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「住宅建築」2018年4月号〜Laki Senanayake Art and Forest Part2 熱帯雨林が生み出す本物のアート〜

2021年4月28日

建築専門誌「住宅建築」の連載「森と人と建築と」に3回に渡って、スリランカを代表するアーティストでジェフリーバワとの活動でも知られるラキセナナヤケさんが取り上げられています。

本記事で紹介しているのは、その2回目(Laki Senanayake Art & Forest Prat 2)です。

1回目は落合俊也さんによる論文と、落合さんによるラキさんへのインタビューという2部構成でしたが、第2回目は沖縄出身の建築家である伊礼智さんとの対談も加わった3部構成となっています。

■Laki Senanayake Art & Forest Prat 2
1)落合さんの論文「スリランカの森が育んだ建築とアートの融合」
2)落合さんによるラキセナナヤケさんへのインタビュー
3)伊礼智さんと落合さんの対談「熱帯雨林の魅力 高気密・高断熱の先に」

落合さんの論文では、「自然」と「人工」をつなぐものとしてラキさんのアートが説明されています。
ラキさんへのインタビューがそれが、ラキさんの言葉で語られています。
落合さんの論文でも、ラキさんのインタビューでも、ラキさんのアートと、バワさんの建築が対比されているのが興味深いです。

落合さんの論文、ラキさんのインタビュー、伊礼さんと落合さんの対談を通して印象に残ったのは、2者をつなぐ「媒介物」という存在です。

落合さんは「自然」と「人工」をつなぐものとしてラキさんのアート作品を挙げています。

伊礼さんは「外部」と「内部」をつなぐバワ建築との共通点が沖縄民家の雨端にあること、
また、「陸上」と「水上」をつなぐ海辺と湖畔を例に挙げています。

本記事では、誌面から一部引用して、記事の内容を紹介しています。
誌面には、ラキさんのアート、バワさんの建築が撮影した美しい写真も掲載されていますので、是非ご覧ください。

「自然」の反意語である「アート」

落合さんの論文には以下のようにあります。

自然(nature)の反意語はアート(art)だといわれている。(中略)加えてartには技術という意味もあることから、語源的には自然の反意語は芸術であり、技術でもあるといえる。

辞書で「art」とひくと、以下の意味が出てきます。
・美術、芸術
・美術品、芸術品
・人文科学
・技術
・人工

Artの形容詞は、artificialです。
辞書で「artificial」とひくと、以下の意味が出てきます。
・人工の
・不自然な

「artist」を辞書で見てみます。
・芸術家、画家
・(趣味で)絵の上手い人
・達人、名人

たしかに、アートという言葉には芸術と技術があるようです。

日本語の「芸」の意味は、修練して身につけた技能。学問。技術。わざ。とあり、
「技」の意味は、(手でする)仕事のじょうずさ。手なみ。うでまえ。わざ。げい。
と出てきますので、芸術も技術も意味としてはかなり近いものがあります。

人も自然の一部であることを物語る「アート」

森林共生住宅を提唱されている落合さんは、第1回目の記事で、森に住むラキさんの自宅・アトリエ・ゲストハウスを取り上げていますが、第2回目の記事は森林環境に関する記述から始まります。
印象的な一文は以下です。

遺伝子が求める環境が森林(熱帯雨林)であるという前提にたつと、現在の人工環境や経済社会の上に構築された我々の価値観や好みは、我々のもつ遺伝子とは適合していないと考えられる。

バワ建築を形容する言葉としてよく出てくるものの一つが「直線的」であることですが、森林に関する記述の後に、バワ建築の説明が続きます。

ジェフリー・バワの建築は豊かな熱帯雨林の自然の中に有機的曲線で埋没するような形態ではなく、直線的でソリッドな形態で自然の中に切りこまれる。建築が直線的で人工的であれば、やはり自然とのリズムの同調を妨げる構造物になる。(中略)周辺の自然環境と建物の乖離が大きなれば、そこに人が快適に同調できるように手助けをしてくれる適切なスケールのアートが必要となる。

