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紅茶の第一人者でスリランカの産地を店名に掲げる磯淵猛氏の『紅茶の手帖』

2020年8月16日

日本の紅茶研究における第一人者で、「キリン 午後の紅茶」やモスバーガーの「紅茶とワッフルの店・マザーリーフ」のアドバイザーを務めた磯淵 猛さん。

磯淵さんの紅茶にまつわる著作は40冊を超えています。

本記事で紹介する『紅茶の手帖』には、紅茶の美味しい淹れ方、食事との相性、各産地の紅茶の特徴、紅茶の歴史について概要が紹介されており、紅茶やお茶が各国でどのように楽しまれ、そのようになった歴史的背景、紅茶が持つ今後の可能性などについて知ることができる入門書、手引きとなる本です。

各国の伝統や文化、水質や気候を理解した上で堅苦しいことは要求していませんが、より紅茶や食事を楽しめるちょっとした工夫が提案されています。

中国、ミャンマー、イギリス、インド、スリランカなどを巡り、紅茶のパイオニアたちの足跡を辿った記述は旅人心をくすぐります。

その中でも、スリランカの記述が多いのは、磯淵氏が28歳の時に開業した紅茶専門店の店名を見れば、合点がいきます。

店名はスリランカの紅茶7大産地名の一つ「ディンブラ」です。

以下、本書の内容の一部をご紹介します。

紅茶をおいしく淹れるたった一つの方法

紅茶をおいしく淹れる方法はただ一つ、酸素を多く含んだ熱湯を注ぐこと。

水中の酸素は90度を超えると著しい速さで減少し、99度に達すると一気に酸素量はゼロになるのだ。

ただし、90度に達しない熱湯では、酸素の量は多いが、紅茶成分のカテキンやカフェインが抽出されない。

本書には90度〜99度の水の見極める方法が記述されています。

ジャンピングを成功させるコツ

なぜ、酸素を多く含んだ熱湯を入れることが大事なのか?その答えはジャンピングにあります。

茶葉をティーポットに入れて、沸かしたての酸素を多く含んだ熱湯を勢いよく注ぐと、茶葉の表面に目に見えないほど細かい酸素の泡が付く。その浮力で茶葉が丈夫に浮かぶ上がる。しばらくすると、泡は水中に消え、茶葉は水分を含み、その重みでゆっくりと底に沈んでいく。しかし、また熱湯の対流に乗って、ふわふわと浮かび上がってくる。この茶葉が上下する運動を「ジャンピング」と呼んでいる。

本書にはジャンピングを成功さえるコツが6つ紹介されていますが、最初の2つを引用します。

①硬水・軟水にかかわらず、新鮮な汲み立ての水を使う。ペットボトルの場合は、水の量を少し減らした後、蓋をして10回ほど上下に振って空気を混ぜる。

②一人分(350cc)を淹れる時でも、水量は多めにして、1リットル以上を沸かす。水量が少ないと酸素の含有量も少なくなり、すぐに無酸素状態になってしまう。

この本が優しいのは、ジャンピングに失敗した場合の対処方法も書かれていることです。

「蓋を開けスプーンで2、3回軽く混ぜた後、蓋を戻して、そのまま4、5分置いておくといい。」

ティーパックが先か?お湯が先か?

ティーバックを使って紅茶を入れる場合のコツも紹介されています。

一般的にはマグカップの中にティーバッグを入れて、熱湯を注ぐと思いますが、本書で先に熱湯をマグカップに入れて、その中にゆっくりティーバッグを入れることを推奨しています。

飲み比べを実証したテレビ番組の様子についても本書に記述されています。

ティーバッグに熱湯を注ぐ従来のやり方では、すぐにティーバッグが上部に浮かぶ上がり、なかなか抽出しない。

一方、熱湯に浸したティーバッグは、先端部まで沈み、茶葉が水分を吸って開きやすくなる。

紅茶が先か?ミルクが先か?

紅茶にミルクを入れる際、紅茶が入ったカップにミルクを入れるものと思っていました。ところが、

2003年6月24日、英国王立化学協会が「一杯の完璧な紅茶の淹れ方」と題して、論争の決着を知らせるニュースリリースを世界のメディアに流した。英国王立化学協会に所属していたラフバラー大学のアンドリュー・スティープリー博士が、ミルクの入れ方は「ミルクが先」という結論を出したのだ。

イギリス人がこだわる低温殺菌牛乳

イギリスと日本は水もミルクも異なり、同じ茶葉で淹れても別になりそうです。

イギリス人は紅茶には低温殺菌牛乳でなければならないと、頑固にこだわっている。

ロンドン市の中心地から半径30kmの水質は、硬度が120-200度でカルシウムやマグネシウムを多く含んでいる。中心地から離れるにつれて硬度は低くなり、100度以下となって軟水に近づいていく。

