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スリランカで有機紅茶栽培支援に取り組むパルシックの高橋さんにインタビュー!

2022年2月02日

NPO法人パルシックの有機紅茶の栽培支援の開始からデニヤヤ事務所に5年間駐在し、現在は東京事務所でスリランカ・パレスチナ・ミャンマー・日本国内の事業を担当されている高橋知里さんにお話を伺いました。

高橋知里さんプロフィール

パルシック東京事務所勤務、民際協力事業担当。
北海道大学卒業後、大学院で10年間、社会心理学を学び博士課程を修了。
その後、オーストラリアで国際開発学の修士課程を修了。
2011年にパルシックに入職し、2016年までマータラ県デニヤヤに駐在。
2016年にオーストラリアに移住。
2021年より東京事務所勤務、担当地域はスリランカ・パレスチナ・ミャンマー・日本国内。

パルシックに入職した経緯

Q.パルシックに入職された経緯を教えてください。

クイーンの映画『ボヘミアン・ラプソディ』でも描かれているのでご存知かもしれませんが、1980年代のエチオピア大飢饉の際に、世界的な支援活動が行われていました。

その時の広報で使われていた現地の写真や映像は、物心がついた頃の小さかった私には見るだけでとても辛いものでした。
「私にはなにもできない」と思い、その現状には目を向けないようにしていました。

ところが、大学院に進学して中国の研究者と共同研究を行い、中国国内の所得格差、子供が子供らしい時期を過ごせていない状況が今も続いていると再認識したのです。

海外の研究者との共同研究を続けていく中で、海外の人とやりとりすることが楽しいと感じ、国際協力に興味を持って、オーストラリアの大学院で国際開発学を専攻しました。

子供のことをやるのではあればお母さんの支援が大事だと思い、就職活動をしたときに見つけたのが、東ティモールでハーブティーを作る女性たちを支援しているパルシックでした。

ところが、東ティモールはちょうど別の方が決まったところで、駐在先はスリランカのデニヤヤとなり、支援の主な対象は紅茶を栽培する農家のおじちゃんたちでした 笑

ただ、今思うと、スリランカと東ティモールでは開発状況や生活環境は大きく異なるので、いきなり東ティモール駐在は大変だったかもしれないと思っています。

Q.パルシックさんの活動は女性支援が多いように思いますが、女性支援に力を入れているのでしょうか?

パルシックだけではなく、NGOやNPOが支援を行う場合は社会的に弱い立場にある人を対象にしますので、女性や子供たちが対象になることが多いです。

スリランカ北部のサリーリサイクル事業や干物作り支援は女性が対象でした。

一方で、デニヤヤの有機紅茶事業や東ティモールのコーヒー事業は主に農家の男性が支援対象です。

パルシックの特徴としては、生計を回復、向上する支援をし、さらに日本などでフェアトレード商品として売るために共に歩みながら支援を続けているところだと思います。

Q.スリランカに来てみて、女性への支援の必要性を感じましたか?

女性が家庭内暴力の対象になってしまったり、女性がマイクロファイナンスでお金を借りる際に夫のサインが必要であったり、北東部は家庭内での女性の立場が弱いですが、南部では他の国に比べると女性の支援の優先度は高くないように思います。

スリランカは世界初の女性首相が誕生した国でもありますし、スリランカは女性が自分名義で銀行口座を持っている割合が南アジアの中では高いと言われています。

また、スリランカは教育熱心で、男の子を優先的に進学させるということも少なく、女の子も進学します。

スリランカの組織では女性が役職についていることも多いですよね。

南部で活動を始めた背景

Q.パルシックさんは内戦の被害が大きい北部の支援から始めていますが、南部への支援を始めたきっかけを教えてください。

パルシックの創設メンバーはアジアの研究家で、スリランカにも長く携わっていることから、パルシックは内戦中から北部への支援を開始しています。

スリランカ政府の目もありますので、北部のタミルの人たちを支援し続けるためには、南部のシンハラの人たちの支援を行い、バランスを取る必要があります。

植民地時代に北部が優遇され、スリランカ国内各地域の開発状況に差があったことも内戦の遠因と考えられますので、南北が共に歩んでいくのが大切だと思っています。

Q.スリランカの人たちは政治に関心が高いと思いますか?

投票率が高く、政治家が何をやっているのかを人々が知っていますので、政治への関心は高いと思います。

スリランカの人たちにとって政治は身近です。

村にいると、「あの橋は誰々(政治家の名前)が作った」などということを耳にし、子供たちも知っています。

ただ、2015年に政権が変わるまでは、公の場で政治のことを話せる状況にはありませんでした。

以前は政権に批判的なことを言えば目を付けられてしまいます。

政権が変わった後に、カフェなどで政治の話をしている様子を見て、状況が変わったのだなと思いました。

今はまた政権が戻りましたが、政治の話を自由にできる状況は続いています。

Q.スリランカの事務所からは日本人駐在員は撤退されているのですよね?