ここでラキさんのアートの話に移っていきます。

ラキ・アートに限らず極上のアート作品には、皆が共通にそれに惹かれる理由があるに違いない。それはおそらく自然の姿に圧倒され、感動するのと同じ感情なのだろう。

極上のアートや自然に圧倒されるのは分かるのですが、自然の反意語であるアートがなぜ、自然と人工物である建築をつなぐものになるのかは本文では記載されていません。

ところが、次のラキさんへのインタビューで、落合さんがまさにそのことをラキさんに質問され、それに対するラキさんの回答が的を得ています。

私のつくりだす「芸術」は生物学的な人間の副産物であると考えています。鳥の巣やクモの巣、あるいはシロアリの塚の造形と同じようなものです。

植物や生物の営みが自然でもあり、人間もその一部であり、人が作り出したものは、人工物でもあり自然でもあるのかもしれません。

ジェフリーバワさんは快楽主義者

ラキさんはインタビューで以下のように答えています。

バワは哲学をもっていない人でした。彼自身が私にそう言っていたのだから間違いないことです。彼は快楽主義者でした。(中略)私の場合は禅の世界に見られるような、生の本質にふれることが喜びなのです。

対談で伊礼さんがこのラキさんの指摘に対して、「隈研吾さんもはっきりそう書いていました(笑)」とおっしゃっています。

バワさん関連の書籍をいくつか読むと、「快楽主義」という表現はよく出てきます。

沖縄出身の建築家「伊礼智」さん

伊礼さんと落合さんの対談は伊礼さんの発言から始まります。

ジェフリー・バワの建築は、僕が生まれた沖縄の建築に近くて、外部と内部が一体になっています。

これもバワ建築を表現する際によく使われる言葉ですが、伊礼さんのインタビュー動画でも、沖縄建築は外部と内部があいまいであるとお話されています。

対談記事の中盤に、外部でも内部でもない沖縄の民家の軒下「雨端」について、伊礼さんがお話されています。

伊礼さんのブログには、その雨端の写真が掲載されています。
https://irei.exblog.jp/7145626/

写真を拝見するに、バワ建築でよく見られるロッジアに似ています。

記事の後半では、森林についてお話される落合さんに対して、海について伊礼さんがお話を展開されます。

満ちているときは海だけれど、ひいてくると陸になる。その陸と海の間が一番豊かです。それが雨端の空間とすごくリンクしています。

落合さんの森林浴に対して、沖縄での海水浴のお話を伊礼さんがされています。

沖縄では皮膚病になったりしたら、海に入れと言うんです。

第1回目の論文で、落合さんが記載されている森の音・リズムに関連して、伊礼さんは波について述べられています。

琵琶湖湖畔に建てた家に住んだ人が、琵琶湖の波音でとてもよく寝れて、生活が変わったという例も出されています。

ランドスケープデザイナーの荻野寿也さん

伊礼さんはランドスケープデザイナーの荻野寿也さんからバワ建築を教えてもらってスリランカに行かれたそうです。

対談で、山口由美さんが出された本『熱帯建築家:ジェフリーバワの冒険』に隈研吾さんが寄せた論文にも、庭についての指摘があると伊礼さんがお話されています。

ジェフリーバワさんが最も時間をかけたのは自身の別荘である大きな庭園を有するルヌガンガであり、兄のベヴィスバワさんはランドスケープデザイナーとしてブリーフガーデンを作っていますが、やはり庭はバワ建築において大きな存在だなと思います。

以前に紹介したクレアトラベルも庭という切り口で、バワ建築を取り上げています。

日本庭園、日本建築と並びバワ建築が紹介されている『クレアトラベラー』2…

荻野寿也景観設計(Toshiya Pgino Landscape Design)のホームページの「コンセプト」のページは以下の文章から始まります。

日本が誇る原風景の再生、みどりのある生活の豊かさの創出。それが荻野寿也景観設計の仕事の本質です。

今回取り上げている記事のテーマにも関連するように思います。

荻野寿也景観設計

OMソーラーの奥村昭雄さん

対談の終盤にOMソーラーと、考案者の奥村さんについて伊礼さんがお話をされています。
OMソーラーと奥村さんについては、以下のページが参考になると思います。
OM:誕生物語
第10回:奥村昭雄さん

