コロンボの隠れ家バー「Kampong」|スレイブ・アイランドの歴史を味わう一杯
コロンボ中心部のスレイブ・アイランド(Slave Island)に、ひときわユニークなバーがあります。
その名は「Kampong(カンポン)」。マレー語で「村」や「集落」を意味する言葉です。
一見すると、スリランカの街角にある小さな商店のような外観ですが、その奥には洗練されたバーが隠れています。
Kampongの面白さは、その仕掛けだけではありません。カクテルには、店が位置するSlave Islandの歴史や街のランドマーク、そこに暮らしてきた人々の文化が取り入れられています。
この地域の歴史を知ってから訪れると、カクテルや店内のインテリアに込められたストーリーが、より興味深く感じられる一軒です。
Slave Islandの歴史を知る
Kampongが位置するのは、コロンボ中心部の「Slave Island(スレイブ・アイランド)」。
現在は「Kompanna Veediya(コンパンナ・ヴィディヤ)」という名称で知られ、ベイラ湖に囲まれたエリアです。「Kampong Kertel(カンポン・カーテル)」とも呼ばれてきました。
「Slave Island(奴隷島)」という名前はイギリス植民地時代に使われるようになったもので、さらにさかのぼるポルトガル統治時代に、この地域がアフリカから連れてこられた奴隷たちの収容地として使われていたことに由来するとされています。
一方、「Kompanna Veediya」はシンハラ語で「会社の通り」を意味する名前。2023年には、スリランカ政府が植民地時代に由来する「Slave Island」という呼称を廃止し、シンハラ語、タミル語、英語のすべてで「Kompanna Veediya」という名称を使用するよう指示しました。
この地域は、長い歴史の中でさまざまな文化が交わってきた場所でもあります。オランダ統治時代にはジャワ人が労働者、兵士として連れてこられ、イギリス統治時代にはイギリス領マラヤから連れてこられたマレー人兵士も暮らし、現在も周辺には「Malay Street(マレー・ストリート)」という名前が残っています。
現在のKompanna Veediyaも、マレー系、シンハラ系、タミル系などさまざまな文化が混ざり合う、多文化的な地域です。
「Kampong」はマレー語で「村」「集落」などを意味する言葉。そんな土地の歴史や文化を背景に持つKampongという店名にも、この地域へのつながりが込められています。

店内に飾られている大きな絵画。
白いパンツに赤いジャケット、帽子をかぶった男性がベイラ湖の向こうを眺めています。その先には、2025年にオープンしたホテル「シナモン・ライフ」。湖のほとりには、草のようなものを摘む人の姿も描かれています。
ベイラ湖は、ポルトガル統治時代にコロンボ・フォートの防衛や奴隷の収容のために造られた人造湖。絵画について公式な解説はありませんが、Slave Islandの歴史を知ってから見ると、植民地時代の面影と現代のコロンボが一枚の中に重ねられているようにも感じられます。過去と現在のコロンボをひとつの画面に重ねた一枚です。
Slave Islandの歴史について詳しくは、こちらの記事で紹介しています。
街角の小さな商店の奥にあるバー
Kampongを訪れる際、まず印象的なのは店舗へのアプローチです。

外観は、スリランカの街角でよく見かける小さな商店そのもの。知らなければ、ここがバーだとはまず気づきません。正面の棚のように見える部分が扉になっており、それを開けると、奥にバーが現れます。

こうした「隠し扉」のようなアプローチは、海外では珍しくありませんが、スリランカではこれまであまり見られなかったスタイル。「普通の街角の店の奥にバーがある」という意外性そのものが、Kampongの大きな魅力になっています。
今回は事前に予約をして19時ごろに訪問しました。到着した時点ですでに店内はほぼ満席。人気店のため、訪問する際は事前予約がおすすめです。

店内はシンプルで洗練されたインテリア。静かにお酒を楽しむクラシックバーというより、現代的でスタイリッシュな雰囲気です。
席はカウンター席とテーブル席があり、カップルでの利用はもちろん、気の置けない友人同士での食事やグループでの利用にも向いています。訪問時には10名ほどの女性グループが女子会を楽しんでいる姿も見られ、店内は活気のある雰囲気でした。

Slave Islandのストーリーから生まれたカクテル
Kampongでもうひとつ特徴的なのが、カクテルメニューです。

メニューを開くと、そこには一般的なカクテルリストではなく、Slave Island周辺の地図が描かれています。そこに記されたランドマークや通り、ホテル、駅、カフェなどが、それぞれカクテルのインスピレーションになっています。

