曲線のガウディ、直線のバワ 加藤シゲアキ著『できることならスティードで』 | スリランカ観光情報サイト Spice Up(スパイスアップ)
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曲線のガウディ、直線のバワ 加藤シゲアキ著『できることならスティードで』

2020年10月19日

旅がテーマのエッセイが15つ、掌編小説が3つ収められた加藤シゲアキさんの初のエッセイ集『できることならスティードで』にスリランカを旅行した際のエッセイが収められているので紹介します。

円運動、曲線、そしてガウディ

キックボクシングのトレーナー、ボイストレーニングのトレーナー、合気道の達人である塩田剛三、スペインの建築家ガウディ、インディアンのオガララ・ラコタ族のブラック・エルクなどが共通して取り上げたのが曲線を描く円だというエピソードが「トリップ3肉体」で紹介されています。

これが後に出てくる「トリップ9スリランカ」と対をなすような内容になっています。

歩く動作は「意識するといいのは左右の手を地面に向けて交互に、軽く内回りで円を描くイメージ」
「走る場合は両手を上へはねあげるように振り、小さな内回りの円を下向きではなく正面の方に描くイメージ」
というのは、格闘家・アスリート・モデルにも指導をするキックボクシングジムのフィジカルトレーナー。

ボイストレーナーは「声の円を意識白」、「歌う際、口の中で声を回すイメージを持て」といいます。

「合気道の達人で生ける伝説と評された塩田剛三」は「神業とも呼ばれる体さばきを習得していたが、そこで重要なのは円運動だと伝えている。」「塩田剛三はその円運動を取得するため、よく金魚鉢を眺めたという逸話がある」

と紹介されています。

そして、インディアンのオガララ・ラコタ族のブラック・エルクが引用されています。
「インディアンの行うことのすべてが円環をなしている」
「それは宇宙の力が、つねに円をなして働いているからであり、あらゆるものは円環になろうと努めているのだ」

加藤さんは実際にスペインまでガウディ建築を観に行っていて、サグラダ・ファミリア、カサ・バトリョ、カサ・ミラなどに曲線が多様されていると感じたそうです。

非日常を演出するバワの直線

旅行好きの友人が最も良かった旅先にスリランカを挙げて、その理由がジェフリーバワの建築が素晴らしかったからと答えたことをきっかけにスリランカに行くことにした加藤さん。

ヘリタンス・カンダラマの写真を見て、「森の中に埋め込まれたような、まるでアニメや映画の世界と見紛うほどの建築物が画面に現れる」と表現されています。

ヘリタンス・カンダラマを訪れた加藤さんはガウディ建築を思い出します。

ガウディは「自然から得た着想を建築に取り入れており、その結果円形や曲線が多用されている」そうですが、バワ建築を見て、

「自然=曲線と強引に位置付けるなら、不自然=直線となる。つまりリゾートという非日常=不自然の世界を浮かび上がらせるには直線が必要不可欠になるはずだ。そもそも建築とは不自然なものである。それをいかにして自然に溶け込ませていくか。そう意識して見ると、バワの直線と曲線のバランスの絶妙さには舌を巻く。」

と書いています。

バワの建築を直線的と表現することは多いですが、ガウディを始め曲線、円運動の話が別のエッセイで完結していて、改めてこの加藤さんの気づきを読むと、よりバワの直線の意味や価値が見えてくるような気がします。

スリランカのエッセイではこの他に、ジャヤワルダナ大統領のサンフランシスコ講和会議での日本擁護の演説と交えて、加藤さんの言葉「自分に刃を向ける人を抱きしめられる大人であれ」が紹介されています。

そして、スリランカ人の日本語ガイドさんが話した仏教の五戒から引用された言葉でエッセイは締められています。

本来の仏教の五戒は以下の5つです。
・不殺生戒:生き物を故意に殺してはならない。
・不偸盗戒:与えられていない物を、故意に我が物としない。
・不邪淫戒:不道徳な性行為を行ってはならない。
・不妄語戒:偽りの言葉を語らない。
・不飲酒戒:酒類を飲んではならない。

このうちの一つがスリランカ人ガイドさんの説明では異なっていますが、それが本の帯にも書かれています。

スリランカ人ガイドさんは、世界遺産のダンブッラにある仏像の手の形が表している意味を「良いものだけを選びない」と説明していますが、それを受けて、「適当に、もったいないし、せっかくだし、そんな考えから自らの眼を曇らせている」と思った加藤さんの解釈が興味深いです。

まとめ

スリランカ以外にキューバ、大阪、岡山、ブラジル、京都、ニューヨーク、渋谷、パリと地名がタイトルになっているエッセイが収録されています。

・ヘミングウェイが足繁く通った「ラ・ボデギータ・デル・メディオ」と「フロリディータ」の2つのバーに行った【キューバ】
・二人の芸妓さんを見て、化粧の「化」と「粧」の語源に触れながら話が展開する【大阪】
・亡くなられた祖父とのエピソードが綴られた【岡山】
・ブラジル発祥のパン「ポン・デ・ケイジョ」と貴船神社について書かれた【ブラジル→京都】
・グラミー賞授賞式を観に訪れた【ニューヨーク】
・「地元という響きに強烈に憧れる。」という書き出しで始まる【渋谷】
・「小説家でありミュージシャン、ミュージシャンであり俳優・映画監督というボリス・ヴィアン、セルジュ・ゲンスブールの二人のボーダレスな生き方に純粋に憧れていたし、自分もまさにそこへ飛び込もうとしていた」という【パリ】

その他、エッセイと掌編小説など、それぞれが関連する形になっている良いエッセイ集でした。

参照

合気道養神館と塩田剛三先生
塩田剛三・塩田泰久 共著『塩田剛三の世界』
Wikipedia「Black Elk」
ウィキペディア「ラコタ」
ジョン・G. ナイハルト著、阿部 珠理 監修、宮下嶺夫 翻訳『ブラックエルクは語る』
ウィキペディア「アントニ・ガウディの作品群」
真言宗泉涌寺派の大本山五戒「五戒」
ウィキペディア「五戒」
ウィキペディア「アーネスト・ヘミングウェイ」
ウィキペディア「ボリス・ヴィアン」
ボリス・ヴィアン著『日々の泡』
ウィキペディア「セルジュ・ゲンスブール」
ゲンスブールと女たち [DVD]
ジュ・テーム・モワ・ノン・プリュ