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『ヒンドゥー教の本―インド神話が語る宇宙的覚醒への道』

2022年6月02日

学研プラスのブックス・エソテリカシリーズの第12号『ヒンドゥー教の本』を紹介します。

ヒンドゥー教の入門者として、とても分かりやすい本でした。

ネットでヒンドゥー教の神話や神々、著名人を調べても断片的で理解が進みませんが、これを読むと大枠が掴めます。

本記事では、『ヒンドゥー教の本―インド神話が語る宇宙的覚醒への道』について紹介します。

ヨガやヒンドゥー教の考え方なども掲載されていますが、本記事では、ヒンドゥー教の歴史的な流れ、主な神々についてまとめました。

目次

ブックス・エソテリカシリーズとは?

50冊を超えるシリーズです。
ヒンドゥー教の本を読んだ限りだと、入門書の位置付けです。

【第一期 日本宗教編】
第1号:密教の本
第2号:神道の本
第3号:禅の本
第4号:道教の本
第5号:日蓮の本
第6号:陰陽道の本
第7号:浄土の本
第8号:修験道の本
第9号:釈迦の本
第10号:古神道の本

【第2期世界宗教編】
第11号:チベット密教の本
第12号:ヒンドゥー教の本
第13号:ユダヤ教の本
第14号:イスラム教の本
第15号:キリスト教の本(上巻)
第16号:キリスト教の本(下巻)
第17号:古代秘教の本
第18号:神秘学の本

【第3期 日本探求編】
第19号:真言密教の本
第20号:聖徳太子の本
第21号:天大密教の本
第22号:天皇の本
第23号:風水の本
第24号:妖怪の本
第25号:幽霊の本
第26号:儒教の本
第27号:お経の本
第28号:東洋医学の本
第29号:古武道の本

【第4期 術を知る】
第30号:呪術の本
第31号:東洋占術の本
第32号:占星術の本
第33号:印と真言の本
第34号:中国武術の本
第35号:加持祈祷の本
第36号:神道行法の本
第37号:気功法の本
第38号:[図説]皇室のすべて
第39号:性愛術の本
第40号:親鸞の本
第41号:古事記の本
第42号:空海の本
第43号:神仙道の本
第44号:姫神の本
第45号:仏像の本
第46号:神仏習合の本
第47号:新宗教の本
第48号:修行の本

【エソテリカ別冊】
第49号:中国の神々
第50号:ブッダの道
第51号:観音巡礼の本
第52号:皇室のすべて

参考)
「ブックス・エソテリカ」Books Esoterica  学研が発行した、宗教。占い。オカルト、神秘系、の、シリーズ叢書。

本書の目次

各章ごとに執筆者が異なっています。

【カラーピクトリアル】聖者の大地 写真:丸山勇
【第1章】インド巨人列伝 文:豊島泰国
【第2章】ヒンドゥー5000年史 文:高原朝彦
【第3章】宇宙創造のシステム 文:藤巻一保
【第4章】解脱へのプロセス
Chapter 1 ヨーガの修道論 文:吉田邦博
Chapter 2 ヒンドゥーの成就法 文:立川武蔵
【第5章】ヒンドゥーの愛と利と法 文:日野紹運
【第6章】ヒンドゥーの儀礼と祭祀
Ⅰ 神々への供養(プージャー) 文:日野紹運
Ⅱ 始原の祭祀 文:河野亮仙
【第7章】聖地巡礼ガイド 監修:宮本久義、文:村上典司
【巻末特集】インド神話の神々
ヒンドゥーの神々 文:桑村正純
ヒンドゥーの女神 文:吉田邦博
ヴェーダ起源の神々 文:那珂弘
その他の神々 文:村上典司

参考)
新潮社:丸山勇
Webcat Plus:豊島泰国
アマゾン:藤巻一保
アマゾン:吉田邦博
ウィキペディア:吉田邦博
アマゾン:立川武蔵 
ウィキペディア:立川武蔵
アマゾン:日野紹運
アマゾン:河野亮仙
アマゾン:宮本久義
Webcat Plus:桑村正純

