10月のポーヤデー「ヴァプポーヤ」とは?
2023年10月28日(土)は、10月の満月祭り「ヴァプポーヤ(Vap Poya)」でスリランカはお休みです。
ヴァプポーヤはカティナ法要が行われる大切なポーヤデーで、ミャンマーでは町中がライトアップされ、4月のニューイヤーに次いで大事なお祭りだともされています。
本記事では、ヴァプポーヤについて解説していきます。
目次
ヴァプ・ポーヤとは?
ヴァプポーヤは、ブッタが摩耶夫人に対する3ヶ月間の説法を終えて、天から戻ってきたことを祝う日です。
摩耶夫人はブッタを産んだ人で、ブッタ生後7日後に亡くなり、忉利天に転生したと言われています。
ブッタの父シュッドーダナは、摩耶夫人の妹である摩訶波闍波提と再婚。
摩訶波闍波提はブッタの育ての母となり、後に初の比丘尼(女性出家僧)になります。
摩耶夫人が転生した忉利天は快楽に満ちた苦しみのない世界です。
ただ、そこに住む天人は悟りを開いておらず、煩悩から解放されていません。
涅槃に達すると、煩悩や輪廻から解放されます。
そこで、ブッタは摩耶夫人のために論蔵を用いて説教を行うことにしたのです。
ブッタは7月の満月祭「エサラポーヤ」に説法を始め、10月満月祭「ヴァプポーヤ」に説法を終えて天から帰還します。
この3ヶ月間は安居の期間に重なり、安居はエサラポーヤに始まり、ヴァプポーヤに終わります。
安居は仏教僧が外出せずに寺に籠もって修行する期間です。
エサラポーヤには安居入りの法要が行われ、
ヴァプポーヤには安居明けの法要(カティナ法要)が行われます。
安居については、以下の記事をご覧ください。
スリランカでは安居明けのヴァプポーヤにカティナ法要も行われますが、ミャンマーでは10月の満月祭はブッタが地上に戻ってきたことのみを祝い、カティナ法要は11月の満月祭に祝うようです。
日本三代夜景に残るヴァプポーヤなスポット
日本三代夜景の一つである神戸市六甲山地「摩耶山」は、摩耶山忉利天上寺に由来します。
山号の摩耶山は、空海が唐から持ち帰った梁の武帝自作の摩耶夫人像を安置したことに由来し、
寺号は摩耶夫人が転生した忉利天に由来しています。
摩耶山忉利天上寺には、日本で唯一の摩耶夫人を祀るお堂「摩耶夫人堂」があります。
夜景が綺麗な山上は、天にも近いと思うと、よりロマンチックに過ごせるかもしれません。
仏教の世界観「三界」
摩耶夫人は、地獄ではなく天国(天)にいるので良いことのように思いますが、このお話は仏教の世界観を知っていると理解ができます。
仏教では世界をまず大きく「欲界」「色界」「無色界」の3つに分けています。
人間や動物、天人が住むのが欲界です。
天のさらに上に「色界」があり、そのさらに上に「無色界」があり、無色界の最上が有頂天です。
欲界は天が一番、地獄が一番下の6つの世界に分かれていて、人は死ぬと、この6つの世界のどこかに生まれ変わるとされています。
「地獄に落ちろ!」は欲界の一番下の地獄のことを指し、
「天国に登る」は、欲界の一番上の天を指しています。
天に行くことは良さそうですが、欲界にいるため、輪廻転生からは抜け出せていません。
仏教では輪廻から抜け出すことを良しとしています。
ブッタは摩耶夫人が天に留まっているので、涅槃に至り、欲界から抜け出られるように、3ヶ月にも渡って説法を行なったのです。
仏教の世界観は階層構造がかなり深くなっていますので、上から順番に説明すると分かりにくいので、身近な天国、地獄がある欲界から見ていきましょう。
欲界=六道(地獄、餓鬼、畜生、修羅、人、天)
欲界は6つに分かれており、六道とも言われます。
六道は2つに分けて、三悪趣(地獄、餓鬼、畜生)、三善趣(修羅、人、天)ということもあります。
それぞれの世界を見ていきましょう。
天道
天人が住む世界。
天人は人間よりも優れた存在で、寿命は非常に長く、苦しみが少ないとされています。
しかし、煩悩から解放されておらず、解脱ができないとされています。
天道は6つに分かれますが、次の段落で紹介します。
人道
人間が住む世界。
四苦八苦に悩まされますが、楽しみもあります。
四苦とは「生」「老」「病」「死」。
八苦とは四苦に以下の4つを加えた8つの苦しみのことです。
・愛別離苦(愛する者と別離する)
・怨憎会苦(怨み憎んでいる者に会う)
・求不得苦(求める物が得られない)
・五蘊盛苦(五蘊とは肉体と精神。五蘊が思うままにならない)
修羅道
終始戦い争う阿修羅が住む世界。
阿修羅は仏教の守護神であり、古代インドでは戦闘神。
戦争をしている状態や喧嘩をしている状態を指すとも言われます。
修羅場の語源にあたります。
畜生道
本能のままに行動する動物が住む世界。
こん畜生は「この畜生(動物)」が由来の罵りの言葉。
餓鬼道
餓えと渇きに悩まされる鬼が住む世界。
