スリランカの祝日「タミルタイポンガル」とは?

2023年1月15日はタミル人の収穫祭・冬至祭こと「タミル・タイ・ポンガル(Tamil Tahi Pongal)」でスリランカはお休みです。
スリランカの祝祭日は「Bank Holiday」、「Public Holiday」、「Mercantile Holiday」の3つのカテゴリーがありますが、タミルタイポンガルは3つ全てに該当し、銀行・公共機関・会社がお休みです。
大掃除をして冬至を迎え、親戚で集まり、子供にギフトをあげます。
前日+3日間祝うのは、日本の大晦日・元旦・三が日のようです。
クリスマスは、ローマで信仰されていたミトラ教の太陽神祭(当時の冬至である12月25日に実施)を取り入れ、さらに北欧の冬至祭ユールを取り入れたとされていますが、タミル文化においても冬至祭は大切な日として祝われてきたようです。
本記事では、2020年のタミル・タイ・ポンガルの様子を撮影した写真を用いながら、紹介していきます。
目次
タミル太陽暦の冬至祭「タミル・タイ・ポンガル」
タミル・タイ・ポンガルとは、タミル太陽暦のタイ月(10月)の始まりに祝う収穫祭です。
タミル太陽暦の9月(マールカリ月)の最終日から、10月(タイ月)の1〜3日の4日間に渡ってお祝いされます。
4日間に渡って祝われますが、スリランカでは2日目(タイ月の初日)のみが祝日です。
タミル人が多く住む南インド(タミル・ナードゥ州など)、スリランカ、マレーシア、シンガポール、インドネシアなどでお祝いされます。
南インド・スリランカを領土とした「チョーラ朝」の碑文にタミル・タイ・ポンガルについて記されているそうです。
チョーラ朝はマレー半島・スマトラ島・ジャワ島を領土とした「スリ・ヴィジャヤ王国」にも影響力があったとされ、タミル・タイ・ポンガルが祝われている地域と重なります。
伝承によれば、タイ月の1日は冬至に当たります。
6ヶ月間の夏の始まりを祝い、豊穣を祈願します。
ポンガルは、タミル語で「沸騰する」「こぼれる」という意味の「ポング(pongu)」から転じて「豊穣」の意味があります。
ミルクライス吹きこぼしの掛け声「ポンゴロ・ポンガル」
タミル・タイ・ポンガルを象徴するのが、ミルクライスの吹きこぼしです。
新しい土鍋に、ミルクライスを入れ、薪で熱して、「ポンゴロ・ポンガル」と掛け声をして、吹きこぼれるの見守ります。
タミル語で「この米が吹きこぼれますように」という意味で、あふれ出る富に対する祈願を表しています。
太陽神に捧げる食べ物のため、太陽が見える屋外で調理します。
ヒンドゥー寺院(Kovil)やお店の玄関口、家の庭などで調理の様子を見かけます。
ミルクライスの主材料は3つです。
・ココ椰子(ココヤシ)の種子(ナッツ)の胚乳(ミルク)から作る「ココナッツミルク」
・ヤシの樹液から作る「赤糖」
・収穫された「米」
ヒンドゥー寺院ではお参りする際にココナッツを割りますが、タミル・タイ・ポンガルでもヤシのナッツから作るミルク、ヤシの樹液から作る赤糖が使われるのです。
赤糖はインド文化圏(南アジア・東南アジア)の伝統的な糖です。
英語で「ジャガリー(Jaggery)」、タミル語で「ヴェッラム(வெல்லம்)」、シンハラ語で「ハクル(හකුරු)」と言いいます。
これに、ギー(南インド伝統のバターオイル)、カシューナッツ(スリランカはカシューナッツが名産です)、スパイス(生姜、カルダモン、ターメリックなど)、レーズンなども入れて調理されます。
ミルクライスは2日目の冬至の日に太陽神へ捧げ、3日目に牛に与え、4日目に親戚や隣人などと一緒に食べます。
米粉で描く砂絵「コーラム」
もう一つタミル・タイ・ポンガルを象徴するのが、米粉で描く砂絵「コーラム」です。
家・寺院・お店の玄関口などに、とてもカラフルな模様が、女性たちによって描かれます。
これは蟻や鳥などの餌になり、生き物を招き入れ、豊穣を願う意味があります。
かつては、女性の花嫁修行の一つだったそうで、伝統が根強い地域では、毎朝、家の玄関口に女性がコーラムを描いています。
元々は米粉で描かれていましたが、現在はチョークや岩粉などが使われたりします。
蟻や鳥が持ち帰ったり、人が通ることで砂絵が壊されることで、福が訪れるとされています。
インドのラージャスターン州(州都ジャイプル)やマディヤ・プラデーシュ州(州都ボーパール)では、コーラムのことを「マンダナ」と呼びます。
チベット密教には、瞑想をしながら曼荼羅(マンダラ)を描き、完成した曼荼羅を一定の手順で壊して、川に流すという修行があるそうですが、曼荼羅は「マンダナ」が語源になったのではないかと言われています。
コーラムはたしかに曼荼羅に似ています。
冬至前日「ボーギ・ポンガル(Bhogi Pongal)」
