日本庭園、日本建築と並びバワ建築が紹介されている『クレアトラベラー』2020年秋号の特集「庭園に遊ぶ」
文藝春秋が季刊発行する、美しいビジュアルが魅力の「旅(トラベル)」をテーマにしたライフスタイル情報誌『CREA traveller(クレアトラベラー)』2020年秋号(第63号)の特集は「庭園に遊ぶ」。
本特集では、京都のお寺の庭園、苔庭、長崎の洋風庭園、植物園、庭園美術など日本各地の庭園が紹介され、庭師、植物学者、盆栽と庭園に関わる人や構成する植物にも触れた内容になっています。
その特集の最後に、唯一の海外の庭園として、ジェフリー・バワ建築を巡る旅が紹介されています。
本誌に取り上げられているバワ建築を紹介しながら、日本人を魅力するバワ建築について、見ていきます。
目次
庭造りから始めるバワの建築家人生
イギリスに留学して、弁護士になったジェフリー・バワが建築家を目指すきっかけになったのはベントタのデッドゥワ湖(Dedduwa Lake)に土地を購入して庭園を作りはじたことです。
バワは第二次世界大戦が始まる直前、ケンブリッジ大学での学期が始まる前に、イタリア最大の湖であるガルダ湖に旅行に行っています。
母が亡くなった際に、所有していた車を兄のベヴィス・バワに買い取ってもらい、2年間の世界旅行に出掛け、再度、イタリアのガルダ湖畔に行き、しばらく滞在します。
バワは相続した遺産を売り、ガルダ湖畔で生活することを考えますが、戦後で遺産の価値が下がってしまっていたのか、計画を取りやめて帰国します。
※ガルダ湖南岸にはテルメ(古代ローマの公衆浴場)があった、ローマ時代から保養地として知られるシルミオーネがあります。水上住居の遺跡は世界遺産「アルプス山脈周辺の先史時代の杭上住居群」の一部を構成しています。
10歳年上の兄ベヴィス・バワは、20歳のときにベントタ郊外にあるゴム農園を引き継ぎ(現在のブリーフガーデン)、農園経営の傍ら、庭造りとバンガロー造りに取り組み、ランドスケープアーキテクトとしてコロンボの社交界で知名度をあげます。
帰国したバワは兄の勧めで、兄の庭「ブリーフ・ガーデン」近くのデッドゥワ湖畔に土地(ゴム農園、シナモン農園だった)を買い、実現できなかったガルダ湖畔での生活をベントタで再現しようとしたのか、兄のように庭造りとバンガロー造りに取り組みます。これが現在のルヌガンガです。ルヌは塩、ガンガは川という意味で、デッドゥワ湖はベントタ川とつながっている湖です。
ルヌガンガを見たフランス住まいの親戚が、バワに建築を学ぶことを勧め、バワは建築を学ぶために再度イギリスに留学します。
イタリア庭園、イギリス庭園、日本庭園の影響が見られる「ルヌガンガ」
本誌で最初に紹介されているバワ建築はルヌガンガです。
バワ建築を巡る専門家ツアーに参加した建築家の彦根明氏の言葉が誌面で引用されています。
「バワ建築は、共存する自然があって初めて完成します。建築自体ももちろん魅力的なのですが、自然の中にあるからこそ、素晴らしいのです。」
まさに、それが日本人がバワ建築に惹きつけられる要因だと思います。
自然との境界線をなくし、窓から見える景色を絵のように切り取ったバワ建築は、京都の庭園を眺める日本の伝統建築が、熱帯のスリランカで再現されたように感じられます。
大きな庭園を有するルヌガンガでは、ジェフリー・バワが住みたいと思ったイタリアの庭園で見られるような彫刻が見られます。
ジェフリー・バワが留学していたイギリスの庭園(カントリーハウス)の影響もあるとされています。
そして、欧米人をはじめ観光地としても人気の兄ベヴィス・バワの庭「ブリーフ・ガーデン(Brief Garden)」には日本庭園があります。
おそらく、ジェフリー・バワは日本庭園の影響も受けているのではないかと思います。
巨岩と森に抱かれた「ヘリタンス・カンダラマ」
ジェフリーバワの傑作ホテル「ヘリタンス・カンダラマ(Heritance Kanadalama)」は”森に溶け込む”とよく表現されます。
「バワ建築の魅力は、とても端的にいうと、「自然との共存」と言われている。が、実際にバワが生んだ空間に身をおいてみると、「共存」よりももっと、溶け合うような曖昧さを実感するはずだ。」
と誌面で説明されています。
まさにその代表例がこのホテルです。