【カラーピクトリアル】聖者の大地

以下の7つについて、写真と聖典からの引用された言葉が掲載されています。

ブラフマン(梵)とアートマン(我)
カルマン(業)
モークシャ(解脱)
サンサーラ(輪廻)
シャクティ(宇宙的根源力)
バクティ(信愛)
シャーンティ(寂静)

【第1章】インド巨人列伝

アシュターヴァクラ

「8つの曲がった部分を持つ人」という名の、呪われた身体を持った6000年の苦行を行った聖仙。

ヤージュニャヴァルキヤ

ウパニシャッド最大の哲人。

アガスティヤ

椰子の葉に人々の運命を刻んだ伝説の指導者。

シャンカラ

ヴェーダーンタ学派の最有力の学説「不二一元論」を提唱したケーララ州出身と言われる大賢人で、シャンカラ派の開祖。

ラーマーヌジャ

マドゥライのティルチラパリのシュリーランガム寺院の大司教をしていた。
バクティ(神への献身的な信仰と愛)によって解脱が達成される説いたヴィシュヌ派。

シヴァ派であったチョーラ朝の迫害を受けて、マイソール地方のホイサラ王朝に身を寄せた。

ジャニューネーシュヴァラ

プネー近郊のアーランディーにある地下の岩室に閉じ籠り、断食したまま、永遠のヨーガに入った行者。

チャイタニヤ

クリシュナこそが人間を本当に救う存在であるとして、オリッサ州プリーに隠棲した。

ヴァッラバ

現実世界を全面的に肯定し、家庭を持った世俗生活こそ、人間生活の中で最も尊いものであり、出家制度や肉体を荒らす苦行は全く意味がないとして、クリシュナ信仰の儀礼面を発展させた。

ラーマクリシュナ

西ベンガル州に生まれたラーマクリシュナ・ミッションの宗祖。
18歳でカルカッタに近いカーリー寺院の僧となり、カーリーを熱烈に崇拝した。

ヴィヴェーカーナンダ

ラーマクリシュナの弟子で、ラーマクリシュナ僧院とラーマクリシュナ・ミッションの創設者。
欧米を外遊し、1893年の万国宗教会議第一回集会に参加。

シルディ・サイババ

ムンバイ近くのシルディのモスクに住んで托鉢を行った。
サーイー  はペルシャ語で「聖なる者」、「聖者」を表し、通常はイスラム教の苦行者を意味する。
バーバ ー はヒンドゥー教の「父」を意味する。
つまり、「シルディ村の聖なる父」という意味。

信者に対して奇跡的な霊験を現したと言われる。
8年後に南インドのヴィシュヌ神を信仰する家に生まれ変わると予言して1918年に死去。

ガーンディー

偉大な(マハ)魂(トマ)と呼ばれたガーンディーは、非暴力不服従運動でインドの独立を導いた指導者。

オーロビンド・ゴーシュ

カルカッタに生まれ、ケンブリッジ大学で学ぶ。
インド独立を目指す政治秘密結社「蓮と短剣」に加盟し、政治闘争を指揮した容疑で投獄される。
フランス領インドのポンディシェリーに避難し道場を開設。
死後、パートナーのフランス人女性ミラ・アルファサによって、曼荼羅瞑想都市オーロビルが造営される。

マハリシ・マヘーシュ・ヨーギー

超越瞑想(TM)の創始者としてニューエイジムーブメントの一翼を担った。
マドラスに精神復活運動本部を設立。
ビートルズ、ビーチボーイズのマイク・ラヴ、ドノヴァン、ミックジャガーなどミュージシャンとの交流でも知られる。

Osho

セックスグル、タントラマスターなどと称された。
プネーにアシュラムを創設。

ジッドゥ・クリシュナムルティ

チェンナイ近郊のマダナプルのバラモンの家の第8子として生まれたことからクリシュナにあやかってクリシュナムルティと名付けられた。
神智学協会のチャールズ・W・レッドビーターに見出され、後に「東方の星教団」の教主に祭り上げられる。