冬至祭の前日となる1日目はボーギ・ポンガルと呼ばれます。
古いものを集めて燃やして処分(ボーギ・ファイヤー)し、新しいものを新調します。
家を大掃除して、バナナとマンゴーの葉で飾りつけます。
ヒンドゥー寺院にも、バナナとマンゴーの葉が飾られます。
新しい服を着て、玄関口にコーラムを描き、オイルランプに火を灯します。
そして、雲の支配者で雨を司るインドラ神に、豊かな雨をもたらしてくれたことに感謝します。
インドのアンドラ・プラデーシュ州では、子どもたちがにお金やお菓子が渡されるそうです。
太陽神祭「スーリヤ・ポンガル(Surya Pongal)」
太陽神スーリヤにミルクライスを捧げる日で、一番重要な日が2日目のスーリヤ・ポンガルです。
ミルクライスを吹きこぼす儀式を寺院・家・店などの太陽が見える屋外で行います。
ミルクライスは太陽神スーリヤに捧げた後、家族や訪問者に振る舞います。
牛祭「マットゥ・ポンガル(Mattu Pongal)」
3日目はマットゥ・ポンがるといい、マットゥは牛を意味します。
牛は乳製品や肥料の供給源で、物を運ぶ際や畑を耕すのにも重宝するため、富を象徴する神聖な動物です。
まず、牛をターメリックをとかした水やオイルなどで洗い清めます。
その後、クムクマ(ターメリックから作るカラフルな粉で額につけたりする)で角に色を塗ったり、花輪や鈴・ビーズなどをかけて飾り付けます。
そして、ミルクライスやバナナ、赤糖などを餌として与えます。
ヒンドゥー寺院に行ったら、お供えもののココナッツの実にバナナとバナナの葉が入れられたものと、クムクマをもらいました。
訪問祭「カヌム・ポンガル(Kanum Pongal)」
4日目はカヌム・ポンガルといい、カヌムは訪問を意味します。
親戚が集まる日です。
子供たちは年長者を訪れ、挨拶をします。
年長者たちは子供たちにギフトをあげます。
経営者が従業員に衣服、食料、お金を配ることもあるそうです。
お正月やクリスマスとの共通点
冒頭でも記載しましたが、前日に大掃除をして、冬至を迎えて3日間祝うのは日本のお正月のようであり、子供がお金をもらうのはお年玉に似ています。
タミル人が家を飾り付け、ヒンドゥー寺院で太陽神に祈るのは、冬至祭や太陽神生誕祭を起源とするクリスマスにキリスト教徒が家を飾り付けて、イエスの降誕を教会で祝うことにも共通点があるように思います。
クリスマスにおける「クリスマスツリー」や「クリスマスリース」は、
タミルタイポンガルにおける「バナナの葉」や「マンゴーの葉」。
キリスト教会で出されるブドウから作る「ワイン」は、ヒンドゥー寺院でヤシから作る「ミルク」
キリスト教会で出される「パン」は、ヒンドゥー寺院で作る「ライス」。
ヤシは様々な種類がありますが、英語でヤシをPalmと言います。
タミル人が多く住むスリランカ北部に自生するのはパルメイラ椰子(Palmyrah)で、生活の密接した大切な植物です。
英語のPalmの語源になったのではないかと言われています。
伝統行事を知ると、色んなものが繋がっているように思えて、興味深いものです。
クリスマスについては以下の記事を参照ください。
2020年コロンボでのタミルタイポンガルの様子
2017年コロンボでのタミルタイポンガルの様子
関連記事
参照
かながわ地球市民メッセンジャーからのお便り(2015年1月26日 城戸 麻記子さん)
シンガポールのポンガルフェスティバル(収穫祭)
マレーシアポケット「2020年1月15日はタミル人コミュニティのお祭り「ポンガル」の日」
Wikipedia「Pongal (festival)」
Wikipedia「Kolam」
ウィキペディア「砂絵」
ウィキペディア「ヤシ」

「旅と町歩き」を仕事にするためスリランカへ。
地図・語源・歴史・建築・旅が好き。
1982年7月、東京都世田谷区生まれ。
2005年4月、法政大学社会学部社会学科を卒業後、人材系ネットベンチャーに新卒入社。
2015年6月、新卒採用支援事業部長、国際事業開発部長などを経験して人材系ネットベンチャーを退社。
2015年7月、公益財団法人にて東南アジア研修を担当しながら、新宿ゴールデン街で訪日外国人向けバーテンダー。
2016年7月、初めてスリランカに渡航し、会社の登記を開始。
2017年2月、スリランカ情報誌「スパイスアップ・スリランカ」創刊。
2022年12月、日本人宿「スパイスアップ・ゲストハウス」開始。
渡航国:台湾、韓国、中国、ベトナム、フィリピン、ブルネイ、インドネシア、シンガポール、マレーシア、カンボジア、タイ、ミャンマー、インド、スリランカ、モルディブ、アラブ首長国連邦、エジプト、ケニア、タンザニア、ウガンダ、フランス、イギリス、アメリカ
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