食べ物を口に入れようとすると火となってしまい、餓えと渇きが癒されることはありません。
がき大将、クソ餓鬼の由来。
地獄道
罪を償わせるための世界。
8つの熱い地獄、8つの冷たい地獄があり、以下のように分類されています。
八熱地獄:等活地獄、黒縄地獄、衆合地獄、叫喚地獄、大叫喚地獄、焦熱地獄、大焦熱地獄、阿鼻地獄
八寒地獄:頞部陀地獄、尼剌部陀地獄、頞哳吒地獄、臛臛婆地獄、虎虎婆地獄、嗢鉢羅地獄、鉢特摩地獄、摩訶鉢特摩地獄
天道=六欲天(四天王・帝釈天・菩薩・天魔などが住む)
人道が6つに分かれているように、天も6つに分かれています。
そのため、「六欲天」ともいいます。
欲の字があることから、欲界の天であることが分かります。
柴又に祀られている帝釈天が住んでいるとされるのが忉利天です。
6つの天を見ていきましょう。
第6天「他化自在天」
欲界の最上位で、ここに生まれた者は他の楽事を自由に自分の楽事として楽しむことができます。
天魔が住んでいます。
ここに生まれた人の身長は三里。
寿命は16,000歳で、人間の1,600年を1日としています。
第5天「化楽天」
欲するものを化作して楽しませる世界。
ここに生まれた人の身長は2里半。
寿命は8,000歳で、人間の800年を1日としています。
第4天「兜率天」
須弥山の頂上に当たります。
内院と外院に分かれていて、内院には菩薩が住んでいます。
ここに生まれた人の身長は2里。
寿命は4,000歳で、人間の400年を1日としています。
衣重は一銖半、
第3天「夜摩天」
神々の身長は1由旬。
寿命は2,000歳で、人間の200年を1日としています。
第2天「忉利天」
元々のサンスクリット語では33を意味する名前で、33の城があります。
そのことから、三十三天ともいいます。
東西南北にそれぞれ8つの城があります。
この32の城の中央に善見城があります。
この善見城に住んでいるのが帝釈天(インドラ神)です
帝釈天というと柴又の帝釈天が有名ですね。
バンコクの正式名称の意味は、ウィキペディアによれば、
「インドラ神がヴィシュヴァカルマン神に命じてお作りになった、神が権化としてお住みになる、多くの大宮殿を持ち、九宝のように楽しい王の都、最高・偉大な地、イン神の戦争のない平和な、インドラ神の不滅の宝石のような天使の大都。」
とありますので、バンコクのイメージが神々しく思えてきます。
ここに生まれた人は身長は1由旬。
寿命は1,000歳で、人間の100年を1日としています。
摩耶夫人が死後、転生したのがこの忉利天です。
第1天「四天王衆天」」
須弥山の中腹に当たります。
四天王が住んでいます。
四天王は東西南北の四方を守っています。
東を守るのが持国天
西を守るのが広目天
南を守るのが増長天
北を守るのが多聞天(毘沙門天)
四天王は忉利天に住む帝釈天に仕えています。
四天王のそれぞれには2つずつ鬼神が仕えています。
多聞天に仕えているのが夜叉と羅刹です。
ラーマーヤナに登場するランカー島の王ラヴァナに仕えているのが夜叉と羅刹です。
薬叉はスリランカ人の先住民族のヴェッダー人の祖先だとも言われています
多聞天の原名はヴァイシュ・ラヴァナで、「多く聞く者」の意味とされ、毘沙門は中国語での音写。
広目天の原名はヴィルー・パークシで、「千里眼のような不思議な力がある目を持つ者」と考えられています
増長天の原名はヴィルー・ダカで、「増大した者」の意味で、大きな力を持つ武神のこと。
持国天の原名はドゥリタラー・シュトラで、「国を支える者」という意味。
上杉謙信は武神「毘沙門天」をあつく信仰し、軍旗印に「毘」の字を使っていたこともで知られています。
色界
欲望を離れた清浄な物質の世界が色界です。
色界は18の天(18天)に分かれます。
もっと大きな括りでは、四禅に分かれます。
第四禅
楽が止み、一切の受が捨てられた不苦不楽の状態。
高い順に以下の天が該当します。
色究竟天・善見天・善現天・無熱天・無煩天・広果天・無想天・福生天・無雲天
第三禅
喜を捨し、正念・正見(すなわち念・慧)を得ながら、楽と共にある状態。
高い順に以下の天が該当します。
遍照天・無量浄天・少浄天
第二禅
尋・伺(すなわち覚・観)が止み、内清浄による喜・楽と共にある状態。
高い順に以下の天が該当します。
光音天・無量光天・少光天
初禅
欲界を離れ、尋・伺(すなわち覚・観)を伴いながらも、離による喜・楽と共にある状態。
高い順に以下の天が該当します。
大梵天・梵輔天・梵衆天
無色界
非想非非想天
最上の世界。有頂天。
無所有処
何も存在しないと達観した定。
識無辺処
識が無辺であると達観した定。
空無辺処
物質的存在がまったくなく、空間は無限大である達観した定。
三蔵の「論蔵」とは?