その後、東方の星教団を解散し、神智学協会から離脱。

アバイ・チャラナラヴィンダ・バクティヴェーダンタ・スワミ・プラブパーダ

クリシュナ意識国際協会の創設者。
クリシュナを最高人格主神として、「バガヴァッド・ギーター」と「バーガヴァタ・プラーナ」をグルを通して学ぶことを提唱。

バガヴァッド・ギーターは、マハーバーラタの第6巻に収束された王子アルジュナとクリシュナとの対話をまとめた聖典。
バーガヴァタ・プラーナは、18大プラーナ(マハプーラナ)中の1つで、クリシュナに対するバクティーを促進する。

クリシュナを讃える「ハレー・クリシュナ運動」を展開。
ニューヨークのイーストビレッジでヒッピーなどの若者に対して布教を行った。
サンフランシスコでのロックコンサートにも参加し、西海岸のヒッピーにもハレークリシュナ運動が普及した。

サティア・サイババ

アーンドラ・プラデーシュ州で生まれ、サティヤ・ナーラーヤナ・ラージュと名付けられる。
サティヤは真理を意味し、ナーラーヤナはヴィシュヌの別名。
シルディ・サイババの生まれ変わりだと宣言し、サイティ・サイババを名乗る。

シュリ・サティア・サイ大学の創設などの教育奉仕、水道設備の供給などの社会奉仕、シュリ・サティヤ・サイ病院開設などの医療奉仕などで知られる。

葬儀は国葬として執り行われ、大統領・首相以外で国葬が執り行われたのはマザー・テレサに次いで二例目。

【第2章】ヒンドゥー5000年史

「すべてを呑みこむ大河ヒンドゥー -宗教という枠を超えた豊穣なる文化複合体」と題するイントロダクションは、以下の文章から始まります。

「ヒンドゥー教を定義することは不可能である。」これはインド連邦共和国の初代首相ネルーの言葉である。

大きな歴史の流れを以下のように説明しています。

おおまかにいうなら、ヒンドゥー教の歴史には4つの節目がある。1.アーリア人の到来、2.仏教の興隆とその影響、3.人格神(ヴィシュヌ神、シヴァ神)崇拝の醸成、4.タントラ、バクティなどの易行道の成立。

インダス文明とヒンドゥーの萌芽

ヒンドゥー教の修行の中心である瞑想と沐浴は、当初、祭式を宗教の中心に据えていたアーリア人のものではなく、インダス文明期の宗教にその源を求められる。そして現在でもインドで根強い牡牛の崇拝、性器(リンガ)崇拝、宗教的な紋章としての卍も、その原型はインダス文明期にまで遡る。

とあります。また、遺跡の印章の中に、シヴァの原型と思われる像が刻まれ、台の上に坐り、その性器は直立した状態で刻まれているそうです。

四国讃岐の金毘羅信仰で有名な金毘羅は、その原型はインダス川のワニに対する信仰にまで遡るし、財宝の神・毘沙門天も、元々はインダス起源の土俗神クベーラだったのである。

