日本の支援で作られたコロンボのゲートウェイ「ゴールデンゲートケラニ」
バンダーラナーヤカ国際空港とコロンボを結ぶカトナーヤカ高速道路のコロンボ側の入口にあたるゴールデンゲートケラニは日本のODAで2021年11月24日に完成したコロンボのゲートウェイです。
コロンボとケラニ川の対岸を結ぶ橋は日本が長く支援してきた歴史があります。
本記事では、ゴールデンゲートケラニについて紹介します。
目次
ゴールデンゲートケラニとは?
ゴールデンゲートケラニは、ニューケラニブリッジに並行してケラニ河に架けられた6車線の新橋です。
コロンボ北部の交通のボトルネックになっているニューケラニブリッジの交通渋滞を緩和し、交通をスムーズにする目的で建設されました。
4車線のニューケラニブリッジに加えて、6車線のゴールデンゲートケラニが開通したことで、コロンボ北部のゲートウェイが4車線から10車線に増え、交通がスムーズになりました。
空港から高速道路でコロンボに入る際、ゴールデンゲートケラニを渡る際に目の前にロータスタワーがそびえて見えます。
まさにコロンボのゲートウェイといえる橋です。
ニューケラニブリッジとは?
それまでのコロンボ北側のメインゲートウェイだったニューケラニブリッジは、ケラニ川右岸の「ペリヤゴダ」とケラニ川左岸の「セダワッタ」に架けられた4車線の橋です。
以下の4つの道路が合流するため、慢性的な渋滞が発生していました。
・コロンボとキャンディを結ぶ「国道1号線」
・ペリヤゴダとプッタラムを結ぶ「国道3号線」
・コロンボとカトナーヤカを結ぶ「高速道路3号線」
・コロンボ港とセダワッタを結ぶ「ポートアクセスロード」
さらに国道1号線には、南からコロンボを南北に走る「ベースラインロード」が、東からはコロンボとアウィッサーウェーラを結ぶ「B435線」がつながっています。
ゴールデンゲートケラニの効果
工事区間(約2キロ)の所有時間と平均走行速度が以下のように改善される想定で作られました。
新橋完成前:所要時間20分間、平均速度:時速5〜10キロ
新橋完成後:所要時間4分間、平均速度:時速20〜45キロ
ゴールデンゲートケラニは、コロンボ港、カトゥナーヤカ輸出加工区、ビヤガマ輸出加工区を結ぶ役割も担うため、スムーズな交通の実現は物流を円滑にし、経済成長の促進に寄与します。
コロンボで生活する身として、空港に向かう際に最も気になっていたのが、ニューケラニブリッジを渡るまでの渋滞です。
空港までの所要時間はコロンボを出るまで(橋を渡るまで)の時間の方が、高速道路で空港まで行く時間よりもかかることがありましたが、ゴールデンゲートケラニの完成によって渋滞が解消され、とても助かっています。
コロンボからキャンディ、ニゴンボ、シーギリヤなどに向かう際もニューケラニブリッジの渋滞が大きく影響し、コロンボ近郊のケラニヤやキリバスゴダは距離的には近いにも関わらず、渋滞があるため気軽に行きづらく、心理的に距離がありましたが、かなり近くなったように思います。
スリランカ初のエクストラドーズド橋
ゴールデンゲートケラニは、スリランカ初となるエクストラドーズド橋です。エクストラドーズド橋の導入によって、スリランカで、橋脚のない最も長い橋となりました。
川底に橋脚を設置する必要がないため、川の流れや生態系への影響が少ないのも大きな利点となっています。
エクストラドーズド橋は、主塔とワイヤーが長い吊橋である「斜張橋(横浜ベイブリッジ、多々良大橋、名港中央大橋など)」と、シンプルな「桁橋」、その間を補う新しい構造形式として、1988年にフランス人のJ. Mathivatによって提唱されました。
中間的な存在なので、主塔は斜張橋ほどには巨大ではなく、ワイヤに求められる疲労強度も低くなり、斜張橋よりもコストが抑えられるようです。
世界初のエクストラドーズド橋は1994年に完成した小田原ブルーウェイブリッジです。
日本のODAによるエクストラドーズド橋建設事例では、日本・パラオ友好の橋、フィリピンのマルセロ・フェルナン橋、タイのノンタブリ橋などがあります。
エクストラドーズド橋は、コンクリートで作られるコンクリート橋です。
※詳しくいうと、エクストラドーズド橋は、あらかじめ応力を加えたコンクリート「プレストレスト・コンクリート(PC:Prestressed Concrete)」材を使用して作るプレストレスト・コンクリートの一種です。