自然との一体化は、その象徴的な外観と岩がそのまま残られた作りに注目されがちですが、本誌では「宿泊してみると、実は、”中からの外”も計算し尽くされていることが分かります。」と指摘しています。
水辺が庭の役割は果たす「ジェットウィング・ラグーン」
本誌ではバワが最初に手掛けた100mの巨大なプールを有するホテル「ジェットウィング・ラグーン」を、「水を庭としてとらえている宿泊施設」と表現しています。
「ここはトイレとお風呂が半屋外にあるんです。」
「最初はなんだか心もとないな、と思ったけれど、慣れてくると圧倒的な開放感がありました。」
という彦根明氏の感想が紹介されています。
ジェットウィング・ラグーンは巨大なニゴンボラグーンとインド洋に挟まれた細長い半島に位置するホテルで、ラグーンと海の両方の水辺が楽しめ、ホテルの入口にあたるラグーンと海の間に巨大なプールがあり、まさに水がテーマとも言えるホテルです。
イタリア人彫刻家の家「ブティック87」
イタリア人彫刻家の家としてバワが改装を手掛けたブティック87は、ルヌガンガを構成する一つとてバワが考えたとも言われています。
バワは多くの住宅も手掛けています。
”イタリア”と”庭”という共通項があるブティック87とルヌガンガは、ともに宿泊せずにガーデンツアーに参加できる物件です。
ただ、自然を効果的に活かすバワ建築は朝、昼、夕方、夜と日光の明るさや差し込む角度で表情を変えるのが魅力の一つです。
ゆったりと泊まって、バワの世界観に浸ってみるのをオススメします。
京都の旅館を想起させる「ナンバー11」
「僕がここで思い出したのは、京都の俵屋旅館。中に入ると光が降り注ぐ中庭が目に入って、一気に世界観が変わるところが似ているなと思いました」
『熱帯建築家: ジェフリー・バワの冒険』の著者である山口由美さんは著書『アマン伝説: 創業者エイドリアン・ゼッカとリゾート革命』で、エイドリアン・ゼッカと俵屋旅館の女将が対談した話や、エイドリアン・ゼッカとジェフリー・バワとの関係、エイドリアン・ゼッカと日本の旅館の関係について語る星野リゾートの星野佳路社長の話など綴られています。
まとめ
バワ建築を撮影した綺麗な写真をはじめ、日本各地の美しい庭園について知ることができるクレアトラベラー2020年秋号は「手に取ると、また旅に出たくなる」そんな内容になっています。
キンドルでも購入が可能ですので、スリランカ在住の方でもご覧いただけます。
関連記事
https://spiceup.lk/online_lunuganga/
参考
ウィキペディア「CREA (雑誌)」
ウィキペディア「西川 清史」
ウィキペディア「ガルダ湖」
ウィキペディア「シルミオーネ」
ウィキペディア「アルプス山脈周辺の先史時代の杭上住居群」
彦根明建築設計事務所
熱帯建築家: ジェフリー・バワの冒険 (とんぼの本)
ジェフリーバワ 全仕事
アマン伝説 創業者エイドリアン・ゼッカとリゾート革命
「旅と町歩き」を仕事にするためスリランカへ。
地図・語源・歴史・建築・旅が好き。
1982年7月、東京都世田谷区生まれ。
2005年3月、法政大学社会学部社会学科を卒業。
2005年4月、就活支援会社に入社。
2015年6月、新卒採用支援事業部長、国際事業開発部長などを経験して就職支援会社を退社。
2015年7月、公益財団法人にて東南アジア研修を担当。
2016年7月、初めてスリランカに渡航し、会社の登記を開始。
2016年12月、スリランカでの研修受け入れを開始。
2017年2月、スリランカ情報誌「スパイスアップ・スリランカ」創刊。
2018年1月、スリランカ情報サイト「スパイスアップ」開設。
2019年11月、日本人宿「スパイスアップ・ゲストハウス」開始。
2020年8月、不定期配信の「スパイスアップ・ニュースレター」創刊。
2023年11月、サービスアパートメント「スパイスアップ・レジデンス」開始。
2024年7月、スリランカ商品のネットショップ「スパイスアップ・ランカ」開設。
渡航国:台湾、韓国、中国、ベトナム、フィリピン、ブルネイ、インドネシア、シンガポール、マレーシア、カンボジア、タイ、ミャンマー、インド、スリランカ、モルディブ、アラブ首長国連邦、エジプト、ケニア、タンザニア、ウガンダ、フランス、イギリス、アメリカ
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