バラモン教の発展と深化

  • アーリヤ人の宗教は、供物や犠牲獣を聖火に投じ、特殊な酒(ソーマ)を天神に捧げて福を得る、というものであったが、これはイランのゾロアスター教とも共通する聖火信仰であり、日本の真言密教の護摩祈祷もアーリヤ人の言語であるサンスクリット語の「供儀(ホーマ)」に由来している。
  • 先住民を隷民(ダーサ)として社会に取り込み、先住民の農耕文化から小麦の生産を学んだアーリヤ人社会は、次第にその姿を変え始めた。
  • 紀元前1000年頃から、再び、さらに東方のガンジス川流域の肥沃な平原部へと移動を開始した。このときも、武力によって先住民を制圧するよりも、祭祀者階級であるバラモンの呪術の優位性によって、先住民を帰依させていったことが多かったようである。このような過程を通じて、アーリヤ人社会の中でバラモン階級の重要性がますます高まっていったと考えられる。また、バラモンたち自身も、専門的知識を独占することによって自分たちの権威をより高めようとする意図もあって、祭式を複雑なものにしていった。(中略)こうして編纂されたのがヴェーダである。
  • 伝統的なヴェーダの学習は、文字に書かれたものによらず、口頭によって伝承、暗唱することが基本となっている。
  • なお「ヴェーダ」という名前は、ヴィッド(知る)という動詞がもとになっている。
  • ブラフーマナ文献群で注目されるのは、バラモンが「神々への恭順な祭祀者」から、その呪力によって「神々を駆使する呪術者」へと変化したことである。(中略)その結果として、ヴェーダの神々の威信は低下し、祭式の傀儡と見なされるようになってしまった。
  • 祭式に関する聖典が次々と編纂され、祭式そのものが複雑、大規模化した結果、祭式にかけられる莫大な費用は、社会が負担しうる上限にまで達してしまった。そこで、思索の対象は祭式の現実的な手順よりも、その知的意味づけや、知識そのものに移行していった。こうして編纂されたものがウパニシャッドである。ウパニシャッドの別名はヴェーダーンタで、これは「ヴェーダの末尾」という意味(中略)そして重要なのは、ウパニシャッドにはサンヒターでは語られていなかった「輪廻転生」と「梵我一如による輪廻からの解脱」について語られている点である。

反バラモンの宗教改革運動

  • 紀元前600年頃になると、アーリヤ人社会と先住民との混血が進み、農業も小麦から米へと転換した。また、商工業も発展し、物質的に豊かになっていった。その結果、コーサラ,マガダ、アヴァンティ、ヴァンサなどの大国が成立した。こうして王族の権威は伸長し、バラモンは従来の威信を失っていった。
  • ニガンタ・ナータプッタ(ジャイナ教開祖)はバラモンの行う祭祀は無価値であるという主張に基づいて、階級制度を否定し、供犠のために獣を殺すことを排斥した。(中略)ジャイナ教の特徴はこの2点、徹底的な不殺生戒と苦行の奨励にあるといえよう。のちにジャイナ教は無所有を徹底するために一糸まとわぬ姿で修行する裸形派(空衣派)と、白衣をまとうことを許す白衣派に分かれていった。
  • ジャイナ教徒は農業を避け、商業(特に金融業と小売業)に従事する傾向が強い。彼らは正直なので信用があり、また比較的富裕であることから、インドの中で占める人口はわずかであるにもかかわらず、現在でもビジネスの重要なポストについて人が多い。

バラモン教からヒンドゥー教へ

  • 仏教やジャイナ教の教学研究に呼応するように、バラモン教にも学説を体系化する動きが始まり、様々な学派が生まれた。(中略)それらのうち重要なのは次の6派で、「六派哲学」と総称される。
  • バラモン教はヒンドゥー教へと変容することで生き残った。この変容の要因として①土着の神々の取り込み、②身近な人格神としての神々への信仰の発生、③『マヌ法典』などによる生活規範の確立、の3点が考えれるが、全てに仏教の影響を認めることができる。特に、①と②に関しては、大乗仏教が大きく関係していると考えれる。

