Spice Up 観光情報サイト スリランカ観光・情報サイト

『パニワラル―駐日スリランカ大使が見たニッポン―』

2022年3月12日

2015年9月から2019年末まで駐日スリランカ全権特命大使を務められたダンミカさんの本『パニワラル―駐日スリランカ大使が見たニッポン―』を紹介します。

本の概要

錫蘭島 スリランカ Vol.01 セレンディピティに出会う』と同じ2019年9月14日に発行され監修が株式会社ばんせい総合研究所となっている本書は、ばんせいグループ会長の村上さんが出版をご支援されたようです。

ダンミカさんのあとがきには、村上さんに厳島神社、京都祇園、登別温泉、神楽坂の石かわ、と各地に連れて行ってもらったことが書かれています。

本書は、スリランカ大手新聞「Lanka Deepa」に週1でダンミカさんが掲載されていたコラム「パニワラル」から訳者の浮岳亮仁さんが25編を選び、浮岳さんがシンハラ語から日本語に翻訳したものです。

パニワラルは、スリランカでは4冊の本として発行されています。

浮岳さんは、川崎市宮前区の泉福寺で副住職を務められています。

浮岳さんは、他の人が知らないようなマイナーな言語を習得したいと、大学書林語学アカデミーで野口忠司さんにシンハラ語を学び、スリランカに渡って大学教授を務められていたダンミカさんを訪ねて、ダンミカさんの自宅に泊まりながらシンハラ語を学ぶことになり、ダンミカさんの教え子のスリランカ女性と結婚された、ダンミカさんと縁の深い方です。

タイトルのパニワラルは、スリランカのお菓子の名前です。
本書の1つのコラムは、パニワラルがタイトルになっています。

日本とスリランカの景色を鮮やかに表現した文章

本書の特徴は、スリランカの新聞を読むスリランカ人読者に、日本のことを鮮やかに伝えていることでしょう。

日本人にとっては当たり前すぎて気にも留めないことが、日本を見たことがない人でも想像できるように書かれています。

日本人が読むと、とても新鮮でもあり、当たり前のことが少し特別に見える、心温まるコラムが並んでいます。

これは日本のことをよく知っているダンミカさんだからの文章でもあり、また、ダンミカさんの優れた観察眼と表現力によるものだと感じます。

電車、バス、行列、お風呂、回転寿司、猫カフェ、桜、芸者、スカイツリーなどについて書いたコラムがありますが、日本の電車の描写から一部を紹介したいと思います。

まず、ダンミカさんは券売機のことを「券売機ロボット」と書いています。
自動販売機についても、「ロボットのような自動販売機」と書いています。

手で紙の切符をやりとりするスリランカからすると、確かに日本の電車の駅はロボットたちに囲まれているように思えます。

改札機については、以下のように表現されています。

入り口には背の低い別のロボットたちがずらりと並んでいる。そのうちの1台のロボットの口に先ほど買った切符を突っ込むと、奴はあっという間に切符の情報を読み取り、先の方の口から舌を出すように切符を吐き出す。

駅の椅子についても、何でもない椅子に思えますが、列車の本数がごくわずかなスリランカから見ると、数分に1本走っている電車の駅に椅子は必要なのか?と確かに思えなくもないです。

電灯で明るく照らされているプラットホームには座り心地がよさそうな椅子が並んでいるが、これが本当に必要なのかと私は思う。

別のコラムでも、通勤の様子を川に喩えられていますが、駅の人流については、堰き止められたダムが開放されて水が一気に流れ出るようなイメージが確かにぴったりです。(ポロンナルワのパラークラマサムドラから流れる運河を私は思い出します。)

シナガワ駅で電車から吐き出された乗客たちの大河のような流れ

この本では、スリランカのことも描写しているコラムも取り上げられていますので、日本人読者がスリランカについて理解したり、想像したりすることもできます。

スリランカの描写も色鮮やかですので、ダンミカさんの表現は素敵だなと思います。

雨の日のバス停を以下のように描写されています。

雨の日、私はバス停に並ぶ人々の差す傘の群れを眺めるのが好きだ。それはまるで、海の底でいろいろな魚の群れを眺めているようだ。

日本人も詳しくない皇居内

私が興味深いと思ったのは、「信任状捧呈式」と「歌会始」のコラムです。

それぞれ皇居で執り行われたもので、参加されたダンミカさんがその様子を描写されています。

形式的なことは知っていても、どんな風に事が進行していくのか、また、その雰囲気などはなかなか知り得ませんので、貴重な文章だと思います。

スリランカのもので例えた日本のもの

日本を知らない読者向けですので、日本のものについて、スリランカのもので喩えて説明されているのが非常に面白いです。

刺身のつまを「インディアーッパ」のようなと説明し、
パチンコ屋さんを「ウェサックのトラナ」のように光っていると書かれています。

わさびの説明は、スパイスの国の人にはこういう風に説明するのか!と驚きがありました。

ワサビは口で感じることのできない辛さがある。それは脳天で感じる辛さである。

お土産のセイロンティーのエピソード

お土産にセイロンティーを日本人に渡した時のことが2つ書かれています。

「まあ、セイロンティー。おいしい紅茶。ベストの紅茶。いただきます」などと喜んで受け取ってくれる。中には、わざわざ仏陀を祀った小さな祭壇に供え、小さな鐘を鳴らし、「おいしい紅茶をいただきましたよ」などと報告することもある。だが、1年ほど後に再び彼らのお宅を訪れると、その紅茶の箱は、封は開けてはあるものの、まだそれほど減っていない、ということが多い。彼らはそれを見られてバツが悪いのか、「なんだかもったいなくってね。特別な時に大事に飲んでいるよ」などと言う。彼らはそう言うが、やはり日本人には紅茶より、「Green Tea(緑茶)」の方がおいしく感じるのだろうな、と思うのだ。

