紅茶研究家 磯淵猛先生の訃報に触れて

日本では春の足音が聞こえ始めた季節、紅茶研究家の磯淵猛先生が急逝されました。
スパイスアップの紅茶特集でも寄稿されて、昨年末には新刊を出版されたばかりでした。
スリランカには数えきれないほどの回数訪れ、内戦中も継続して紅茶ツアーを催行して、多くの日本人にセイロンティーとスリランカの魅力を発信し続けていらっしゃいました。
「セイロン紅茶の父」と称されるジェームス・テイラーに関しての研究はライフワークにもなっていて、生誕地のスコットランドにまで足を運んで生家や血縁者を見つけ出し、先生の訪問をきっかけとして、現在では記念イベントまで開催されるようになりました。
私には以前、磯淵先生とスリランカで過ごした、忘れられない思い出があります。当時、私は公務員退職を控え、紅茶専門店を開店する準備でスリランカに向かいました。
磯淵先生は、大統領官邸で大統領直々の、セイロンティー普及の貢献に感謝した表彰のための訪問でした。
偶然が重なり、私も同行させていただくこととなり、当時のチャンドリカ・クマーラトゥンガ大統領が磯淵先生に盾を贈呈する瞬間に立ち会わせていただきました。
その時に、磯淵先生や大統領と飲んだセイロンティーは、私にとって特別な味がしました。
磯淵先生は、紅茶の文化や歴史を介して、人と出会うことがお好きでした。
藤沢でも、横浜でも、コロンボでも、先生との思い出の場面には、紅茶と笑顔が溢れていました。
磯淵先生の数ある著書の中に、「紅茶レジェンド」という一冊があります。
磯淵先生ご自身がイギリスやインド、そしてスリランカを実際に歩かれて、紅茶の歴史を作った人々の足跡をたどり、そして現在その場所で生きる方々との交流が瑞々しく記されています。
磯淵先生の訃報を聞いたスリランカ紅茶局の重鎮が「磯淵さんはセイロンティーのレジェンドだった。」とコメントしてくれました。
紅茶の国の、セイロンティーを世界一良く知る人物の言葉に、私は、大統領から盾を受け取った瞬間の、先生の笑顔を思い出しました。
磯淵先生は日本における「セイロンティーのレジェンド」であり、先生こそが、まさに「紅茶レジェンド」だと、私は思うのです。
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