二大神への帰依

  • バラモン教からヒンドゥー教への変容が進む段階で、ヒンドゥー教徒のほとんどがシヴァ派かヴィシュヌ派のどちらかに属するようになっていった。現実には、シヴァ教、ヴィシュヌ教と呼んだ方がいいほどにそれぞれの宗派内に分派があり、独立した宗教体系を持っている。両派は互いの神を自分の神よりも下のものとして見ることはあっても、決して排除しようとはしないので、宗教間の争いのようなものも起こらない。
  • この両派がいつ頃成立し、両神がいつ頃から現在のような熱烈な信仰を集めるようになったのかをはっきり断定することは困難である。ただ、ほぼ同時期に形成された二大叙事詩『マハーバーラタ』と『ラーマーヤナ』が、両神の性格に血肉を与え、より民衆に親しみやすくしていったであろうことは確かである。
  • クリシュナは、元々ヴィシュヌ派系のバーガヴァタ派の信奉する神であったが、他のバラモン教団がバーガヴァタ派の勢力拡大を見て、これを自分の教団に取り込むために、クリシュナをヴィシュヌの化身としたらしい。元来バーガヴァタ派の聖典であり、インドのバイブルとも呼ばれている『バガヴァッド・ギーター』には、神へのバクティについて述べられている箇所がある。このバクティが、ヒンドゥー教全体の信仰の質を大きく変えるキーワードになっていった。バクティとは、元々夫と妻のような、契約や約束によれない人間同士の信愛を指した言葉であり、これを神との関係にまで拡大したのが、中世以降に興ったバクティ運動である。この運動はヒンドゥー教の主流となり、その主たる担い手になったのが、ヴィシュヌ派の信徒たちであった。現在インドで、その信徒数はシヴァ派を上回っている。

【第4章】解脱へのプロセス

Chapter 1 ヨーガの修道論

古典ヨーガが顕教とすれば、ハタ・ヨーガは密教に相当する。
ハタ・ヨーガがチベット密教、道教、中国禅、日本の密教の各修道論の出発点となっている。

古典ヨーガはサーンキヤ哲学に基づき、プラクリティの止滅によって聖なるプルシャとの合一を目指す。
ハタ・ヨーガは古典ヨーガによって顕現した聖なるもののパワーを使い、俗的な世界を積極的に聖化させ、神々との合一を果たそうとする。

【第5章】ヒンドゥーの愛と利と法

ヒンドゥー人生の目標「トリ・ヴァルガ」は以下の3つが、それぞれ文献があります。
カーマ(性):カーマ・シャーストラ(性愛学文献)
アルタ(実利):アルタ・シャーストラ(実利学文献)
ダルマ(法):ダルマ・シャーストラ(法学文献)

カーマ・スートラ

第1章は教養。声楽、器楽、舞踏、謎解き、変装などの64芸。
第2章は性交。男女の体格、性器のタイプと9種類の組み合わせ、体位など。
第3章は処女の妻を獲得する方法。
第4章は妻となった女性の貞女たるべき姿を説く。
第5章は人妻をいかにして口説く
第6章は遊女が金のなる木をつかむ方法
第7章は秘儀、精力回復のための技術など

アルタ・シャーストラ

学問には以下の4つがある。
ヴェーダ学:善と悪を学ぶ。
経済学:農業、牧畜、商業を扱う。
政治学:正しい政策を学ぶ。
哲学:全ての学問の灯火で、上の三学の支えとなる。

ダルマ・シャーストラ

数あるダルマ・シャーストラの中で最も重要なのが『マヌ・スムリティ(マヌ法典)』。

人を4つの社会階層に分ける。
・バラモン
・クシャトリヤ
・ヴァイシャ
・シュードラ

バラモン、クシャトリヤ、ヴァイシャの人生を4つに分ける。
・学生期
・家長期
・林住期
・遊行期

【第6章】ヒンドゥーの儀礼と祭祀

Ⅱ 始原の祭祀

  • 北インドでは13世紀からイスラーム系の王朝が成立し、そのイスラーム教では音楽を宗教儀礼として認めていないため、宮廷での音楽・舞踊は早くから王侯貴族のためのエンターテイメントとして独立する傾向があった。一方、南インドの芸能は儀礼と分かちがたく成り立っている。舞踏劇の多くは寺院における祭礼の呼び物であり、本尊に奉納する形で行われる。
  • 古代タミル人が畏怖したのは人格神というよりは、その背後に潜む荒ぶる力、アナングであった。この神威をコントロールする司祭はバラモンではなく、楽師・芸能者であり、ケガレと関わるため社会的地位は低い。
  • こうした古代的なシャーマニズムの儀礼が、南インドでは形を変えて伝えられている。現在もテイヤムの儀礼を司るカーストの一つにヴェーランの名があり、神懸りになって踊り舞う。サルパン・トゥッラルという蛇神に祈る不妊の女のための治病儀礼も、ケーララ州にある。スリランカの悪魔祓いとして知られるトヴィルという治病儀礼もその一つである。