これは的確な指摘です(笑)

そして、もう一つは大学教授にセイロンティーを渡した時のお話。

「あなたの国では紅茶に砂糖を入れるんでしょう?私らは砂糖を入れないんです。砂糖を入れちゃったらお茶の本当の味がわからなくなっちゃうからね。君は砂糖を入れる?」

と話す教授に合わせて、砂糖を入れないと答えたダンミカさんは、

私も仕方なく「いただきます」と言って、教授の言うとおりに一口飲んでカップを置いた。すると急に茶の苦みが口いっぱいに広がって、脳天に抜けていく。

と。そんなダンミカさんに対して、教授は紅茶にウイスキーを注ぎ始めます。それに対してダンミカさんは、

何ということだ!砂糖を入れていない渋い紅茶でも耐えられないのに、ウイスキーなど入れて飲めるのだろうか。(中略)すると、秋の青空が一層濃く見え、メリーゴーランドに乗ったように体が上下しながら回り始めた。

と書かれています。

ものすごく想像できる話です。

日本の風習や宗教観が見えてくる

ダンミカさんは日本とスリランカを比較されています。

わが国(スリランカ)では、死者は供養して、遠くに行ってもらうと考える。もし死者が近くにいると考えたら怖いからだ。

そんなスリランカからきたダンミカさんが日本でお世話になっていたタニカワさんの家では、

私がナリガマの家に泊まる時、いつも寝るのはこの仏壇のある部屋である。私は仏壇の前の床に布団を敷き、亡き人々とともに眠るのだ。私もタニカワ家の一員である。

紅茶のエピソードと合わせて、異国で暮らすこととはどういうことかを改めて考えさせられます。

日本の都市部ではなくなりつつある仏壇のお話は新鮮に思える一方で、スリランカについても都市部と田舎で見られるものは違いがあることを改めて認識しました。

スリランカでは、日本が仏教国であることから歓迎されることが多いですが、この本を読んで気付いていなかった違いが書かれていました。

日本では墓地の多くは寺院にあり、寺院は墓地を管理し、墓地での供養に僧侶が読経することがあるからだ(註:スリランカの仏教寺院に墓地があることはない。また、僧侶が墓地で先祖の供養のために読経することもない。

また、スリランカでは「おしん」のことをよく耳にしますが、おしんについて説明された文章がとても分かりやすいと思いました。

1900年から1984年の84年間が語られる(中略)その時代を生きた日本人の3割が「おしん」だったという。日本は国土の約70パーセントが山林である。そしてその残りの13パーセント余りの狭い土地に多くの国民が肩を寄せ合うように住んでいる。また、農地として使われるのは国土の8パーセントしかなく、工業地帯は国土の3パーセントである。天然の資源は、水と土をのぞいては何もないに等しい。その代わり、火山噴火、地震、津波といった自然災害はいやというほど起こるのだ。そんな国に住む人々が、どのようにしたら世界で最も豊かな国の一つになったのだろう。それがドラマ「おしん」の陰で語られているテーマだ。

辞典で調べる言葉の意味

最後に、本書で登場するシンハラ語について、辞典で言葉を調べてみたことを追記します。

ダンミカさんの姓名のディサーナーヤカは、
区域・地区・キャンディ王国の行政区を意味する「ディサーワ」と、
長・リーダーを意味する「ナーヤカヤー」からきているお名前なのかと思いました。

ミドルネームの「ガンガーナート」も、村を意味する「ガン」と、長を意味する「ナー」からきているかもしれません。

良い意味のあるお名前なのではないかと思いました。

ダンミカさんがキャンディにある学校の寮に入る時のエピソードで、キャンディ行きの列車の名前が「ポディ・マニケー号」とあります。

ボディは小さいなどの意味で、マニケーはキャンディ地方出身の女性を意味するようですので、キャンディ行きの列車につけられた名前なのだなと分かります。

まとめ

書き出してみると、引用したい文章がたくさんあり、どれを取り上げるか悩んでしまいました。

本書を読むと、普段の景色がいつもよりも色鮮やかに目に飛び込んでくるように感じます。

日本を深く理解して愛して下さったダンミカさんが大使を務めていただけたことは、日本にとっても、スリランカにとっても良かったのではないかと思います。

是非ご覧になってみてください。

参考)
讀賣新聞:「フーテンの寅さん」に魅せられた元駐日スリランカ大使
カラピンチャ:書籍紹介「パニワラル 駐日スリランカ大使が見たニッポン」
Wikipedia:Dhammika Ganganath Dissanayake
Wikipedia:Lankapuvath
Wikipedia:Independent Television Network
天台宗 泉福寺:ご住職紹介
Bookmark.lk:ගංගානාත් දිසානායක
在スリランカ日本国大使館:Message of Condolence on the passing of Prof. Dammika Ganganath Dissanayake

 

>関連記事

『錫蘭島 スリランカ Vol.01 セレンディピティに出会う』

駐日スリランカ大使ダンミカ ガンガーナート ディサーナーヤカ閣下へのインタビュー

# 関連キーワード