イギリス人が唯一ミルクを入れないで飲む紅茶

スリランカやインドではミルクを入れて紅茶を飲むことが多いが、イギリスでも基本的に紅茶はミルクを入れて飲むようです。

ラプサンスーチョンという紅茶がある。福建省の武夷山で作られる紅茶で、こう呼ばれる前は正山小種と呼ばれていた。イギリスはティー・ウィズ・ミルクの国だから、どんな紅茶にも必ずと言っていいほどミルクを入れるが、唯一、ブラックティーで飲むのがこの紅茶だ。

茶葉の形状(グレード)

スリランカで紅茶を頼むと、ホワイト・ティー(ゴールデン・ティップ、シルバー・ティップ)やオレンジ・ペコーを指定した場合はミルクは添えられないが、普通に紅茶を頼んだ場合の多くはBOPが出され、ミルクが添えられます。

緑茶文化の日本や中国ではお茶にミルクを入れないため、ミルクを入れずに紅茶を飲む人も多いと思いますが、その場合はオレンジ・ペコーが良いでしょう。
茶葉の形状の名前を覚えると、自分の好みの紅茶を探すのに役立つでしょう。

オレンジ・ペコー(OP)

形状の大きいウーロン茶や日本の緑茶もオレンジペコー。

ブロークン・オレンジ・ペコー(BOP)

オレンジペコーをカットしたり砕いたりした茶葉で、輸出量が世界二位のスリランカの特産である。通称、「BOP」と言えば、スリランカ、またはセイロン紅茶の代名詞となっている。

ブロークン・オレンジ・ペコー・ファニングス(BOPF)

BOPよりも細かい茶葉で、紅茶の味を強くする時にブレンドしたり、ティーバッグで早く抽出したい時に用いる。

クラッシュ・ティアー・カール(CTC)

茶葉を押し潰し、引き裂き、丸めるという加工をして、本来は取り除いてしまう茎や軸も一緒に紅茶にしてしまう。茶葉以外の部分も含まれるので、渋味が少なく飲みやすい。インドのアッサム、ニルギルを中心に、輸出量世界一を誇るケニア など紅茶生産量の70%はCTCに移行している。

標高別に見るスリランカの紅茶地帯

茶葉の形状とともに紅茶は育てられた標高でも分けられます。
標高が高い土地で栽培された紅茶はストレート、標高が低い土地で栽培された紅茶はミルクティーで飲まれる傾向があります。

標高0-600m間で栽培されるのが低地栽培茶(Low Grown)
標高600-1,200m間で栽培されるのが中間地栽培茶(Middle Grown)
標高1,200-1,800mの間で栽培されるのが高地栽培茶(High Grown)

紅茶だけに許された特権「お湯さし」

紅茶だけに許された特権がある。それはカップに注がれた紅茶を自分の好みの濃さになるようお湯で割って、調整できるということだ。

これは非常に面白いと思います。
日本の水は軟水なので、お湯さしは活躍しそうです。

日本の軟水では、紅茶の水色は淡く薄くなるが、味を強く感じ、余韻が長い。香りも強い。しかし、味が強いということは渋味も強くなるので、ネガティブな要素も強まって、一般的には渋くて飲みにくいという評価になってしまう。

美味しいアイスティーの淹れ方

日本が軟水であることから

実はレモンティーは、日本で飲むのが一番渋くてまずい。

という。

ちなみに、

レモンティーは、20世紀に入りアメリカで収穫されたレモンをアイスティーに入れ、ティーレモネードとして飲むようになったのが始まりである。

とのこと。

美味しくする方法が2つ紹介されています。詳しくは本書をご参照ください。

  一つは紅茶の渋味が少なくなる硬水を使う。もう一つは、レモンオイルが出る皮の部分を取り除き、果肉のみをカップに入れる方法。しかし、これだとせっかくのレモンの香りが楽しめない。そこでレモンの皮(ピール)を指先で軽く絞りながら、カップの縁に付けておくと、飲む際に香りを感じることができる。
レモンティーに関してもう1点オススメしたいのは、渋味の少なくスリランカのキャンディ、ケニア のCTCなどを選び、さじ加減も2、3割少なくして、ライトな紅茶を淹れること。