いくつかのカクテルについて紹介します。
KOMPANNI SOUR|Main Street(メイン・ストリート)
<OLD RESERVE ARRACK – KITHUL – LIME>
かつてCeylon Cold Storesや、この地域の名前の由来となった「Kompanni(会社)」が集まっていたメイン・ストリート。現在も商人たちが行き交い、活気あふれる通りです。
地元で何世代にもわたって受け継がれてきた味わいを引き立てるサワースタイルで仕上げた「Kompanni Sour」は、こうした商業で栄えたこの地域のルーツへのオマージュです。
RIO NEGRONI|Rio Hotel & Cinema(リオ・ホテル&シネマ)
<GIN – COCONUT – BITTERS – VERMOUTH>
1965年、当時最先端の映画館としてオープンしたRioには、閣僚、映画スター、外交官などが頻繁に訪れていました。1983年のブラック・ジュライ暴動の際に放火され、ホテルに残る黒く焼け焦げた壁は、コロンボの歴史における暗い時代を今に伝えています。
白く仕上げた「Rio Negroni」は、ホテルが栄華を誇った時代をほろ苦く思い起こさせる一杯。トーストしたココナッツを加えて風味をつけています。
STATION GIMLET|Kompanna Veediya Railway Station(コンパニ・ヴィーディヤ駅)
<GIN – BETEL – LIME>
1870年代に建設されたコンパニ・ヴィーディヤ駅。その精巧な鉄細工と優雅なアーチは、過ぎ去った時代の優雅さと植民地時代の趣を今に伝えています。
「Station Gimlet」は、ジンにクラリファイド・ライムとベテルシロップを合わせた洗練された一杯。列車が出発する際、駅長たちがベテルの葉を噛みながら、汽笛が鳴る前に乗客へ乗車を呼びかけていた――そんな光景を思わせる、ハーブのような甘さが特徴です。
NIPPON HIGHBALL|Hotel Nippon(ホテル・ニッポン)
<VODKA – HIBISCUS – LEMONGRASS>
もともとはイギリス軍向けのアパートメント「Manning Mansions」として建設され、その後、コロンボでも有数の格式あるホテルとなりました。築130年を迎え、最近改装されたこのホテルは、おいしいマトンロールでも知られています。
軽やかで爽やか、そして炭酸の効いた「Nippon Highball」は、ハイビスカス、レモングラス、そして自家製の炭酸ソーダを使って作られています。甘いキャンディーを添えて提供されます。
MALAY BREW|Malay Street(マレー・ストリート)
<WHISKEY – COFFEE – WHITE CHOCOLATE – ORANGE>
オランダ統治時代から、マレー系住民が多く暮らしてきた地域。現在では、多民族が暮らす活気と色彩にあふれたコミュニティへと発展しています。
「Malay Brew」は、地元のコミュニティ・カデ(小さな商店・食堂)で飲むコーヒーのような、親しみのある味わいを表現した一杯。コーヒーを漬け込んだウイスキーをミルクでクラリファイし、なめらかで心地よい口当たりに仕上げています。

クラシックカクテルや期間限定のカクテルメニューの他、ノンアルコールのドリンクも用意されています。お酒が飲めない方や、最初の1杯はカクテルを楽しみ、そのあとはノンアルコールでお店の雰囲気を味わいたい方も利用しやすいでしょう。

カクテルと楽しむアジアのフード
Kampongはファインダイニングのレストランというよりも、カクテルと一緒に楽しむ軽食やつまみを中心としたバーです。料理にはスリランカだけに限定されない、東南アジアを感じさせるエッセンスがあり、海苔や天ぷらなど、日本を思わせる食材や調理法も取り入れられています。

Kampongを手がけるのは、コロンボ南部にあるファインダイニングとして人気の「GINI」も手がけるダヤワンサ兄弟のひとり、Shanil Dayawansa。
GINIでは、スリランカ産の食材や祖母の家庭料理をベースに、世界各地の味を自由に組み合わせています。Kampongの料理にも、そうしたダヤワンサ氏らしいジャンルにとらわれない料理づくりと、素材を丁寧に扱う姿勢が感じられます。
メニューには、マッシュルームを使ったCigar Rolls、タイガープラウン、鴨肉、キンマの葉、デビルドエッグ、オイスター、とびっこなどを使った料理が並びます。
つまみのメニューには、それぞれ「2 pcs」「3 pcs」のように提供数が記載されています。人数に合わせて必要な数を選びやすく、少人数でもグループでも注文しやすいのが便利です。
実際に注文したカクテルと料理
今回は3名で、カクテル3種類と料理3種類を注文してシェアしました。
カクテル

3人それぞれが気になったカクテルを選んだ結果、偶然にも3杯ともジンベースに。
Station Gimlet
ジン、ベテル(キンマ)シロップ、ライムを使ったカクテル。
雲がふわりと乗ったような見た目も楽しい一杯です。キンマシロップによるハーブのような風味とライムの爽やかさが加わり、すっきりとした甘さに仕上がっています。
Ranaraja 2.0
ジン、ベリ、サワーソップ、スターアニスを使った、期間限定のアレンジカクテル。
スタンダードメニューの「Ranaraja」は、ブランデーの一種であるPiscoに、スリランカでアーユルヴェーダにも用いられる熱帯果物のベリ、ライムを合わせたカクテルです。
今回いただいた「Ranaraja 2.0」では、ライムの代わりにサワーソップとスターアニスを使用。サワーソップの爽やかな甘さに、スターアニスがほのかに香ります。
Rio Negroni
ジン、ココナッツ、ベルモットを使った一杯。
ビタースイートな味わいにハーブのほのかな香りが重なり、上にはトーストしたココナッツが添えられています。3杯の中では最も甘みを感じましたが、ココナッツの香ばしさも加わり、重たさはありません。
3杯に共通していたのは、甘さを感じながらも決してくどくないこと。ハーブやスパイス、柑橘などがアクセントになり、後味は爽やかです。
スリランカの素材を取り入れた個性的なカクテルでありながら、飲みにくさはなく、それぞれの素材がバランスよく組み合わされています。
フード
料理は、メニューに「3 pcs」と記載されているものを3種類選びました。カクテルと一緒にシェアしながらいただきます。
Duck, betel leaf, nam jim

