スリランカ初の天ぷら専門店を経営する「天ぷら四季泉」の三井章子さんにインタビュー
スリランカで事業を行う日本人起業家、経営者へのインタビュー第8弾。
今回はスリランカで唯一の天ぷら専門店「天ぷら四季泉」を経営する三井章子さんにインタビューしました。
スリランカに来たきっかけ
Q.スリランカに来たきっかけを教えてください。
三井さん:建築家の父は宝石が好きでスリランカによく行っていました。
私が小さい頃から家に象の木の彫り物がいくつも家にありました。
父が他界してすぐ、友人から「スリランカに日本語学校を建てているが、現地の様子が分からないので、代わりに学校を見に行ってほしい」と頼まれ、スリランカを初めて訪れました。
それが2016年のことです。
学校の建設現場を訪れると、日本の様に下から順番に作っていく工法ではなく、現場を見て大変驚きました。
あれから4年が経ちますが、学校は未だに完成していないようです。
初めてのスリランカでしたので、色々と見て回りました。
北海道よりも小さい島の中に、世界遺産が8つもあり、仏教を厚く信仰していること、のんびりした雰囲気がとても気に入ってしまいました。
特にシーギリヤロックには感動しました。
夫は前々からリタイヤしたら飲食業をやりたいと言っていましたので、それであれば、スリランカで飲食店をやってみようと思い立ったのです。
なぜ、天ぷら専門店だったのか?
Q.飲食店の中でも、天ぷら専門店を選ばれた理由を教えてください。
三井さん:スリランカでは良質な海老が手に入ります。
野菜も日本と同じものが手に入ります。
天ぷらの材料には困りません。
一方で、コロンボを見て回ってみると、本格的な天ぷらを出しているところはあまりありませんでした。
せっかくお店をやるなら、凝ったお店にしたいと思い、天ぷら専門店を始めることにしました。
天ぷらはどうしても天ぷら鍋にこだわりたくて、全て日本から持ってきました。
お店のプロデュースは名古屋と東京に和食料理店「うえの山」を経営する坂本司史さんにお願いしました。
坂本さんやうえの山のシェフの方々に定期的にコロンボのお店に来ていただき、スリランカ人シェフにご指導をしていただきました。
スリランカ人シェフは覚えがよく、とても優秀です。
日本の食や文化について、理解を深めてもらおうと、スリランカ人シェフとスリランカ人ディレクターを日本に連れて行きました。
こだわりの内装
Q.お店の内装が和のテイストでとても素敵です。こちらのデザインは日本人に依頼したのでしょうか?
三井さん:お店のプロデュースをお願いした坂本さんと共通の友人の設計士さんにデザインをお願いしました。
工事の進みが遅いので、日本から設計士さんに来ていただき、現場に1ヶ月間寝泊りして対応してくださいました。
スリランカ人の大工さんにも現場に寝泊りしてもらいました。
大工さんといっても、設計図も読めない寄せ集めの人たちです。
日本だったら2ヶ月間で終わる工事だそうですが、なんとか3ヶ月間で完成にこぎ着けました。
簾は日本から運びました。
合計で58キロもの重さでした。
Q.3ヶ月で完成したというのは、むしろ早い方だと思います。スリランカではもっと遅れたという話ばかりを聞きます。開業はうまくいったのですね!?
三井さん:全てが上手くいったわけではありません。
私は英語ができませんので、お店の場所や工事業者の選定を日本語ができるスリランカ人にサポートをお願いしました。
あとになって分かったことは、工事費もお店の家賃も随分高く払ってしまっていたということです。
もう過ぎたことですし、それも勉強、経験だと思っていますが、日本のようにはスムーズにいかないことばかりです。
天ぷらに対するスリランカ人の反応
Q.天ぷらに対して、スリランカ人のお客様の反応はどうですか?
三井さん:「フリッターではない、本物の天ぷらを初めて食べた。とても美味しかった!」と言ってくださるスリランカ人のお客様がいらして、とても嬉しかったです。
ただ、味が薄いとおっしゃるお客様も多いです。
スパイシーソースを持ってきてほしいと言われたこともあります。
そこで、現在は天丼のタレは2種類用意しています。
一つは通常の天丼のタレ。
もう一つはその天丼のタレに、スパイスを加えたもの。
日本人のように天ぷらを天つゆにつけて食べてくださる方もいれば、ソースのようにスパイシーな天つゆをぶわ~っとかけて召し上がる方もいます。
スリランカ人の方々はお米をたくさん食べますので、お米が足りないとよく言われました。
ただ、丼は日本のものを使っているため、そこまでたくさんお米が入りません。
そこで、お米の量は変えずに、天ぷらの量を増やしてお腹を満たしていただくようにしています。
揚げたての天ぷらはヘルシーであることもお伝えしています。
カロリーを測ってみると、中華料理などの炒め物よりも低いのです。
また、天ぷらは魚、野菜とバランスも良いです。
お通しにはスリランカのソイミルクで作ったホームメイドの豆腐を出しています。
Q.スリランカの方々にも天ぷらは受け入れられているのですね?