はい、私が2016年にデニヤヤ事務所を離れて、現在のデニヤヤ事務所は全てスリランカのローカルスタッフです。

北部は2018年に現地スタッフが会社を設立して、パルシックが行っていたサリーリサイクル事業を引き継いでいます。

パルシックは北部からは撤退して、現在は北部で作られた製品の販売支援を行っています。

デニヤヤでは2015年から自立化の準備を始め、すでに会社を設立していますが、自立化にはもう少し時間がかかりそうです。

有機栽培の難しさ

Q.有機紅茶の栽培において難しいことと言えば何でしょうか?

とても手間がかかることです。

有機紅茶を栽培している農家の入れ替わりは結構あり、やめてしまう農家もあります。

有機堆肥は化学肥料に比べて大量に追肥しないといけません。

そして、除草剤は撒けないので、手で行う除草作業は大変です。

手間がかかる一方で、有機栽培は慣行栽培に比べて収量が2〜3割減ってしまいます。

収量の減少分をカバーするほどの値段で売れますが、有機栽培として認められるためには有機栽培を3年間続ける必要があります。

有機栽培として認められるまでの3年間は、移行転換中の農地として慣行栽培よりは高く売れますが、単価が高くなるという理由だけで有機栽培を始めてしまうと、なかなか続きません。

Q.有機栽培を継続するサポートとして行っていることはありますか?

フィールドオフィサーが各家庭を月に1回訪問するようにしています。

しっかりと会ってフォローアップしていくことが大切だと思っています。

有機栽培は自分たちの畑だけではなく、周囲の畑の農薬汚染からも守らないといけません。

土地によっては周囲の農家にも有機栽培に転換してもらわないと有機栽培ができない場合もあります。

隣の農家が農薬の散布を始めてしまったことから有機栽培を諦めてしまうケースもあります。

有機農法は洪水被害の防災につながるということも大切な点ですよね。

有機栽培によって、保水力の高いふかふかの土壌になり、防災につながります。

そして、有機栽培では周辺の土壌からの汚染を防ぐために、バウンダリーを作って水はけを良くしているのも大きいと思います。

2017年の洪水支援

Q.洪水の支援ではエクサの農家さんたちも支援側として活動されたのですよね?

はい、洪水が発生してすぐに現地から相談があり、デニヤヤ事務所のスタッフとエクサのメンバーが中心となって、食料品や医薬品などの配布に動きました。

フェアトレードの仕組みでソーシャルプレミアムというものがあります。
商品代金とは別に、生産者の社会や地域のために使われる資金となるもので、日本で紅茶を買う際に代金にプラスして支払ってくださっている方々がいます。

その資金の使い道は、現地の生産者組合が話し合って決めるものなのですが、洪水の時にソーシャルプレミアムを使って現地の人たちが迅速に支援に回りました。

パルシックはそれを追いかける形で緊急支援を行いました。
現地のことが分かっている人たちがいることは、緊急支援を行う上でとても大切です。

デニヤヤ農家の収益の多角化

Q.現在、デニヤヤで注力されていることは何でしょうか?

農家の収益の多角化です。

農家の収入は、紅茶だけでは安定性に欠けます。

これまで行ってきたのは、エコーツアー・スタディーツアーの受け入れです。

茶摘み、農村の家庭料理作り、川での水浴び、村のお寺での行事に参加するなど、農村生活を体験するアクティビティーを行ってきました。

コロナ禍になる前は、主に日本とフランスから受け入れてきましたが、他の国からも来てくれていました。

Q.パーラスパイスも収益の多角化の取り組みということですね?

はい、そうです。

中央高地の一面に広がる茶畑とは異なり、小規模農家の茶畑には元々色んな作物が植えられていますが、さらに有機栽培では混植が推奨されています。

一緒に植えられている作物も、有機農産物として販売することができますので、コロンボのグットマーケットなど有機農産物を取り扱っているところに卸していました。

現在はコロナ禍のため、デニヤヤの町で販売しています。

パルシックではちょうど、デニヤヤの胡椒を日本で販売し始めたところです。

Q.様々な作物がある中で、なぜ胡椒なのでしょか?

胡椒の収穫量が圧倒的に多いからです。

スリランカの茶畑では、マメ科の植物「グリシディア」をシェードツリーとして植えます。

マメ科の植物は空気中の窒素を土壌に留めおくことができます。

茶葉は窒素を消費するため、茶葉を摘むことで茶木は窒素を常に必要としています。

このグリシディアに、つる性植物である胡椒を巻き付けて、シェードツリーを補強する役割も担うため、ほとんどの茶農家が胡椒を栽培しています。

カルダモンやクローブだと、栽培している農家もあれば、そうでない農家もあります。

Q.スリランカの南部ですと、シナモン栽培も多いですよね?