キンマの葉の上に、ダック、柑橘、ナッツなどをのせた一品。キンマの葉で具材を包み、一口でいただきます。
「nam jim」はタイ語でディップソースを意味する言葉。甘みと酸味のある味わいに、ナッツの香ばしさとキンマの葉のほのかな苦みが重なります。さまざまな風味が一口の中で混ざり合い、バランスのよい味わいでした。
Deviled eggs, fried oyster, tobiko

ゆで卵の上にカキフライととびっこをのせた一品。
卵の黄身はそのままではなく、カレー風味のデビルドエッグに仕立てられています。辛さやクセは控えめ。濃厚でなめらかなデビルドエッグ、カリッとした衣のカキフライ、そこにとびっこのプチプチとした食感が加わり、一口で食べると異なる食感を味わえます。
カキは小ぶりながらしっかりと旨味があり、濃厚なデビルドエッグとも好相性。3人でシェアした中では、こちらが一番好評でした。
Tiger prawns, tarama butter, kade paan

しっかりとした大きさのタイガープラウンは、ぷりっとした食感。味付けは控えめで、エビそのものの旨みを味わえる仕上がりです。
添えられているのは「kade paan(カデー・パーン)」と呼ばれるスリランカの食パン。ローカルで味わうとパサつきがちですが、こちらは焼かれた部分はカリッと香ばしく、中はしっとり。エビやタラマバターと合わせると、最後までおいしくいただける一品でした。
一品の量はそれほど多くありませんが、複数の料理を少しずつ楽しむにはちょうどよいサイズ。何人かで訪れて、気になる料理をいくつかシェアするのがおすすめです。
Kampongを訪れるなら知っておきたいこと
予約がおすすめ
今回は19時に予約して訪れました。スリランカでは夕食は20時〜20時30分ごろから始める人が多く、夜営業のレストランやバーも20時以降に混み始めるのが一般的。そのため、19時はスリランカのお店としては早い時間帯です。それでも到着した時には、すでに店内はほぼ満席でした。
訪問時に観光客の姿はなく、ほとんどがスリランカ人。外国人観光客にはまだあまり知られていない一方、ローカル客から支持を集めている「知る人ぞ知る」お店であることがうかがえました。
確実に席を確保したい場合は、時間帯にかかわらず事前予約がおすすめです。
少人数でもグループでも利用しやすい
料理は2ピース、3ピースなどから注文できるため、人数に合わせて調整しやすいのが便利。カクテルと料理を何種類か頼んで、みんなでシェアするスタイルにも向いています。
夕食前や食後の一杯に
しっとり静かに過ごすクラシックなバーというより、音楽が流れる現代的で活気のある空間。カップルや気の置けない友人との利用、少人数のグループなどに向いています。
夕食前にカクテルを1杯と軽くつまむ使い方はもちろん、夕食後にもう少し飲みたいときに訪れるのもよいでしょう。

さいごに
コロンボには、歴史的な建物や宗教施設、古くから続く商店など、街を歩くことでしか見つけられない魅力が数多くあります。Kampongは、そんなSlave Islandの街そのものを、カクテルや料理、そして店の空間を通して楽しめるバーです。
一見すると小さなローカルの商店。その奥には、現代的で洗練されたバー。そしてメニューを開けば、そこにはSlave Islandの地図と、この地域にまつわるさまざまなストーリーが広がっています。
歴史を知ってから訪れれば、目の前の建物や通り、カクテルの名前まで、これまでとは少し違って見えてくるかもしれません。
観光スポットを巡るだけではなく、コロンボの街の歴史や文化を少し違った角度から楽しみたい方には、ぜひ訪れてほしい一軒です。
夕食前の一杯や、食事を終えた後のバータイムに、コロンボの街にまつわる物語とともにカクテルを楽しんでみてはいかがでしょうか。

店舗情報
店名:Kampong
住所:56 Justice Akbar Mawatha, Colombo 00200
定休日:日・月
営業時間:18:00ー24:00
予約:要予約(instagramアカウントにリンクあり)
カード:使用可
Instagram:@kampong.colombo
※2026年8月訪問時の情報です。営業時間・メニュー・料金等は変更になる場合があります。最新情報は公式情報をご確認ください。
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コロンボのグルメ情報は以下にまとめています
2023年10月よりコロンボ在住
ジェフリー・バワをきっかけにスリランカへ
紅茶もコーヒーもお酒も辛いものも甘いものも好きです
スリランカでいちばん好きなお菓子はルヌガンガのバタークッキー
雑誌の撮影・制作など, 一級建築士
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