三井さん:はい、最近はスリランカの富裕層のお客様のご来店も増えてきました。
ただ、その方たちはお寿司を好まれます。
新鮮なものを用意しないといけませんので、当初、お寿司を提供するつもりはありませんでした。
ただ、ご来店されても「寿司がないなら帰る」というスリランカ人の方が多かったのです。
生ものを扱う習慣がないからか、配送の工程もそこまでしっかりしていません。
最初の頃はシェフも生ものを扱っている意識がなく、繰り返し指導しました。
私はローカルのお店でエッグホッパーを食べた時にお腹を壊してしまいました。
半熟の卵が美味しかったのですが、それが原因だったと思います。
飲食店としては食中毒を出すわけにはいきません。
鮮度には細心の注意を払っています。
スリランカの方にはサーモンのお寿司が人気です。
また、石焼きでエビ、イカ、チキンを提供していますが、これも大変お喜び頂いています。
優秀なスリランカ人シェフ
Q.しっかり見ていないと、日本のやり方ではなく、スリランカ風に料理が変わってしまうという話をよく聞きますが、そのような苦労はありますか?
三井さん:いえ、それはありません。
日本人シェフから教わった通りに、毎回グラムをきっちりと計り、料理を作っています。
Q.うえの山から来た日本人シェフからも「スリランカ人シェフの腕が良くて驚いている」と聞きました。その良いシェフとはどのように出会ったのでしょうか?
三井さん:募集をした際に10人ぐらいから申し込みがありましたが、面接に時間通りに来たのは今のシェフだけでした。
今も変わらず、オンタイムで仕事に来てくれます。
そのシェフの顔は義理の弟と同じ顔をしているんですよ(笑)
性格も似ている気がしますので、良い方に巡り会えたのだと思います。
日本舞踊のお仕事
Q.日本での活動について教えてください。
三井さん:長年、日本舞踊の仕事をしています。
芸妓さんや舞妓さんに稽古をしたり、カルチャーセンターで教えたりしています。
プロとしてショーに出ることもあります。
松平健さんのマツケンダンサーズの一員でもあります。
この日本舞踊の仕事があるため、日本とスリランカを行ったり来たりしています。
Q.遠隔でのお仕事で大変なことはありますか?
三井さん:緊急事態時の判断やスピーディーな対応は、どうしても遠隔ですと難しいところがあります。
今回、外出禁止令が出された際に、電気が止められて食材が駄目になってしまうのではないかと思い、食材をお分けすることにしました。
日本人の方で食材を必要としている方もいらっしゃると思ったのです。
また、従業員の給与はしっかりとすぐに払いたいのですが、なかなか簡単ではありません。
昨年のテロ、そして、今年のコロナ禍と大変ですが、ドーンと構えてやるしかないと思っています。
スリランカでお店を始めてみて良かったことは、スリランカで一生懸命に働かれている素晴らしい日本人の方々にお会いできたことです。
魅力的な方々とお知り合いになれたことは、とても貴重なことだと思っています。
また、スリランカ人の方々に日本の天ぷらの味を知り、美味しいといっていただけることも、とても嬉しいことです。
まずはお店を早く再開したいと思います。
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「旅と町歩き」を仕事にするためスリランカへ。
地図・語源・歴史・建築・旅が好き。
1982年7月、東京都世田谷区生まれ。
2005年3月、法政大学社会学部社会学科を卒業。
2005年4月、就活支援会社に入社。
2015年6月、新卒採用支援事業部長、国際事業開発部長などを経験して就職支援会社を退社。
2015年7月、公益財団法人にて東南アジア研修を担当。
2016年7月、初めてスリランカに渡航し、会社の登記を開始。
2016年12月、スリランカでの研修受け入れを開始。
2017年2月、スリランカ情報誌「スパイスアップ・スリランカ」創刊。
2018年1月、スリランカ情報サイト「スパイスアップ」開設。
2019年11月、日本人宿「スパイスアップ・ゲストハウス」開始。
2020年8月、不定期配信の「スパイスアップ・ニュースレター」創刊。
2023年11月、サービスアパートメント「スパイスアップ・レジデンス」開始。
2024年7月、スリランカ商品のネットショップ「スパイスアップ・ランカ」開設。
渡航国:台湾、韓国、中国、ベトナム、フィリピン、ブルネイ、インドネシア、シンガポール、マレーシア、カンボジア、タイ、ミャンマー、インド、スリランカ、モルディブ、アラブ首長国連邦、エジプト、ケニア、タンザニア、ウガンダ、フランス、イギリス、アメリカ
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