はい、シナモンも多くの農家で栽培しています。

ただ、日本で販売されているようなシナモンスティックを作るには、その技術を持った人に来てもらって加工する必要があります。

そのため小規模農家の場合は、シナモンは自家消費するか、シナモンの木を切って木のまま販売するか、シナモンパウダーにして売っています。

シナモンスティックにして商品価値を高めて販売することは、小規模農家が各自でやっているところは少ないと思います。

Q.以前に支援されていたキトゥルシロップの販売はされないのですか?

キトゥルシロップは品質管理が難しかったので現状は販売を考えていません。

品質の高いキトゥルシロップを作っているところは、キトゥルヤシからシロップを採ったらすぐに工場に運び、管理・製造しています。

ただ、デニヤヤの小規模農家でそれをやるのは難しく、それぞれの家庭で煮詰めたり、釜戸の上で乾燥させたりしています。

エクサ(有機茶農家共同組合)のメンバーにはキトゥル名人がいるので、彼の作ったキトゥルをデニヤヤ事務所で販売したり、エコツアーでデニヤヤに来られた方々にキトゥル蜜の採集から煮詰めたり、発酵させる様子を見学してもらうことはしています。

キトゥルシロップはスリランカ国内の需要が非常に高いので、輸出は考えていません。

キトゥルシロップは高く売れるため、薄めたり、混ぜたりしているものも多く、コロンボの富裕層は100%ピュアなキトゥルシロップを探し回っていますよね。

Q.パルシックさんの紅茶やコーヒーはとても美味しいですが、品質にはこだわりがあるのでしょうか?

農家さんたちの収入を安定化させるには、継続的に購入いただけるよう品質を高く維持することが必要です。

パルシックの理事やスタッフは食い気がモチベーションになっているのも影響しているかもしれません 笑

Q.パーラスパイスの品質については、どんな特徴がありますか?

パーラスパイスについては、これから皆さんの声を聞きながら一緒に作り上げていきたいと思っている段階です。

各農家が丁寧に乾燥させて作っていますので、胡椒をミルで挽く時に水分が少なく挽きやすいという声をいただいています。

また、辛味が強いのも特徴です。

お話を聞いているとデニヤヤに行きたくなってきました。

デニヤヤの近くに個人で有機紅茶農園をしている方が、総檜造りならぬ総ジャックツリー造りの築100年越えの地域領主が建てたバンガローをレノベーションしたゲストハウスを運営していて、とても素敵なお家です。

デニヤヤの村では英語は通じませんが、エコツアーでお越しいただいた場合は、デニヤヤ事務所の英語ができるスタッフがご案内しています。

今後について

Q.今後について教えてください。

パルシックについては、国際協力ではなく民際協力を行うという柱は変わらないと思います。

取り組まないといけないと思い、最近取り組み始めたのが日本国内の問題です。

コロナの影響でフードパントリーも行っていますが、経済的に困っている人たちはもちろん、孤独を抱えている人たちの居場所作りも重要です。

かつての地域コミュニティーとは形は違うかもしれませんが、地域の関係性をもう一度作ることが必要だと思っています。

それに関連しますが、今後日本では海外にルーツを持つ人たちの役割が大きくなっていくことが予想されます。

文化的・社会的・言語的に困難を抱えることもある海外から来た人たちが、地域と共生できるような場所作りも必要になってくるでしょう。

一方で、個人としては海外を拠点にしていきたいと思っています。

ノマドといいますか、ある1ヶ所を拠点にするのではなく、スリランカのように一定期間住んで、また次の場所へ行けたらいいなと思っています。

色んな地域に色んな人がいて色んな考え方があるということが、私のモチベーションです。

Q.デニヤヤでの農村生活はいかがでしたか?

普通の農家さん家に住んでましたから面白かったですよ。

私は外国人なので、私がどこで何をやっていたのかは村中にすぐに知れ渡っていました。

そうなると行動を正しますね。
村にいる時はお酒を飲まないとか 笑

私はそこに一生いるつもりではなかったからかもしれませんが、その状況を楽しんでいました。

Q.直近のイベントはパーラスパイスのオンラインイベントでしょうか?

はい、2月10日に行います。

パルシックのスリランカでの取り組みや今回の発売に至るまでの経緯、ライブ中継で農家さんのお話、ブラックペッパーが引き立つレシピなどを紹介します。

スリランカペッパーの世界を覗いて、おうち時間をスパイスアップしてみてください!笑

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