前真之さん

伊礼さんが高気密について、前さんなどから学ばれたとお話されています。
前さんにについてはこちらを参照。
Maelab 前真之サステイナブル建築デザイン研究室

パッシブハウスジャパン

伊礼さんがパッシブハウスジャパンがやっているような超高気密・高断熱だと、自分の住宅とは違うかなと考えているとお話されています。
パッシブハウスジャパンについてはこちら。
パッシブハウスジャパン

伊礼さんは色んな方の名前を挙げてお話されているので、建築や建築家について無知の私には、良い勉強材料になりました。

パッシブデザイン(高気密・高断熱)

今回の対談のタイトルは「熱帯雨林の魅力 高気密・高断熱の先に」となっています。

落合さんが森林について研究するようになった経緯を述べられています。

杉坂智男さんの所にいて、木造建築の合理化や伝統をどう進化させるのかを考えてきました。その時、これからは熱環境革命だと思って、南雄三さんの教えてもらいながら、高気密・高断熱、パッシブだとやってきたのです。(中略)究極の環境論としての森林医学に出会った。この考えは、森林が人間の遺伝子に最も適合した環境であり、人間はそこで進化したという発想です。(中略)本来人間がいるべき環境は外なのではないのかという発想になった。それを確かめに人間が生まれて遺伝子を育てた熱帯雨林に行くようになりました。(中略)それがスリランカとの出会いです。スリランカは室内より外の方が気持ち良いのです。

上記の引用では中略していますが、該当部分の全文を読むと、落合さんが森林環境に注目されている理由と経緯が分かります。

私は今回の記事を読むまで、建築における「パッシブ」を知りませんでした。

ウィキペディアによれば、「パッシブデザイン」と「アクティブデザイン」という考え方があり、以下のように説明されています。

■パッシブデザイン
暖冷房設備や装置等に依存せず、適切な断熱や日射調整(取得と遮蔽)、通風、蓄熱等、建物そのものの工夫によって、室内環境の快適性の向上を図る。

■アクティブデザイン
冷暖房設備や給湯器、照明器具などを効率的に組み合わせることにより、快適な居住空間を確保する。

デヴィットロブソンさんのジェフリーバワ建築の本を読むと、バワ建築及びスリランカの古い建築は、パッシブデザイン的であることが分かります。

畑拓さんの写真

今回も畑拓さんによるたくさんの写真が掲載されています。

取り上げられている写真は以下のものです。
ヘリタンスカンダラマ、ナンバー11、スリランカ紙幣、コロンボ7、コロンボのラキさんの工房、ディアブブラのゲストハウス、ルヌガンガ、ジェットウィングライトハウス

ヘリタンスカンダラマの写真で印象的なのは、太陽が沈んだ直後のまだ薄暗い外がエントランスの先に見える構図の写真。

エントランスの黄色い照明と、濃い青の外の景色のコントラストが美しい。

ナンバー11の写真で印象的なのは、真っ白い階段に黒い手すりと窓枠がアクセントとなっている階段部分の写真。

バワ建築ではないですが、コロンボ7の巨大の並木道の写真も素敵です。

ラキさんの大きな青い猿の絵は、ページを開いた時に飛び込んできます。
ラキさんの樹木のスケッチも、力強さを感じる素晴らしい絵です。

ルヌガンガの写真では、ギャラリーハウスを北側の庭園から撮影されていて、斜面に建てられているのがよく分かる写真です。

日本人に人気と言われるグラスハウスの写真は、部屋の内部、外観のそれぞれを窓を開けた状態で撮影されていて、グラスハウスの開放感が一層伝わってきます。
私はグラスハウスに泊まったことがありませんが、泊まる際は写真のように窓を開けて過ごしたいなと思いました。

ジェットウイングライトハウスの写真では、天井からラキさんの彫刻に光が当たっている写真が掲載されています。
写真としては、見開きで2ページフルで掲載されている階下からのものがインパクトがありますが、天井を写していただいたことで、抜き抜けになっている螺旋階段の特徴の一つに気づかせてくれます。

参照)

i-works project ちいさくても、ゆたかな暮らしを目指して。
Irei blog:沖縄の民家 上江洲家 雨端(アマハジ)というバッファーゾーン3
ウィキペディア:パッシブデザイン
ウィキペディア:森林浴
ウィキペディア:概日リズム
キナリノ:リラックスに深くかかわる「1/fゆらぎ」って知ってる?

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