【第7章】聖地巡礼ガイド

聖地を意味する「ティールタ」という言葉は、元来、「川の浅瀬」や「渡し場」を表す。水で身を浄めながら神々に礼拝してきたという歴史が窺われ、要となる聖地のほとんどが特定の川や水辺に関係している理由もここにある。

四大神領

北はアラクナンダー川の渓谷にあるバドリーナート。
東は海辺の町プリー。
南はスリランカに近いラーメーシュワラム。
西はアラビア海に面したドワールカー

七聖都

ハリドワール:ガンジス川が平野部に出る場所、ハリ(ヴィシュヌ別名)のドワール(門)。
ヴァーラーナスィー:ガンジス川沿いの古代都市カーシーがあった。別名マハーシュマシャーナ(大火葬場)
アヨーディヤー:ガガラ川沿い、コーサラ国の首都でラーマの故郷。
マトゥラー:ヤムナー川沿い、クリシュナ誕生の地。
ドワールカー:クリシュナが最後に移り住んだ。
ウッジャイン:シプラー川沿いのアヴァンティ国首都だった。
カーンチープラム:パーラール川沿い、パッラヴァ朝の首都。

四大聖地

ヤムノートリー:北向きのヤムナーの意味。ヤムナー川の源流に近い。ヤムナー女神は姉。
ガンゴートリー:北向きのガンガーの意味。ガンジス川の源流に近い。ガンガー女神は妹。
ケーダールナート:12の光輝くリンガの一つがあるシヴァの聖地。
バドリーナート:ヴィシュヌの聖地。

その他

カイラース:チベットの西の果て。シヴァとパールヴァティーが鎮座。
アマルナート:シヴァが鎮座する洞窟がある。
アラーハーバード:ガンジス川とヤムナー川の合流
ガヤー:ファルグ川沿い

【巻末特集】インド神話の神々

ヒンドゥーの神々

◆ブラフマー
宇宙の根本原理ブラフマンが擬人化されて男性の創造神となった。
理念上の神格と考えられたため神話も少なく、信仰もあまり流布しなかった。

◆ヴィシュヌ
比較的上層部に信者が多い。

◆シヴァ
中流以下の庶民層に人気がある。

◆クリシュナ
紀元前7世紀頃のヤーダヴァ族の精神的指導者で死後に神格化された。
毒龍カーリヤの退治、インドラの暴風雨に対してゴーヴァルダナ山を傘代わりにした話、牛飼い女たちとの恋愛などで知られる。

◆ガルダ
蛇から守ってくれる聖鳥、ヴィシュヌの乗り物、その座は神よりも高く頭上に描かれる
インドラを打ち負かし、アムリタを手に入れて、ヴィシュヌと互角に戦った。

◆ハヌマーン
インドラジットに捕らえれててラヴァナに殺されそうになるが、ヴィビーシャナに諌められ、ハヌマーン自慢の長い尾に火をつけると、ハヌマーンが尾を振り回したため、町中が大火事になった。

◆ガネーシャ
パールヴァティーが自分の垢から作った息子。
シヴァが首を切ってしまい、パールヴァティーが悲しんだので、シヴァは部下たちに最初に出会った生き物の頭を持ってくるように命じて象の頭を持ってきた。
マハーバーラタを口述筆記したという神話から、知恵と学問の神として人気がある。
富と繁栄の神として商人階級にも人気がある。

◆カールッティケーヤ
別名スカンダ、クマーラ。インドラが悪魔から助けた娘デーヴァセーナーは、神軍の総指揮官と結婚するとブラフマーが予言。
アグニが七聖仙の妻に恋をした。アグニに想いを寄せていたダクシャの娘スヴァーハーはヴァシシュタ仙の貞節な妻意外に変身して、6日間アグニに近づき、アグニの静駅をシュヴェータ山の黄金の穴に落とした。その穴から6つの頭と12本の腕を持つ神の子が生まれた。神軍の総指揮官となり、デーヴァセーナーと結婚した。