コンクリート橋の利点は主に以下の3点です。
1:好きな形に作りやすい(型を作ってコンクリートを流し込む)
2:現地にある原料で作れる(型枠、鉄筋、セメント、石、砂、水など)
3:一般的に鋼橋よりも安い
作りやすくて、安いコンクリート橋ですが、今回のゴールデンゲートケラニの建設プロジェクトは、「コンクリート橋区間のパッケージ2」と、「鋼橋のパッケージ1」の2つに分かれ、施工会社が異なっています。
なぜ、コンクリート橋区間と鋼橋の2つに分かれているのでしょうか。
スリランカ初の鋼製箱桁の高架橋
コンクリート橋を作るには、支保工を設置して、型枠を組み、鉄筋を組み立て、コンクリートを流し込みます。
長い期間、建設現場が占有されることになります。
ニューケラニブリッジに並行して建設されたゴールデンゲートケラニの工事は、道路のなかったところに建設したため、コンクリート橋の建設が可能です。
一方で、既存の道路と接続する「インターチェンジ」、インターチェンジと新橋をつなぐ「高架橋」は、渋滞が発生する交通の要衝である既存の道路の上に建設します。
そのため、既存道路の交通の妨げにならないように鋼橋が選ばれたのです。
鋼橋の利点は主に以下の3点です。
1:軽いので、別の場所で橋を作っておいて、夜のうちに運び込んで設置することができる
2:軽いので、基礎を小さくでき、既存道路への影響を軽減できる
3:ぐるっと円を描くジャンクションに必要な急曲線の製作が簡単
急曲線をコンクリート橋で作ることもできますが、そのためには熟練技術者が必要で、スリランカはじめ発展途上国での熟練技術者の確保は難しいため、鋼橋が選択されたそうです。
今回の鋼製箱桁の高架橋もスリランカで初の事例だそうです。
建設・整備された橋と道路は6つ
今回の工事で建設・整備されたのは、以下の6点です。
新橋「ゴールデンゲートケラニ」
新橋とポートアクセスロードをつなぐ「イングルカデ・インターチェンジ」
新橋とベースラインロードをつなぐ「オルゴダワッタ・インターチェンジ」
新橋・ポートアクセスロード・ベースライン道路をつなぐ「ケラニティッサ・ジャンクション」
新橋・インターチェンジ・ジャンクションをつなぐ既存道路の上に作られた「高架橋」
インターチェンジの南にある「オルゴダワッタ交差点」と「その接続道路」の道路拡幅整備
これによって、ニューケラニブリッジに集中していた幹線道路を、ゴールデンゲートケラニに分散することができ、状態解消につながっています。
スリランカへの技術移転
日本の建設会社とコンサルタント会社は、スリランカの専門家と熟練労働者を可能な限り採用したそうです。
日本企業は、雇用を通じた直接的な技術移転に加えて、道路開発庁(RDA)の専門家を対象としたトレーニングプログラムを実施し、長期的に持続可能な技術移転を行っています。
河川敷の低所得者の移住
本プロジェクトに合わせて、河川敷に居住していた約320世帯の低所得者の移住が行われました。
河川敷の居住者たちは、毎年ケラニ河の水位上昇により冠水被害を受けていました。
JICAの環境社会配慮ガイドラインに則って、都市開発局(UDA:Urban Development Authority)が、サラムッラ(Salamulla)に建設したラク・サンダ・セワナ(Lak Sanda Sevana Apartment Complex)への住民の移住が行われました。
プロジェクト関係者
発注者
スリランカ民主社会主義共和国・幹線道路省・道路開発庁(Ministry of Highway、RDA:Road Development Authority)
資金提供者
独立行政法人国際協力機構(JICA)
金額と金利
350億2,000万円(有償支援)
JICAからの融資は、本邦技術活用条件(STEP)によるもので、
金利は土木工事が年率0.1%、コンサルタントサービスが年率0.01%で、返済期間は10年の猶予期間を含む40年。
工事監理・設計監理
株式会社オリエンタルコンサルタンツグローバル
株式会社片平エンジニアリング
Consulting Engineer and Architects Associated Pvt.Ltd.