アフタヌーンティーとハイティー

スリランカには多くのスコットランド人が残したものがあります。

・スリランカで紅茶栽培を始めたのはスコットランドからきたジェームス・テイラー。
・セイロンティーを世界に広めた紅茶王トーマス・リプトンもスコットランド生まれ。
スリランカ最古の株式会社ジョージ・ステュアートもスコットランド人のジェームス・ステュアートとジョージ・ステュアートが作った会社です。
・カーギリス本社ビルをはじめ、コロンボの歴史地区「コロンボ・フォート」に残る多くの建築はスコットランド人建築家のエドワード・スキナー、建築を担当したのはスコットランド人のジョン・ウォーカーが創業したウォーカー・サンズ・アンド・カンパニー。
・世界遺産の町キャンディの仏歯寺近くに残る噴水もスコットランドのグラスゴーで作れたものです。
・スリランカではありませんが、インドのアッサムで紅茶を発見したのも、スコットランド人のロバート・ブルースです。
・中国に潜入してチャノキを持ち帰り、インドのダージリンにチャノキ苗を導入したロバート・フォーチュンもスコットランド人です。

スコットランドに関する気になる記述が本書にもありました。

ロンドンを中心にした文化の中で、アフタヌーンティーは生まれた。インドやセイロン島に渡り紅茶を作ったパイオニアたちの出身地スコットランドでは、同じように楽しむ紅茶とフードを「ハイティー」と言う。アフタヌーンティーが貴族の館の応接間から始まったのに対し、ハイティーは庶民の食卓でとるもの。つまり、応接間にある低いローテーブルではなく、ダイニング用のハイテーブルの意味が使われて、ハイティーと呼ばれるようになった。

ハイティーの食事の代表格はスコーンだと思いますが、スコーンもスコットランドに関係しているようです。
スコットランド王国の母体になったアルバ王国の首都スクーン(Scone)にあるスクーン城。
そのお城にあった運命の石の上で戴冠式を行なっていたと言われているが、その石とスコーン(scone)が関係しているようです。

その名の由来は紛れもなく「運命の石」。この石があったスクーン城(Scone Palace)と同じつづりが使われ、石の形を思わせる焼き方は、スコットランドの伝説として、紅茶を飲むたびに思い出されているのである。

イギリスの紅茶習慣

スリランカやインドの昼食時間は午後1時間半や2時から、夕食は夜8時や9時からと日本に比べると遅いです。

その理由は午前と午後にティータイムがあり、食事の時間が後にずれていると聞いています。

イギリスの習慣を見ると、1日にかなりの回数、紅茶を飲むようです。

朝起き抜けに一杯、そして仕事場ではイレブンジスという11時頃のティーブレイクがった。ランチでも紅茶、3時の休憩、5時のファイブオクロックティー、そして夕食、就寝前のナイトキャップティーと、1日に7回も8回もの時間に紅茶を飲むための名前が付けられ、日常化していった。

紅茶のルーツ

中国で最初に紅茶が作られたのは1630年頃、福建省の武夷山であった。

ミャンマーのカチン族の料理「カチン料理」には茶の葉を使った料理や納豆があり、日本料理に近いものがあると紹介されることがあります。

そのカチン族が紅茶の90%を占めるアッサム茶の起源に関係しているようです。

以下、本書からの要約です。

中国雲南省からビルマ北部に移住したカチン族がインドのアッサムに移住し、シンポー族と名前を変えます。東インド会社の軍隊にいたスコットランド人のロバート・ブルースがシンポー族の族長に会ったことでアッサム茶はイギリスによって発見されます。アッサム茶はシンポー族とともに、雲南省からアッサムの土地に植樹され、イギリスによって「アッサム茶」と呼ばれるようになります。このアッサム茶がスリランカ、インドネシア、ケニアなどに根付いていきます。

もう一つの紅茶のルーツは、

1850年から1851年にかけて、中国人に変装した植物学者のロバート・フォーチュンが、福建省から茶の苗木と種をガラスの保存箱に入れて保管・運搬することに成功し、それがダージリンに植えられて、大々的な栽培の開始になっていった。

最後に

セイロンティー生誕150周年にあたる2017年、私は創刊したばかりのスパイスアップで紅茶を特集することにし、日本にある紅茶店を回っていたところ、横浜の馬車道にあるシンハの店主、石井さんから磯淵さんをご紹介いただきました。

磯淵さんにお会いしに藤沢に行くと、キリンビバレッジの担当者さんが部屋を出ていくところでした。

磯淵さんは初めて会う私のお願いを快諾してくださり、今回ご紹介した本を手渡してくださいました。

磯淵さんのオフィスからまっすぐ帰宅して御礼のメールをお送りしようとパソコンを開くと、すでに磯淵氏からコラム原稿が届いており、その仕事の速さに驚いたのが記憶に鮮明に残っています。

磯淵さんは2019年2月21日に急逝され、それを受けて、弊誌スパイスアップにシンハの石井さんが寄稿してくださいましたが、現在、磯淵さんの娘さんが意志を継がれて、2020年7月15日に江ノ島でディンブラを移転開業されています。

暑い夏が続きますが、美味しいアイスティーを飲んでみませんか?

参照)
磯淵猛 著『紅茶の手帖』ポプラ新書
紅茶専門店ディンブラ BLOG

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