ブッタは論蔵を用いて摩耶夫人に説法を行なったそうですが、論蔵とはなんでしょうか?
論蔵は三蔵のうちの一つです。
三蔵とは、ブッタの死後にブッタの教えをまとめるために集まった500人の阿羅漢(五百羅漢)によってまとめられた仏典のことです。
三蔵はその名の通り、3つの蔵があります。
・僧の規則・道徳・生活様式をまとめた「律蔵」
・ブッタの説いた教えたをまとめた「経蔵」
・律蔵と経蔵の解説書・注釈書である「論蔵」
ちなみに、三蔵法師とは三蔵に精通した法師(僧侶)のことです。
三蔵法師は尊称で固有名詞ではありません。
最も有名な三蔵法師は、中国の伝奇小説『西遊記』に登場する人物である三蔵法師こと玄奘三蔵です。
とても有名なため、三蔵法師といえば、玄奘を指すこともあります。
次に有名な三蔵法師は、歴史上、最初の三蔵法師である「鳩摩羅什」です。
玄奘と鳩摩羅什を二大訳聖とも言います。
鳩摩羅什はカシミール生まれの名門貴族出身で、中国に渡っています。
他に有名な三蔵法師は、玄奘・鳩摩羅什と並んで、四大訳経家とされる「真諦」と「不空金剛」でしょう。
真諦はウッジャイン生まれ。
扶南国にいたところ、梁の武帝に招かれて中国に渡っています。
不空金剛は出生地は諸説ありますが、父はインド北部出身のバラモン、母はゾクド人だと言われています。
714年に長安で金剛智に師事し密教を学び、
741年に密経経典を求めてスリランカとインド南部に渡っています。
ミャンマーで祝われるタディンジュ満月
スリランカでは毎月の満月の日がポーヤデーとして公休日になっていますが、ミャンマーでは以下の4つの月の満月の日のみがお休みになっています。
3月:「タバウン満月(Full Moon Day of Tabaung)」
5月:「カソン満月(Full Moon Day of Kason)」
10月:「タディンジュ満月(Full Moon Day of Thadingyut)」
11月:「タザウンダイン祭(Tazaungdaing Holiday)」
その中でも10月のタディンジュ満月と、11月のタザウンダイン祭は前日から当日にかけて2日間がお休みで、英語版ウィキペディアによればミャンマー正月である4月の水掛け祭りに次いで、大きなお祭りが10月のタディンジュ満月なのだそうです。
タディンジュ満月では、ブッタが地上に戻る際に帝釈天が3つの階段を作らせたと言われています。
1つは金の階段、1つは銀の階段、1つはルビーの階段で、ブッタは真ん中のルビーの階段を使い、神々は金の階段を、ブラフマンは銀の階段を使ったそうです。
ルビーが名産のミャンマーらしい伝承だと思います。
タディンジュ満月では、3つの階段を表現して、道・家・公共の建物が電飾で飾り付けられそうです。
そのため、光のお祭り(Lighting Festival)とも呼ばれるそうです。
>関連ページ
>参照
Vap Poya
麻耶夫人
忉利天
六欲天
三界
色界
四禅
無色界
六道
餓鬼
四天王
八部鬼衆
摩耶山
忉利天上寺
天(仏教)
帝釈天
論蔵
三蔵
三蔵法師
玄奘三蔵
鳩摩羅什
阿毘達磨
三悪趣
地獄
日本文化研究ブログ「六道(天道・人間道・修羅道・畜生道・餓鬼道・地獄道)の意味とは?
Wikipedia:Thadingyut Festival
「旅と町歩き」を仕事にするためスリランカへ。
地図・語源・歴史・建築・旅が好き。
1982年7月、東京都世田谷区生まれ。
2005年3月、法政大学社会学部社会学科を卒業。
2005年4月、就活支援会社に入社。
2015年6月、新卒採用支援事業部長、国際事業開発部長などを経験して就職支援会社を退社。
2015年7月、公益財団法人にて東南アジア研修を担当。
2016年7月、初めてスリランカに渡航し、会社の登記を開始。
2016年12月、スリランカでの研修受け入れを開始。
2017年2月、スリランカ情報誌「スパイスアップ・スリランカ」創刊。
2018年1月、スリランカ情報サイト「スパイスアップ」開設。
2019年11月、日本人宿「スパイスアップ・ゲストハウス」開始。
2020年8月、不定期配信の「スパイスアップ・ニュースレター」創刊。
2023年11月、サービスアパートメント「スパイスアップ・レジデンス」開始。
2024年7月、スリランカ商品のネットショップ「スパイスアップ・ランカ」開設。
渡航国:台湾、韓国、中国、ベトナム、フィリピン、ブルネイ、インドネシア、シンガポール、マレーシア、カンボジア、タイ、ミャンマー、インド、スリランカ、モルディブ、アラブ首長国連邦、エジプト、ケニア、タンザニア、ウガンダ、フランス、イギリス、アメリカ
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