Project Management Assosiate International Pvt.Ltd.
によるジョイントベンチャー
施工者
◆パッケージ1(鋼橋区間)
JFEエンジアリング
三井E&Sホールディングス
戸田建設
によるジョイントベンチャー
◆パッケージ2(コンクリート橋区間)
三井住友建設
サンケンコンストラクション
によるジョイントベンチャー
工期
2017年10月~2021年11月
※2014年3月に有償資金の借款契約を調印
開通式典
11月24日に行われた開通式典には、以下の方々が参加されています。
タバヤ・ラージャパクシャ大統領
マヒンダ・ラージャパクシャ首相
ジョンソン・フェルナルド幹線道路省大臣
水越英明駐スリランカ日本国大使
山田哲也JICAスリランカ事務所長
辻良樹三井住友建設専務執行役員国際本部長
など。
参照)
JICA:コロンボの新しい玄関口 ケラニ河新橋が開通:日本とスリランカの友好の架け橋に
ODA見える化サイト:ケラニ河新橋建設事業
JICAのインフラに関するこれまでの活動と今後
Yahoo!ニュース:【インド】コロンボの玄関口となる橋、日本支援で開通
三井住友建設:スリランカ、ケラニ河新橋(パッケージ2)が完成
JFEエンジニアリング株式会社:スリランカ国で高架橋を受注
JFEエンジニアリング・三井造船・戸田建設、スリランカ国で「ケラニ河新橋建設事業 パッケージ1 鋼製橋梁工区」を受注
日刊工業新聞:JFEエンジなど スリランカで鋼橋建設 受注額200億円
Daily News:New Kelani Bridge to be inaugurated tomorrow
JICA:The new Gateway to Colombo to be inaugurated symbolizing the strength of friendship between Sri Lanka and Japan
NEWS 1ST:New Kelani Bridge to open on Wednesday (24)
ウィキペディア:エクストラドーズド橋
カンチレバー技術研究会:Q-30 エクストラドーズド橋の特徴について教えて下さい。
ウィキペディア:プレストレスト・コンクリート橋
ウィキペディア:プレストレスト・コンクリート
鋼橋の形式の話
ウィキペディア:斜張橋
ウィキペディア:桁橋
ウィキペディア:高架橋
Wikipedia:Box girder bridge
日本セイフティー株式会社:支保工
ウィキペディア:共同企業体
JICA:本邦技術活用条件(STEP)
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「旅と町歩き」を仕事にするためスリランカへ。
地図・語源・歴史・建築・旅が好き。
1982年7月、東京都世田谷区生まれ。
2005年3月、法政大学社会学部社会学科を卒業。
2005年4月、就活支援会社に入社。
2015年6月、新卒採用支援事業部長、国際事業開発部長などを経験して就職支援会社を退社。
2015年7月、公益財団法人にて東南アジア研修を担当。
2016年7月、初めてスリランカに渡航し、会社の登記を開始。
2016年12月、スリランカでの研修受け入れを開始。
2017年2月、スリランカ情報誌「スパイスアップ・スリランカ」創刊。
2018年1月、スリランカ情報サイト「スパイスアップ」開設。
2019年11月、日本人宿「スパイスアップ・ゲストハウス」開始。
2020年8月、不定期配信の「スパイスアップ・ニュースレター」創刊。
2023年11月、サービスアパートメント「スパイスアップ・レジデンス」開始。
2024年7月、スリランカ商品のネットショップ「スパイスアップ・ランカ」開設。
渡航国:台湾、韓国、中国、ベトナム、フィリピン、ブルネイ、インドネシア、シンガポール、マレーシア、カンボジア、タイ、ミャンマー、インド、スリランカ、モルディブ、アラブ首長国連邦、エジプト、ケニア、タンザニア、ウガンダ、フランス、イギリス、アメリカ
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