ヒンドゥーの女神

◆サラスヴァティー
ブラフマーが創り出した娘で、その美しさにブラフマーが惚れて妻にした。

◆ラクシュミー
乳海攪拌で現れた。
ヴィシュヌのアバターラに合わせて、アヴァターラとして付き添う。

◆パールヴァティー
ヒマラヤの娘でシヴァの妻。

◆ドゥルガー
原意は「近づき難い女神」で、元々はヴィンディヤー山の住民に崇拝されていた。
困難から人を救う航海の神でもある。
アスラのマヒシャを倒した。

◆カーリー
「時間」と「黒色」の意味を持ち、別名「時の女神」。
ドゥルガーの怒りから生まれた。

ヴェーダ起源の神々

◆インドラ
水を堰き止める悪魔の龍ヴリトラを退治した。
神酒ソーマで奮い立ち、工芸神トヴァシュトリの造ったヴァジュラを投げつけて勝利し、人間界に水をもたらした。

◆アグニ
普通名詞の火を意味し、ラテン語やイラン語の火とも語源を同じくする。
天にあっては太陽、空においては稲妻、地上では祭壇の聖火として燃える。
人の中にも消化の火、怒りの火、思想の火などとして存在する。
家庭の神として家内の安全と繁栄をもたらす一方、敵や悪魔を焼き尽くす天の業火でもある。

◆ヴァルナ
インドラと並ぶ重要な神で司法神。
天体の運行、昼夜、月日の正しい循環を守り、人間社会の道徳規範も守る。
アーディティヤ神群の代表者で、同じく優位にいるミトラと併記されて賛美される。

◆ルドラ
モンスーンが神格化した暴風神。
マルト神群の父。

◆スーリヤ
太陽神。

◆ラートリー
夜の女神。ウシャスと姉妹。

◆ウシャス
暁の女神。

◆ヴァーユ(ヴァータ)
風の神。
太陽神スーリヤ、雨の神パルジャニヤ、水の神アーパス、森の女神アラニヤーニーなどの自然神。

◆アシュヴィン双神
治療者。

その他の神々

◆ナーガ
コブラは尻尾を切られても再生し、旺盛な繁殖力で絶えず人々を脅かした。恐怖は間もなく神聖視へと昇華していく。
不死と生命力の象徴として祀られるようになる。

◆ヤクシャ
富の神クベーラの従者とされる精霊。
人前に現れる時は、豊満な肉体をもつ魅力的な女性の姿となる。
森や野原に住む。
仏教では仏法を護る八部衆と登場するも、のちに、人間の精気を吸い血肉を食らう魔物となる。

◆ヤマ
太陽神ヴィヴァスヴァットの子で、最初に生まれた人間で最初に死んだ人間。
死の道への案内人。閻魔天。

◆ガンガー
受け手がいないと大地を打ち抜くであろうと言われ、シヴァが受け止めた。

◆ムルガン
「神聖な子供」という意味で、ドラヴィダ人の山の神。別名はクマーラ。
シヴァの息子カールッティケーヤ(スカンダ)と同一視される。

◆ミーナークシー
「魚の目を持つ女神」の意味で、魚のように常に目を見開いて世界を見ているというドラヴィダ人の神。
シヴァの妻パールヴァティーと同一視されるようになる。

まとめ

ヴィシュヌ、シヴァについては『いちばんわかりやすいインド神話』の紹介記事に詳しく書きましたので、本記事では少し触れた程度ですが、神々の中では最もページを割いて紹介されています。

【第3章】宇宙創造のシステム については触れませんでしたが、ヒンドゥー教の世界観が見えてきます。

ヒンドゥー教は何冊か読むと、段々と分かってくるように思いますので、是非読んでみてください!

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