

この地域の機織りの起源は古代インドに遡ります。15〜16世紀、スリランカで香料を買い付けていたアラブの商人がインドからスリランカへこの織物を持ち込み、彼らが東海岸に住みついて、機織りを家内工業として始めたことを示す歴史的文献もあります。織物があまりにも美しいので、スリランカの王たちが手厚く保護したそうです。

女性たちの置かれた状況に関する説明がその大変さを物語っています。

夫が主な稼ぎ手であり、妻は夫に保護されるということが一般的で、女性は慎み深く、夫にどれだけ献身的かで評価されるという社会慣習のなかで、夫を失った女性が家長の役目を果たすことは、とてもむずかしいことです。(中略)

残念なことに、スリランカ社会には夫を亡くした女性は縁起が悪いとする根強い迷信があるために、女性たちの多くには再婚の可能性がほとんどないという問題もあります。また、なかには自分の子どもたちだけでなく、親を失った親戚の子どもまで面倒をみなくてはならないという女性もいるのです。

ケーララ州やバッティカロアには母系社会があると言われますが、そのことについても書かれています。

南東部海岸地帯に住むムスリムの家庭では、長女が一家を守る重要な役割を果たしているそうです。両親が娘に家、土地、婿を用意する伝統があり、お婿さんは一家の大黒柱として尊敬されますが、妻が所有する家に住むのが普通です。母系的なので、この地域のムスリムの女性は津波のあと性的な嫌がらせや虐待を受けることが少なかったと言われます。それとは対照的に、父系的なシンハラ人やタミル人の女性は、夫を失ってから親族からの金銭的援助がほとんどなく、性的嫌がらせからも守られない状態に置かれるケースもみられたそうです。

まとめ

本書には本記事で取り上げたこと以外に、津波遺児の心の傷を癒すための具体的な取り組みや、津波で夫を亡くされた日本人女性がなぜスリランカで援助活動を行うのか、またタイの多くの移住労働者を占めるビルマ人の置かれた状況など、色々な事例が書かれています。

本書のタイトルは「あなたにもできる災害ボランティア」ですが、個人のボランティアとして津波被害の現場に関わった人たちの話を通して、自分にできることを考えるきっかけになればと思います。

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